新規開業医のための保険診療の要点

新規開業医のための保険診療の要点(各論)

[1-3] 眼科

<はじめに>
保険診療は、保険者と医療機関との契約による契約医療であり、保険診療のルールに従って診療費を請求する必要があります。保険医は、「療養担当規則」を守り、医学的に適切で標準的な診療を行うこととされています。
眼科医療機関を新規開業され、保険医となられた先生は、「療養担当規則」「点数表の留意事項」「薬剤の適応病名」等を参考に適切な保険診療および保険請求をして頂きたいと思います。

I 各種法令における留意事項

1 療養担当規則

近年、眼科の医療機器は進歩し、診断や治療に広く使われています。しかしながら、新しい検査法や治療法が、必ずしも保険診療で認められているわけではありません。
保険診療で禁止されているものに、特殊療法・研究的診療があります。眼科では、レーシック手術、オルソケラトロジー、低濃度アトロピン点眼による近視治療等は保険診療が認めれていませんので、それらに関わる検査や投薬等すべてが自費診療となりますので注意してください。また、点数表に掲載されていない手術や処置は実施しても保険請求はできません。
検査、投薬、注射、手術、処置等は、診断・治療を行う上で必要性がある範囲で実施し、濃厚(過剰)診療とならないように心がけて頂きたいと思います。点数表の各項目に算定要件、算定回数が記載されており、確認の上、請求してください。保険医は、保険請求の責任者ですから、提出前のレセプト確認を必ずしてください。

2 医師法・医療法

非常勤医師が常態勤務している場合、その非常勤医師は保険医としての勤務を厚生局に届け出る必要があります。
眼科学的検査は、視能訓練士、看護師、准看護師、臨床検査技師等の有資格者においても認められています。
コンタクトレンズ販売店との業務委託契約を結んでいるいわゆる「コンタクト診療所」の管理者が診療にほとんど関わらず、無資格者が検眼やコンタクトレンズの装用指導等の医療行為を行うことは違法です。
医療広告については「医療広告ガイドライン」を参考にして下さい。医療機関のウェブサイトについては、虚偽・誇大等の不適切な表示は禁止されていますので、特に内眼手術を行っている医療機関は注意をして下さい。

II 診療録(カルテ)への記載の留意事項

  1. 診療報酬点数の項目で、算定要件を診療録に記載することが定められているものがあります。レセプト審査の上で疑義が生じた場合にカルテのコピーの提出が求められることがありますし、また厚生局の指導においてカルテ確認がされる場合がありますので、記載漏れの無いようにしましょう。
    1. 難病外来管理指導料(対象疾患は網膜色素変性等)を算定する場合は、治療計画と診療内容の要点をカルテに記載するとあります。
    2. コンタクトレンズの装用を目的に受診した患者のうち、算定要件を診療録への記載した場合に限り眼科学的検査の算定が認められる疾患があります。
      緑内障又は高眼圧症の患者の場合の算定要件は治療計画の作成、アプラネーショントノメーターによる精密眼圧測定、精密眼底検査による視神経乳頭所見の記載が必要です。
      網膜硝子体疾患もしくは視神経疾患の場合の算定要件は治療計画の作成、散瞳剤使用による汎網膜硝子体検査又は精密眼底検査と細隙灯顕微鏡検査(前眼部・後眼部)眼底カメラ撮影、網膜硝子体又は視神経乳頭所見の記載が必要です。
    3. 視能訓練(斜視視能訓練、弱視視能訓練)を算定する場合は、個々の患者の症状に応じた実施計画を作成し記載するとあります。
    4. 外来管理加算を算定する場合は、患者本人が受診した場合が対象になり、その内容を記載してください。
  2. 眼科では、医療機器による検査結果をもとに診断がされますので、眼科検査点数には判断料も含まれています。検査結果をカルテに添付するとともに、診断の根拠となった結果をカルテにも記載してください。
    自動視野計による検査の場合、カルテには記録紙を添付するとともに、MD値や判定結果、検査結果の考察および治療方針等を記載すると良いでしょう。

III 傷病名付与の留意事項

  1. 原則として、右眼、左眼、両眼を区別して記載してください。
  2. 必要に応じて、慢性、急性の区別を記載してください。
  3. 疑い病名は、診断がつきましたら、疑い病名は中止とし、確定病名を記載してください。
  4. 傷病名の診療開始年月日と終了年月日を記載し、転帰は治癒・中止・転医も忘れずに記載してください。終了年月日が記載されていないと、新たな傷病名を記載しても診療継続中とみなされ、初診料を算定することができない場合があります。
  5. 初診時に疑い病名を含め5傷病名以上が同時に記載されているレセプトが多数ある場合や、調節力が減退する中高年患者の初診日に老視病名と調節検査が傾向的に多数のレセプトに算定されていると、傾向的とみなされ査定対象となることがありますので、主訴に応じた必要な検査をしてください。
    乳幼児の結膜炎が主訴の初診時に、硝子体混濁や網膜変性(疑)等の傷病名を併記し精密眼底検査を請求することなどは慎んで頂きたいと思います。

IV 診療報酬上の留意事項

<基本診療料>

1 初・再診料

  1. 初診料
    1. 初診料は、患者が初めて医療機関を受診し、医学的に初診の診療行為があった場合に算定可能です。
    2. 「A傷病について診療継続中の患者が、別日にB傷病について初診があった」ような場合、当該初診については、初診料は算定できませんが、再診料は算定できます。(総論5基本診療料を参照)また、終了の転帰がない場合は、初診料算定が困難です。
    3. 患者が任意に診療を中止し、1月以上経過した後、再び同一の保険医療機関を受診した場合、その診療が同一病名又は同一症状によるものであっても、初診として取り扱うとあります。この場合の1月の期間の計算は、例えば、2月10日~3月9日、9月15日~10月14日と計算します。急性結膜炎等の急性疾患が該当します。
      しかしながら、慢性疾患等明かに同一の疾病又は負傷と推定される時の診療は、初診として取り扱わないとなっています。屈折異常、緑内障、黄斑変性等の慢性疾患が該当します。
    4. 診療継続中の患者が他の医療機関に転医し、数ヶ月を経て再び以前の医療機関に診療を求めた場合においても、治癒が推定される時に限り、初診料を算定することができます。白内障の患者が他院で両眼白内障手術を受け、再受診した場合等が該当します。
    5. 過去にコンタクトレンズ検査料を算定した患者は、屈折異常病名が継続するという厚労省見解から、過去にコンタクトレンズ検査料を算定した医療機関では初診料は算定できないとされています。但し、眼内レンズ挿入眼および角膜移植後の患者は、初診料算定は可能です。その時は手術日等の詳記を記載する必要があります。
    6. 往診は患家から依頼があった場合に算定できます。交通費は実費徴収できます。
    7. 複数科がある医療機関で、同一日に新たに別の科を受診した場合は、二つめの診療科に限り、初診料の二分の一を算定できますが、糖尿病の場合を例に挙げると、二つ目の眼科で糖尿病網膜症では算定できません。
    8. 初診または再診と同一日の再診は、新たな疾患が発症した場合は再診料を算定できるが、以下の場合は算定できません。
      • 手術を受けた日に、疼痛やガーゼ交換のために再度受診した場合
      • 往診後に薬剤処方を受けに来た場合
      • 受診後に再受診し、検査や手術を受けた場合
      • 患者の保護者等が結果を聞きに来た場合
    9. 入院中の患者が専門的な眼科診療を受けたい場合、入院中の医療機関に眼科がない場合に限り、他の眼科医療機関を受診することができ、その場合には初診料又は再診料を算定できることができる

<特掲診療料>

1 医学管理料

  1. 特定疾患療養管理料
    特定疾患療養管理料は主病を治療している医療機関一つのみが算定できるとありますので、眼科医療機関では算定は困難です。
  2. 難病外来管理指導料
    難病外来管理指導料を算定する場合は、指導内容および治療計画をカルテに記載してください。眼科において対象となる疾患は下記の疾患です。
    1. 網膜色素変性
    2. スチーブンス・ジョンソン症候群
    3. シェーグレン症候群
    4. 無虹彩症
    5. 網脈絡膜委縮症
    6. 黄斑ジストロフィー
    7. レーベル遺伝性視神経症
    8. 膠様滴状角膜ジストロフィー
  3. 診療情報提供料(I)
    診療情報提供料(I)は手術や精密検査等の診療依頼をするときに算定できますが、単なる受診報告や経過報告では算定できません。
    糖尿病の患者の眼底検査等の依頼を受けた場合、その結果を返信するだけでは算定できませんが、眼科の所見記載と共に今後の内科診療の必要性を記載する内容であれば算定することができます。
    手術依頼を受けた医療機関が、手術又は手術後の経過報告の返事では算定できないが、今後の診療依頼が記載された文書であれば算定できます。

2 検査

  1. 光干渉断層血管撮影
    光干渉断層血管撮影(OCTA)の適応病名は網脈絡膜疾患および緑内障です。緑内障では診療開始日での算定と経過観察としては3月から6月に1回が妥当と思われます。
  2. 屈折検査、矯正視力検査
    1. 6歳未満の「屈折異常」と「弱視の疑い」又は「不同視の疑い」の場合
      ア 初診日は屈折検査と矯正視力検査の同時算定可能
      イ 眼鏡処方箋の交付日は屈折検査と矯正視力検査の同時算定可能
      ウ 3月に1回については、屈折検査と矯正視力検査の同時算定可能
      この時に調節麻痺剤使用した場合は、屈折検査×2+矯正視力検査が算定できます。
    2. 6歳未満の「屈折異常」と「弱視」又は「不同視」の場合
      ア 初診日は屈折検査と矯正視力検査の同時算定可能
      イ 眼鏡処方箋の交付日は屈折検査と矯正視力検査の同時算定可能
    3. 6歳未満の小児に対する屈折検査に3ヶ月に1回小児矯正視力検査加算が算定可能
      この時に調節麻痺剤を使用した場合は、(屈折検査+小児矯正視力検査加算)×2が算定できます。
    4. 「眼内レンズ挿入眼」の病名のみで、屈折検査と矯正視力検査を併施できるのは、水晶体再建術後に初めて受診した場合に算定できます。この場合、手術日の記載が必要です。
  3. 調節検査
    調節検査は、近点計による調節力を調べる検査です。
    1. 負荷調節検査は、連続調節検査で調節力の変化を測定する場合に算定します。その測定方法は、アコモドポリレコーダーや石原式近点計による連続近点測定によるものです。
    2. 小児の調節緊張での算定は一般的ではありません。
    3. 調節緊張の診断前後に、調節麻痺剤を使用して屈折検査をした場合は、屈折検査(調節麻痺剤使用前後)が算定できます。
    4. 傷病名「老視」では、初診時と近用眼鏡処方時のみ算定できます。
    5. 白内障術後の近用眼鏡処方箋交付する場合は、調節検査は認められていますが、傷病名「老視」が必要となります。
  4. コントラスト感度検査
    コントラスト感度検査は、水晶体混濁があるにも関わらず矯正視力が良好な白内障患者で、水晶体再建術の手術適応の判断に必要な場合に検査するもので、手術の前後各1回算定可能です。レセプトには、術前視力の記載をしておくとよいです。一般的には、0.7以上が適用とされています。
  5. 角膜形状解析検査
    以下の点に留意してください。
    1. 初期円錐角膜等の角膜変形患者は算定できますが、コンタクトレンズ処方をする場合は算定できません。
    2. 角膜移植後の患者は、2ヶ月に1回を限度に算定できます。
    3. 白内障患者で高度角膜乱視(2ジオプトリ―以上)は手術の前後各1回算定可です。レセプトには角膜乱視の度数を記載しておくと良いです。
  6. 前眼部三次元画像解析
    1. 患者1人につき月に1回に限り算定できますが、角膜形状解析検査および前房隅角検査と合わせて算定できません。
    2. 適応となる患者は、急性緑内障発作を疑う狭隅角眼、角膜移植後の患者、外傷後毛様体剥離です。

3 投薬

  1. 医師法により、診察をせずに、投薬、処方箋の交付はできません。患者が来院できない場合は、その理由と病状をカルテに記載するようにしてください。
  2. 処方薬は適応病名を確認して処方してください。疑い病名では処方はできません。アレルギー性結膜炎の病名だけでは、抗菌剤点眼液の投与は認められておりません。
  3. 医学的に効能・効果が認められていても保険診療上、適応とされていない薬剤があります。例えば、ヒアレインミニ点眼液は、シェーグレン症候群およびスチーブンスジョンソン症候群の患者だけに処方が認められています。
  4. 眼軟膏を処方する場合は、使用部位が眼科領域であることがわかる病名または詳記が必要です。例えば、「帯状疱疹」ではなく「眼部帯状疱疹」と記載してください。
  5. 内眼手術の周術期無菌化療法として、抗菌剤点眼液処方は認められています。手術日がわかる記載が必要です。この時に術後の抗炎症剤の処方は認められません。
  6. 1回の投薬量は、医師が予見できる量とされていますので、1日3回点眼であれば、病状によりますが、初診時では2本位が妥当と思われます。また、1回の処方量を多くし、受診間隔を空けて初診料算定を繰り返すことは保険医として慎むべきです。

4 注射

  1. 抗VEGF薬の注射の適応は、病名とともに病態がわかる記載が必要です。高額薬剤ですので、治療上の必要性を支払い側にも納得させるためにも、確認の上で請求をしてください。また、投与間隔も守ってください。記載が必要な適応病名を示します。
    1. 加齢黄斑変性に伴う中心窩下脈絡膜新生血管
    2. 病的近視における脈絡膜新生血管
    3. 網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫
    4. 糖尿病黄斑浮腫
    5. 未熟児網膜症
  2. ボトックス注射の場合、過剰投与と思われる請求があります。残薬廃棄した場合には、その旨の注記が必要です。

5 処置

手術に伴う処置は請求できません。ただし、使用した薬剤は算定できます。
処置に使用する薬剤料は片眼につき点眼液0.2ml以下、眼軟膏0.2mg以下とされています。

6 手術

手術は、傷病名に対して適正か否かが審査されますので、レセプトの傷病名と合致していることを確認してください。必要があれば手術の詳記または手術記録を添付すると良いでしょう。

V 令和4年度診療報酬改定における、新規・改定項目

「主な改定項目」

令和4年度改定において、眼科的には大きな変化はありませんでしたが、あらたな保険収載として、緑内障および斜視の手術に新しい医療技術が評価された手術法が新設項目として追加されました。また、ロービジョン検査判断料の施設基準の緩和がありました。
なお、今回の改定で、オンライン診療が初診から認められたことやリフィル処方箋が導入されましたが、いずれも眼科医療にはそぐわないと思われます。適切な安全な眼科医療を行っていくためには、今後の動向を見極めてから判断されると良いと考えられます。

VI その他

<おわりに>

レセプト審査で、返戻や査定があった場合には、点数表の留意事項の確認、薬剤の添付文書で適用病名を確認してください。確認しても納得がいかない場合は、再審査請求をされると良いと思います。ただし、再審査請求では、病名追加は認められておりませんので、ご注意ください。本稿が皆様の参考になれば幸いです。

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