新規開業医のための保険診療の要点

新規開業医のための保険診療の要点(総論)

[17] 日本医師会

[a] 認定産業医制度

I 産業医とは

従業員が50名以上の事業所においては、産業医を選任する必要があります。事業所の立場になってみると、社員の健康管理や作業上の安全配慮を行うためにどのようにすればよいか、医学的に不明な点があると思います。
産業医は、従業員の健康を守る側の事業所に対して医学的なアドバイスをする役目を担っています。
健康診断後の事後措置・ストレスチェックの実施実務・長時間労働者や高ストレス者に対する面談・安全衛生委員会への出席・作業場の巡視など多岐に渡ります。
そして重要なのは、作業場側の衛生委員と連絡を密にし、何でも相談を受けられる雰囲気を作っておくことだと思います。
また近年メンタルヘルスケアに関する相談や面談の依頼が多くなっています。ハラスメントを受けることによりうつ病や適応障害などを発症し、休職する従業員が多くなっています。主治医と連携しながら治療経過を見守り事業所との橋渡しや、回復期には職場復帰を目指した面談指導を行うことも重要な職務の一つです。
“診療所での職務と違った”やりがいを感じることができる仕事であると思います。是非診療所以外での仕事の範囲を広げてみるのはいかがでしょうか。

II 産業医の要件

産業医となるためには、事業場において労働者の健康管理等を行う産業医の専門性を確保するため、医師であることに加え、専門的医学知識について法律で定める一定の要件を備えなければなりません。
厚生労働省令で定める要件を備えた者としては、労働安全衛生規則第14条第2項に次のとおり定められています。

労働安全衛生規則第14条第2項

  1. 労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者
  2. 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修したもの
  3. 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
  4. 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常勤勤務する者に限る。)の職にあり、又はあった者
  5. 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者

日本医師会認定産業医制度(研修会等)は、上記1に該当します。

III 産業医の職務

産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条第1項に規定されており、具体的には次の事項で、「医学に関する専門的知識を必要とするもの」と定められています。

  1. 健康診断及び面接指導等(法第66条の8第1項に規定する面接指導及び法第66条の9に規定する必要な措置をいう)の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
  2. 作業環境の維持管理に関すること。
  3. 作業の管理に関すること。
  4. 前3号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
  5. 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
  6. 衛生教育に関すること。
  7. 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。

また、産業医の職場巡視等について、労働安全衛生規則第15条第1項で次のとおり定められています。
産業医は、少なくとも毎月1回作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害なおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければなりません。

IV 産業医の申請方法等

1 資格

新たに認定産業医の称号を申請する医師

  1. 都道府県医師会などが実施する基礎研修50単位以上を修了していること。
    「基礎研修50単位(表1参照)修了者の申請は、研修最終受講日から5年以内に1回に限り申請ができます。」
  2. 産業医科大学産業医学基本講座修了者
    「基本講座修了者の申請は、基本講座修了認定の日から5年以内に1回に限り申請ができます。」

2 申請手続き

日本医師会認定産業医申請の方法等は地区医師会員と非医師会員(東京都内勤務に限る)で異なります。東京都医師会のホームページで確認ください。

3. 審査

都道府県医師会長は、認定産業医認定申請書の届け出を受けた場合には、申請者の基礎研修受講状況などを審査したうえで、日本医師会長に推薦します。
日本医師会長は、都道府県医師会長から推薦された医師について、審査を行って認定し、認定証を交付します。

4. 登録

日本医師会は、認定産業医登録台帳に認定証被交付者名などを登録します。
登録有効期間は認定日より5年です。
東京都内の日医認定産業医で住所など登録事項に変更が生じた場合は、産業医変更届にご記入いただき、東京都医師会健康保険課へご郵送またはFAXくださるよう、お願いいたします。(変更届は東京都医師会版です。東京都から他県へ移動した場合につきましては移動先の道府県医師会へお問い合わせください。)

V 更新

1 趣旨

認定産業医制度が社会的に活用されるためには、常に認定産業医の資質の維持向上を図ることが重要であり、そのための生涯研修を受講した認定産業医は認定証の更新(5年ごと)ができます。

2 生涯研修会の開催

日本医師会が行う産業医学講習会のほか、日本医師会の指定をうけて都道府県医師会、郡市区医師会、教育機関などでも、認定産業医の生涯研修のための研修会を開催します。
なお、日本医師会の産業医学講習会を受講修了すると、労働衛生コンサルタントの筆記試験が免除になります。
生涯研修会の日程等は、日本医師会雑誌、日医ニュースなどに掲載します。
都内の研修会日程は東京都医師会が発行する「都医ニュース」、あるいは「東京都医師会ホームページ(研修会スケジュール一覧)」に掲載します。

3 生涯研修の内容(20単位)

  1. 更新研修(1単位以上)
    労働衛生関係法規と関係通達の改正点などの研修
  2. 実地研修(1単位以上)
    主に職場巡視などの実地研修、作業環境測定実習などの実務的研修
  3. 専門研修(1単位以上)
    地域特性を考慮した実務的・専門的・総合的な研修

4 資格

認定証取得後の5年間(認定証に記載されている有効期間)に日本医師会認定産業医生涯研修20単位以上(更新研修1単位以上、実地研修1単位以上、専門研修1単位以上の合計20単位以上)を修得の上、指定の期間内に更新申請手続きをすると、更新が可能になります。

5 申請手続き

日本医師会認定産業医更新申請の方法等は地区医師会員と非医師会員(東京都内勤務に限る)で異なります。東京都医師会のホームページで確認ください。
東京都内の日医認定産業医で住所など登録事項に変更が生じた場合は、産業医変更届にご記入いただき、東京都医師会健康保険課へご郵送またはFAXくださるよう、お願いいたします。変更届は東京都医師会のホームページからダウンロードが可能です。(東京都から他県へ移動した場合につきましては移動先の道府県医師会へお問い合わせください。)
更新時期が近づきましたら、更新申請に関する案内通知を郵送いたしますが、変更を届け出ていないと案内通知を送付できない場合がございますので、ご注意ください。また、変更届を更新期限前にご提出いただいても、案内が間に合わない場合がございます。

VI. 審査と登録

「IV 産業医の申請方法等」の新規認定と同様ですので省略させていただきます。

※ 基礎研修の内容(50単位)
前期研修会は、2日間の講習で14単位取得する研修会がほとんどです。開催回数は多くありません。以下は主たる研修単位の内容です。

1 入門的な前期研修(14単位)

表1
総論2単位
健康管理2単位
メンタルへルス対策1単位
健康保持増進1単位
作業環境管理2単位
作業管理2単位
有害業務管理2単位
産業医活動の実際2単位

上記8項目の研修については、それぞれの研修単位が必要です。

2 実習・見学などの実地研修(10単位)

主に職場巡視などの実地研修、作業環境測定実習などの実務的研修

3 地域の特性を考慮した実務的・やや専門的・総括的な後期研修(26単位)

※ 研修会を受講する際、前期・実地・後期の順番は問いません。 受講可能な研修会から受講してください。

安全衛生管理体制(例)

[b] かかりつけ医機能研修制度・生涯教育制度

I. かかりつけ医機能研修制度

「かかりつけ医」は、患者が「健康に関することをなんでも相談でき、必要な時には専門医療機関を紹介してくれる、身近で頼りになる医師を指します。かかりつけ医は、内科に限らず、どの診療科の医師でもなることができ、患者の健康に関する相談に的確なアドバイスや診断を行い、疾患の早期発見・早期治療・重症化予防を担う存在です。そのために患者の生活背景を把握し、適切な診療や保健指導を行い、必要なときは専門医、専門医療機関を紹介して解決策を提供することが求められます。
「かかりつけ医機能研修制度」において認定され、施設基準を届け出ている医療機関は、初診時に初診料(288点)に加えて、機能強化加算(80点)を算定することができます。
かかりつけ医には専門分野以外にも幅広い知識が求められます。そのためには、様々な分野の医学・医療の知識を継続的に学習することが必要です。次項の「日医生涯教育制度」も参考にしてください。

かかりつけ医とかかりつけ医機能について 日本医師会ホームページより抜粋

II 日本医師会生涯教育制度

日進月歩の医学・医療の実践のために、医師は生涯にわたり、継続的に知識や技能をブラッシュアップし、研鑽することが求められています。日本医師会が医師の自己学習・研修を効果的に行えるように実施しているのが、「日本医師会生涯教育制度」です。

1 日本医師会生涯教育制度の内容

  1. 期間
    年度単位で、4月から翌年3月までに取得した単位・カリキュラムコードを、4月末日までに所属の郡市区医師会に提出します。
  2. 単位
    学習時間30分毎の0.5単位が最小単位で、カリキュラムコード毎に集計されます。
  3. カリキュラムコード(略称:CC、図1 参照)
    日本医師会生涯教育カリキュラム〈2016〉で、84カリキュラムコードが設定されています。
  4. 単位・カリキュラムコードの取得方法
    1. 日本医師会雑誌を利用した解答
    2. 日医e-ラーニングによる解答
    3. 講習会・講演会・ワークショップ等
    4. 医師国家試験問題作成
    5. 臨床実習、臨床研修・専門研修制度における指導
    6. 体験学習(共同診療、病理解剖見学、症例検討、手術見学等の病診・診診連携の中での学習)
    7. 医学学術論文・医学著書の執筆
  5. 学習単位取得証
    申告のあった単位・カリキュラムコードに基づき、毎年11月頃に発行されます。(図2参照)
  6. 日医生涯教育認定証
    単位数とカリキュラムコード数の合計数が連続した3年間で、60以上を取得すると、日医生涯教育認定証が発行されます。(図3参照)

その他、詳細については「日本医師会生涯教育制度パンフレット」を添付いたしますのでご参照ください。

日本医師会生涯教育制度パンフレット 1ページ

日本医師会生涯教育制度パンフレット 2ページ

日本医師会生涯教育制度パンフレット 3ページ

日本医師会生涯教育制度パンフレット 4ページ

日本医師会生涯教育制度パンフレット 5ページ

日本医師会生涯教育制度パンフレット 6ページ

日本医師会生涯教育制度パンフレット 7ページ

日本医師会生涯教育制度パンフレット 8ページ

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