開業医のための保険診療の要点

開業医のための保険診療の要点(II. 診療科別の基礎知識)

[8] リハビリテーション

リハビリテーション医療は、基本的動作能力の回復等を目的とする理学療法や、応用的動作能力、社会的適応能力の回復等を目的とした作業療法、言語聴覚能力の回復等を目的とした言語聴覚療法等の治療法により構成され、いずれも実用的な日常生活における諸活動の実現を目的として行われます。そのため、スポーツのパフォーマンス向上のために行われるスポーツリハビリテーションと称される診療は医療保険の適用ではありませんのでご注意ください。

1 各種法令における留意事項

  1. 医師法第20条に「医師は自ら診察しないで治療をしてはならない。」とあり、保険診療ではリハビリテーションを行う際に、毎回医師の診察を伴うことが原則です。ただし、状態が安定した患者については、リハビリテーションスタッフが十分な観察を行うことや、直ちに医師の診察が可能な体制をとること等を要件とした上で、再診料を算定せずに疾患別リハビリテーションを提供できる「外来リハビリテーション診療料」(医学管理料)を算定することができます。「外来リハビリテーション診療料1」では算定してから7日間、「外来リハビリテーション診療料2」では14日間に1回、医師の診察を受けることになります。
  2. 鋼線等による直達牽引、介達牽引、矯正固定、変形機械矯正術、消炎鎮痛等処置、腰部又は胸部固定帯固定、低出力レーザー照射又は肛門処置を併せて行った場合は、疾患別リハビリテーション料の所定点数に含まれます。
  3. 慢性疼痛疾患管理料を算定する患者に対して行ったリハビリテーション料は算定できません。
  4. リハビリテーション料の多くは、人員配置を含んだ施設基準が規定されています。配置職員等の基準を満たさなくなったときは、その月中に速やかに地方厚生局へ変更届出を行い、翌月から変更後の条件で算定することになります。

1 疾患別リハビリテーション

疾患別リハビリテーションの実施に当たっては、次の通りです。

  1. 医師は定期的な機能検査等のもとに効果判定を行います。
  2. リハビリテーション実施計画書をリハビリテーション開始後原則として7日以内、遅くとも14日以内に作成します。
  3. 3月に1回以上、患者又はその家族等に対してリハビリテーション実施計画書の内容を医師が説明の上交付すると共に、その写しを診療録に添付します。多職種協働で作成したリハビリテーション実施計画書であっても、患者や家族への説明は医師が行い同意を得ることが必要なので留意してください。
  4. リハビリテーション実施計画書の作成前に疾患別リハビリテーションを実施する場合には、医師が自ら実施する場合又は実施するリハビリテーションについて医師の具体的指示があった場合に限り、疾患別リハビリテーション料を算定できます。
  5. 疾患別リハビリテーションでは、患者に対し個別に20分以上の訓練を行った場合「1単位」として点数を算定できます(心大血管疾患リハビリテーション・集団療法による場合を除く)。
  6. 疾患別リハビリテーションには対象疾患や標準的算定日数等が設定されています。
    【疾患別リハビリテーションの対象疾患】
    ① 心大血管疾患リハビリテーション
    • 心機能の回復、再発予防を図るために運動療法等を行った場合
    • 対象:急性心筋梗塞、狭心症、解離性大動脈瘤、慢性心不全、等
    ② 脳血管疾患等リハビリテーション
    • 基本的動作能力の回復等を通じ、種々の運動療法、日常生活活動訓練、言語聴覚訓練等を行った場合、等
    • 対象:脳梗塞、脳出血、脊髄損傷、慢性の神経筋疾患、言語聴覚機能障害、等
    ③ 廃用症候群リハビリテーション
    • 基本的動作能力の回復等を通じて、実用的な日常生活における諸活動の自立を図るために、種々の運動療法、実用歩行訓練、日常生活活動訓練、物理療法、応用的動作能力、社会的適応能力の回復等を目的とした作業療法等を組み合わせて個々の症例に応じて行った場合、等
    • 対象:急性疾患等に伴う安静による廃用症候群であって、「一定程度以上の基本動作能力、応用動作能力、言語聴覚能力、日常生活能力が低下したもの」(治療開始時にFIM:115以下、BI:85以下の状態等のもの)
    ④ 運動器リハビリテーション
    • 基本的動作能力の回復等を通じ、実用的な日常生活における諸活動の自立を図るために、種々の運動療法、実用歩行訓練、日常生活活動訓練、物理療法、応用的動作能力、社会的適応能力の回復等を目的とした作業療法等を組み合わせて個々の症例に応じて行った場合、等
    • 対象:脊椎損傷による四肢麻痺、体幹・上・下肢の外傷、骨折、等
    ⑤ 呼吸器リハビリテーション
    • 呼吸訓練や種々の運動療法等を組み合わせて行った場合
    • 対象:肺炎、胸部外傷、慢性閉塞性肺疾患、等
    【算定日数の上限】
    心大血管疾患リハビリテーション料・・・・・・150日以内
    脳血管疾患等リハビリテーション料・・・・・・180日以内
    廃用症候群リハビリテーション料・・・・・・・・120日以内
    運動器リハビリテーション料・・・・・・・・・・・・150日以内
    呼吸器リハビリテーション料・・・・・・・・・・・・・90日以内
    
    なお、算定日数の上限を超えたものについては選定療養として実施可能です。

2 リハビリテーション総合計画評価料

リハビリテーション総合計画評価料は、定期的な医師の診察及び運動機能検査又は作業能力検査等の結果に基づき医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、社会福祉士等の多職種が共同してリハビリテーション総合実施計画書を作成し、これに基づいて行ったリハビリテーションの効果、実施方法等について共同して評価を行った場合に算定できます。また、医師及びその他の従事者は、共同してリハビリテーション総合実施計画書を作成し、その内容を患者に説明の上交付すると共に、その写しを診療録等に添付します。

(1) 「リハビリテーション総合計画評価料1」の対象

心大血管疾患リハビリテーション料(Ⅰ)、呼吸器リハビリテーション料(Ⅰ)、がん患者リハビリテーション料又は認知症患者リハビリテーション料の算定患者並びに脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅰ)(Ⅱ)、廃用症候群リハビリテーション料(Ⅰ)(Ⅱ)又は運動器リハビリテーション料(Ⅰ)(Ⅱ)の算定患者のうち、介護保険のリハビリテーション事業所への移行が見込まれる患者以外の患者。

(2) 「リハビリテーション総合計画評価料2」の対象

脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅰ)(Ⅱ)、廃用症候群リハビリテーション料(Ⅰ)(Ⅱ)又は運動器リハビリテーション料(Ⅰ)(Ⅱ)の算定患者のうち、介護保険のリハビリテーション事業所への移行が見込まれる患者。

2 診療録(カルテ)への記載の留意事項

  1. リハビリテーションの実施に当たっては、機能訓練の内容の要点及び実施時刻(開始時刻と終了時刻)の記録を診療録等へ記載が必要です。また、適宜作成が必要な実施計画書については、医師が内容の説明を行うと共に診療録に添付します。
  2. 疾患別リハビリテーション料で標準的算定日数を超えて治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断され継続する場合は、入院中の要介護被保険者等の一部例外を除き、継続開始日を診療録に記載し、その日及びその後1月に1回以上機能的自立度評価法(FIM)を測定してリハビリテーションの必要性を判断すると共に、実施計画書を作成して写しを診療録に添付します。
  3. 1年に1回、当該疾患別リハビリテーション料を算定した患者の人数、FIM等について報告(様式42の2)を行うことになっています。
    【様式42の2】

3 診療報酬上の留意事項

1 在宅患者の場合

(1) 在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料

通院が困難な患者にリハビリテーションの必要を認め、理学療法士等を訪問させて患者の病状及び療養環境等を踏まえ療養上必要な指導を20分(1単位)以上行った場合で、医師の診療のあった日から1月以内に行われた場合(主たる訪問診療医から診療情報提供料(Ⅰ)で情報提供を受けた場合は提供元医の情報提供のための診察日から1月以内)に算定できます。この場合、指示内容の要点を診療録に記載する必要があります。

2 疾患別リハビリテーション

(1) 標準的算定日数

対象疾患及び標準的算定日数が定められているため、実施した場合は、診療報酬明細書(レセプト)の摘要欄に、疾患名及び当該疾患の治療開始日(心大血管疾患リハビリテーション料、呼吸器リハビリテーション料)又は発症日等(脳血管疾患等リハビリテーション料、廃用症候群リハビリテーション料、運動器リハビリテーション料)を記載することになっています。それぞれ治療開始日又は発症日等が標準的算定日数の起算日となります。「発症日等」は、発症、手術若しくは急性増悪又は最初に診断された日のことです。新たな疾患が発症し、新たに他の疾患別リハビリテーションを要する状態となった場合はその時点をもって起算とし、診療報酬明細書への記載も更新します。他の医療機関から診療情報提供書等にて依頼され発症日が判明している場合には、前医における発症日が標準算定日の起算日となることがあります。

(2) 標準的算定日数の上限の除外対象患者

標準的算定日数については除外対象患者が設定されていて、要件を満たせば期間を超えても算定可能です。また、それ以外でも必要な場合は1月13単位に限り算定できます。なお、患者が要望・選択した場合で施設内掲示や文書による同意等の要件を満たしている場合は選定療養として算定日数を超えての実施も可能ですが、徴収料金の定めや、実施状況を地方厚生局に報告する義務があります。

a)標準的算定日数上限の除外対象患者
下記の①から⑭の患者であって治療継続により改善が期待できると医学的に判断される場合。

※診療報酬明細書の摘要欄に、これまでの実施状況、患者の状態(以上は実施計画書添付でも可)、今後の見込み期間、具体的な状態等を示した継続理由の記載が必要。

  1. 失語症、失認及び失行症の患者
  2. 高次脳機能障害の患者
  3. 重度の頸髄損傷の患者
  4. 頭部外傷及び多部位外傷の患者
  5. 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者
  6. 心筋梗塞の患者
  7. 狭心症の患者
  8. 軸索断裂の状態にある末梢神経損傷(発症後1年以内のものに限る)の患者
  9. 外傷性の肩関節腱板損傷(受傷後180日以内のものに限る)の患者
  10. 回復期リハビリテーション病棟入院料又は特定機能病院リハビリテーション病棟入院料を算定する患者
  11. 回復期リハビリテーション病棟又は特定機能病院リハビリテーション病棟において在棟中に回復期リハビリテーション病棟入院料又は特定機能病院リハビリテーション病棟入院料を算定した患者であって、当該病棟を退棟した日から起算して3月以内の患者(保険医療機関に入院中の患者、介護老人保健施設又は介護医療院に入所する患者を除く)
  12. 難病患者リハビリテーション料に規定する患者(先天性又は進行性の神経・筋疾患の者を除く)
  13. 障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者(加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病の者に限る)
  14. その他、心大血管疾患リハビリテーション料・脳血管疾患等リハビリテーション料・運動器リハビリテーション料・呼吸器リハビリテーション料の対象患者又は廃用症候群リハビリテーション料の対象患者であって、リハビリテーションを継続して行うことが必要であると医学的に認められるもの

b)有効と医学的に判断される場合に除外対象となる患者

  1. 先天性又は進行性の神経・筋疾患の患者
  2. 障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者(加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病の者を除く)

(3) 算定単位数の上限

算定に当たっては、患者1人1日6単位が限度とされ、厚生労働大臣が定める患者(①回復期リハビリテーション病棟入院料又は特定機能病院リハビリテーション病棟入院料の算定患者(運動器リハビリテーション料を算定するものを除く)、②発症後60日以内の脳血管疾患等の患者、③入院中の患者であって、その入院する病棟等において早期歩行、ADLの自立等を目的として心大血管疾患リハビリテーション料(Ⅰ)、脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅰ)、廃用症候群リハビリテーション料(Ⅰ)、運動器リハビリテーション料(Ⅰ)又は呼吸器リハビリテーション料(Ⅰ)を算定するもの)については、患者1人1日9単位が限度です。さらに心大血管疾患リハビリテーション料を除き、1対1の個別実施が要件とされ、従事者1人につき1日18単位が標準(上限1日24単位)、週108単位までとされています。

3 介護保険との関係

  1. 要介護被保険者等(要介護・要支援)の患者については、外来での疾患別リハビリテーションで標準的算定日数超えの場合は、原則介護保険が適用されます(入院中は脳血管疾患等、廃用症候群及び運動器リハビリテーション料は逓減点数で算定できます)。そのため、介護保険によるリハビリテーションの適用が妥当であるかについて適切に評価し、患者の希望に基づき、介護保険によるリハビリテーションサービスを受けるために必要な支援を行います。
  2. 脳血管疾患等、廃用症候群及び運動器リハビリテーション料を算定中の要介護被保険者等に対し、医師等多職種が患者と共同して介護保険のリハビリテーションへの移行の是非を検討・管理した場合、3月に1回「目標設定等支援・管理料」を算定できます(算定がない場合、当該患者の算定点数は逓減対象となります)。
  3. 介護保険による訪問リハビリテーション事業所に対し、訪問リハビリテーション指示書を作成した場合は、事業所の経営主体が病院、診療所等の医療機関であった場合には「診療情報提供料(Ⅰ)」を、それ以外の事業所の場合は「訪問看護指示書」を作成します。

4 令和6年度診療報酬改定における、新規・改定項目

「主な改定項目」

疾患別リハビリテーション料について、リハビリテーションを実施した職種ごとの区分が新設されました。

【脳血管疾患等リハビリテーション料】

1 脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅰ)(1単位)
 イ 理学療法士による場合  245点
 ロ 作業療法士による場合  245点
 ハ 言語聴覚士による場合  245点
 ニ 医師による場合     245点
2 脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅱ)(1単位)
 イ 理学療法士による場合  200点
 ロ 作業療法士による場合  200点
 ハ 言語聴覚士による場合  200点
 ニ 医師による場合     200点
3 脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅲ)(1単位)
 イ 理学療法士による場合  100点
 ロ 作業療法士による場合  100点
 ハ 言語聴覚士による場合  100点
 ニ 医師による場合     100点
 ホ イからニまで以外の場合 100点

【廃用症候群リハビリテーション料】

1 廃用症候群リハビリテーション料(Ⅰ)(1単位)
 イ 理学療法士による場合  180点
 ロ 作業療法士による場合  180点
 ハ 言語聴覚士による場合  180点
 ニ 医師による場合     180点
2 廃用症候群リハビリテーション料(Ⅱ)(1単位)
 イ 理学療法士による場合  146点
 ロ 作業療法士による場合  146点
 ハ 言語聴覚士による場合  146点
 ニ 医師による場合     146点
3 廃用症候群リハビリテーション料(Ⅲ)(1単位)
 イ 理学療法士による場合   77点
 ロ 作業療法士による場合   77点
 ハ 言語聴覚士による場合   77点
 ニ 医師による場合      77点
 ホ イからニまで以外の場合  77点

【運動器リハビリテーション料】

1 運動器リハビリテーション料(Ⅰ)(1単位)
 イ 理学療法士による場合   85点
 ロ 作業療法士による場合  185点
 ハ 医師による場合     185点
2 運動器リハビリテーション料(Ⅱ)(1単位)
 イ 理学療法士による場合  170点
 ロ 作業療法士による場合  170点
 ハ 医師による場合     170点
3 運動器リハビリテーション料(Ⅲ)(1単位)
 イ 理学療法士による場合   85点
 ロ 作業療法士による場合   85点
 ハ 医師による場合      85点
 ニ イからハまで以外の場合  85点

リハビリテーションについては、疾患別にそれぞれ専門領域があることと、介護保険との関係で要介護被保険者等に対し、介護保険のリハビリテーションへの移行の是非を検討・管理する「目標設定等支援・管理料」を算定することなど、医療・介護の両保険制度の理解が必要となります。

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