開業医のための保険診療の要点
開業医のための保険診療の要点(II. 診療科別の基礎知識)
[6] 外科
外科は算定条件が細かく分かれています。例えば創傷処理では長さや深さによって点数が違い、皮膚腫瘍摘出術では露出部と露出部以外では点数が違います。
また、皮膚科や整形外科と共通する処置も多く、そちらの算定要件も知らなければなりません。例えば、同一部位に対して創傷処置、皮膚科軟膏処置、面皰圧出法又は湿布処置が同時に行われた場合は、いずれか1つのみにより算定し、併せて算定はできません。
なお、絆創膏固定は足関節捻挫又は膝関節靱帯損傷にしか算定できません。
適切な診療報酬請求を行うために、複雑な算定条件を知る必要があります。
1 各種法令における留意事項
外科においても医学的に妥当適切な診療を行い、診療報酬点数表に定められた請求を行うことが必要です。
2 診療録(カルテ)への記載の留意事項
外科は外傷や熱傷等を診療するため、その部位や範囲、色、形状等を診療録に図示あるいは記載する必要があります。
3 傷病名付与の留意事項
- 部位や、範囲は審査の判断に必要となります。
- 必ず部位を付けてください。右前腕切創、頸部皮膚腫瘍等。
- 熱傷は傷病名に熱傷の程度の記載が必須です。第2度熱傷以上でなければ熱傷処置は算定できません。
4 診療報酬上の留意事項
<特掲診療料>
1 検査
- 超音波検査
原則として、単なる挫傷に対する局所診断を目的とした超音波検査は認められません。 - 内視鏡検査
原則として肛門鏡検査時における超音波内視鏡検査加算は痔核に対しては認められません。注)処置又は手術と同時に行った内視鏡検査は、別に算定できません。
2 処置
- 創傷処置
- 処置の範囲とは、包帯等で被覆すべき創傷面の広さ、又は軟膏処置を行うべき広さになります。
- 同一疾病又はこれに起因する病変に対して創傷処置、皮膚科軟膏処置又は湿布処置が行われた場合は、それぞれの部位の処置面積を合算し、その合算した広さを、いずれかの処置に係る区分に照らして算定するものとし、処置ごとを併せて算定することはできません。
- 複数の部位の手術後の創傷処置については、それぞれの部位の処置面積を合算し、その合算した広さに該当する点数により算定してください。
- 軟膏の塗布又は湿布の貼付のみの処置では算定できません。
- 熱傷処置を算定する場合は、創傷処置は併せて算定できません。
- 下肢創傷処置
- 足部(踵を除く)の浅い潰瘍
- 足趾の深い潰瘍又は踵の浅い潰瘍
- 足部(踵を除く)の深い潰瘍又は踵の深い潰瘍
下肢創傷処置の対象となる部位は、足部、足趾、又は踵であって、浅い潰瘍とは、潰瘍の深さが腱、筋、骨又は関節のいずれにも至らないものをいい、深い潰瘍とは潰瘍の深さが腱、筋、骨又は関節のいずれかに至るものになります。
※下肢創傷処置管理料(B001・36)
入院中以外の患者で、下肢の潰瘍を有するものに対して、下肢創傷処置に関する専門の知識を有する医師が、計画的な医学管理を継続して行い、かつ、下肢創傷処置を算定した日の属する月において、療養上必要な指導を行った場合に月1回に限り算定できます。
- 熱傷処置
※初回の処置を行った年月日を必ず記載してください。- 熱傷処置を算定する場合は、創傷処置、爪甲除去(麻酔を要しないもの)及び穿刺排膿後薬液注入は併せて算定できません。
- 熱傷には電撃傷、薬傷及び凍傷が含まれます。
- 100㎠未満については、第1度熱傷のみでは算定できません。
- 処置の範囲とは、包帯等で被覆すべき創傷面の広さ、又は軟膏処置を行うべき広さです。
- 初回の処置を行った日から起算して2月を経過するまでに行われた場合に限り算定し、それ以降に行う当該処置については創傷処置の例により算定してください。
- 絆創膏固定術
足関節捻挫又は膝関節靭帯損傷に絆創膏固定術を行った場合に算定できます。ただし交換は原則として週1回となります。 - 重度褥瘡処置
重度の褥瘡処置を必要とする患者に対して、初回の処置を行った日から起算して2月を経過するまでに行われた場合に限り算定し、それ以降に行う当該処置については創傷処置の例により算定してください。- 処置の範囲とは、包帯等で被覆すべき創傷面の広さ、又は軟膏処置を行うべき広さです。
- 皮下組織に至る褥瘡(筋肉、骨等に至る褥瘡を含む)に対して行った場合に算定できます。
- 重度褥瘡処置を算定する場合は、創傷処置、爪甲除去(麻酔を要しないもの)及び穿刺排膿後薬液注入は併せて算定できません。
- 局所陰圧閉鎖処置(入院)を算定する場合は、重度褥瘡処置は併せて算定できません。
- 局所陰圧閉鎖処置(入院外)を算定する場合は、重度褥瘡処置は併せて算定できません。
- 爪甲除去(麻酔を要しないもの)
注:入院中の患者以外の患者についてのみ算定できます。- 在宅寝たきり患者処置指導管理料又は在宅気管切開患者指導管理料を算定している患者については、爪甲除去(麻酔を要しないもの)は算定できません。
- 熱傷処置を算定する場合は、爪甲除去は併せて算定できません。
- 重度褥瘡処置を算定する場合は、爪甲除去は併せて算定できません。
- 副鼻腔手術後の処置を算定した場合、爪甲除去は別に算定できません。
- 皮膚科軟膏処置
- 処置の範囲とは、包帯等で被覆すべき創傷面の広さ、又は軟膏処置を行うべき広さです。
- 同一疾病又はこれに起因する病変に対して皮膚科軟膏処置、創傷処置又は湿布処置が行われた場合は、それぞれの部位の処置面積を合算し、その合算した広さを、いずれかの処置に係る区分に照らして算定するものとし、処置ごとを併せて算定することはできません。
- 同一部位に対して皮膚科軟膏処置、創傷処置、面皰圧出法又は湿布処置が行われた場合はいずれか1つのみにより算定し、併せて算定できません。
- 在宅寝たきり患者処置指導管理料を算定している患者(これに係る薬剤料又は特定保険医療材料料のみを算定している者を含み、入院中の患者を除く)については、皮膚科軟膏処置や肛門処置等の費用は算定できません。
- 100㎠未満の皮膚科軟膏処置は、第1章基本診療料に含まれるものであり、皮膚科軟膏処置を算定することはできません。
- 局所陰圧閉鎖処置(入院)を算定する場合は、皮膚科軟膏処置は併せて算定できません。
- 局所陰圧閉鎖処置(入院外)を算定する場合は、皮膚科軟膏処置は併せて算定できません。
- 鶏眼・胼胝処置
同一部位について、その範囲にかかわらず月2回の算定が限度です。 - 消炎鎮痛等処置(3 湿布処置)
- 診療所において入院中の患者以外に対し、半肢の大部又は頭部、頸部及び顔面の大部以上にわたる範囲のものについて算定するものであり、それ以外の狭い範囲の湿布処置は基本診療料に含まれ、湿布処置を算定することはできません。
- 同一部位に対して湿布処置、創傷処置、皮膚科軟膏処置、面皰圧出法が行われた場合はいずれか1つのみにより算定し、併せて算定できません。
- 保険給付の範囲内で処方できる貼付剤(湿布薬)の上限枚数は1処方につき63枚までです。やむを得ず63枚を超えて投薬する場合には、その理由を処方箋及び診療報酬明細書に記載しなければなりません。
3 手術
- 創傷処理
- 創傷処理とは、切・刺・割創又は挫創に対して切除、結紮又は縫合(ステープラーによる縫合を含む)を行う場合の第1回目の治療のことであり、第2診以後の手術創に対する処置は創傷処置により算定することになります。なお、ここで筋肉、臓器に達するものとは、単に創傷の深さを指すものではなく、筋肉、臓器に何らかの処理を行った場合のことです。
- 創傷が数か所あり、これを個々に縫合する場合は、近接した創傷についてはそれらの長さを合計して1つの創傷として取り扱い、他の手術の場合に比し著しい不均衡を生じないようにしてください。
- 頭頸部のもの(長径20cm以上のものに限る)は、長径20cm以上の重度軟部組織損傷に対し、全身麻酔下で実施した場合に限り算定できます。
- 露出部とは頭部、頸部、上肢にあっては肘関節以下及び下肢にあっては膝関節以下をいいます。
- 真皮縫合加算は真皮縫合を伴う縫合閉鎖を行った場合であって、露出部の創傷に限り加算ができます。
また、露出部の範囲について足底部、踵も加算できますが、手掌、指、趾、眼瞼に当たっては加算できません。 - デブリードマンの加算は、汚染された挫創に対して行われるブラッシング又は汚染組織の切除等であって、通常麻酔下で行われる程度のものを行った場合に限り算定できます。
- 皮膚切開術
- 長径10cmとは、切開を加えた長さではなく、膿瘍、せつ又は蜂窩織炎等の大きさとなります。
- 多発性せつ腫等で近接しているものについては、数か所の切開も1切開としての算定になります。
- 皮膚・皮下腫瘍摘出術(露出部)、(露出部以外)
- 露出部とは創傷処理の露出部と同一の部位となります。
- 近接密生しているいぼ及び皮膚腫瘍等については、1個として取り扱い、他の手術等の点数と著しい不均衡を生じないようにしてください。
- 露出部と露出部以外が混在する患者については、露出部に係る長さが全体の50%以上の場合は(露出部)の所定点数により算定し、50%未満の場合は(露出部以外)の所定点数により算定します。
- 鶏眼・胼胝切除術(露出部で縫合を伴うもの)、(露出部以外で縫合を伴うもの)
- 露出部とは創傷処理の露出部と同一の部位となります。
- 近接密生している鶏眼・胼胝等については、1個として取り扱い、他の手術等の点数と著しい不均衡を生じないようにしてください。
- 露出部と露出部以外が混在する患者については、露出部に係る長さが全体の50%以上の場合は、(露出部で縫合を伴うもの)の所定点数により算定し、50%未満の場合は、(露出部以外で縫合を伴うもの)の所定点数により算定します。
- 爪甲除去術
爪甲白癬又は爪床間に「とげ」等が刺さった場合の爪甲除去で、麻酔を要しない程度のものは処置料の爪甲除去(麻酔を要しないもの)により算定します。
4 その他
- あらかじめ予定されている手術に対しては、小外科であっても梅毒定性、HBs抗原、HCV抗体の感染症検査は認められています。
5 令和6年度診療報酬改定における、新規・改定項目
短期滞在手術基本料1(日帰りの場合)について評価の見直しがありました。
- 施設基準を満たし、地方厚生局長へ届出が必要。
- 手術等の実施前に十分な説明を行った上で「短期滞在手術等同意書」を用いて患者の同意を得ることが必要。
短期滞在手術等基本料1(日帰りの場合)
イ 主として入院で実施されている手術を行った場合 (1) 麻酔を伴う手術を行った場合 2,947点 (2) ⑴以外の場合 2,718点
ロ イ以外の場合 (1) 麻酔を伴う手術を行った場合 1,588点 (2) ⑴以外の場合 1,359点
- 麻酔を伴う手術を行った場合とは、硬膜外麻酔、脊椎麻酔、マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔を伴う手術を行った場合をいいます。
- 術前検査(出血・凝固検査、血液化学検査、感染症免疫学的検査、心電図や画像診断検査等)、麻酔管理料等は短期滞在手術等基本料に含まれます。