新規開業医のための保険診療の要点

新規開業医のための保険診療の要点(各論)

[1-11] 精神科

<はじめに>
精神科は後述する自立支援医療をはじめ、公費負担医療を利用される方が多く来院されると思います。制度により、申請から指定を受けるまでに日数がかかりますので、診療を開始するまでに準備しておくことが必要です。
事前に関連する法令をしっかりと確認しましょう。

I 各種法令における留意事項

1 自立支援医療制度

精神疾患のため通院による継続的な治療を受ける場合の負担軽減を図るため、精神科では自立支援医療制度があります。通常医療保険だけでは3割負担が基本となりますが、自立支援医療制度を利用することにより原則1割負担となり、所得によって6段階の負担上限月額が適用されますので、医療費の負担を軽減することができます。
自立支援医療を受けるためには、患者の住所地を管轄する市区町村へ申請が必要となりますので、受診後に継続的な通院が必要と判断される場合には、制度の案内を実施し、申請を希望される患者には診断書の作成をしてください。申請書類や診断書は市区町村の窓口で患者が取得可能です。
自立支援医療は医療機関の指定を受ける必要がありますので、開業前に都道府県へ申請を行ってください。

2 精神障害者保健福祉手帳制度

精神障害を持つ方が、一定の障害にあることを証明するものです。特に医療機関の診療では使用しませんが、手帳を取得することにより、様々な税金の限額や免除、都電・都営バス・都営地下鉄等が無料で乗車できます。こちらも自立支援医療制度と同様に、患者の住所地を管轄する市区町村へ申請が必要となりますので、該当する場合は診断書を作成してください。
自立支援医療制度及び精神障害者保健福祉手帳制度を同時に申請・更新をする場合には、診断書の作成は手帳用の診断書のみ作成し、同時申請とすることにより1枚で行えます。ただし、自立支援医療制度は通院の初日から申請は可能ですが、精神障害者保健福祉手帳制度については、精神科に初めて受診してから6ヶ月が経過している必要がありますので、初回申請のタイミングにはご注意ください。
申請後自立支援医療制度は毎年、精神障害者保健福祉手帳制度は2年に1回更新手続きが必要となります。自立支援医療制度は毎年更新が必要ですが、診断書は2年に1回必要となりますので、毎回同時申請をすれば2年に1回、手帳用の診断書のみ作成となります。
また、後述する障害基礎年金を受給している場合には、年金証書で手帳の更新は可能となりますので、自立支援の診断書のみ作成となります。

3 障害基礎年金

精神障害の等級が2級以上の場合には、障害基礎年金が受け取れます。申請は精神科に初めて受診してから1年6ヶ月が経過している必要があります。初回の申請は同様に、患者の住所地を管轄する市区町村へ申請となりますが、申請時必要書類や受給条件は患者によって異なりますので、まずは役所へ相談のご案内のみをしていただき、申請可能な場合は診断書の作成をしてください。
受給後は障害により更新時期が異なりますが、更新の際には患者へ更新のお手紙が年金事務所より届きますので、提出がありましたら診断書を作成してください。

II 診療録(カルテ)への記載の留意事項

  1. 精神科は他の診療科と異なり、一度発症すると治癒が難しいケースが多く、症状が安定しても再発し、また受診される患者が多いと思います。治療を自己中断し、他院へ措置入院や二次救急等で急遽受診となり、診療情報の提供を求められるケースもあるため、治療経過は特に詳細に記載が必要となります。
    また、転院等で終診となった後でも、警察や市区町村等の関係機関から、通院時の治療経過の問い合わせや、自立支援や精神障害者福祉手帳・障害年金の診断書の控え等を、次回作成をする医療機関から求められることがありますので、古い記録の保管にも注意しましょう。
  2. 精神科では通常の再診料とは別に、通院・在宅精神料を算定されると思います。精神療法を算定される場合、病状説明・服薬指導等、一般的な療養指導のみを行っただけでは算定できません。一定の利用計画のもと危機介入・対人関係の改善・社会適応能力の向上を図るための指示・助言等の働きかけを継続的に行うことが条件となりますので、これらに分かるような記録となるように注意しましょう。
    また、精神療法は診療時間によって点数が異なります。初診の場合は30分以上又は60分以上、再診の場合は5分以上又は30分以上となります。診療時間が分かるように記載しましょう。これは、初診の場合は60分以上であること、再診の場合は30分を超えたことが明らかであると判断され場合には、「〇〇分超」などの記載でも差し支えありません。
  3. てんかん指導料や血中濃度測定による特定薬剤治療管理料を算定する場合には、治療計画に基づく指導内容を記載しましょう。

III 傷病名付与の留意事項

  1. 複数の傷病名を記載する場合は、必ず主病名を明確にしましょう。
  2. 精神疾患は検査をしても正確な診断は難しいケースが多いと思います。治療を進めていく上で傷病名が変わることもあると思います。向精神薬を長期投与することにより、様々な副作用が発現すると思います。そのため、傷病名は定期的に見直しましょう。その際、終了する病名には終了年月日と転帰を記載しましょう。

IV 診療報酬上の留意事項

<基本診療料>

1 初・再診料

  1. 初診料
    初診料は患者の傷病について、医学的に初診といわれる診療行為があった場合、又は患者が任意に診療を中止し、1月以上経過した後、再び受診した場合に算定可能です。
    ただし、慢性疾患等明らかに同一の疾病又は負傷であると推定される場合には、初診として扱えません。精神疾患は治癒が難しいことから、慢性疾患と判断される可能性が高いので、任意の診療を中止後1月以上経過した場合には、初診とするには注意が必要です。初診とする場合には、以前の病名を終了し、再度傷病名を開始しましょう。
  2. 2回目以降の通院は再診料となります。
    ただし、以下に記載する場合は、初診又は再診に附随する一連の行為とみなされますので、該当する日の再診料は算定できません。
    1. 初診時又は再診時に行った検査・画像診断の結果のみを聞きに来た場合
    2. 往診等の後に薬剤のみを取りに来た場合
    3. 初診又は再診の際の検査・画像診断・手術等の必要を認めたが、一旦帰宅し、後刻又は後日検査・画像診断・手術等を受けに来た場合

<特掲診療料>

1 医学管理料

  1. 特定薬剤治療管理料
    薬物血中濃度測定をして計画的な治療管理を行った場合に月一回に限り算定できます。抗てんかん剤又は免疫抑制剤を投与している患者以外は、4月目以降は100分の50に相当する点数で算定します。てんかん患者であって、2種類以上の抗てんかん剤を投与されているものについて、同一歴月に血中の複数の抗てんかん剤の濃度を測定し、その測定結果に基づき、個々の投与量を精密に管理した場合は、当該管理を行った月において、2回に限り所定点数を算定できます。1回目の特定薬剤治療管理料を算定すべき月に限り、280点を所定点数に加算する。それぞれの特定薬剤治療管理料について、該当するコメントの記載が必要です。
  2. てんかん指導料
    てんかん患者であって治療計画に基づき療養上必要な指導を行った場合に月一回に限り算定します。
  3. 診療情報提供料
    保険医療機関が診療に基づき、別の医療機関での診療の必要性を認め、これに対し患者の同意を得て、診療状況を示す文書を添えて患者の紹介を行った場合、紹介先医療機関ごとに月1回に限り算定できます。算定可能な紹介先は原則医療機関となりますが、市区町村・保健所・精神保健福祉センター・保険薬局・障害者施設・学校医等も対象となります。
  4. 傷病手当金意見書交付料
    医師が労務不能と認め証明した期間ごとにそれぞれ算定できます。意見書を交付後、患者が意見書を紛失し、再交付する場合の費用は患者負担となります。

2 在宅医療

  1. 往診料
    別に厚生労働大臣が定める時間において、緊急に行う場合に算定します。
  2. 在宅患者訪問診療料
    通院が困難なものに対して、当該患者の同意を得て、計画的な医学管理の下に定期的に訪問して診療を行った場合、週3回に限り算定できます。
  3. 訪問看護指示料
    訪問看護の必要を認め、患者の同意を得て訪問看護ステーションなどに対して、訪問看護指示書を交付した場合に、月1回に限り算定できます。診療に基づき患者の急性増悪等により、一時的に頻回の訪問看護を行う必要性を認め、患者の同意を得て、訪問看護ステーションに対して、その旨を記載した訪問看護指示書を交付した場合は、特別訪問看護指示加算として、月1回に限り100点を所定点数に加算します。

3 検査

  1. 臨床心理・神経心理検査
    発達及び知能検査・人格検査・認知機能検査その他の心理検査に分類されます。それぞれ操作が容易なもの・複雑なもの・処理が極めて複雑なもので点数が分かれます。それぞれの分類毎に、同日は主たる1種類のみしか算定できません。

4 投薬

  1. 精神科で多く使用される抗精神病薬や睡眠薬には、投与上限日数があります。
  2. 内服薬と同一薬剤を頓服として投薬される場合には、上限量に注意してください。
  3. 1処方につき3種類以上の抗不安薬・睡眠薬・抗うつ薬・抗精神病薬、または4種類以上の抗不安薬抗不安薬及び睡眠薬の投薬を行った場合には、処方箋料が減算されます。投与上限日数がある薬剤が含まれる場合、リフィル処方箋は使用できません。

5 精神科専門療法

  1. 通院・在宅精神療法
    1. 退院後4週間以内を除き、週1回に限り算定できます。
    2. 精神保健指定医による場合とそれ以外で所定点数が分かれます。
    3. 診療に要した時間によって所定点数が分かれます。
  2. 精神科継続外来支援・指導料
    1. 患者又はその家族等に対して、病状・服薬状況及び副作用の有無等を主とした支援を行った場合、1日に1回に限り算定します。
    2. 1回の処方において、3種類以上の抗不安薬・睡眠薬・抗うつ薬・抗精神病薬投与した場合は算定できません。
    3. 他の精神科専門療法と同一日には算定できません。
  3. 抗精神病特定薬剤治療指導管理料
    持続性抗精神病中薬剤を投与している統合失調症患者に対し、計画的な医学管理を継続的に行い、かつ、療養上必要な指導を行った場合、月1回に限り、当該薬剤を投与したときに算定します。

V 令和4年度診療報酬改定における、新規・改定項目

「主な改定項目」

  1. 今回の改定では、通院精神療法の点数が、精神保健指定医とそれ以外で、初診・再診のいずれの場合も、所定点数が分かれました。
  2. こころの連携指導料が新設されました。
    精神科では精神保健福祉士が1名以上配置されていることが条件となっており、連携する医療機関の医師は、自殺対策等に関する適切な研修を受講していないといけないことから算定用件は厳しいですが、点数は500点と高いため、連携する医療機関があれば積極的に検討されることをお勧めします。
  3. リフィル処方箋の仕組みが設けられました。
    ただし、前述していますが、精神科では適応外となる抗精神病薬や睡眠薬の使用が多なるため、使用するケースは少ないと思います。

VI その他

診療所ではデイケア施設を有さないことが多いため、デイケアのみをデイケア施設を有する医療機関に依頼することがあると思いますが、別の医療機関であったとしても、デイケアと同一日に他の精神科専門療法は算定できません。別の医療機関でデイケアを利用している患者については、同一日に利用がないか確認を行ってください。1処方につき3種類以上の抗不安薬・睡眠薬・抗うつ薬・抗精神病薬、または4種類以上の抗不安薬抗不安薬及び睡眠薬の投薬を行うと多剤投与となり、精神療法が100分の50となり、処方箋料が28点となりますので、2種類以下を推奨します。

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