新規開業医のための保険診療の要点

新規開業医のための保険診療の要点(総論)

[8] 投薬(処方)・注射

投薬(処方)・注射の使用に当たっては、原則、医薬品医療機器等法承認事項(効能・効果、用法・用量、禁忌等)で使用した場合に、保険適用になります。医療用医薬品の価格を薬価といい、医薬品目ごとに規格、単位と価格を示したものを薬価表といいます。薬価は実勢価格を踏まえ1年に1回改正されます。手術・処置については、点数表にない特殊な手術・療法および新しい療法は、厚生労働大臣が定めるもののほか行ってはならないこととなっています。以下、項目別に内容と注意点を記載します。


医療機関と薬局の関係について
開業した医療機関の近くに薬局が存在する場合、薬局の独立性が問われることがあります。薬局の独立性がないと判断されると指導の対象となる場合があり、薬局等としての指定が更新されない場合や取り消されることもあります。
以下の項目が「医療機関と薬局が経済的、機能的、構造的に独立している」こととなります。

【経済】「資本の提供を受けない」「資産の提供を受けない」
「賃貸借関係を持たない」

【機能】「役員がかぶらない」「雇用関係がかぶらない」
「薬局、医療機関間でそれぞれの開設者、役員等で三親等以内の関係が無い」
「会計処理を連結しない」

【構造】「構造的に分離していること」「誘導設備が無いこと」
「設備の共用がないこと」

などについて考慮して対応をすることが必要です。

I 投薬(処方)・注射

1 投薬

  1. 投薬は、患者を診察して診断の上で行います。保険診療では、薬科基準に収載されている医薬品を「効能・効果、用法・容量、禁忌等」の範囲内で使用する必要があります。
  2. 投薬日数は、医学的に予見できる必要期間に沿ったもので、投与期間に上限が設けられている医薬品は、それぞれ1回の処方で14日分、30日分または90日分が限度です。
  3. 後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用にあたり、個々の医薬品について「後発医薬品への変更に差し支えがある」と医師が判断した場合、先発品を指定することができます。その際は、医薬品ごとに「処方」欄中の「変更不可」欄に「✓」又は「×」を記載して、「保険医署名」欄に署名又は記名・押印し、理由を記載してください。
  4. 後発医薬品のある医薬品は、一般名処方が行われた場合に「処方箋料の一般名処方加算」が設けられています。
  5. 赤血球濃厚液・新鮮凍結血漿・アルブミン製剤・凝固因子製剤等を使用するときは、「血液製剤の使用指針」(平成31年3月25日一部改正)、「輸血療法の実施に関する指針」(令和2年3月31日一部改正)の規定を遵守して、適正な使用を行ってください。

<注意点>

以下に不適切な投薬・注射の具体例や注意する事項を記載しますので、参考にしてください。

  1. 禁忌投与
    1. 投与する薬剤成分に過敏症の既往のある患者に投与する
    2. 高カリウム血症の患者に、スピロノラクトンを投与する
    3. 血栓症の患者やケトーシスのある糖尿病の患者に静注用脂肪乳剤を投与する 等
  2. 適応外投与
    1. 「全身麻酔の導入・維持」に適応があるプロポフォール注を、睡眠導入目的で投与する。
    2. テプレノンやレバピミドなど「胃潰瘍、急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」に適応の薬剤を単なる慢性胃炎の患者に対して投与する など
  3. 用法外投与
    1. 腹腔内投与の適応のない抗がん剤を、腹腔内に撒布する。
    2. 筋注、静注の用法しかないブプレノルフィンを、硬膜外に投与する など
  4. 過量投与 
    1. 蕁麻疹に対する、肝庇護剤(グルタチオン製剤等)の常用量を超える投与する など
  5. 重複投与(同様の効能効果、作用機序をもつ薬剤の併用)
    1. プロトンポンプ・インヒビター(PPI)を、経口と注射の両方で使用する
    2. 総合ビタミン剤と内容の重複する他の各種ビタミン剤の併用する など
  6. 多剤投与(作用機序の異なる薬剤を併用)
    1. 医学的に妥当とは考えられない組み合わせによる、各種抗菌薬等の併用する
    2. 必要性に乏しい抗不安薬、あるいは睡眠薬の3種類以上の併用する など
  7. 長期漫然投与
    1. エパルレスタットを12週以上の長期投与する
    2. 抗菌薬等(特に投与期間が定められている抗菌薬等)を効果が認められないのに、長期間漫然と投与する など
  8. 疑い病名での投与
    疑い病名では原則として投薬は認められない。
  9. 投与の制限
    1. 頓服薬は東京都では原則10回分までの処方とする。
    2. 湿布薬は、原則として、1処方につき63枚(令和4年度改訂)を限度とする。
  10. 抗菌薬の使用
    1. 細菌培養同定検査や薬剤感受性検査等を行わずに、必要性が乏しい広域抗菌薬を原則的に多用しない。
    2. 予防的な抗菌薬使用を行わない
    3. 抗菌スペクトルを検討しないで抗菌薬の多剤併用を行わない。
  11. 傷病名から必要性が乏しいと判断される投与
    1. 傷病名から必要性が乏しい、または明らかなレセプト病名と判断される場合のビタミン剤投与は算定できない。投与の必要性を認め算定する場合は、診療録及び診療報酬明細書に記載しなければならない。
    2. 傷病名から必要性が乏しいと判断される、3種類以上の抗不安薬や睡眠薬の併用は算定できない。
  12. 注射薬と経口薬の併用投与
    1. 同一成分の「内服薬と注射薬の併用」は、原則として認められない。
    2. 経口投与を第一選択とし、経口不能、迅速性が必要、または経口薬では効果が期待できない場合にのみ注射とすること。この場合、注射の必要性についてカルテに記載すること。
  13. 外来化学療法加算(1・2)について
    抗悪性腫瘍剤等による注射の必要性等について、文書で説明し同意を得て投与を行ったことが確認できない場合は算定できない。
    また、同一日に抗悪性腫瘍剤と抗悪性腫瘍剤以外を注射した場合、併算定は出来ない。

2 処方

医療機関で投薬を行うためには、院内処方と院外処方の2種類の方法があります。医療機関が状況によってどちらも選択することは可能ですが、同日、同じ医療機関、同じ患者に対し院内と院外の同時処方は緊急の場合を除き認められておりません。

  1. 院内処方
    1. 診察を受けた医療機関の薬局でお薬を受け取ることを院内処方といいます。
    2. 院内処方は次により算定することになります。
      調剤料+処方料+薬剤料
      (算定要件を満たした場合は、調剤技術基本料、薬剤情報提供料、手帳記載加算を上記に加え算定できる。)
  2. 院外処方
    1. 診察を受けた医療機関で処方箋をもらい、調剤薬局で薬を受け取ることを院外処方といいます。
    2. 院外処方は処方箋料にて算定することになります。
    3. 処方箋の有効期限は発行日を含めて4日間ですのでご注意ください。
      有効期限が切れた場合、原則、再度診察を受けて、新たに処方箋を発行してもらう必要があります。ただし、その場合の診察代(診察料や処方箋料)は全額自費で負担いただく事になります。

<注意点>

  1. 保険医等が処方箋の交付に関し、患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示等を行うことは禁止されている。
    【具体例】保険医が特定の薬局に口頭等で指示するだけでなく、特定の保険薬局への案内図や保険薬局への地図等を医療機関内で掲示や配布すること。
  2. 特定疾患処方管理加算1、2の算定について特定疾患処方管理加算1は月2回、特定疾患処方管理加算2は1回の算定となるが、同月内で特定疾患処方管理加算2を算定した場合、1は算定できない。
    【例】月初めに特定疾患処方管理加算1を算定した患者に対し、月の途中で特定疾患処方管理加算2を算定した場合、月初めの特定疾患処方管理加算1は算定できない。

リフィル処方箋

令和4年度診療報酬改定において、症状が安定している患者について、医師の院外処方により、医師及び薬剤師の適切な連携の下、一定期間内に処方箋を反復利用できるリフィル処方箋が導入されました。以下対象患者や留意事項等について記載いたします。

【対象患者】

医師の処方により、薬剤師による服薬管理の下、一定期間内に処方箋の反復利用が可能である患者

【留意事項】

  1. 保険医療機関の保険医がリフィルによる処方が可能と判断した場合には、処方箋の「リフィル可」欄にレ点を記入する。
  2. リフィル処方箋の総使用回数の上限は3回までとする。また、1回当たり投薬期間及び総投薬期間については、医師が、患者の病状等を踏まえ、個別に医学的に適切と判断した期間とする。
  3. 保険医療機関及び保険医療養担当規則において、投薬量に限度が定められている医薬品及び湿布薬については、リフィル処方箋による投薬を行うことはできない。
  4. リフィル処方箋による1回目の調剤を行うことが可能な期間については、通常の処方箋の場合と同様とする。2回目以降の調剤については、原則として、前回の調剤日を起点とし、当該調剤に係る投薬期間を経過する日を次回調剤予定日とし、その前後7日以内とする。
  5. 保険薬局は、1回目又は2回目(3回可の場合)に調剤を行った場合、リフィル処方箋に調剤日及び次回調剤予定日を記載するとともに、調剤を実施した保険薬局の名称及び保険薬剤師の氏名を余白又は裏面に記載の上、当該リフィル処方箋の写しを保管すること。
    また、当該リフィル処方箋の総使用回数の調剤が終わった場合、調剤済処方箋として保管すること。
  6. 保険薬局の保険薬剤師は、リフィル処方箋により調剤するに当たって、患者の服薬状況等の確認を行い、リフィル処方箋により調剤することが不適切と判断した場合には、調剤を行わず、受診勧奨を行うとともに、処方医に速やかに情報提供を行うこと。
    また、リフィル処方箋により調剤した場合は、調剤した内容、患者の服薬状況等について必要に応じ処方医へ情報提供を行うこと。
  7. 保険薬局の保険薬剤師は、リフィル処方箋の交付を受けた患者に対して、継続的な薬学的管理指導のため、同一の保険薬局で調剤を受けるべきである旨を説明すること。
  8. 保険薬局の保険薬剤師は、患者の次回の調剤を受ける予定を確認すること。予定される時期に患者が来局しない場合は、電話等により調剤の状況を確認すること。患者が他の保険薬局において調剤を受けることを申し出ている場合は、当該他の保険薬局に調剤の状況とともに必要な情報をあらかじめ提供すること。

【処方箋料の見直し】

リフィル処方箋により、当該処方箋の1回の使用による投与期間が29日以内の投薬を行った場合は、処方箋料における長期投薬に係る減算規定を適用しないこととする。

[処方箋料 算定要件の変更]

注2 区分番号A000に掲げる初診料の注2又は注3、区分番号A002に掲げる外来診療料の注2又は注3を算定する保険医療機関(※1)において、別に厚生労働大臣が定める薬剤を除き、1処方につき投与期間が30日以上の投薬を行った場合(処方箋の複数回(3回までに限る。)の使用を可能とする場合であって、当該処方箋の1回の使用による投与期間が29日以内の投薬を行った場合を除く。)には、所定点数の100分の40に相当する点数により算定する。

※1 特定機能病院、地域医療支援病院、400床以上の病院で、紹介率等が低い病院

3 注射

注射は、次に掲げる場合に行う。

  1. 経口投与により胃腸障害を起こすおそれがあるとき、経口投与をすることができな いとき、又は経口投与によっては治療の効果を期待することができないとき。
  2. 特に迅速な治療の効果を期待する必要があるとき。
  3. そのほか注射に寄らなければ治療の効果を期待することが困難であるとき。

<注意点>

  1. 注射薬と経口薬の併用投与
    併用投与については、本章「1投薬」内「注意点(12)注射薬と経口薬の併用投与」を参照してください。
  2. 外来化学療法加算(1・2)について
    抗悪性腫瘍剤等による注射の必要性等について、文書で説明し同意を得て投与を行ったことが確認できない場合は算定できない。
    また、同一日に抗悪性腫瘍剤と抗悪性腫瘍剤以外を注射した場合、併算定は出来ない。

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