新規開業医のための保険診療の要点(各論)
[1-5] リハビリテーション
<はじめに>
リハビリテーションは、実用的な日常生活における諸活動の実現を目的として行われるもので、理学療法、作業療法、言語聴覚療法等の治療法より構成されています。
リハビリテーションの実施、保険請求にあたっては、多くの規定が設定されていますので、以下の記載を十分に確認していただきたいと思います。
I 各種法令における留意事項
医師法第20条には「医師は、自ら診察しないで治療をしてはならない。」とあり、これを踏まえ、保険診療ではリハビリテーションを行う際には毎回医師の診察を伴うことが原則とされています。ただし、疾患別リハビリテーション※1の実施に関し、理学療法士等が患者の状態を観察し、必要に応じ医師が診察する「外来リハビリテーション診療料」(医学管理料)は初診料や再診料等が包括され、1については、算定してから7日間、2については14日間に1回に限り算定出来ます。
※1 心大血管疾患リハビリテーション料、脳血管疾患等リハビリテーション料、廃用症候群リハビリテーション料、運動器リハビリテーション料、呼吸器リハビリテーション料をまとめて「疾患別リハビリテーション料」といいます。
療養担当規則には「リハビリテーションは、必要があると認められる場合に行う。」とあります。これに関連して点数表の通則に「リハビリテーションは、適切な計画の下に行われるものであり、その効果を定期的に評価し、それに基づき計画を見直しつつ実施されるものである。」とされていて、具体的には算定上の留意事項の通則に、「疾患別リハビリテーションの実施にあたっては、医師は定期的な機能検査等をもとに効果判定を行い、リハビリテーション実施計画書をリハビリテーション開始後原則として7日以内、遅くとも14日以内に作成、また3月に1回以上患者又はその家族等に内容を説明の上交付とともに、写しを診療録に添付すること。なお、リハビリテーション実施計画書の作成前に実施する場合には、医師が自ら実施又は医師の具体的指示が必要。」とされています。
疾患別、がん患者、認知症リハビリテーションでは、患者に対し個別に20分以上、訓練を行った場合「1単位」として点数を算定でき、訓練時間が1単位に満たない場合は基本診療料に含まれます。また各々のリハビリテーションには対象疾患や標準的算定日数等が設定されています(表1)。
その他、リハビリテーション料の多くは人員配置も含んだ施設基準が規定されていて(表2)、配置職員等基準を満たさなくなった時には、その月中に速やかに変更の届出を行い、翌月から変更後の条件で算定することになります。
II 診療録(カルテ)への記載の留意事項
- リハビリテーションの実施にあたっては機能訓練の内容の要点及び実施時刻(開始時刻と終了時刻)の記録を診療録等へ記載することが必要です。また、適宜作成が必要な実施計画書については作成、内容の説明を行うとともに、診療録に添付することとされています。
- 疾患別リハビリテーション料で標準的算定日数を超えて治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断され継続する場合は、入院中の要介護被保険者等の一部例外を除き、継続開始日を診療録に記載し、その日及びその後1月に1回以上機能的自立度評価法(FIM)を測定しリハビリテーションの必要性を判断するとともに、実施計画書を作成し写しを診療録に添付します。さらに1年に1回当該疾患別リハビリテーション料を算定した患者の人数、FIM等について報告(様式42の2)を行うことになっています。
- その他、診療録に記載や添付が必要なものを以下に記します。
- リハビリテーション計画提供料2を算定する場合は退院後、外来でリハビリを行う他の保険医療機関に提供した文書の写し。
- 目標設定等支援・管理料では、目標設定等支援・管理シートの写しの添付と医師の説明に対する患者等の受け止め方、反応を記載。
- 摂食機能療法では、治療開始日、毎回の訓練内容、開始時間・終了時間の記載、また摂食嚥下支援加算の算定に当たっては摂食嚥下支援計画書の写しを添付と見直しの場合はその内容を記載。
- 視能訓練では診療計画を記載または添付。
- 障害児(者)リハビリテーション料、及びがん患者リハビリテーション料はリハビリ実施計画の要点を記載または添付。
- 集団コミュニケーション療法料は、実施計画の内容の要点を記載または添付。
III 傷病名付与の留意事項
リハビリテーションの点数を算定するには、それぞれ適応疾患が定められていますので、傷病名はリハビリテーション対象疾患名またはリハビリテーションが必要となった原疾患名の付与が必要ですが、後者の場合は関連性を示すため詳記が必要な場合もあります。
IV 診療報酬上の留意事項
1 在宅患者の場合
- 在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料
通院の困難な患者にリハビリテーションの必要を認め、理学療法士等を訪問させて、患者の病状及び療養環境等を踏まえ療養上必要な指導を20分(1単位)以上行った場合で、医師の診療のあった日から1月以内に行われた場合(主たる訪問診療医から診療情報提供料(I)で情報提供を受けた場合は提供元医の情報提供のための診察日から1月以内)に算定できます。この場合、指示内容の要点を診療録に記載する必要があります。
2 疾患別リハビリテーション
- リハビリテーションを実施する場合は、レセプトの摘要欄に、疾患名及び当該疾患の治療開始日(心大血管疾患リハビリテーション料、呼吸器リハビリテーション料)又は発症日等(脳血管疾患等リハビリテーション料、廃用症候群リハビリテーション料、運動器リハビリテーション料)を記載することになっていて、それぞれの疾患別リハビリテーション料の算定においては、治療開始日、発症日等が標準的算定日数の起算となります。
後者の「発症日等」は、発症、手術若しくは急性増悪又は最初に診断された日とされていますので、新たな疾患が発症、手術日又は急性増悪の場合には、その時点をもって起算とし、レセプトの記載も更新します。他の医療機関から診療情報提供書等にて依頼され発症日が判明している場合には、前医における発症日が標準算定日の起算日となることがありますので注意が必要です。 - 標準的算定日数には除外対象患者※2が設定されていて、要件を満たせば期間を超えても算定可能です。また、それ以外でも必要な場合は1月13単位に限り算定できます。また、患者が要望・選択した場合で施設内掲示や文書による同意等の要件を満たしている場合は選定療養としての実施も可能ですが、徴収料金の定めや、実施状況は厚生局に報告する義務があります。
※2《標準的算定日数上限の除外対象患者》
- 治療継続により改善が期待できると医学的に判断される場合(レセプト適応欄にこれまでの実施状況、患者の状態(以上実施計画書添付でも可)、今後の見込み期間、具体的な状態等を示した継続の理由の記載が必要)
- 失語症、失認及び失行症の患者
- 高次脳機能障害の患者
- 重度の頸髄損傷の患者
- 頭部外傷及び多部位外傷の患者
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者
- 心筋梗塞の患者
- 狭心症の患者
- 軸索断裂の状態にある末梢神経損傷(発症後1年以内のものに限る)の患者
- 外傷性の肩関節腱板損傷(受傷後180日以内のものに限る)の患者
- 回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者
- 回復期リハビリテーション病棟において在棟中に回復期リハビリテーション病棟入院料を算定した患者であって、当該病棟を退棟した日から起算して3月以内の患者(保険医療機関に入院中の患者、介護老人保健施設または介護医療院に入所する患者をのぞく)
- 難病患者リハビリテーション料に規定する患者(先天性又は進行性の神経・筋疾患の者を除く)
- 障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者(加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病の者に限る)
- その他、リハビリテーションを継続することにより改善が期待される患者
- 有効と医学的に判断される場合に除外対象となる患者
- 先天性又は進行性の神経・筋疾患の患者
- 障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者(加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病の者を除く)
- 治療継続により改善が期待できると医学的に判断される場合(レセプト適応欄にこれまでの実施状況、患者の状態(以上実施計画書添付でも可)、今後の見込み期間、具体的な状態等を示した継続の理由の記載が必要)
- 鋼線等による直達牽引、介達牽引、矯正固定、変形機械矯正術、消炎鎮痛等処置、腰部又は胸部固定帯固定、低出力レーザー照射、肛門処置等の処置料は、疾患別リハビリテーション料、がん患者リハビリテーション料、集団コミュニケーション療法、認知症患者リハビリテーション料の所定点数に含まれ、併算定できません。また、慢性疼痛疾患管理料と疾患別リハビリテーション料との併算定もできませんのでご注意ください。
- 算定に当たっては、厚生労働大臣が定める場合(①回復期リハビリテーション病棟入院料の算定患者、②発症後60日以内の脳血管疾患等の患者)を除き、患者1人1日6単位が限度とされ、さらに心大血管疾患リハビリテーション料を除き、1対1の個別実施が要件とされ、従事者1人につき1日18単位が標準(上限1日24単位)、週108単位までとされています。
3 介護保険との関係
- 要介護・要支援の患者の外来での疾患別リハビリテーションで標準算定日数超えの場合は、原則介護保険が適用されます(入院中は脳血管疾患等、廃用症候群および運動器リハビリテーション料は逓減点数で算定できます)ので、介護保険によるリハビリテーションの適用があるかについて、適切に評価し患者の希望に基づき、介護保険によるリハビリテーションサービスを受けるために必要な支援を行うことになっています。
- 脳血管疾患等、廃用症候群および運動器リハビリテーション料を算定中の要介護被保険者等に対し、医師等多職種が患者と共同して介護保険のリハビリテーションへの移行の是非を検討・管理した場合、3月に1回「目標設定等支援・管理料」が算定できます(算定がない場合、当該患者の算定点数は逓減対象となります)。また、同患者で介護リハビリテーションの利用を予定しているものに対し、本人等の同意を得て、当該指定リハビリテーション事業所に文書によりリハビリテーションの計画を提供した場合にリハビリテーション計画提供料1が算定できます。
- 介護保険による訪問リハビリテーション事業所に対し、訪問リハビリ指示書を作成した場合は、事業所の経営主体が病院、診療所等の医療機関であった場合には、診療情報提供料(I)を、それ以外の事業所の場合は、訪問看護指示書を作成します。
V 令和4年度診療報酬改定における、新規・改定項目
「主な改定項目」
外来で疾患別リハビリテーションを算定の場合に当該保険医療機関における診療報酬の請求状況、診療の内容に関するデータを継続して厚生労働省に提出を行うことにより、リハビリテーションデータ提出加算が算定可能(届出要)となりましたが、開始時期は令和5年10月以降の予定で、現時点(令和4年6月)では算定できません。
VI その他
<おわりに>
リハビリテーションについては、項目によりそれぞれ専門領域があり、全てを網羅出来ていませんが、疾患別リハビリテーションを中心にまとめてみました。
それぞれの専門科での確認もよろしくお願いいたします。
リハビリテーション名 | 標準的算定日数 | 対象疾患 |
---|---|---|
心大血管疾患 リハビリテーション料 |
150日 |
|
脳血管疾患等 リハビリテーション料 |
180日 |
|
廃用症候群 リハビリテーション料 |
120日 | 急性疾患等に伴う安静による廃用症候群の患者であって、一定程度以上の基本動作能力、応用動作能力、言語聴覚能力及び日常生活能力の低下を来しているもの。 |
運動器 リハビリテーション料 |
150日 |
|
呼吸器 リハビリテーション料 |
90日 |
|
難病患者 リハビリテーション料 |
ー | ベーチェット病、多発性硬化症、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、スモン、筋萎縮性側索硬化症、強皮症、皮膚筋炎および多発性筋炎、結節性動脈硬化症、ビュルガー病、脊髄小脳変性症、悪性関節リウマチ、パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病)、アミロイドーシス、後縦靭帯骨化症、ハンチントン病、もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)、ウェゲナー肉芽腫症、多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群)、広範脊柱管狭窄症、特発性大腿骨頭壊死症、混合性結合組織病、プリオン病、ギラン・バレー症候群、黄色靭帯骨化症、シェーグレン症候群、成人発症スチル病、関節リウマチ、亜急性硬化性全脳炎。 |
障害児(者) リハビリテーション料 |
ー | 脳性麻痺、脳形成不全、小頭症、水頭症、奇形症候症、二分脊椎等、顎・口腔の先天異常、先天性切断、先天性多発性関節拘縮症、先天性神経代謝異常症、大脳白質変性症、脊髄小脳変性症、シャルコーマリートゥース病、進行性筋ジストロフィー症、低酸素性脳症、頭部外傷、溺水、脳炎・脳症・髄膜炎、脊髄損傷、脳脊髄腫瘍による後遺症、広汎性発達障害、注意欠陥多動性障害、学習障害等。 |
がん患者 リハビリテーション料 |
ー |
|
認知症患者 リハビリテーション料 |
ー | 重度認知症の状態にある患者 |
リハビリテーション 名 |
医師 ※1 |
療法士 全体 |
理学 療法士 ※2 |
作業 療法士 ※2 |
言語 聴覚士 ※2※3 |
専有面積 (内法による) |
器械 器具 |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
心大血管疾患 リハビリテーション料 |
(I) | 循環器科又は心臓血管外科の医師が実施時間帯に常時勤務 専任常勤1名以上 |
ー | 専従常勤PT及び専従常勤看護師合わせて2名以上等 | 必要に応じて配置 | ー | 病院30㎡以上 診療所20㎡以上 |
要 | |
(II) | 実施時間帯に上記の医師及び経験を有する医師(いずれも非常勤を含む)1名以上勤務 | 専従のPT又は看護師いずれか1名以上 | |||||||
脳血管疾患等 リハビリテーション料 廃用症候群 リハビリテーション料 |
(I) | 専任常勤2名以上※4 1名は経験有+研修修了 |
専従従事者合計 10名以上※4 |
専従常勤 5名以上※4 |
専従常勤 3名以上※4 |
(言語聴覚療法を
行う場合) 専従常勤 1名以上※4 |
160㎡以上※4 | (言語聴覚療法を行う場合) 専用室 (8㎡以上) 1室以上 |
要 |
(II) | 専任常勤1名以上 | 専従従事者合計 5名以上※4 |
専従常勤 1名以上 |
専従常勤 1名以上 |
病院100㎡以上 診療所45㎡以上 |
||||
(III) | 専従の常勤PT※5、常勤OT又は常勤STのいずれか1名以上 | 病院100㎡以上 診療所45㎡以上 |
|||||||
運動器 リハビリテーション料 |
(I) | 経験を有する専任常勤1名以上 | 専従常勤PT又は専従常勤OT合わせて4名以上 | ー | 病院100㎡以上診療所45㎡以上 | 要 | |||
(II) | 専従常勤PT2名又は専従常勤OT2名以上あるいは 専従常勤PT及び専従常勤OT合わせて2名以上※5 |
||||||||
(III) | 専任常勤1名以上 | 専従常勤PT又は専従常勤OT1名以上※5 | 45㎡以上 | ||||||
呼吸器 リハビリテーション料 |
(I) | 経験を有する専任常勤1名以上 | 専従常勤PT1名を含む常勤PT、常勤OT 又は常勤ST合わせて2名以上 |
ー | 病院100㎡以上 診療所45㎡以上 |
要 | |||
(II) | 専任常勤1名以上 | 専従常勤PT、専従常勤OT又は常勤ST1名以上 | 45㎡以上 | ||||||
難病患者 リハビリテーション料 |
専任常勤1名以上 | 専従常勤PT、専従常勤OT又は常勤ST1名以上及び専従看護師1名以上 | 60㎡以上 1人当たり4㎡以上 |
要 | |||||
障害児(者) リハビリテーション料 |
専任常勤1名以上 | 専従常勤PT又は専従常勤OT2名以上 1名は経験を有する専従の常勤看護師でも可 |
ー | 病院60㎡以上 診療所45㎡以上 |
要 | ||||
がん患者 リハビリテーション料 |
経験を有し研修修了の専任常勤1名以上 | 研修修了の専従常勤PT、専従常勤OT又は常勤ST2名以上 | 100㎡以上 | 要 | |||||
認知症患者 リハビリテーション料 |
経験有又は研修修了の専任常勤1名以上 | 専従常勤PT、専従常勤OT又は常勤ST1名以上 | ー | ー |
- ※1 常勤医師は、週3日以上かつ週22時間以上の勤務を行っている複数の非常勤医師を組み合わせた常勤換算でも配置可能
- ※2 常勤PT・常勤OT・常勤STは、週3日以上かつ週22時間以上の勤務を行っている複数の非常勤職員を組み合わせた常勤換算でも配置可能(ただし、2名以上の常勤職員が要件のものについて、常勤職員が配置されていることとみなすことができるのは、一定の人数まで)
- ※3 言語聴覚士については、各項目で兼任可能
- ※4 脳血管疾患等リハビリテーション料(I)において、言語聴覚療法のみを実施する場合は、上記規定によらず、以下を満たす場合に算定可能
○医師:専任常勤1名以上 ○専従常勤ST3名以上(2の適用あり) ○専用室及び器械・器具の具備あり
また、脳血管疾患等リハビリテーション料(II)について、言語聴覚療法のみを実施する場合、以下を満たす場合に算定可能
○医師:専任常勤1名以上 ○専従常勤ST2名以上(2の適用あり) ○専用室及び器械・器具の具備あり - ※5 適切な研修を修了したマッサージ師等が医師PTの管理下で施行の場合は(III)の点数が算定できる