開業医のための保険診療の要点

開業医のための保険診療の要点(II. 診療科別の基礎知識)

[5] 皮膚科

主として皮膚科関連の保険診療に関する決まりごとについてお話させていただきます。とくに、皮膚科関係の診療に関する診療報酬の請求につき、理解していただきたいこと、守っていただきたいことに関して解説したいと存じます。皮膚科を主科とする先生はもちろんのこと、皮膚科以外の先生が皮膚科関連疾患に対して診療をする場合にも大いに役立つと考えます。

1 各種法令における留意事項

(※以下、令和6年度 厚生労働省発行「保険診療の理解のために」より抜粋
  1. 保険診療は、健康保険法等の各法に基づく、保険者と保険医療機関との間の「公法上の契約」に基づいている。
  2. 保険医療機関は、健康保険法等で規定されている保険診療のルール(契約の内容)に従って、療養の給付及び費用の請求を行う必要がある。
  3. 保険医は、保険診療のルールに従って、療養の給付を実施する必要がある。
    健康保険法第72条によれば、「保険医療機関において診療に従事する保険医は、厚生労働省令の定めるところにより、健康保険の診療に当たらなければならない」とあります。すなわち、医療機関が保険診療を行う限りは、ここでいう厚生労働省令=「保険医療機関及び保険医療養担当規則」を遵守した診療を行わなければなりません。
    言いかえれば、保険診療をする以上は、保険のルールに従う必要があるということです。故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったり、重大な過失により不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったりした場合は、保険医登録・保険医療機関指定の取消処分となることもあります。
    保険診療として診療報酬が支払われるには、次の条件を満たさなければならない、とあります。その条件とは、以下になります。
    1 保険医が
    2 保険医療機関において
    3 健康保険法、医師法、医療法、医薬品医療機器等法の各種関係法令の規定を遵守し
    4 『保険医療機関及び保険医療養担当規則』の規定を遵守し
    5 療養上妥当適切な診療を行い
    6 保険医療機関が診療報酬点数表に定められた通りに請求を行っていること。

2 診療録(カルテ)への記載の留意事項

診療の都度、医学的に妥当適切な傷病名を診療録に記載してください。慢性・急性の区別、部位、範囲(大きさ)、左・右の区別を必ず記載します。部位・左右の記載に関しては、特に皮膚科軟膏処置、熱傷処置、いぼ等冷凍凝固処置では、皮疹の部位及び範囲によりレセプト上の点数に差がありますので、必ず記載してください。記載がない場合は、最小範囲とみなさざるを得ず、査定ないし減点される場合があります。いぼ等の処置も、適切な記載がなければ、3か所以下と判断されます。手術に関しては、腫瘍の大きさ、露出部か否かの判断ができない場合、査定又は返戻されることがあります。また、良性・悪性の区別、さらにどの程度の手術をするべきかの判断ができない場合、やはり査定又は返戻されることがあります。請求時に、診断した具体的な腫瘍名・部位・できるだけ正確な大きさを必ず記載してください。昨今、皮膚腫瘍を摘出する際に腫瘍の具体的な大きさを記載せず、病理組織提出時にも腫瘍の大きさが分からない状態に分断している症例が散見されます。これらはやはり不適切として、査定、又は返戻されることがあります。
不適切な具体例:皮膚科軟膏処置155点、あるいは85点が請求されているが、部位の記載がなく処置に使用した軟膏の量の記載もない→返戻、あるいは55点に減点。

3 傷病名付与の留意事項

(1) 疑い病名

疑いだけの場合は処方した薬剤は査定、検査は返戻・査定されることがあり、診断がついた時点で確定病名に変更する必要があります。
不適切な具体例:「アトピー性皮膚炎の疑い」の病名で、デルゴシチニブ軟膏を処方、又は血中TARCを測定。「皮膚悪性腫瘍の疑い」で、皮膚悪性腫瘍摘出術を行う。→共に査定されます。

(2) いわゆるレセプト病名

保険適用外の診療行為を保険請求するために、レセプト作成のためのみに用いられる、実体のない架空の傷病名を用いてレセプトを作成することは不適切な請求です。保険適用であっても、一連ないし初診時のみ請求できるものに対し部位・病名を変えて請求することも、査定逃れのために意図的に毎回異なる疾患名や部位を記載することも、同様に不適切です。
不適切な具体例:扁平母斑のレーザー治療で、所定の治療回数が終了しているにもかかわらず、保険請求のために微妙に部位名をずらして新規病名としてつけ直し、保険請求する。ダーモスコピー請求の際、同一の腫瘍病変に対して、微妙に病名や部位を書き換えて連月で請求する。→共に査定されます。

4 診療報酬上の留意事項

(1) 薬剤

  1. 薬剤には、それぞれ決められた用法・用量があり、承認された医療保険適応があるので、適切な使用をしましょう。保険適応の確認は、各薬剤の添付文書でご参照ください。
  2. 保湿薬は、皮膚の乾燥を伴う疾患に適応があり、乾燥症状が考えられない疾患に使用した場合は査定対象となります。「湿疹」や「接触皮膚炎」「アレルギー性皮膚炎」などの病名では、認められません。また、保湿薬を処方するためのレセプト病名も、不適切です。ヘパリン類似物質含有外用剤などは保湿力が高いため、近年、化粧クリーム代わりにするために処方を求められる場合があります。これは社会問題にもなっており、もちろん認められません。
  3. 爪白癬に適応をもつ外用薬・内服薬の処方は、直接鏡検(KOH検査)又は白癬菌抗原定性検査をしていない場合、原則として認められません。培養検査を根拠に処方する場合は、培養検査日に処方するのは不可です。処方には、糸状菌を確実に証明した診断を必要とします。
    不適切な具体例:ホスラブコナゾールを処方するため、実際には検査せずに「爪白癬」の確定病名をつける(虚偽で「検査を行った」と記載した場合は、架空請求に当たります)。
  4. 痤瘡に適応のあるアダパレンやBPO製剤の11歳未満への処方については、10~11歳以上は場合により可ですが、詳記が求められます。幼稚園児や乳児などへの使用は認められません。

(2) 処置・手術

  1. 脂漏性角化症や尋常性疣贅などに対する冷凍凝固術では、単純な個数でなく、1回分の局麻範囲を1か所とカウントします。部位の正確な記載がないと、3か所以下とみなされます。
    不適切な具体例:右1指に集簇した4つの疣贅結節を認めたので、いぼなど冷凍凝固術の「4か所以上」を算定した。
  2. 鶏眼・胼胝処置は、同一部位について、その範囲にかかわらず月2回を限度として算定できます。尋常性疣贅や脂漏性角化症を削ったのちに冷凍凝固術をした場合、適応外であり併算定は認められません。
    不適切な具体例:手掌の尋常性疣贅をハサミで削ってから冷凍凝固術を施行したので、「いぼ等冷凍凝固術」に加え「胼胝処置」を併せて算定した。
  3. 手掌足底の棘など小異物除去は、局所麻酔を必要とする場合は「皮膚切開術(長径10㎝未満)」で請求します。画像検査が必要である複雑な異物除去で、「手掌、足底異物摘出術」にて算定する場合は症状詳記が必要です。
    不適切な具体例:手掌に刺さって迷入していた真っ直ぐな木の棘を、局所麻酔下に切開して除去し、「手掌、足底異物摘出術」を算定した。
  4. 「毛細血管拡張」のレセプト病名をつけての、酒さや赤ら顔に対して美容目的で色素レーザー治療を行うことは保険では認められていません。血管腫の色素レーザー治療の適応は、器質的な疾患です。美容目的の施術、酒さ・酒さ様皮膚炎などの炎症性疾患や、単なる目立つ血管への整容(美容)目的の照射は、想定されていません。これらでは、必ず自費で行うこと。
  5. 血管拡張性肉芽腫、老人性血管腫、静脈湖、単純縫合で摘除できるレベルの単純性血管腫や星芒状血管腫などの切除術を施行した場合には、「皮膚、皮下、粘膜下血管腫摘出術」は認められません。「皮膚、皮下腫瘍摘出術」で算定します。「皮膚、皮下、粘膜下血管腫摘出術」は、ただ単に病理学的な血管腫を摘除した場合ではなく、単純縫合や電気焼灼では止血不可能な、剥離や結紮などの血管操作を必要とする血管腫に対して適応となります。
  6. 無麻酔で「陥入爪手術」を算定した場合は、J001-7「爪甲除去(麻酔を要しないもの)」に査定、変更となります。
  7. 皮膚科軟膏処置の「処置範囲」と「軟膏量」は、整合性のある範囲と軟膏量にて算定してください。また、100㎠未満の皮膚科軟膏処置は基本診療料に含まれるものであり、皮膚科軟膏処置を算定することはできません。
    不適切な具体例:亀裂やびらんの多い手湿疹患者に対して、アズノール軟膏による軟膏処置を行った。薬をたくさん使用したので、「皮膚科処置(500~3,000㎠未満)、アズノール軟膏30g」を算定した。
  8. 「下肢創傷処置」の対象となる部位は、足部、足趾、又は踵です。下腿は、対象になっていません。また、糖尿病に伴う潰瘍、虚血性潰瘍や膠原病に伴う潰瘍などであることを前提としています。軟膏の外用や湿布の貼付のみの処置では算定できません。壊死組織除去などを行った場合に算定します。「深い潰瘍」とは、深さが腱・筋・骨・関節のいずれかに到達しているものをいい、いずれにも至っていないものは「浅い潰瘍」になります。
    これらの疾患では、治療が長期間にわたる場合や繰り返し潰瘍を生じる場合など、継続的な管理を必要としますので、管理料が算定できます。下肢創傷処置管理料(500点:月1回限り)は、下肢の潰瘍に対し継続的な管理を必要とする患者に対し、下肢創傷処置と併せて専門的な管理を行った場合に算定することができます。「整形外科、形成外科、皮膚科、外科、心臓血管外科又は循環器内科の診療に従事した経験を5年以上有し、下肢創傷処置に関する適切な研修を修了している常勤の医師が1名以上勤務していること」が施設要件です。下肢創傷処置に関する適切な研修には、一般社団法人日本フットケア・足病医学会「日本フットケア足病医学会認定師 講習会」のうち「Ver.2」が該当します。
    不適切な具体例:鬱滞性皮膚炎患者の下腿に発生した皮膚潰瘍に対して軟膏処置を行いドレッシングしたので、「下肢創傷処置」を算定した。

(3) 検査

  1. 「アレルギー性皮膚炎」という病名は、ICD10を根拠として、「アレルギー性接触皮膚炎」と解釈されます。アレルギー性接触皮膚炎はⅣ型反応であり、IgEは無関係です。従って、IgE検査はRIST、RAST共に不可であり、査定対象となります。
  2. ダーモスコピーには適応疾患があり、これらの確定病名若しくは疑い病名がない場合は、査定となります。継続診療の場合、4か月に1回だけ算定可能です。『円形脱毛症』では、脱毛箇所がいくつあっても、どれだけ広範囲でも、算定は1回です。
    不適切な具体例:「皮膚腫瘍」の病名をつけて、よく診断の分からない腫瘍にダーモスコピーを施行し、保険算定した。

(4) 医学管理料

  1. 皮膚科特定疾患指導管理料の算定
    初診料を算定する初診の日から1か月は算定できません。基本的に皮膚科を主標榜科目とするドクターが専任していなければ、算定できません。また、診療録に指導内容、治療計画の記載をするなどの要件を満たしていなければ、算定できません。診療録に、「いつ、どのような指導を行ったか」が具体的に記載されていることが、算定上の必須条件です。
    例えばアトピー性皮膚炎では、診療録に皮膚科特定疾患指導管理料Ⅱの記載があり、「保湿剤を定期的に外用する」、「入浴時にゴシゴシ擦らない」、「ダニ・ハウスダストにアレルギーがあるので、部屋の掃除をこまめにする」等の患者個人に合わせた指導内容が記載されていることが必要です。またアトピー性皮膚炎では、16歳以上の患者が対象となります。
    不適切な具体例:13歳のアトピー性皮膚炎患者に対して、指導管理料Ⅱを算定するために「脂漏性皮膚炎」の保険病名をつけた(虚偽の病名記載であり、架空請求に当たります)。

5 令和6年度診療報酬改定における、新規・改定項目

「主な改定項目」

以下に、皮膚科関連の主な変更・追加点を示します。

  1. 爪甲除去(麻酔を要しないもの)
    改定前60点→改定後70点に増点
  2. 皮膚レーザー照射療法 
    1 色素レーザー照射療法(一連につき)
      改定前2,170点→改定後2,712点に増点
  3. 創傷処理 
    3 筋肉、臓器に達するもの(長径10㎝以上)
     ロ その他のもの
       改定前2,690点→改定後3,090点に増点
  4. 小児創傷処理
    3 筋肉、臓器に達するもの(長径5㎝以上10㎝未満)
      改定前2,490点→改定後2,860点に増点
    4 筋肉、臓器に達するもの(長径10㎝以上)
      改定前3,840点→改定後4,410点に増点
  5. 皮膚切開術 
    3 長径20㎝以上
      改定前1,980点→改定後2,270点に増点
  6. デブリードマン 
    1 100㎠未満
      改定前1,410点→改定後1,620点に増点
  7. 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部) 
    3 長径4㎝以上
      改定前4,360点→改定後5,010点に増点
  8. 皮弁作成術、移動術、切断術、遷延皮弁術
    1 25㎠未満
      改定前4,510点→改定後5,180点に増点
  9. 四肢・躯幹軟部腫瘍摘出術
    1 肩、上腕、前腕、大腿、下腿、躯幹
      改定前7,390点→改定後8,490点に増点
  10. ひょう疽手術
    2 骨、関節のもの
      改定前1,280点→改定後1,470点に増点
  11. 【新設】慢性膿皮症手術
    1 単純なもの 4,820点 
    2 複雑なもの 8,320点
  12. 遺伝学的検査
    1 処理が容易なもの 3,880点:神経線維腫症(対象疾患追加)(注:要件あり、施設基準あり)
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