開業医のための保険診療の要点(II. 診療科別の基礎知識)
[4] 放射線科・放射線診断科
放射線科は「放射線診断」、「放射線治療」、「核医学」の大きく3つの分野に分かれますが、一般開業医に関係するのは放射線診断(画像診断)であるため、外来の画像診断に関する内容について解説させていただきます。
1 各種法令における留意事項
放射線科に関連する業務は、一般的な診療科と同様に医師法、医療法、健康保険法、薬機法等を準拠することの他、放射線障害防止法や労働安全衛生法における医療被ばく及び職業被ばくなどに留意する必要があります。
レントゲン撮影は医師又は診療放射線技師が行うようにしてください。医師の指示の下でも看護師等が撮影をすると診療放射線技師法違反となり、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。
また、必ず患者ID、氏名、撮影年月日、撮影部位、撮影方法等を記載した照射録を作成してください。5年間の保存義務があります。
2 診療録(カルテ)への記載の留意事項
- 単純撮影(頭部、胸部、腹部又は頸椎)の写真診断について、診療録に診断内容の記載を十分に行なわなければなりません。
- コンピューター断層撮影(CT、MRI、他医撮影)について、診療録に診断内容の記載を十分に行わなければなりません。
- 画像診断管理加算について、専ら画像診断を担当する常勤の医師が読影及び診断した結果について、文書により当該患者の診療を担当する医師に報告を必ず行わなければなりません。
- 実施した画像診断の必要性、結果及び結果の評価について、診療録への記載をしっかり行わなければなりません。
- 写真撮影又はコンピューター断層撮影について、診療録に診断内容の記載を行わなければなりません。
- 他医撮影のコンピューター断層診断について、診療録に診断内容の記載を行わなければなりません。
- 診療放射線に係る安全管理体制面から、患者へ検査前に行う説明の内容と同意を得た旨を診療録に記載しなければなりません。
3 傷病名付与の留意事項
傷病名は診療録への必要記載事項であるので、正確に記載してください。
以下のような傷病名記載は不適切です。
- 医学的な診断根拠がない傷病名。
- 医学的に妥当とは考えられない傷病名。
- 実際には「疑い」の傷病名であるにもかかわらず、確定傷病名として記載している。
- 実際には確定傷病名であるにもかかわらず、「疑い」の傷病名として記載している。
- 急性・慢性、左右の別、部位、詳細な傷病名の記載がない傷病名。
※レセプト作成のために撮影部位のコード入力が必要となるのと、また一連の撮影であるのか対側との比較であるのか等の判断の根拠になるので、必ず病名に撮影部位(四肢では左右両側も)を記載してください。
例)左変形性膝関節症、両側変形性膝関節症 - 単なる状態や傷病名ではない事項を、傷病名欄に記載している。
※傷病名以外で診療報酬明細書に記載する必要のある事項については、摘要欄に記載するか、別に症状詳記(病状説明)を作成し診療報酬明細書に添付してください。
4 診療報酬上の留意事項
<特掲診療料>
1 医学管理料
- 診療情報提供料(Ⅰ)
施設基準*1に適合しているものとして届け出た保険医療機関が、患者の紹介を行う際に、検査結果、画像情報、画像診断の所見、投薬内容、注射内容、退院時要約等の診療記録のうち主要なものについて、他の保険医療機関に対し、電子的方法により閲覧可能な形式で提供した場合又は電子的に送受される診療情報提供書に添付した場合に、検査・画像情報提供加算として、次に掲げる点数をそれぞれの所定点数に加算する。
ロ 入院中の患者以外の患者について、必要な情報を提供した場合 30点 - 電子的診療情報評価料 30点 施設基準*1に適合しているものとして届け出た保険医療機関が、別の保険医療機関から診療情報提供書の提供を受けた患者に係る検査結果、画像情報、画像診断の所見、投薬内容、注射内容、退院時要約等の診療記録のうち主要なものについて、電子的方法により閲覧又は受信し、当該患者の診療に活用した場合に算定する。
【*1 検査・画像情報提供加算及び電子的診療情報評価料の施設基準】
- 他の保険医療機関等と連携し、患者の医療情報に関する電子的な送受信が可能なネットワークを構築していること
- 他の保険医療機関と標準的な方法により安全に情報の共有を行う体制が具備されていること
※いずれの加算も、別の保険医療機関より、検査結果等をCD-ROMで提供された保険医療機関が、当該検査結果等を当該医療機関の医療情報を閲覧するシステムに取り込み、当該検査結果等を診療に活用した場合は算定できません。
2 画像診断
画像診断は医学的根拠が必要です。
- 段階を踏んで画像診断を行う。
- 実施回数は必要以上に行わない。
- 左右、部位の一致等、傷病名と画像診断内容を一致させる。
- コンピューター断層撮影について、医学的根拠が必要。
- 画像診断管理加算について、画像診断を専ら担当する常勤医師が退職に伴い交代している場合には必ず、その届出がなされること。
- 通則3 時間外緊急院内画像診断加算
入院外の患者に、緊急のために診療時間外、休日、深夜において撮影及び画像診断を行った場合に、1日につき110点を加算できます。 - 通則4 画像診断管理加算1
施設基準*2に適合しているものとして届け出た保険医療機関において要件を満たす場合、画像診断管理加算1として月1回70点を加算できます(画像診断管理加算2、3及び4は病院が対象のため省略)。 - 通則6 遠隔画像診断による画像診断
施設基準に適合しているものとして届け出た保険医療機関間で行われた場合に算定できますが、送信側は施設の整った離島等の医療機関であり、受信側は高度医療を提供する病院であるため外来のクリニックには適応はないと思われます。
【*2 画像診断管理加算1の施設基準】
- 放射線科を標榜している保険医療機関であること。
- 画像診断を専ら担当する常勤の医師(専ら画像診断を担当した経験を10年以上有するもの又は当該療養について関係学会から示されている2年以上の所定の研修(専ら放射線診断に関するものとし、画像診断、Interventional Radiology(IVR)及び核医学に関する事項をすべて含むものであること)を修了し、その旨が登録されている医師に限る)が1名以上配置されていること。なお、画像診断を専ら担当する医師とは、勤務時間の大部分において画像情報の撮影又は読影に携わっている者をいう。
- 画像診断管理を行うにつき十分な体制が整備されていること。
- 当該保険医療機関以外の施設に読影又は診断を委託していないこと。
※電子的方法によって、個々の患者の診療に関する情報等を送受信する場合は、端末の管理や情報機器の設定等を含め、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を遵守し、安全な通信環境を確保していることが必要です。
3 エックス線診断料
- 通則1 エックス線診断の費用はE000透視診断若しくはE001写真診断の所定点数を合算した点数により算定する。
- 通則2 同一部位につき、同時に2以上のエックス線撮影を行った場合における第2の診断以後の写真診断の費用は、写真診断の各所定点数の100分の50に相当する点数により算定する。
- 通則3 同一部位につき、同時に2枚以上のフィルムを使用して同一の方法により撮影を行った場合は、第2枚目から第5枚目までの写真診断及び撮影の費用については各所定点数の100分の50に相当する点数により算定し、第6枚目以後の写真診断及び撮影については算定しない。
※要するに6枚以上撮影しても5枚撮影したときと同じ点数になります。ただし、アナログ撮影の場合は使用フィルム代をすべて請求できますが、デジタル撮影の場合はフィルム代は請求できず電子画像管理加算1回の算定になります。
- 通則4 撮影した画像を電子化して管理及び保存した場合においては、電子画像管理加算として、上記⑴から⑶までにより算定した点数に、一連の撮影について次の点数を加算する。ただし、この場合において、フィルムの費用は、算定できない。
①単純撮影の場合 57点 ②特殊撮影の場合 58点 ③造影剤使用撮影の場合 66点 ④乳房撮影の場合 54点
- 写真診断
①単純撮影 イ 頭部、胸部、腹部又は脊椎 85点 ロ その他 43点 ②特殊撮影(一連につき) 96点 ③造影剤使用撮影 72点 ④乳房撮影(一連につき) 306点
注 間接撮影を行った場合は、所定点数の100分の50に相当する点数により算定する。 - 撮影
①単純撮影 イ アナログ撮影 60点 ロ デジタル撮影 68点 ②特殊撮影(一連につき) イ アナログ撮影 260点 ロ デジタル撮影 270点 ③造影剤使用撮影 イ アナログ撮影 144点 ロ デジタル撮影 154点 ④乳房撮影(一連につき) イ アナログ撮影 192点 ロ デジタル撮影 202点
注 間接撮影を行った場合は、所定点数の100分の50に相当する点数により算定する。 - 撮影に対する新生児、乳幼児及び幼児加算
新生児加算(生後27日目まで) 100分の80加算 乳幼児加算(生後28日目~3歳未満) 100分の50加算 幼児加算(3歳以上6歳未満) 100分の30加算
エックス線診断料 | |||||
---|---|---|---|---|---|
デジタル撮影 | 診断料 | 撮影料 | 電子画像管理加算 | ||
フィルムなし | フィルムあり | ||||
単純撮影 | 頭部・胸部・腹部・脊椎 | 85点 | 68点 | 57点 | フィルム料 又は 電子画像管理加算 |
その他 | 43点 | 68点 | 57点 | ||
特殊撮影 | 96点 | 270点 | 58点 | ||
造影剤使用撮影 | 72点 | 154点 | 66点 |
乳房撮影 | ||
---|---|---|
写真診断写真診断(一連につき) | 306点 | |
撮影料写真診断(一連につき) | アナログ | 192点 |
デジタル | 202点 | |
フィルム料 | フィルム料 | |
電子画像管理加算 | 54点(デジタル撮影) | |
画像診断管理加算1 | 70点 | |
乳房トモシンセシス加算 | 100点 |
<乳房撮影の算定>
撮影専用の機器(マンモグラフィー)を用いて、原則として両側の乳房に対し、それぞれ2方向以上の撮影を行うものをいい、両側について一連として算定します。
乳房撮影は写真診断が306点、撮影料としてアナログ撮影の場合は192点を合わせて498点が、デジタル撮影の場合は202点を合わせて508点が一連につき算定できます。
アナログ撮影の場合はフィルム料を、デジタル撮影の場合は電子画像管理加算54点のみを加算します。
乳房トモシンセシス撮影を行った場合は、乳房トモシンセシス加算として、100点を加算します。
***単純エックス線撮影算定例***
【例1 胸部X-P(デジタル)2枚を撮影した場合】算定:診断料 1枚目85点+2枚目85/2点=127.5点 ⇒ 四捨五入で128点 撮影料 1枚目68点+2枚目68/2点=102点 電子画像管理加算 57点 合計 128点+102点+57点=287点
【例2 対称器官の撮影】
①病名:右変形性膝関節症 両膝X-P正側4回撮影 片側のみ疾患があり、比較対照のために両側を撮影した場合 ⇒ 両膝について一連として算定する 算定:両膝X-P(デジタル)4回撮影×1回 (両膝)診断料108点 撮影料170点 電子画像管理加算57点 合計335点 ※健側と対比のためというコメントが必要 ②病名:両側変形性膝関節症 両膝X-P正側4回撮影 両側に疾患があり、左右それぞれ撮影した場合⇒左右別々に算定する 算定:右膝X-P(デジタル)2回撮影×1回 (右膝)診断料65点 撮影料102点 電子画像管理加算57点 小計224点 算定:左膝X-P(デジタル)2回撮影×1回 (左膝)診断料65点 撮影料102点 電子画像管理加算57点 小計224点 両膝として、合計448点
4 コンピューター断層撮影診断料
(1) コンピューター断層撮影(CT撮影)
コンピューター断層撮影(CT) | ||||
---|---|---|---|---|
【CT】 (一連につき) |
コンピューター 断層診断料 (月1回) |
画像診断 管理加算 (月1回) |
撮影料 | |
月1回目 | 月2回目
以降 (80/100) |
|||
64列以上 (※1) |
450点 | 1:70点 (2、3及び4は届出病院が算定) |
(共同利用施設)(※2) | |
1,020点 | 816点 | |||
(その他) | ||||
1,000点 | 800点 | |||
16列以上 64列未満 |
900点 | 720点 | ||
4列以上 16列未満 |
750点 | 600点 | ||
4列未満 | 560点 | 448点 |
※1 画像診断管理加算2、3又は4に係る届出保険医療機関が対象
※2 画像診断機器の施設共同利用率10%以上として届け出た保険医療機関
<CT撮影 施設基準>
◎施設基準
- 4列以上の撮影料を算定する場合には施設基準の届出が必要である。
- 64列以上のマルチスライス型のCT装置においては、画像診断管理加算2、3又は4に関する施設基準の届出を行っていること。
- 64列以上のマルチスライス型のCT装置においては、CT撮影に係る部門に専従の診療放射線技師が1名以上勤務していること。
- 共同利用施設において行われる施設共同利用率は10%以上であること。
◎届出に関する事項
- 画像診断機器の機種名、型番、メーカー名、テスラ数(MRIの場合)を記載すること。
- CT撮影に係る安全管理責任者の氏名を記載し、CT撮影装置、造影剤注入装置の保守管理計画を添付すること。
(2) 磁気共鳴コンピューター断層撮影(MRI撮影)
磁気共鳴コンピューター断層撮影(MRI) | ||||
---|---|---|---|---|
【CT】 (一連につき) (T=テスラ) |
コンピューター 断層診断料 (月1回) |
画像診断 管理加算 (月1回) |
撮影料 | |
月1回目 | 月2回目
以降 (80/100) |
|||
3T以上 (※1) | 450点 | 1:70点 (2、3及び4は届出病院が算定) |
(共同利用施設)(※2) | |
1,620点 | 1,296点 | |||
(その他) | ||||
1,600点 | 1,280点 | |||
1.5T以上 3T未満 |
1,330点 | 1,064点 | ||
1.5T未満 | 900点 | 720点 |
※1 画像診断管理加算2、3又は4に係る届出保険医療機関が対象
※2 画像診断機器の施設共同利用率10%以上として届け出た保険医療機関
<MRI撮影 施設基準>
◎施設基準
- 1.5テスラ以上のMRI撮影料を算定する場合には施設基準の届出が必要である。
- 3テスラ以上のMRI装置においては、画像診断管理加算2、3又は4に関する施設基準の届出を行っていること。
- 3テスラ以上のMRI装置においては、MRI装置に係る部門に専従の診療放射線技師が1名以上勤務していること。
- 共同利用施設において行われる施設共同利用率は10%以上であること。
◎届出に関する事項
- 画像診断機器の機種名、型番、メーカー名、テスラ数(MRIの場合)を記載すること。
- MRI撮影に係る安全管理責任者の氏名を記載し、MRI撮影装置、造影剤注入装置の保守管理計画を添付すること。
(3) 撮影に対する新生児、乳幼児及び幼児加算
エックス線撮影同様、新生児・乳幼児・幼児の撮影を行った場合に算定できます。
新生児加算(生後27日目まで) 100分の80加算 乳幼児加算(生後28日目~3歳未満)100分の50加算 幼児加算(3歳以上6歳未満) 100分の30加算
また、頭部外傷に対してコンピューター断層撮影を行った場合は次の加算がそれぞれ算定できます。
新生児頭部外傷撮影加算 100分の85加算 乳幼児頭部外傷撮影加算 100分の55加算 幼児頭部外傷撮影加算 100分の35加算
ただし、関連学会が定めるガイドラインに沿って撮影を行った場合に限り算定でき、この場合において、その医学的な理由について診療報酬明細書の摘要欄に該当項目を記載します。また下記の「カ」に該当する場合は、その詳細な理由及び医学的な必要性を診療報酬明細書の摘要欄に記載しなければなりません。
ア GCS≦14
イ 頭蓋骨骨折の触知又は徴候
ウ 意識変容(興奮、傾眠、会話の反応が鈍い等)
エ 受診後の症状所見の悪化
オ 家族等の希望
カ その他
(4) 算定における注意点
- CTとMRIを同日(同月)に行った場合 必要に応じてCTとMRIの撮影を同一日に両方行った場合には、CTの点数とMRIの点数をそれぞれ算定できます。ここで注意する点は、どちらか一方の撮影料を所定点数の100分の80にして算定することになります。また、診断料は同日でも同月でも450点を月1回に限り算定します。同月にCTとMRIを両方行った場合は、後から撮影した方の撮影料を所定点数の100分の80にして算定します。また、同月にCTを2回以上又はMRIを2回以上行った場合も同様です。
- コンピューター断層撮影に関するクリニックにおける注意点 共同利用施設において検査を行う場合は、検査を依頼する側が実施したものとして、画像診断料等の保険請求を行い、別途、依頼する側と依頼される側との間で合議の上、費用の精算を行うことになります。この際、レセプトの摘要欄に「画診共同」と記載します。
<画像診断管理加算1の施設基準(2・3・4は病院関係なので省略)>
(対象点数区分) E001写真診断 E004基本的エックス線診断料 E102核医学診断 E203コンピューター断層診断 (常勤画像診断医)1名以上 (医療機関の種類)保険医療機関
5 令和6年度診療報酬改定における、新規・改定項目
「主な改定項目」
- フィルムの価格が一部引き下げられたため、フィルム点数が変更された。
- 救命救急センターを有する病院対象の画像診断管理加算3が新設され、従来の3は4に移行された(病院での算定のため詳細は省略)。
6 その他
(1) 他の医療機関で撮影したエックス線フィルム等を診断した場合の診断料算定
診・再診にかかわらず、撮影部位及び撮影方法(単純撮影、特殊撮影、造影剤使用撮影又は乳房撮影を指し、アナログ撮影又はデジタル撮影の別は問わない)別に1回算定できます。例えば、胸部単純写真と断層像についてであれば、2回として算定できます。ただし、1つの撮影方法については撮影回数、写真枚数にかかわらず1回として算定します。
(2) 他の医療機関で撮影したコンピューター断層撮影(CT、MRI)のフィルムについて診断を行った場合の診断料算定
初診料を算定した日に限り、コンピューター断層診断料(450点)を算定できます。
(3) フィルムやCD-ROMにデータをコピーする費用
他院に画像データをコピーして渡す場合、B009診療情報提供料(Ⅰ)の通知(10)に「診療情報の提供に当たり、レントゲンフィルム等をコピーした場合には、当該レントゲンフィルム等及びコピーに係る費用は当該情報提供料に含まれ、別に算定できない。」とあり、これは画像データをCD-ROM等にコピーした場合も該当しますので、CD-ROM媒体の費用及びコピー手数料は診療情報提供料(Ⅰ)に含まれ算定できません。