予防接種のお話

感染症対策で重要なのは、かかる前にワクチン接種を済ませておくこと。そのためには、予防接種についてよく知って、適切な時期に受けることが大切です。予防接種を受けることは、自分の身を守ることはもちろん、社会への蔓延を防ぐことにもつながります。

このページでは、予防接種の基礎知識から接種スケジュール、海外渡航の際の注意、高齢者の予防接種のお話まで、わかりやすく解説しています(『元気がいいね』2017年9・10月号~2018年9・10月号より抜粋)。※2021年7月一部加筆修正。



わたしたちを守る予防接種


東京都医師会予防接種委員会

新型コロナワクチンについてのQ&Aは、厚生労働省ホームぺージをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html

【感染症とワクチン】

人類の歴史は、感染症との闘いの歴史といえるかもしれません。麻しん(はしか)やポリオという感染症は、紀元前から人類と関わっていた記録が残っています。非常に病原性の高い感染症や突然現れる新型の感染症は、何度も人類を苦しめてきました。人類がこの戦いに勝利したのは天然痘だけです。

ジェンナーの功績により、予防をすればその病気にかからなくてすむ、あるいはかかったとしても軽くすむ、予防接種という武器を手に入れました※。人類の発明のうち、最も価値のあるもののひとつといえます。その後、様々なワクチンが研究され生み出されてきましたが、今日の日本で接種できるワクチンは、28種類しかありません。いまだに多くの感染症には、予防の手立てがないのが現状です。しかし、この28種類のワクチンは、感染症の発生や重症化、死亡から私たちを守ってくれる重要なものばかりです。

ワクチンのなかった1950年以前のわが国では、年間10万人の方が麻しん、百日咳、ジフテリア等にかかり、亡くなっていました。一方、ワクチン接種が広く浸透した今日では、これらの感染症の大きな流行は見られなくなってきました。海外から持ち込まれた麻しんウイルスによって時折集団発生が見られますが、日頃からのMR(麻しん風しん混合)ワクチンの接種率の高さ(1歳での接種率95%以上)により、感染拡大を防ぐことができました。

ワクチンの効果は日常生活ではなかなか見ることはできませんが、いざというときに日頃の備えが大切だと実感できるできごとでした。私たちは喉もとを過ぎると過去のことを忘れてしまいがちですが、あらかじめ準備をしておくことは忘れてはならない大切なことです。

※18世紀末、イギリスの医師エドワード・ジェンナーが、天然痘ほど危険ではない「牛痘(ウシがかかる天然痘)」を注射することで、天然痘にかからないようにする方法を発明しました。これがワクチンの始まりとされています。

 

【予防接種の目的・意義~個人を守る&社会を守る~】

予防接種の大切さは述べてきた通りですが、次にその目的・意義についてお伝えします。

予防接種の目的・意義は、
① 一人一人がその病気にかからないように個人を病気から守ること(個人防御)。
② 皆さんの住んでいるコミュニティ、つまり、集団での感染拡大を防ぐこと(集団防御)。
③ 予防接種を受けたくても受けられない人たちを感染症から守ること(集団免疫)。
の3つがあげられます。

①は、当然のこととして理解できると思います。②、③は「集団免疫効果」に関わることです。妊婦や生まれたばかりの赤ちゃん、また、何らかの理由で予防接種を受けられない人たちがいます。集団全体で免疫を獲得することで、この人たちを守ることができます。これを達成するには、定期接種としてほとんどすべての人が予防接種を受ける必要があります。

 

【予防接種スケジュール】

感染症には、それぞれかかりやすい年齢や季節があります。そのため、かかる前にワクチンの接種を済ませておくことが大切です。

最近では、赤ちゃんや小さな子ども同伴のレジャー、ショッピング、外食などが日常的になりました。また、働く女性が増えて、保育園などで集団生活を送る子どもも増えています。このように子どもが人の多く集まる場所に長時間いることが増えると、それだけ感染症にかかる機会が増加します。意外と思うかもしれませんが、両親や兄弟が無症状で持っている病原体が赤ちゃんにうつって発症してしまう病気もあります。予防接種を受けるにあたって、おすすめの時期やスケジュールが示されているのはそのためです。

 

【まとめ】

グローバル化と交通手段の発達によって、人の移動・流れはダイナミックかつスピーディになってきました。昨今の麻しん発生も輸入麻しんと呼ばれ、海外から持ち込まれたものです。感染症に国境はありません。2020年に世界的パンデミックとなった新型ウイルス感染症も海外から国内に持ち込まれた病気です。

オリンピックなど国際的なイベントの開催時には、さらに大きな人の流入が考えられます。そのためにも、ワクチンのある感染症はワクチンで防ぐことが大切です。赤ちゃんや小さな子どもはもちろんのこと成人も含め、みんなが適切にワクチンを接種して、必要な免疫をつけておくことがとても重要です。

 


予防接種スケジュール(乳児期)

【赤ちゃんの予防接種は重要】

赤ちゃんは、胎盤を通して、また母乳によって、お母さんから様々な病気に対する免疫を受け継ぎます。しかし、この免疫は次第に減っていきます。あるいは、受け継がれないものもあります。乳児期は病気に対する抵抗力が未熟なため様々な感染症にかかりやすく、かかると重症化しやすいので注意が必要です。

感染症から赤ちゃんを守るためには、かかる前にワクチン接種を済ませておくことがとても大切です。特に乳児期にワクチンによって免疫を持ち感染症に備えることは、感染症にかかりやすく重症化しやすい時期の予防ができること、そして乳児期以降のワクチン追加接種によって長く免疫を持続させる観点からも、非常に重要です。

 

【乳児期に必要な主なワクチンとその病気】

① 4種混合ワクチン
4種混合ワクチンは、ジフテリア、破傷風(はしょうふう)という非常に致死率の高い感染症と、百日咳というお母さんから免疫が十分に受け継がれない感染症を予防します。また、ポリオも予防できます。

ジフテリア、破傷風は自然感染では免疫を獲得できないので、ワクチン接種が必須です。百日咳は、年長児や成人がかかって乳幼児の感染源となっていることが問題視されています。ポリオは、発症すると手足に回復困難なまひが残ることもあります。重症化すると呼吸できずに死に至ることもあります。世界保健機関(WHO)が天然痘に次いで全世界で根絶を目指している、最も重要な感染症です。

② BCGワクチン  
乳児の重症結核を予防します。赤ちゃんが結核にかかると全身に感染が広がり粟粒結核(ぞくりゅうけっかく)や結核性髄膜炎と呼ばれる重い病気になり、後遺症が残ることや亡くなることがあります。現在でも大都市圏を中心に毎年2万人以上の患者が新たに発生し、2千人以上が死亡しています。

③ ヒブ(インフルエンザ菌b型)ワクチンと肺炎球菌(13価肺炎球菌結合型)ワクチン
細菌性髄膜炎を予防するワクチンです。ヒブや肺炎球菌などの細菌が、血液から脳を包んでいる髄膜に入り込み、炎症を起こす病気で、死亡したり後遺症が残ることがあります。

これらの菌は健康な人の鼻粘膜に常在しているので、両親や兄弟がまだ免疫のない赤ちゃんにうつしてしまうために、1歳未満で多く発症し、進行すると意識障害、けいれんなどが見られます。発症初期は発熱だけのことも多く、急激に悪化するにもかかわらず早期発見がとても難しい病気です。ワクチンによって病気に対抗する「抗体」を作ることができます。

④ B型肝炎ワクチン
世界保健機関(WHO)が、すべての小児へのB型肝炎ワクチン接種を勧告しています。赤ちゃんがB型肝炎ウイルスに感染するとキャリア化(体内にウイルスを持つ状態)しやすく、将来、慢性肝炎・肝硬変・肝がんになることもあります。ワクチンによってキャリアのお母さんからの母子感染(垂直感染)は激減してきましたが、現在は、性交渉や家族・集団保育での感染(水平感染)が問題となっています。

⑤ ロタウイルスワクチン
生後6か月から2歳をピークに、ほぼすべての人がロタウイルスに一度は感染します。発熱と嘔吐から始まり、下痢を起こします。通常は自然に治りますが、脱水によるショックや脳症を併発して亡くなることもあります。

 

【乳児期のワクチン接種スケジュールについて】

ワクチン接種のスケジュールを立てる前に重要なポイントをチェックしましょう。

① ワクチンはそれぞれ接種できる年齢や月齢が決まっています。時期がきたら早めに受けましょう。

② 満1歳になると定期接種として受けられなくなるワクチンがあります。
  1歳になる前に接種もれがないかどうかをかかりつけ医と再確認することをお勧めします。

③ 別の種類のワクチン接種まで一定の間隔をあけるルールがあります。
  注射の生ワクチン接種後に異なる注射の生ワクチンを接種する場合は27日以上あけること、
  同じ種類のワクチンを複数回接種する場合は、ワクチン毎に接種間隔が決まっているので注意しましょう。

④ 2020年10月から、飲むタイプの生ワクチン(ロタウイルスワクチン)や、不活化ワクチンの接種後に、
  異なるワクチンを接種する場合の間隔には制限がなくなりました。

⑤ 接種医療機関や日時が指定されていたり、任意接種ワクチンの公費助成が行われていることがあります。
  お住まいの自治体のホームページや広報誌などで早めにチェックしましょう。

⑥ 望ましい接種機会を逃さないように、定期接種も任意接種も区別しないでスケジュールに入れておきましょう。

⑦ 赤ちゃんの体調は変わりやすいので、スケジュールのずれや心配ごとは、ためらわずにかかりつけ医に相談しましょう。

⑧ 里帰り分娩などで定期予防接種を住民票のある自治体以外(23区以外や東京都以外など)で接種を希望する場合、
  住んでいる自治体が発行する「予防接種依頼書」があれば他県などでも定期接種として受けることができる場合があります。
  詳しくは住んでいる自治体の保健所等にご確認ください。

 

【まとめ】

乳児期はワクチン接種において最も重要な時期と言えます。ワクチンの種類が増え複雑化しているように感じるかもしれませんが、複数のワクチンを同じ日に接種する同時接種も含め、日本も海外の先進国の足並みにやっと追いついたというのが現状です。ワクチンにより予防可能な感染症から日本の子どもたちが守られる機会が増えたことは、喜ばしい限りです。


 

予防接種スケジュール

日本の予防接種スケジュール(国立感染症研究所)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/vaccine-j/2525-v-schedule.html

予防接種スケジュール(幼児期)

【幼児期の予防接種は集団生活への準備】

幼児期とは、離乳がほぼ終了する1歳から就学前の6歳までを指します。脳や心身の成長と発達が著しく、人格の形成に大切な時期ですので、保護者や養育者の果たす役割は非常に重要です。

幼児期のワクチン接種には、環境の大きな変化に備える意味があります。幼児期には保育園や幼稚園などでの集団生活がスタートし、さまざまな病原体にさらされます。保育園に通う子どもは、そうでない子どもに比べて感染症(いわゆるかぜ)に約2倍かかりやすいといわれています。集団生活を始める前に、可能な限り予防接種を済ませておくことが大切です。

 

【幼児期に必要な主なワクチンとその病気】

① 麻しん(はしか)
麻しんは、麻しんウイルスの空気感染・飛沫感染・接触感染によってうつります。感染力が非常に強く、予防接種を受けないと多くの人がかかる病気です。麻しんにかかると大人も子どもも重症化しやすく、39度から40度の高熱と発疹がみられ、ときに肺炎・中耳炎・気管支炎・脳炎などの合併症を起こします。重症化すると効果的な治療手段がないために先進国でも数千人に1人死亡したり、後遺症が残ることもあります。

さらに、感染後数か月間は免疫機能が低下するため、別の感染症(肺炎、中耳炎、気管支炎など)にかかりやすくなります。世界ではまだ流行している国・地域もあり、日本へいつ流入してもおかしくない状況にあるため、注意が必要です。また、麻しんが一旦治ったにもかかわらず、数年~10年ほど経ってから重症な疾患である亜急性硬化性全脳炎を発症する恐れもあります。

② 風しん
風しんは、風疹ウイルスの飛沫感染・接触感染によって起こり、発疹、発熱、首や耳の後ろの腫れなどが特徴です。一見すると麻しんより症状が軽いために「三日ばしか」と呼ばれたりしますが、関節痛・血小板減少性紫斑病、脳炎などの合併症を起こすこともあります。

気をつけたいのは、妊娠20週頃までの妊婦への感染です。風しんに対する免疫が不十分な妊婦が風しんウイルスに感染すると胎児にもウイルスが入り込んで、白内障や心疾患、難聴などの障害のある先天性風疹症候群(CRS)の赤ちゃんが生まれる可能性があります。

近年では、特に30~50歳代の男性を中心に流行が見られ、妊婦への感染源となっています。昭和37年4月2日~昭和54年4月1日生まれの男性は、風しんの抗体検査を実施した上で、抗体の値が低いとわかった場合は、定期接種として全額公費でMRワクチンの接種を受けることができます。クーポン券が、居住地の市区町村から届けられています。クーポン券があれば、居住地にかかわらず、全国どこでも接種が可能です。予防法は、ワクチン接種以外にはありません。ただし、この制度は、2019年~2021年度までの3年間のみの制度ですので、忘れずに今、受けましょう。

麻しんと風しんを予防するには、基本的には麻しん風しん混合(MR)ワクチンを使用します。とても大切なワクチンのため、1歳になったらなるべく早く接種し、2回目は就学前の1年間(幼稚園・保育所の最年長クラス)5~6歳で接種します。

③ 水痘(みずぼうそう)
水痘は、水痘帯状疱疹ウイルスによって起こる病気です。感染力が強く、感染経路も空気感染・飛沫感染・接触感染のため集団保育などで流行しやすく、発熱、水ぶくれをともなう発疹が主な症状です。通常は、軽い症状で済みますが、あとが残ったり肺炎や肝炎などを起こすこともあります。

白血病や大量ステロイド・免疫抑制剤使用中など免疫状態の落ちている小児がかかると重症化しやすく大変危険です。また、成人の水痘は重症で時には死亡することもあります。思春期以降の水痘は顔などに一生残る跡を残してしまうこともあります。

水痘は毎年100万人以上が発症し、約4000人が入院し、10人前後の方が亡くなっていると言われていましたが、2014年10月から小児の定期接種に導入されてから、小児の報告数は激減しています。このため水痘の流行もほとんど見られなくなってきたことから、今後小さいうちに罹らずに成人になって重症水痘になってしまう方が増えることが懸念されています。水痘にかかったことがない、またはワクチンをしっかり2回接種できていない方は、定期接種の対象年齢を過ぎていてもワクチン接種(自費)を受けることをお勧めします。

また、妊婦がかかると、妊娠初期では先天性水痘症候群になったり、分娩直前直後でかかると新生児が早期に水痘を発症し重症化することもあります。水痘にかかったことがない、またはワクチンをしっかり2回接種できていない方は、妊娠前のワクチンによる予防が大切です。

水痘にかかってしまうと、発疹などの症状が消えて治った診断されたあとも、実はウイルスは体の中に潜んでいます。過労や加齢、病気などで免疫が低下すると、潜んでいたウイルスが再び活動を始めて皮膚に帯状の発疹が出てきます。これが帯状疱疹で、子どもの頃などにかかった水痘と同じウイルスによる病気です。

麻しん・風しんワクチンと同様に、水痘ワクチンも1歳を迎えたらなるべく早く接種しましょう。そして、3か月以上の間隔をあけて、できれば6~12か月の間隔をあけて、3歳になる前に2回目の接種を受けることがとても大切です。

④ 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)
おたふくかぜは、ムンプスウイルスによって起こる発熱と耳下腺の腫れが特徴で、頭痛と発熱、場合によっては痙攣も起こす無菌性髄膜炎や、回復が難しい難聴などの合併症も多い病気です。思春期以降の成人では、精巣炎や卵巣炎などの合併症が起きることもありますので注意が必要です。

幼稚園など集団生活での感染が多く、毎年2~7歳の子どもを中心に数十万人の患者が発生しています。1歳になれば任意接種として受けることができます。より確実な効果を得るために、2回の接種が勧められています。

 

【幼児期のワクチン接種スケジュール】

ワクチン接種の基本は、対象年齢になったらなるべく早く接種することです。1歳になったら同時接種を活用しながらできるだけ早くワクチン接種が行えるように、かかりつけの医師と準備しておきましょう。特に早く接種したいワクチンは、定期接種のMRワクチン、水痘ワクチンです。また、1歳児に追加の接種を行うヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、四種混合ワクチンも4回目を忘れずに接種しましょう。子どもたちが集団生活を始める前に、可能な限り予防接種を心掛けましょう。


予防接種スケジュール(学童期)

【学童期の予防接種により免疫完成へ】

学童期とは、一般的に小学校に入学する時期から、性的成熟が始まる思春期までの時期を呼びます。幼児期と青年期との間で、年齢的には6、7歳から11、12歳の間に当たります。児童期とも呼ばれ、幼児期に引き続いて成長著しく、小児から成人への移行の導入期です。集団生活による環境の変化が大きく、小学校後半には免疫がほぼ完成しますが、それまでは感染症にかかりやすい状態にあります。

 

【学童期に必要な主なワクチンとその病気】

① 日本脳炎
ウイルスを持つ蚊を介して感染する病気で、人から人への感染はありません。日本を含むアジア地域で広く見られる感染症です。実際に発症する人は、感染者の100~1000人に1人程度といわれていますが、脳炎を起こすと、効果的な治療法はなく、致命率は20~40%と高く、回復しても約半数に後遺症が残り、特に乳幼児では重い障害が残るリスクが高く、かかることをさけるべき感染症です。

新規患者数は毎年10人以下で、免疫の低下した中高年が中心ですが、中にはワクチン未接種の子どもの患者も報告されています。西日本を中心に広い地域で、毎年ウイルスを持ったブタが確認されています。このブタを刺した蚊が人にウイルスをうつすわけですから、日本各地にウイルスが潜んでいることになります。

3歳からの接種開始が標準ですが、生後6か月から接種は可能です。9歳での追加接種*を受けます。近年、4回接種の未完了者が多いため、特例対象者として平成7年4月2日~平成19年4月1日生まれの人は20歳までに不足分を接種でき、平成19年4月2日~平成21年10月1日生まれの人は、9歳から13歳未満に1期の不足分を接種できます。

*追加接種: 十分な免疫力をつけるために行う、複数回目の接種のこと。

② 二種混合(ジフテリア・破傷風)
ジフテリアと破傷風は、乳幼児期に三種混合、あるいは四種混合ワクチンとして4回接種しますが、追加免疫を得るために11歳から13歳未満で1回接種を受けます。これが二種混合(DT)ワクチンです。ジフテリアも破傷風も、ワクチン接種でなければ免疫を獲得できません。発症した場合、呼吸困難を引き起こすなど致死率が高く、大変危険な感染症です。

特にジフテリアは国内では見られなくなりましたが、海外では、難民キャンプや公衆衛生の環境が整っていない国、地域で報告が上がっていますので油断は禁物です。破傷風もワクチン接種をしなければ免疫を獲得できませんので、追加接種による免疫の維持が重要です。

日本小児科学会は、この二種混合ワクチンの代わりに三種混合ワクチン(自費)を接種することを勧めています。その理由は、乳幼児期に三種混合、あるいは四種混合ワクチンとして接種した百日咳についても追加免疫が必要なためで、海外の多くの国ではすでに実施されており、近年、日本でも小学生以上の年齢での百日咳患者の増加が確認されています。二種混合で接種するか、三種混合で接種するか、かかりつけ医とぜひ相談して下さい。

③ インフルエンザ
1~3日間ほどの潜伏期間のあと、発熱、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然現れ、咳、鼻汁などの上気道炎症状がこれに続き、約1週間で軽快するのが典型的なインフルエンザで、いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強い病気です。

特に、小児や高齢者、糖尿病などの代謝疾患患者、免疫機能が低下している患者では、呼吸器に二次的な細菌感染症を起こしやすくなることが知られており、入院や死亡の危険が増加します。小児では中耳炎の合併、熱性けいれん(発熱時のけいれん)や気管支喘息を誘発することもあります。

流行状況により、変動しますが、毎年100~300人のインフルエンザ脳症患者が報告され、その約7~8% が死亡し、約15%に後遺症を残しています。

生後6か月から接種可能です。接種時期、接種回数はかかりつけ医と相談して下さい。

④ ヒトパピローマウイルス(HPV)
小学校6年~高校1年相当の女子は、予防接種法に基づく定期接種として、公費によりHPVワクチンを接種することができます。
 現在、公費で受けられるHPVワクチンは、3種類(2価ワクチン(サーバリックス)、4価ワクチン(ガーダシル)、9価ワクチン(シルガード9))あります。一定の間隔をあけて、同じ種類のワクチンを合計2回または3回接種します。接種するワクチンや年齢によって、接種のタイミングや回数が異なります。どのワクチンを接種するかは、接種する医療機関に相談してください。

 また、平成9年度生まれ~平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日)の女性の中で、定期接種の対象年齢(小学校6年~高校1年相当)の間に接種を逃した方には、あらためて公費での接種の機会を提供しています。詳しくは「HPVワクチンの接種を逃した方へ~キャッチアップ接種のご案内~」をご覧ください。

 

【学校において予防すべき感染症】

幼児期および学童期における集団生活では、様々な感染症が発生します。感染症対策は、マスクや手洗いなどの標準的な予防策、早期発見・早期治療の感染後の対策も重要ですが、その疾患に特化した効果的な予防策こそが最も大事であるといわれています。特に学校など児童生徒が集団生活を営む場所では、感染症が発生した場合に、大きな影響を及ぼすこととなります。

このため「学校保健安全法」により発生予防と蔓延防止策が定められています。感染症の拡大を防ぐために、各感染症の出席停止期間が定められています。また、入学前の健康診断で、母子手帳や予防接種済証などにより予防接種歴を確認し、未接種者を把握、接種するように推奨されています。

 

【まとめ】

小学校に入学すると、教室という場で一定の時間みんなと一緒に授業を受け、親から離れて集団で過ごす時間が長くなり、社会性を身につけます。学校での感染症の発生を防ぐことは、望ましい教育環境を維持するためにも非常に大切です。咳エチケット、手洗いの励行、身の回りを清潔に保つなど日々の生活の感染症予防はもちろんですが、ワクチンで予防可能な病気も多く、かかる前にワクチン接種を済ませておきましょう。


海外渡航に対する予防接種

【国際化にともない増加した】

国際化が進み、モノの流れとともに人も大きく移動しています。海外渡航者は年間2,000万人を超え、海外から日本に来る人も年間3,000万人を超えました。気軽に海外旅行を楽しむ時代になりました。旅行だけでなく、ビジネスや留学のための海外渡航も増えています。

かつては欧米への渡航が中心でしたが、現在は産業構造の変化や文化交流の拡大とともにアジア、アフリカ、南米など、様々な国や地域との往来が増え、これまでとは異なる地域に足を踏み入れるケースが増えてきました。海外渡航者が感染症のリスクと向き合うことも多くなっています。そこで、海外に渡航する際に必要な予防接種について紹介したいと思います。

 

【入国するためにもからだを守るためにも必要】

海外渡航に際して、なぜ予防接種が必要なのでしょうか。一つ目に、入国する前に予防接種を済ませておくよう、訪問先の国から求められることがあるからです。特に留学などの場合は、日本から持ち込まれることを避けるために、接種済の証明が入学の条件となっていることがあります。予防接種制度は各国によって異なるので、郷に入っては郷に従え、訪問国の指示に従うことは大切です。

二つ目の理由として、自分自身の感染を防ぐとともに、帰国後に周囲の人へうつさないようにするためです。感染症は気候・風土によって地域ごとに異なる疾患が流行します。相手国内で自分が病気にかかる前に予防接種を受け、感染リスクを低下させておく必要があります。

 

【海外渡航前に検討すべき予防接種】

予防接種を検討するには、渡航先や滞在期間、宿泊施設、渡航の目的など様々な要因を考える必要があります。海外には、日本にない感染症がたくさんあります。渡航先の感染症発生情報や対処法などを事前に入手し、適切な感染予防を心掛けましょう。

また、これまでに受けた予防接種について確認し、国内で予防接種が推奨される病気で予防対策が不十分なものがあれば、事前に余裕を持って医師に相談してから渡航することが大切です。

予防接種の種類によっては一定の間隔をあけて数回(2、3回)接種が必要なものもあるので、できるだけ3か月以上前から、医療機関や検疫所で接種するワクチンの種類と接種日程の相談をしましょう。

 

【海外渡航前に必要な主な予防接種】

それでは、具体的にどのような予防接種が必要なのでしょうか。

① 麻しん・風しん
すでに麻しんが排除されて国内でほとんど発症していない国と地域が増えてきました。これらの国々では麻しんを持ち込ませないようにするために、特に留学に際しては麻しんのワクチンが要求されます。

逆に、世界にはまだ麻しんや風しんが流行している国が多数あります。日本を出国して相手国で罹患しないように予防接種を受けてから出国しましょう。小学生以上で2回接種を受けていない場合、海外渡航前に予防接種を受けることが推奨されています。定期接種としてMRワクチンを2回(1歳と小学校入学前1年間)受けていれば、問題ありません。

② 破傷風
ワクチン接種でしか免疫は獲得されません。日本では、昭和43年生まれ以降の人は定期接種でワクチン接種していますが、それ以前の人は免疫を持っていないと考えられます。また、免疫が有効な期間は10年間です。未接種の人や接種から10年以上経過している人は、渡航前に予防接種を検討してください。特に、フィールドワークなど都市部以外での生活がある人は要注意です。

③ ポリオ
急性の麻痺が起きる重い病気です。パキスタン、アフガニスタンでは今も流行しています。以前にポリオの接種を受けていたとしても、渡航前に追加の接種を勧めています。特に、1975年から1977年生まれの人は、1型ポリオウイルスに対する免疫が低いことがわかっているので追加接種を検討してください。

④ 日本脳炎
蚊に刺されることによって起こる重篤な急性脳炎で、致命率が高く、後遺症も残ります。アジアへ行く人には接種をお勧めしたいワクチンです。

⑤ A型肝炎
食べものから感染する病気でアジア、アフリカ、中南米に広く存在します。発症すると倦怠感が強くなり、黄だんが現れます(眼球結膜や皮膚の色が黄色くなります)。重症化すると1か月以上の入院が必要な場合もあります。途上国に中・長期間滞在する人には接種を勧めています。

これ以外にも、狂犬病やB型肝炎、黄熱、ジフテリア、髄膜炎菌感染症などワクチンで予防できる病気があります。言葉や習慣の違う海外で困らないように、万一の場合に備えておきましょう。


高齢者の予防接種

【高齢者の予防接種】

高齢者に対するワクチンとしては、季節性インフルエンザワクチンと、2種類の肺炎球菌ワクチンが実用化されています。現在、インフルエンザワクチンと23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンが定期接種の対象となっています。インフルエンザに感染すると、そのあと肺炎球菌による肺炎を起こしやすいため、これらのワクチンの併用によりインフルエンザと肺炎球菌感染症を予防することが重要です。

また、2016年3月から、50歳以上の人が帯状疱疹予防のためにワクチンを利用できるようになりました。高齢者にぜひ接種を検討してほしい、これらのワクチンを紹介します。

 

【季節性インフルエンザとは】

毎年発生する季節性インフルエンザとは、通常、初冬から春先にかけて流行し、その多くは自然に治癒します。しかし、1シーズンに少なくとも数百万人、多いと1千7~8百万人がかかり、学校や仕事などを休む人が急増します。患者が増えるほど重症者も発生し、数千~数万人の生命に危険が及ぶこともあります。

インフルエンザにかかる確率は小児で高く、重症化や入院の割合は65歳以上の高齢者、2歳未満の乳幼児で高くなります。高齢者以外でも、慢性疾患を患っている人は重症化や死亡が多いといわれています。

 

【インフルエンザとワクチン】

インフルエンザ予防接種の目的は、「発症と重症化の予防」です。インフルエンザにかからないわけではなく、インフルエンザに関連した高齢者の死亡などの命に関わる合併症を防ぐことを目的としています。基礎疾患がある人や免疫が低下している人は、治療の経過や管理の状況により、インフルエンザに罹ることで重症化するリスクが高くなります。

特に、高齢者の肺炎には注意が必要です。インフルエンザウイルスによってのどや気道に炎症が起こることで、気道の表面の細胞が壊れ、体の防御機能が弱まり、細菌に感染しやすくなります。発症率は小児や成人に比べて高齢者で高く、致命率も高くなっています。

流行期は例年12月中旬から3月下旬までのことが多いので、体内で抗体が作られて効果を発揮するまでの期間を考慮して、ワクチンは10月中旬から12月下旬までに接種することが望ましいでしょう。接種回数は1回です。

インフルエンザは毎年の流行で少しずつ流行株が変異することから、ワクチン株と流行株が一致するかどうかで効果は変わります。ワクチンの効果は、65歳以上の高齢者福祉施設・病院に入所している高齢者では、34~55%の発症を阻止し、約82%の死亡を阻止する効果があったとされています。

インフルエンザ発症から5~7日経っても熱が下がらず、咳などが悪化する場合は肺炎を合併した可能性がありますので、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けましょう。

 

【高齢者の肺炎球菌感染症とワクチン】

肺炎で亡くなる方の約95%が65歳以上の高齢者です。そして、成人肺炎の25~40%が肺炎球菌性肺炎で、特に高齢者では肺炎球菌による肺炎を予防することが重要です。若い人に比べて高齢者の肺炎では、症状がわかりづらいという特徴があります。

発熱やせき等の症状があまり見られず、むしろ、何となく元気がない、食欲がないといった様子で、家族が肺炎と気付かないうちに重症化が進み、突然呼吸困難に陥ることがあります。抗菌薬(抗生物質)が効かない耐性菌も登場しており、現代でも危険な感染症といえます。

2014年10月から高齢者の肺炎球菌感染症の定期接種の制度が始まりました。ワクチンによる予防効果は、肺炎の重症度と死亡のリスクを軽減させます。インフルエンザワクチンとの同時期の接種により、肺炎予防効果と医療費抑制効果が確認されています。

加齢とともに免疫力が落ちてくると感染リスクが高まります。また、糖尿病や心疾患、呼吸器疾患などの慢性疾患を持つ人などは肺炎球菌性肺炎にかかりやすいため、特に予防が大切です。

元気なうちに、できるだけ早い時期に、予防接種により確実に免疫をつけることが重要です。

 

【帯状疱疹とワクチン】

帯状疱疹の原因ウイルスは、水痘・帯状疱疹ウイルスです。初めて感染したときは、みずぼうそうとして感染します。治ったあとも生涯体内に潜伏し、加齢やストレスなどで免疫力が低下すると、このウイルスが再び暴れだします。

日本人の9割以上がすでにこのウイルスに感染したことがあり、体内にウイルスを持っています。そのため、日本では80歳までに3人に1人が帯状疱疹になるといわれています。帯状疱疹の発症は夏に多く、冬に少ないことがわかっています。

帯状疱疹の発症率は、50歳から急激に高くなり、患者の約7割が50歳以上です。帯状疱疹になって困ることは、痛みや外見(顔面にできることもあります)によって日常生活が制限されてしまうことです。その痛みは、何か月も、時には何年も続くことがあります。

まだまだ元気だと思っていても、ある日突然、帯状疱疹になるかもしれません。免疫の低下は、加齢、疲労、ストレスなど誰にでもみられる、ごく日常的なことによって起こります。

帯状疱疹予防には、50歳以上の方を対象にワクチンがあります。かかりつけの医師と相談の上、接種を検討しましょう。


集団免疫効果の向上に向けた予防接種

【予防接種は個人と集団の両輪が要】

日本における予防接種を取り巻く状況は、先進諸国と比べて公的に接種するワクチンの種類が少ない「ワクチン・ギャップ」という言葉で表現されてきましたが、ここ数年で多くのワクチンが導入され、そのギャップは埋まりつつあります。ただ、いまだに「ワクチンで予防できる疾患(VPD)はワクチンで予防する」という考え方が十分に浸透しているとはいえません。

予防接種は、かかりつけ医と被接種者、保護者で、疾患の流行状況や一人ひとりの体調に合わせた接種スケジュールを組む個別接種が原則です。そして、個人の予防の積み重ねによって、地域社会の感染症予防へとつながっています。これを集団免疫効果といいます。

世の中には、予防接種を受けたくても受けられない人(接種対象年齢に至らない新生児や乳児、妊婦、免疫の低下している人、免疫を抑える治療を受けている人)も一緒に生活しています。多くの人が接種を受けて流行を阻止し、その結果としてそういった人たちも守られなければならないということを、ぜひ理解してもらいたいと思います。

 

【麻しん、百日咳の感染拡大】

感染症対策の基本は、かかる前にワクチン接種を済ませておくことです。この数年の麻しん流入に対して、ワクチンを2回接種している年齢層では感染拡大がみられず、ワクチンの効果がはっきりと確認できます。一方、ワクチン未接種者や1回しかワクチン接種を受けていない20歳代後半から30歳代が麻しんウイルス感染の中心となっています。

繰り返される麻しんの流行に対して、もっとも重要な課題は、2回の予防接種の接種率をそれぞれ95%以上にすることです。ある集団に95%以上の免疫が獲得されていれば、ウイルスが流入されても感染拡大を防ぐことができるという「集団免疫効果」の考え方にもとづいています。

また、百日咳の年長児から成人層での流行を受け、2018年から百日咳は、かかった人を全数把握する対象疾患になりました。大人は百日咳にかかっても軽症で済むことが多いのですが、その大人からうつされた乳幼児では無呼吸発作が起きるなど重症化が懸念されます。現在、予防接種の追加接種対策が制度として検討されているところです。

 

【予防接種記録を確認しよう】

すべての感染症対策のベースとなるのは予防接種を受けたかどうかという確認で、これはとても重要です。個人が生涯にわたって保持する予防接種の記録は、母子健康手帳です。カルテと同じく、ワクチンの種類、接種量、ロット番号、接種部位などが記載されています。

しかし、成人では、その存在すら忘れている場合がしばしば見受けられます。保護者が記念として大切に保管していることも多いのですが、その人の大切なワクチン接種歴なのでしっかりと本人に手渡してください。本人にとっては、記憶よりも記録が大切です。

記録が残っていれば、突然の自然災害時にも役立ちます。自然災害発生時には、災害自体によって起こる感染症(破傷風など)に対するワクチンの接種歴を確認することができます。さらに、避難所生活で懸念される感染症(麻しんなど)の集団発生の対策にも役立ちます。ご自身と家族の予防接種記録の管理について、いま一度確認してください。

 

【日本での「マスギャザリング」に向けて】

一定期間、特定の地域に同じ目的で集まった多くの人をマスギャザリングといいます。

マスギャザリングと感染症は切り離せない関係にあります。日本国内でも今後国際的な大規模な大会が幾度となく開催されることでしょう。

海外では、感染症管理がいまだ十分ではない国、地域があり、様々な感染症の流入が考えられます。会場となる開催都市ならびに参加者は、個人免疫および集団免疫の獲得を事前に進めておかなければなりません。

 

【いまこそ予防接種を】

新たなワクチンが導入され、ワクチン・ギャップも解消されつつありますが、実際にワクチンの接種が進まなければ意味がありません。

現在、予防接種は、個人防御と同時に社会への感染症の蔓延を防御するという目的のために実施されています。自然災害は突然やってくるので、平常時こそ予防接種で備えましょう。また、グローバル化進展の波は、海外からのウイルス流入ももたらします。いまや、感染症に国境はないと考えた方がよいのかもしれません。

予防接種は、かかる前に済ませておくということがもっとも大切です。

予防接種に関するお問い合わせ東京都医師会 疾病対策課
電話:03-3294-8821(代)
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