新規開業医のための保険診療の要点

新規開業医のための保険診療の要点(総論)

[16] 労働者災害補償保険・自動車損害賠償責任保険

社会保障制度とは「社会保険」「社会福祉」「公的扶助」「保健医療・公衆衛生」で構成さ れており、「社会保険」の中に「医療保険」と「労災保険」があります。
また、自動車事故の保険のうち、強制保険として自動車を使用する際に契約が義務付け られているものが自賠責保険と呼ばれる保険になります。

I 労働者災害補償保険制度(労災保険制度)

労働者災害補償保険制度は、業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害または死亡等に対して、労働者やその遺族に対して必要な保険給付をおこなう制度です。

1 労災患者の取扱い

労災患者の医療機関での取り扱いについては、労災指定医療機関とそれ以外の医療機関とでは対応が異なります。

  1. 労災指定医療機関
    患者は治療費の負担なく、治療や薬剤の支給を受けることができる現物給付となっています。医療機関は治療費の「診療費請求書」、「請求内訳書」を作成し、「療養の給付請求書」とともに、東京労働局または東京労働保険医療協会へ請求書等を送付することになります。(図1参照)
  2. 労災指定医療機関以外の医療機関
    患者は治療費を一旦全額自己負担し、患者自身で管轄の労働基準監督署へ負担した費用を請求し、その費用の支給をうける現金給付となっています。(図2参照)

2 労災指定医療機関の申請

労災指定医療機関になるためには、都道府県労働局長に対して申請を行い、指定を受ける必要がありますが、東京都医師会の会員については、地区医師会へ「労災保険指定医療機関指定申請書」等を提出し、東京都医師会より指定推薦をうける形で東京労働局へ申請がなされ、審査等の手続きが簡易となります。

3 労災診療費の算定基準について

労災診療費は、原則として健康保険の診療報酬点数表にしたがって算定しますが、労災診療の特殊性等を考慮し、一部独自項目の点数や金額が設定されています。また、診療報酬改定時に労災保険の算定基準も改定されます。

業務・通勤災害による保険給付内訳表1
療養(補償)給付 療養する場合に支給される保険給付
休業(補償)給付 療養のため労働することができない場合に支給される保険給付
障害(補償)給付 障害が残った場合に支給される保険給付
遺族(補償)給付 亡くなった場合に支給される保険給付
葬祭料 亡くなった場合に葬祭を行う者に対し、支給される保険給付
労災指定病院等で療養を受けた場合の療養補償給付申請の流れ図1
労災指定病院以外で療養を受けた場合の療養補償給付申請の流れ図2

<注意点>

  1. 医療保険と異なり、患者は労災保険に関する保険証を持っていません。その都度、事業主より必要な様式を発行してもらい医療機関に提出します。
  2. 業務又は通勤災害に該当するかの労災認定に関する判断は、労働基準監督署が行います。労災認定が決定するまでには、監督署による調査を含め、ある程度の期間を要することとなります。事案によっては、その間の治療費について患者と事前に相談し、預かり金を徴収する等の取り決めを行ってください。
  3. 労災指定医療機関では、労災診療費算定基準にしたがい治療費の請求を行います。労働災害の傷病の複雑さや被災労働者の早期社会復帰に対する評価として、多くの独自項目が設定されていますので請求もれ・誤りがないよう請求を行ってください。
    前述のとおり、東京都における労災指定医療機関は、診療費請求書及び請求内訳書を、東京労働局又は東京労働保険医療協会へ提出することと定められています。(請求書等は図3、図4参照)
    (労災保険指定医療機関等事務取扱指針 第9条)
    東京労働保険医療協会からのお知らせ
    東京労働保険医療協会では、レセプトの点検などを含め労災指定医療機関における請求事務全般のサポートを行っております。請求の仕方がわからない、労災患者の対応に不安がある場合などの対応を行い、会員の利便性等を図っています。東京労働保険医療協会への加入をご一考ください。
    連絡先 〒101-0062 千代田区神田駿河台2-5 東京都医師会館4階(403)
    TEL 03-5577-2960 FAX 03-5577-2961 URL https://iryokyokai.jp/
労働者災害補償保険診療費請求書(様式第1・3号)図3
様式第5号(表・裏)業務災害用複数事業要因災害用図4

II 地方公務員災害補償制度

地方公務員災害補償制度は、地方公務員等が公務上の災害(負傷、疾病、障害又は死亡をいう。以下同じ。)又は通勤による災害を受けた場合に、その災害によって生じた損害を補償し、及び必要な福祉事業を行い、もって地方公務員等及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする制度です。

1 地方公務員災害患者の取扱い

受診する医療機関が指定医療機関か否かで手続が異なります。指定医療機関とは、(公社)東京都医師会に加入している医師が管理している医療機関等、又は、地方公務員災害補償基金東京都支部(以下「基金都支部」という。)があらかじめ指定した病院等のことです。

  1. 指定医療機関
    療養に要した費用は、基金都支部と指定医療機関との協定に従い、基金都支部から直接、指定医療機関に支払われます。
    << 請求方法 >>
    患者が「療養費請求書(都支部様式第1号)」(原則1か月につき1枚)を指定医療機関に持参しますので、本請求書を作成し「総括表」と共に(公社)東京都医師会宛に送付します。初診時の請求月だけは「療養費請求書(都支部様式第1号)」に加え「療養の給付請求書(様式第5号)」を提出することになります。
  2. 指定医療機関以外
    基本的に、被災職員が一旦、全額自己負担することになります。公務(通勤)災害認定後に、認定番号、認定傷病名等を主治医等に通知されます。
    << 請求方法 >>
    患者が「療養補償請求書(様式第6号)」(原則1か月につき1枚)を医療機関に持参しますので、本請求書を作成し、患者に渡します。被災職員(患者)は所属する機関を経由して基金都支部に費用を請求し、治療費が患者に直接支払われることになります。

2 地方公務員災害補償の算定基準について

地方公務員災害補償における患者の治療費に係る算定基準については、原則、労災保険の算定基準に準じて請求することになります。
なお、地方公務員災害補償に係る文書料や個室使用料については、別途、定められた金額を請求することになります。

III 自動車損害賠償責任保険制度(自賠責保険制度)

自賠責保険は、自動車事故による被害者を救済するため自動車損害賠償保障法に基づき、すべての自動車に加入することが義務付けられている強制保険です。
この保険では、自動車事故(人身事故)で他人(相手)にケガをさせた場合に治療費・休業損害・慰謝料など、傷害にかかる損害に対し120万円を限度に損害補償がなされるほか、他人を死亡させた場合に3,000万円、後遺障害が残った場合に75万円から4,000万円を限度に損害補償額が定められています。
また、「運転者自身のケガ」や「単独の人身事故」などは、この保険の対象となりません。

1 治療費(自賠責保険診療費算定基準)

交通事故診療における治療費は原則として自由診療です。したがって医療機関ごとに請求金額や請求方法は異なります。このため、国で定めた労災保険に準拠した「自賠責保険診療費算定基準」を、都道府県医師会、日本損害保険協会及び損害保険料率算出機構の三者協議にて合意し定めました。この基準は医療機関で必ず採用するものではありませんが、一般的な基準として多くの医療機関が採用しています。

2 健康保険の使用

自動車事故等による被害者は、基本、法に基づき自賠責保険により保障を受けることとなりますが、何らかの理由により、健康保険による診療を患者自身が希望し、保険者に「第三者行為による傷病届」を提出した場合には、窓口で健康保険証を提示し健康保険で診療を受けることができます。ただし、損害保険会社等、患者以外の第三者の意向で、健康保険の利用を強要されてはなりません。

<注意点>

  1. 交通事故診療では、自賠責保険のほか、任意自動車保険や前述の労災保険がかかわる事案が少なくありません。患者からはできるだけ早い段階で、事故の状況や関与している保険会社、警察への届け出の有無など、診察の際に確認をするよう心掛けてください。
  2. 交通事故診療における医療等の損害に対する補償財源として、強制保険である自賠責保険や任意の自動車保険があります。当然、自動車事故については、自賠責保険・任意自動車保険の使用を第1の選択肢としてください。保険会社の中には、健康保険の使用を患者のメリットとして説明することがありますが、健康保険の使用は、被害者の過失割合が高く、治療費が高額になるケースや、自損事故や無保険車による事故など限られたケースに限定するべきです。医療機関としての交通事故診療における方針を定め、院内掲示などで患者にわかりやすく示すことをお勧めします。
  3. 交通事故診療においては、被害者である患者のほか、相手方の保険会社担当者や弁護士対応など、医療機関として対応しなければいけない事務が医療保険と比べ多くなります。同意書や診断書の提出や治療費の支払いなどについて、保険会社とトラブルになるケースもあります。(公社)東京都医師会では、医療機関から寄せられたトラブル案件について、保険会社と定例で開催する連絡協議会の中で検討を行い、解決へ向けてのサポートを行っておりますので、保険会社とのトラブルでお困りの際には、東京都医師会医療保険課までご連絡ください。
交通事故受傷者が医療機関に受診した場合図5
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