新規開業医のための保険診療の要点

新規開業医のための保険診療の要点(各論)

[1-4] 整形外科

<はじめに>
保険診療における請求にあたっては、診療報酬点数表に基づいて行うことになりますが、この場合該当する点数項目の確認だけではなく各部・節・款の最初にある通則や診療報酬の算定方法(留意事項)、診療報酬請求書記載要領なども十分確認しないと誤った請求をしてしまうことがあるので注意を要します。さらに算定に当たり施設基準が設けられている項目も多数ありこちらの確認も必要です。審査により査定を受けることもありますが、このような時には先ず何が問題で査定されたかを調べることが重要です。前記の規則を確認しても理由が不明の場合には審査機関に直接確認することもできます。査定を放置せずご自身で査定理由を十分に調べてください。それでも、どうしても納得がいかない場合には、是非再審査請求を行っていただきたいと思います。

I 各種法令における留意事項

保険診療は健康保険法や療養担当規則等に基づいた保険者と保険医との契約診療であるということを先ず理解する必要があります。つまり、法令等を遵守したうえで診療報酬点数表に決められた請求を行うことが要求されていますので、是非もう一度療養担当規則の確認をお願いします。
整形外科では療養費に係る書類等についても注意が必要です。治療に必要とした義肢装具等は、医師の関与で製作所が作成・提供(一部の既製品も含む)した場合は、患者は基準に従った代金を実費で製作所に支払い、保険組合には医師の証明書(診断書)を添えて請求することで療養費として還付されますが、この場合の書類は保険給付に係るものになるので無償で発行しなければいけません。施術の同意に関しては、あんま・鍼・灸・マッサージ(柔道整復以外)については、療養費同意書交付料として診療報酬で請求できますが、同意においては対面診療が義務付けられていることと、それぞれの施術においての適応が設定されていますのでご注意下さい。

II 診療録(カルテ)への記載の留意事項

医師にとってカルテは、患者の状況や治療経過の情報として重要なものですが、一方診療報酬の請求やトラブル時においては、行った行為の重要な証拠となるものです。つまり第三者が診療の経過を確認できる内容の記載が必要であり、記載のないものは行為そのものが否定されてしまうこともあります。物理治療やリハビリテーション等の治療時も対面での再診は義務付けられていますので、再診時の状況記載は必要で「n.p.」等の記載は避けるべきです。
医学管理料の多くは診療録への記載が求められていること、各種検査、画像診断では必要性とともにその結果及び患者への説明内容等の記載も必要です。

III 傷病名付与の留意事項

傷病名は診断の都度診断医がつけることが原則で、部位によっては左右の区別や急性慢性の記載も必要です。診断根拠のない、いわゆる保険請求のための「レセプト病名」は認められません。また、急性病名や疑い病名が長期に続くことは好ましくなく、転機については適宜判断し整理をするようにして下さい。

IV 診療報酬上の留意事項

<基本診療料>

1 初・再診料

  1. 一度診療が終了していても、検査の結果のみを聞きに来た場合など、前の診療と一連の行為と考えられる場合、診察料は算定できません(電話再診を含む)。
  2. 再診料における外来管理加算は、慢性疼痛疾患管理料、処置、手術等がなくても計画的な医学管理を行っていない場合は算定できません。また、算定の場合には診療録に内容の記載義務があります。

<特掲診療料>

1 医学管理料

  1. 特定疾患療養管理料
    特定疾患が主病であり、これに対し計画的に療養上の管理を行った場合が適応となります。この場合、管理内容を診療録に記載することが要件であることに注意して下さい。基本的に他の管理料も指導内容、治療計画等の診療録への記載が算定要件となっています。
  2. 慢性疼痛疾患管理料
    マッサージ又は器具等による療法を行った場合が適応で、外来管理加算および前記処置等を包括していますが、月毎に算定の選択が可能です。初診後最初に算定した月はそれ以前の包括項目は併算定可能な場合もありますが、レセプトに算定日の記載が必要であることなどに注意が必要です。特定疾患療養管理料等、他の管理料とは同一月に併算定出来ないものがあります。処方料、処方せん料の特定疾患処方管理加算も同一月には算定できません。
  3. 小児運動器疾患指導管理料
    20歳未満の患者に成長に応じた継続的に必要な病態に対して診療を行った場合に、最初の算定から6月間は連月、それ以降は6月に1回算定出来ます。施設基準を満たし届出が必要なこと、指導内容のカルテ記載が必要です。
  4. 二次性骨折予防継続管理料
    骨粗鬆症を有する大腿骨近位部骨折の術後患者が対象で、病診連携・リエゾンサービスにより再骨折予防を目的とし、令和4年に新設されました。診療所では同管理料3が対象ですが、条件として管理料1が算定された患者で初回算定後1年間に限り月1回算定可能の縛りがあります。施設基準を満たし届出が必要です。
  5. 下肢創傷処置管理料
    循環障害等による足部潰瘍患者に対し、下肢創傷処置と併せて専門的な管理を行った場合が対象になります。施設基準を満たし届出が必要です。
  6. 診療情報連携共有料
    保険歯科医の求めにより、文書により情報提供を行った場合に3月に1回算定できます。診療情報提供料(I)は保険医が診療の結果、別の保険医への受診が必要と判断し、情報提供を行った場合等に算定出来るもので条件が異なることに注意が必要です。
  7. 療養費同意書交付料
    「はり・きゅう」と「マッサージ」の同意書が対象となります。同意書は必ず診察の上適応を判断し交付する必要があることと、「はり・きゅう」では対象疾患が限られ、同一疾患での医療の併診は出来ないことに注意が必要です。

2 在宅医療

  1. 在宅患者訪問診療料
    通院による療養が困難な患者に対し、往診料(不定期で、求めに応じ患家に赴き診療を行った場合)とは異なり、定期的に訪問診療を行った場合が適応になります。在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料又は在宅がん医療総合診療料の算定要件を持つ主治医から紹介され、併診で訪問診療を行った場合は原則6月に限り在宅患者訪問診療料2を算定します。この場合医学的に必要と判断される時には6月を超えても算定出来ますが、レセプト摘要欄に継続的な訪問診療の必要性を記載することになっています。
  2. 在宅自己注射指導管理料
    当該月に実施する注射の(予定)総回数で点数が設定されていて、月の途中で開始の場合は連日の注射でも27回以下となり得ることに注意が必要です。バイオ後続品導入初期加算は、初回の処方日の属する月から起算して3月に限り月1回算定でき、導入初期加算とともに対面診療を行った場合のみ算定できます。また自己注射薬のみを院外処方の場合は、処方箋料は算定出来ませんので注意が必要です。
  3. 在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料
    別項「リハビリテーション」にて説明

3 検査

  1. 骨粗鬆症関係検査
    1. NTX、DPD(尿)は、骨粗鬆症の薬剤治療方針の選択時に1回、その後6月以内の薬剤効果判定時に1回、また薬剤変更時は変更後6月以内に1回に限り算定できます。TRACP-5bは代謝性骨疾患や骨折の併発がない肺癌、乳癌、前立腺癌の骨転移の診断補助として実施した場合に1回算定でき、その後は6月以内の薬剤効果判定時に1回に限り、また治療方針変更時は変更後は6月以内に1回に限り算定できます。ucOCはVitK2剤の治療前、β-CTXも骨粗鬆症の薬剤治療方針の選択時に1回と6月以内の効果判定時に1回に限り算定できます。更に、それぞれ併算定できないものがありますので注意が必要です。
    2. 25-ヒドロキシビタミンDは、原発性骨粗鬆症の場合は骨粗鬆症の薬剤治療方針の選択時に1回に限り算定、ビタミンD欠乏性くる病若しくはビタミンD欠乏性骨軟化症の場合は、診断時に1回、その後は3月に1回を限度として算定可能です。1,25-ジヒドロキシビタミンD3は、慢性腎不全、特発性副甲状腺機能低下症、偽性副甲状腺機能低下症、ビタミンD依存症I型または低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病の診断治療時のみが検査適応となり、骨粗鬆症は適応外になります。
    3. オステオカルシンは、続発性副甲状腺機能亢進症の手術適応の決定及び原発性又は続発性の副甲状腺機能亢進症による副甲状腺腺腫過形成手術後の治療効果判定に際して実施した場合のみ算定できます。
  2. 関節リウマチ関係検査
    1. インフリキシマブ定性の算定は、関節リウマチの患者に対し増量等の判断のために、イムノクロマト法により測定した場合が適応で3回に限ります。
    2. RF定量、MMP-3、抗ガラクトース欠損IgG抗体、C1q結合免疫複合体、モノクローナルRF結合免疫複合体及びIgG型リウマトイド因子のうち3項目以上を実施の場合は、2つに限り算定できます。
    3. 抗ガラクトース欠損IgG抗体とRF定量を実施の時は主たるもののみの算定になります。
    4. 抗シトルリン化ペプチド抗体、MMP-3、抗ガラクトース欠損IgG抗体、C1q結合免疫複合体、モノクローナルRF結合免疫複合体、IgG型リウマトイド因子及びC3d結合免疫複合体のうち2項目以上実施の場合は主たるもののみ算定になります。
    5. 抗シトルリン化ペプチド抗体検査の適応は以下のいずれかの場合に限られます。
      ア 関節リウマチと確定診断できない場合に原則1回請求ができますが、検査結果が陰性の場合は3月に1回算定でき、この場合は検査値をレセプトの摘要欄に記載する必要があります。
      イ 治療薬の選択のために行う場合も1回のみの算定になりますが、治療経過により再度の薬剤選択が必要の場合は「ア」と同様3月に1回算定できます。この場合もレセプトの摘要欄に必要性の記載が条件になります。
  3. 超音波検査
    検査で得られた画像を診療録に添付し、かつ診療録には主な所見又は検査技師の報告文書について医師が確認し、診療録に記載した場合に算定できます。同一月の2回目以降の検査は100分の90の点数で算定することや、本検査の算定日は外来管理加算が算定できないことに注意してください。
  4. 骨塩定量検査
    検査の種類にかかわらず、4月に1回に限り算定ができます。
    本検査も算定日には外来管理加算が算定できないことに注意してください。

4 画像診断

  1. 時間外緊急院内画像診断加算
    診療時間以外で、直ちに何らかの処置・手術等が必要な状態のため、緊急に当該保険医療機関において撮影及び診断を実施した場合に限り算定できますが、この場合夜間・早朝等加算との併算定はできませんので注意が必要です。
  2. 電子画像管理加算
    デジタル撮影した画像を電子媒体に保存して管理した場合に算定できます。フィルムへのプリントアウトを行った場合も算定できますが、この場合にはフィルム費用は算定できません。
  3. 透視診断
    診断目的のために行った場合にのみ算定できます。撮影の時期決定や他の検査、注射、処置及び手術の補助手段として行う場合は算定できません。
  4. 写真診断
    他医撮影のフィルム等のエックス線診断料は撮影部位及び撮影方法別に算定できます。
  5. コンピューター断層診断
    他医撮影のCT、MRI等コンピューター断層撮影像(ポジトロン断層・CT、MRI断層複合撮影は含まない)について診断を行った場合には、初診料を算定した日に限り算定でき、それ以外では算定できません。

5 投薬

  1. 外来患者に対する投薬(通則)
    1処方63枚を超えた湿布薬の投薬の場合には調剤料、処方料、超過分の薬剤料、処方箋料及び調剤技術基本料は算定できません。例外として、やむを得ず医師が必要と判断した理由を処方箋及びレセプトに記載した場合は認められることがあります。
    プレガバリン(リリカ)、ミロガバリン(タリージェ)の効能効果は添付文書上は「神経障害性疼痛」と記されていますが、保険請求に当たってはこの傷病名のみでは査定される可能性があります。神経障害性疼痛を引き起こした原疾病の傷病名を記載することを忘れないようにしてください。

6 処置

  1. 通則
    1. 対称器官の処置で「片側」、「1肢につき」等の規定がないものは、両側に行っても所定点数のみの算定になります。(例 鶏眼胼胝処置など)
    2. 時間外、休日、深夜に行われた150点以上の緊急処置はそれぞれ時間外、休日、深夜加算の対象となります。
  2. 創傷処置
    同一部位又は同一疾病やこれに起因する病変に対して同時に行われた皮膚科軟膏処置、湿布処置は、合算した広さで何れかの処置点数で算定します。
  3. 下肢創傷処置
    適応は足趾の血行障害による潰瘍で、部位が限局されています。浅い潰瘍とは深さが腱、筋、骨又は関節のいずれにも至らないものをいい、創傷処置、爪甲除去(麻酔を要しないもの)穿刺排膿後薬液注入は併算定できないこと、軟膏の塗布又は湿布の貼付のみは適応外とされています。
  4. 熱傷処置
    算定は初回処置から起算して2月以内に限られます。それ以降の処置は創傷処置で算定します。
    第一度熱傷の場合100㎠未満は基本診療料に含まれ薬剤料のみの算定になります。
  5. 血腫、膿腫穿刺
    新生児頭血腫大程度のものが適応になり、それより小範囲のものや試験穿刺については算定できません。
  6. 湿布処置
    半肢の大部又は頭部、頸部及び顔面の大部以上にわたる範囲に行われた場合は算定できますが、それ以下の場合は薬剤料のみの算定になります。
  7. 治療用装具採寸法
    既製品の装具は原則リストアップされたものが療養費対象となり、これを処方の場合、加工の必要を認め採寸が行われた場合のみが採寸法の適応になります。この場合レセプトの摘要欄に医学的な必要性と加工の内容を記載することが要件になります。
  8. 治療用装具採型法
    フットインプレッションフォーム(足型採取器)で採型を行った場合は、「その他」で算定します。
  9. 皮膚欠損用創傷被覆材
    皮膚欠損創に対し医療材料として2週間(特に必要と認められる場合については3週間)を限度として算定できますが、手術創に対して使用の場合は術後を含め算定できません。

7 手術

  1. 通則
    手術当日に、手術(自己血貯血を除く)に関連して行う処置(ギプスを除く)の費用及び注射の手技料は、術前、術後にかかわらず算定できません。
  2. 創傷処理
    切・刺・割創又は挫創に対して切除、結紮又は縫合(ステープラーによる縫合を含む)を行う場合に算定します。筋肉、臓器に達するものとは、創傷の深さではなく、筋肉、臓器に何らかの処理を行った場合をいいます。創傷が数か所あり、これを個々に縫合する場合は、近接した創傷については範囲を合算し算定します。「露出部」とは、頭部、頸部、上下肢にあっては肘関節及び膝関節以下をいいますが、指は真皮縫合加算の適応外となっています。
  3. 皮膚切開術
    長径は切開を加えた長さではなく、膿瘍等の大きさをいいます。
  4. 腱縫合術
    切創等の創傷によって生じた固有指の伸筋腱の断裂の単なる縫合は、創傷処理2筋肉、臓器に達するもの(長径5㎝以上10cm未満)(小児の場合は小児創傷処理3)で算定します。
  5. 難治性骨折電磁波電気(超音波)治療法、超音波骨折治療法
    治療の実施予定期間、頻度について患者に指導し、当該指導内容をレセプトの摘要欄に記載することや、時期、対象等適応にも注意してください。
  6. 爪甲除去術
    麻酔を要しない程度のものは処置の爪甲除去により算定します。

8 麻酔

神経ブロックは、疾病の治療又は診断を目的として行われる手技で、検査・画像診断・処置・手術の施行のための補助手段として行われる麻酔とは異なることに注意して、請求をお願いします。以下、外来で行われることの多い手技を中心に記載します。

  1. 静脈麻酔
    静脈注射用麻酔剤を用いた意識消失を伴う全身麻酔が適応になり、静脈注射用麻酔剤の使用のないものは算定できません。実施時間が10分未満のものは「1短時間のもの」で算定します。
  2. 上・下肢伝達麻酔
    上肢は腕神経叢、下肢は少なくとも坐骨神経及び大腿神経の麻酔を行った場合に算定できます。それ以下の部位での伝達麻酔は薬剤料のみの算定となることにご注意ください。
  3. 神経ブロック
    同日複数の神経ブロックを行った場合は主たるもののみ算定、また同日神経ブロックと同時に行われたトリガーポイント注射及び神経幹内注射は算定できない、神経ブロックに先立って行われるエックス線透視や造影等に要する費用は神経ブロックの所定点数に含まれ別に算定できないなど注意が必要です。
  4. トリガーポイント注射
    施行回数及び部位にかかわらず1日1回のみの算定です。

V 令和4年度診療報酬改定における、新規・改定項目

「主な改定項目」

前項にも記載していますので再掲となりますが、整形外科関連の令和4年度の改定としては「小児運動器疾患指導管理料」の対象患者の年齢が20歳未満に変更されたこと、二次性骨折予防継続管理料、下肢創傷処置管理料及び下肢創傷処置が新設されたこと、そして外来患者に対する湿布薬の投薬の原則上限量が1処方70枚から63枚までに変更されたことなどが主なものになります。

VI その他

<おわりに>

以上、整形外科外来を中心に査定を受けやすい項目について簡単に抜粋・記載させてもらいましたが、再度、点数表等と供に内容の確認をしていただきたいと思います。
リハビリテーション料については、説明事項が多岐にわたるため、次項のリハビリテーションをご確認ください。

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