新規開業医のための保険診療の要点

新規開業医のための保険診療の要点(各論)

[1-8] 泌尿器科

<はじめに>
泌尿器科領域で新規開業される方を対象に保険診療上の注意点を説明します。

I 各種法令における留意事項

総論の「保険診療とは(医療保険各法やルールについて)」を参照してください。

II 診療録(カルテ)への記載の留意事項

医学管理料は対象患者に単に指導を行っただけでは算定できません。指導内容、治療計画等について、具体的に診療録に記載することが必須条件です。算定要件、算定回数制限などがそれぞれの医学管理料ごとに定められていることに十分に留意してください。

III 傷病名付与の留意事項

  1. 炎症性疾患では急性・慢性の区別を記載してください。例えば前立腺液圧出法は急性前立腺炎では禁忌とされます。記載が無いと「急性」と判断されます。
  2. 腫瘍性疾患では良性・悪性の区別を記載してください。例えば「精巣腫瘍」病名では「良性」扱いとなり、腫瘍マーカー検査等は適応となりません。
  3. 対称器官に関わる病名は左右の区別を記載してください。
  4. 長期にわたる急性疾患の傷病名や疑い病名は転帰を付して整理してください。
    例えば数ヶ月前の「急性膀胱炎」病名での細菌培養や、「膀胱炎疑い」病名での薬剤感受性検査の算定はできません。

IV 診療報酬上の留意事項

<基本診療料>
1 初・再診料

  1. 外来管理加算
    超音波検査施行時の外来管理加算の算定はできません。残尿測定器による残尿測定時も超音波検査同様、算定はできません。

<特掲診療料>

1 医学管理料

  1. PSA F/Tは前立腺癌を強く疑う場合に、尿中NMP22は尿路上皮癌等を疑う場合に限り算定できます。従って癌が確定した後は、悪性腫瘍特異物質治療管理料での算定はできません。
  2. 在宅療養指導料は尿路カテーテル管理下の外来患者に算定できます(初回月は2回、その後月1回)が、保健師又は看護師が医師の指示のもと、医療機関内で個別に対面で30分以上の指導を行い、その記録も作成し診療録に記載する必要があります。

2 在宅医療

  1. 往診料
    患家の求めにより臨時的に赴き診察した場合に算定できます。一方、在宅患者訪問診療料 I-1は、計画的な医学管理下に定期的に患家に赴き診察した場合に算定できます。定期的な留置カテーテルの交換など、尿路管理を実施している場合は後者で算定してください。
  2. 在宅患者訪問診療料 I-2
    在宅管理料等の算定条件を満たす他の保険医療機関より尿路管理等(往診主治医がバルーン留置困難など)の訪問診療を依頼された場合、6ヶ月を限度に算定可です。(依頼があった月日を適応欄に記載)。さらに継続的な訪問診療を行う場合は、その必要性を摘要欄に記載してください。
  3. 在宅自己導尿指導管理料
    在宅自己導尿指導管理料算定時に加算する特殊カテーテルが細かく分類されました。またカテーテルは3ヶ月分をまとめて算定可ですが、疑義解釈にあるとおり同一種類のみが算定可で、カテーテルの種類、算定月等の記載が必要です。従来通り消毒薬、潤滑剤は管理料に含まれ、算定同月内で使用された留置バルーンや手技料、薬液は算定不可です。
  4. 在宅寝たきり患者処置指導管理料
    医師が処置として行う膀胱洗浄、カテーテル、薬剤の費用はこれに含まれ、別算定はできません。ただし、患者や家族が処置を行った場合は特定保険医療材料として(尿道カテーテルと膀胱瘻用カテーテル)請求は可能です(材料の名称、個数、支給日の記載が必要)。

3 検査

  1. 検体検査
    1. 検尿は大多数の泌尿器科疾患には必須の検査ですが、尿沈渣(鏡検法またはフローサイトメトリー法)には適応疾患が有ります(例えば陰嚢水腫病名のみでは尿沈渣は算定できないと思います)。染色加算は炎症性や腫瘍性疾患で加算できます。
    2. 外来迅速検体検査加算
      当日実施された全ての加算対象検査の結果を文書で患者へ提供した場合に、5項目を限度として算定できます。例えば尿沈渣の結果を説明したとしても、同日施行した血液検査結果が当日に出なければ算定できません。
    3. 尿沈渣と別の検体で排泄物、滲出物又は分泌物の細菌顕微鏡検査(S-M)を同一日に併算定する場合は、当該検査に用いた検体の種類を記載してください。同一疾患による場合は別検体でも併算定できません。
    4. 嫌気性培養加算
      検体が尿の場合、適応ではありません。
    5. 細菌薬剤感受性検査
      「尿路感染症」(急性前立腺炎等の感染部位の診断名が必要)、「感染症疑い」(疑いでは不可)や、結果として菌が検出できなかった場合は算定できません。患者再来無く実日数1日で算定する場合は、摘要欄に検出された菌種の記載が必要です。あるいは翌月に実日数0日で算定することになります。
    6. 薬剤耐性菌検出は、β-ラクタマーゼ産生菌等の耐性菌を検出した際に加算できます。摘要欄に検出菌の記載か「ESBL産生菌感染症」等の病名が必要です。
    7. 尿細胞診(細胞診、穿刺吸引細胞診、体腔洗浄等)
      「尿路上皮癌疑い」等の悪性(疑い)病名が必要です。同一あるいは近接した部位より複数採取した場合でも1回の算定になります。陰嚢水腫穿刺液の細胞診や腎癌、前立腺癌疑いの尿細胞診は算定できません。
    8. クラミジア・トラコマチス抗原定性、同核酸検出検査
      複数の部位(口腔や尿など)から検査しても主たるもののみ1つの算定となります。「クラミジア感染症疑い」等の病名も付けてください。同検査は治癒確認の為2回目まで検査できますが、「クラミジア感染症」の確定病名が必要です。
    9. 淋菌核酸検出あるいは淋菌及びクラミジア・卜ラコマチス同時核酸検出と細菌培養同定検査の併施の場合は主たるもののみの算定となります。
    10. 梅毒の「疑い」はRPR、TPHA等の定性検査で算定し、確定時点で定量に変更します。定性と定量の同日算定はできません。
    11. 前立腺特異抗原(PSA)は「前立腺癌(疑い)」病名が必要です(「PSA高値」のみでは不可)。検査結果が4.0ng/ml以上であって癌の確定診断がつかない場合、3月に1回、3回を上限として算定できます。摘要欄には実施日と検査値を記載し、3回目の結果が出た時点で転帰を必ず記載してください。デュタステリド等内服により基準値以下でも癌を疑いPSAを測定する場合は、その旨詳記してください。
  2. 生体検査
    1. 残尿測定は月2回まで可、尿流測定は月1回程度、超音波検査も頻回に行う場合は詳記が必要と思います。特に傾向診療が見られれば、査定の対象になる事があります。
    2. 膀胱尿道ファイバースコピー・膀胱尿道鏡検査での狹帯域光強調加算は膀胱癌で上皮内癌と診断された患者に対し、治療方針の決定を目的にした場合に限り算定できます(上皮内癌の診断名も必要)。
    3. 超音波検査の断層撮影法(心臓超音波検査を除く)を算定する場合、検査領域(腎・泌尿器領域等)を摘要欄に記載しなければなりません。複数部位を行っても1回のみの算定とし、結果を診療録に添付してください。在宅患者訪問診療料加算時は「訪問診療時に(超音波検査を)行った場合」に算定できます。
    4. 初診時、他院で撮影した内視鏡写真について診断を行った場合はCT等と同様、他院撮影内視鏡写真診断で加算できます。
    5. 磁気共鳴画像 - 経直腸的超音波画像融合画像ガイド下前立腺生検が保険適応になりました。

4 画像診断

  1. 透視は施行しても、泌尿器科領域では適応が無く、算定できません。
  2. 全身MRI撮影加算は前立腺癌骨転移検出目的に施行した場合に加算でき、「前立腺癌」の確定病名と「骨転移(疑い)」病名が必要です。

5 投薬、注射

  1. 検査後や術後の予防的抗生剤の投与は症例や種類にもよりますが、概ね3〜5日を限度とします。当該炎症病名があれば7日前後可です。
  2. 30日を超える長期の投薬では医師による病状の安定、服薬管理の徹底などの確認が必要であり、特に副作用の予見される薬剤(抗癌剤、新規ホルモン剤等)の30日超え処方は注意が必要です。
  3. 前立腺癌に対する新規ホルモン剤は去勢抵抗性前立腺癌(エンザルタミド、アビラテロン)、遠隔転移のない去勢抵抗性前立腺癌(アーリーダ、ニュベクオ)、ハイリスクあるいは転移のある前立腺癌(エンザルタミド、アビラテロン、アパルタミド)等、適応病名が複雑なので注意が必要です。
  4. 前立腺癌疑い(PSA検査)での男性ホルモン(エナルモン等)注射は算定できません。男子性腺機能不全等で注射する場合は、前立腺癌疑いの転帰を確定後にしてください。
  5. 薬剤の保険適用外使用可例として、「尿管結石」に対するロキソニンやボルタレン(消炎鎮痛剤)は腰痛等の追加病名は不要、「腎癌」に対するテガフール、「術中の尿路損傷部や尿管口の確認」にインジゴカルミン注などが認められています。社会保険診療報酬支払基金のホームページで確認してください。
  6. キシロカインゼリーの尿道麻酔への使用量は、添付文書に有るように男性200~300mg(10~15ml)、女性60~100mg(3~5ml)を適当量とします。前立腺液圧出法や浣腸での使用は適応不可ですが摘便では可です。
  7. ED治療薬(PDE阻害薬)の保険適用は、勃起不全による男性不妊の治療目的です。不妊治療管理を受け、タイミング法に用いた場合のみ適応になります。
  8. 間質性膀胱炎治療におけるジメチルスルホキシド膀胱内注入療法は、「ハンナ型」間質性膀胱炎の病名が必要です。

6 処置、手術

  1. 保険診療で算定できる医療機器は、24時間以上(一晩)へ設置した特定保険医療材料が原則です。したがって、尿路カテーテルを留置同日に抜去した場合は算定できません。一般的なウロバックはなので、保険診療では算定不可です(代わりに患者が身体障害者資格を取得したうえで、地方公共団体より装具実費の公費負担手続きをとる方法等もあります)。
  2. 間歇的導尿は、脊椎損傷の急性期や骨盤内手術後等の一時的な尿閉時にのみ適応です。女性の導尿(尿道拡張を要するもの)は尿閉以外に尿道狭窄等の追加病名が必要です。
  3. 陰茎の尖圭コンジローマに対する冷凍凝固法や焼灼法はその数にかかわらず3箇所以下で算定となります。切除術の場合は手術なので、麻酔薬剤の算定が必要です。
  4. 腎瘻または膀胱瘻の交換は尿路ストーマカテーテル交換法で請求可(両腎でも1回で算定)ですが、カテーテルの位置について画像診断等を用いて確認を行った場合に算定できます。「画像診断」とあるため、専門医が行う洗浄をもって適正な位置にあることを確認できれば、その旨摘要欄に記載してください。同じ腎盂バルーン型でも腎瘻用と膀胱瘻用で特定医療保険材料費が異なるので注意が必要です。
  5. 腎盂洗浄は片側ごとに算定できますが、同一日の留置カテーテル設置(交換)と洗浄を併施の場合、一方のみしか算定できません(膀胱洗浄も同様)。
  6. バルーンに注入する蒸留水等は算定できません。洗浄用に使用する際はその旨記載(洗浄に使用等)したほうが良いかもしれません。
  7. 腎瘻(左、右、両側)あるいは膀胱瘻の病名または摘要欄に記載が無いと、腎盂バルーンは査定になります。経尿道的留置時の腎盂バルーンの使用は原則不可ですが、特別な理由(例えば尿道狭窄が有り、ガイド可に挿入等)があれば摘要欄にその旨記載してください。
  8. 過活動膀胱と神経因性膀胱に対するボツリヌス毒素製剤による治療が承認されました。12週以上の既存治療で軽快無ければ適応とあり、またそれぞれ製剤の使用量が異なりますのでご注意ください。4ヶ月に1回請求可能ですが、再治療が必要な場合は前回実施年月を摘要欄に記載してください。
  9. 膀胱内凝血除去術は膀胱タンポナーデ処置に対する手術ですので、一般的には入院の上、麻酔下に行われるものです。
  10. 過活動膀胱治療薬の抗コリン剤やβ3受容体アゴニストの処方時は、「過活動膀胱」の病名が必要です。例えば神経因性膀胱、頻尿、尿失禁などの病名のみでは査定になります。

V 令和4年度診療報酬改定における留意事項

  • 複数手術に関わる費用の特例(主たる手術の所定点数と、従たる手術の所定点数の100分の50に相当する点数を合算)が追加されました(開業医でも施行されうるもののみ記載しています)。
    経尿道的膀胱結石(異物)摘出術+経尿道的前立腺手術・経尿道的レーザー前立腺切除・蒸散術(ホルミウムレーザー又は倍周波数レーザーを用いるもの)・経尿道的前立腺核出術
  • ハンナ型間質性膀胱炎手術(水圧拡張+経尿道的切除焼灼術)と経尿道的前立腺吊り上げ術が新設されました。
  • 再生医療において、精巣内精子採取術が新設されました。

VI その他

<おわりに>

以上、泌尿器科領域の各論を簡単に記しましたが、これ以外にも保険診療上注意すべき事項は多々あります。保険診療・請求にあたっては、「医療保険の手引き」(東京都医師会)、「医科点数表の解釈」(社会保険研究所)、「保険診療の手引き」(日本臨床泌尿器科医会)等を有効に活用して下さい。

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