新規開業医のための保険診療の要点(総論)
序文
国民の誰もが一定の自己負担により本当に必要とされる医療が受けられる国民皆保険制度”が1961年に確立されてから60年余りが過ぎました。この間、時代の変化に合わせて保険制度の変革を重ねて来た結果、極めて高い保健医療水準を実現しました。
その成果として我が国は世界最高レベルの平均寿命を達成し、今や“人生100年時代”を迎えようとしています。人口構成の経時変化を概観すると、2025年には“団塊の世代”が全て後期高齢者となり、さらに2040年頃には“団塊ジュニア世代”が高齢者(65歳以上)となることで高齢化がピークを迎えることが明確に分かります。またこれと並行して、現役世代(生産年齢人口)が急激に減少していくことも予想されています。
こうした人口構成の変化に伴って急増する社会保障費を抑制する対策として国民医療費を一定水準にとどめるための政策が継続して行われており、その結果我が国の医療を取り巻く環境は大変厳しいものとなっています。しかしながら、国民皆保険制度は国民の健康と生命の維持に重要かつ不可欠な社会基盤であり、今後もこれを堅持していくことが国民の一致する願いであると確信します。
こうした国民皆保険制度の下、公的保険の保険者から医療機関に支払われる医療行為の対価が診療報酬です。我が国では個々の診療行為についてそれぞれ点数を設定し、それを積み上げて診療報酬を算出する“出来高払い制度”を基本とした医療保険制度を発展させてきました。こうして育ててきた医療保険制度を発展・維持していくために、我々医療者は本制度を十分に理解した上で、正しく運用していくことが求められています。
本書は、新規開業される医師の皆様が保険診療の仕組みやルールを習得し、日常の診療で活用していただくことを目的として新たに作成されました。
また、すでに地域医療の担い手として活躍されている先生方にも本書をご一読いただき、適正な保険診療の一助としていただければ幸いと存じます。
令和4年3月
公益社団法人東京都医師会
会長 尾﨑治夫