新規開業医のための保険診療の要点(各論)
[2-6] 内視鏡検査、治療
I 内視鏡の種類
内視鏡は経口内視鏡と経鼻内視鏡に大別されます。経鼻内視鏡でも生検は可能であり、受診者の負担を軽減できます。また、近年では経鼻内視鏡の改善が進み、観察可能な視野も経口内視鏡と同等レベルとなっています。
経口内視鏡 | 経鼻内視鏡 | |
---|---|---|
先端部の太さ | 太い 8mmから12mm | 細い 5mmから6mm |
生検組織採取や切除 | どちらもできる | 生検は可能だが切除は困難 |
検査中の苦痛 | あり | 少ない |
検査中の会話 | 出来ない | できる |
循環動態への影響 | あり | 少ない |
II 保険請求の留意点
- 内視鏡検査時におけるHBs抗原定性・半定量の算定は認められます。
- 内視鏡検査時におけるHCV抗体定性・定量の算定は認められます。
- 内視鏡検査時における梅毒血清反応(STS)定性の算定は認められます。
- 内視鏡検査時の検査として、HIV-1抗体、HIV-1、2抗体定性、HIV-1、2抗体半定量、HIV-1、2抗体定量、HIV-1、2抗原・抗体同時測定定性又はHIV-1、2抗原・抗体同時測定定量の算定は認められません。
- 消化管内視鏡検査(ポリープ切除を実施しない場合)の術前検査として、プロトロンビン時間(PT)の算定は認められます。
- 鎮静下に消化管内視鏡検査を実施する際のモニターとして、経皮的動脈血酸素飽和度測定、心電図、呼吸心拍監視の算定について、当該項目の算定要件を満たしている場合には、当該検査の算定は認められます。
- 内視鏡的食道及び胃内異物摘出術(3250点)は、食道及び胃内の異物(電池、胃手術時の縫合糸、アニサキス等)を内視鏡(ファイバースコープ)下により摘出した場合に算定します。
- 内視鏡検査時に粘膜点墨法を行った場合は、粘膜点墨法加算(60点)を算定できます。また、内視鏡検査時にインジゴカルミン、メチレンブルー、トルイジンブルー、コンゴーレッド等による色素内視鏡法を行った場合は、粘膜点墨法に準じて算定します。ただし、使用される色素の費用は所定点数に含まれます。
- 内視鏡検査当日に、検査に関連して行う注射実施料は別に算定できません。
- 内視鏡検査当日に実施された感染症検査は、査定される可能性があります。当該検査の必要性について症状詳記を記載するなど注意する必要があります。
- 内視鏡検査時の狭帯域光強調加算(200点)について、悪性腫瘍を疑う病変がなければ、算定は認められません。
- 内視鏡を用いた手術を行う場合、これと同時に行う内視鏡検査料は別に算定できません。例えば、内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術を算定した場合、内視鏡下生検法は算定できません。
- 今回の改定で、診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項が追加されました。内視鏡下生検法(1臓器につき310点)について、下記の(1)から(9)までのいずれかを選択し記載してください。なお、選択する臓器又は部位がない場合は(10)その他を選択し、具体的部位名等を記載してください。
- 気管支及び肺臓
- 食道
- 胃及び十二指腸
- 小腸
- 盲腸
- 上行結腸、横行結腸及び下行結腸
- S状結腸
- 直腸
- 子宮体部及び子宮頸部
- その他
「1臓器」の取扱いについては、N000病理組織標本作製(1臓器につき)に準ずると規定されています。例えば、胃および十二指腸の生検を行った場合は、1臓器として310点を算定することになります。1回の内視鏡検査で食道、胃・十二指腸の生検を行った場合は、2臓器として620点を算定します。
病理組織標本作製では、3臓器以上の標本作製を行った場合は、3臓器を限度として算定すると規定されています。そのため、3臓器以上の生検を行った場合は、査定される可能性があります。
通則
- 病理標本作製に当たって、3臓器以上の標本作製を行った場合は、3臓器を限度として算定する。
- リンパ節については、所属リンパ節ごとに1臓器として数えるが、複数の所属リンパ節が1臓器について存在する場合は、当該複数の所属リンパ節を1臓器として数える。
- 病理組織標本作製について、次に掲げるものは、各区分ごとに1臓器として算定する。
ア 気管支及び肺臓 イ 食道 ウ 胃及び十二指腸 エ 小腸 オ 盲腸 カ 上行結腸、横行結腸及び下行結腸 キ S状結腸 ク 直腸 ケ 子宮体部及び子宮頸部 - 病理組織標本作製において、1臓器から多数のブロック、標本等を作製した場合であっても、1臓器の標本作製として算定する。
- 病理組織標本作製において、悪性腫瘍がある臓器又はその疑いがある臓器から多数のブロックを作製し、又は連続切片標本を作製した場合であっても、所定点数のみ算定する。
- 当該標本作製をヘリコバクター・ピロリ感染診断を目的に行う場合の保険診療上の取扱いについては、「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて」(平成12年10月31日保険発第180号)に即して行うこと。
III 令和4年度診療報酬改定で新設
1 小腸内視鏡検査
スパイラル内視鏡によるもの(6,800点)が新設されました。
2 内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術
消化管ポリポーシス加算(5,000点)が新設され、家族性大腸線腫症の患者に実施した場合に年1回に限り所定点数に加算できます。
3 小腸結腸内視鏡的止血術
小腸・結腸狭窄部拡張術(内視鏡によるもの)
スパイラル内視鏡加算(3,500点)が新設され、スパイラル内視鏡検査を用いて実施した場合に所定点数に加算できます。
参考:内視鏡検診
2016年度からの対策型胃がん検診に胃内視鏡検診が追加され、その実施にあたり、一般社団法人日本消化器がん検診学会による「対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル2015年度版」(以下「検診マニュアル」)が公表され、運用にあたっては、検診マニュアルを参考にするとした指針が厚生労働省より通知されました。現在、各自治体で、一般の診療所を含めた医療機関で内視鏡検診が実施されています。
1 内視鏡検診の対象
50歳以上で、検診間隔は隔年(2年に1回)の方法が推奨されています。
2 内視鏡検診対象の除外条件
内視鏡検診の対象者として除外されている方は以下の通りです。
- 胃内視鏡検診に関するインフォームド・コンセントや同意書の取得ができない者
- 妊娠中の者
- 疾患の種類にかかわらず、入院中の者
- 消化性潰瘍などの胃疾患で受療中の者(ピロリ除菌中の者を含む)
- 胃全摘術後の者
3 内視鏡検診の実施方法
内視鏡検診の実施方法、留意事項は以下の通りです。
- 胃内視鏡検査の実施に当たっては、検診マニュアルを参考にすること。
- 検査の方法や利益・不利益などについて十分な説明を行い、検査の同意を得ること。同意書には説明の内容と説明者及び受診者の署名を記載すること。
- 事前の感染検査は必須ではない。
- 前処置で、ブスコパン、グルカゴンなどの鎮痙剤の使用は差し支えない。原則として鎮痛剤、鎮静剤は使用しない。咽頭麻酔(又は鼻腔麻酔)は、通常通り行ってよい。
- 受診者が左側臥位での検査を原則とする。観察範囲は食道、胃、十二指腸とする。撮影コマ数は食道、胃、十二指腸を含めて、30~40コマが適当である。
- 色素散布について、インジゴカルミンの使用は差し支えない。
- 洗浄・消毒について
検査終了後、内視鏡は始めに用手で洗浄する。用手洗浄後、高水準消毒薬(①グルタールアルデヒド、②フラタール製剤、③過酢酸)を使用し、自動洗浄消毒機にて洗浄、消毒を行う。
機能水の使用に関しては、一般財団法人機能水研究振興財団発行の“機能水による消化器内視鏡洗浄消毒器の使用の手引き”を参照とすること。
4 内視鏡検診と保険診療(生検)
- 内視鏡検診の実施において、異常が発見され医師が治療(生検等検査)を認めた場合、その治療等については保険診療として実施します。
ただし、初診料、再診料、検査料等については内視鏡検診で算定済み(自費等)のため算定することは出来ません。保険請求する場合は、初診料等が無く生検等を実施するため、摘要欄に「初診料等は他法(内視鏡検診)により算定」などの表記が必要です。
このため、受診者に対し、事前に検診の自己負担額の他に、生検等実施に対する保険診療の自己負担額が追加される可能性のあることを説明し、了解を得ておく必要があります。 - 生検を実施する場合は「胃がん」あるいは「胃がん疑い」の病変に限定して行ってください。導入時は、生検率は15%以下に留めるべきであり、さらに、精度管理体制を整備することにより要生検率を10%以下にすることを目標とします。
5 検査医の資格
以下のいずれかの条件を満たす医師であること。
- 日本消化器がん検診学会認定医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医のいずれかの資格を有する医師
- 診療、検診にかかわらず概ね年間100件以上の胃内視鏡検査を実施している医師
- 地域の胃内視鏡検診運営委員会(仮称)が定める条件に適応し、上記(1)又は(2)の条件を満たす医師と同等の経験、技量を有すると認定された医師
6 読影会への参加
検査医は、読影委員会に参加する。
7 研修会への参加
検査医、メディカルスタッフ(看護師、臨床検査技師など)は、胃内視鏡検診運営委員会の主催する研修会に参加する。
8 偶発症対策
- 検査同意書の取得:偶発症が起こり得ることを明記しておくことが必要です。
- 偶発症を意識した問診:既往歴、検査歴、服用薬(特に抗血栓薬)、アレルギーの有無、歯科治療における麻酔時の状況など、必要と思われる問診を事前に実施しなければなりません。
- 胃内視鏡検査時は鎮痙剤などの使用は控えるのが望ましいが、使用する場合には、使用上の注意事項を熟知し、思わぬ副作用などに備える必要があります。
- 鎮痛剤・鎮静剤は原則使用しません。
- 呼吸停止、心停止への備えは常に必要であり、酸素、バッグバルブマスク(BVM)、気管挿管セット、心電図モニター、除細動器(AED)など救命救急設備は備えておく必要があります。
- 救急カートを近くにおき、輸液、強心剤など必要な医薬品を常備することが必要です。
- 検査時間に余裕をもたせ、常に準備を怠らないことが必要です。
- 救急カートを点検し、定期的に緊急対応の訓練を行うことも必要です。