新規開業医のための保険診療の要点(各論)
[1-13] 放射線科・放射線診断科
<はじめに>
放射線科は「放射線診断」、「放射線治療」、「核医学」の大きく3つの分野に分かれますが、一般開業医に関係するのは放射線診断(画像診断)であるため、外来の画像診断に関する内容について記載させていただきます。
I 各種法令における留意事項
放射線科に関連する業務は、一般的な診療科と同様に医師法、医療法、健康保険法、薬機法等を準拠することの他、放射線障害防止法や労働安全衛生法における医療被ばく及び職業被ばくなどに留意する必要があります。
レントゲン撮影は医師または診療放射線技師が行うようにしてください。医師の指示の下でも看護師等が撮影をすると診療放射線技師法違反となり、一年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
また必ず患者ID、氏名、撮影年月日、撮影部位、撮影方法等を記載した照射録を作成してください。5年間の保存義務があります。
II 診療録(カルテ)への記載の留意事項
- 単純撮影(頭部、胸部、腹部又は頸椎)の写真診断について、診療録に診断内容の記載を十分に行なわなければなりません。
- コンピューター断層撮影(CT、MRI、他医撮影)について、診療録に診断内容の記載を十分に行なわなければなりません。
- 画像診断管理加算について、専ら画像診断を担当する常勤の医師が読影及び診断した結果について、文書により当該患者の診療を担当する医師に報告を必ず行なわなければなりません。
- 実施した画像診断の必要性、結果及び結果の評価について、診療録への記載をしっかり行なわなければなりません。
- 写真撮影又はコンピューター断層撮影について診断内容の記載を行なわなければなりません。
- 他医撮影のコンピューター断層診断について、診療録に診断内容の記載を行なわなければなりません。
- 診療放射線に係る安全管理体制面から、患者へ検査前に行う説明の内容と同意を得た旨をカルテに記載しなければなりません。
III 傷病名付与の留意事項
傷病名は診療録への必要記載事項であるので、正確に記載してください。
以下のような傷病名記載は不適切です。
- 医学的な診断根拠がない傷病名
- 医学的に妥当とは考えられない傷病名
- 実際には「疑い」の傷病名であるにもかかわらず、確定傷病名として記載している
- 実際には確定傷病名であるにもかかわらず、「疑い」の傷病名として記載している
- 急性・慢性、左右の別、部位、詳細な傷病名の記載がない傷病名
※レセプト作成のために撮影部位のコード入力が必要となるのと、また一連の撮影であるのか対側との比較であるのか等の判断の根拠になるので、必ず病名に撮影部位(四肢では左右両側も)を記載してください。
例)左変形性膝関節症、両側変形性膝関節症 - 単なる状態や傷病名ではない事項を傷病名欄に記載している。傷病名以外で診療報酬明細書に記載する必要のある事項については、摘要欄に記載するか、別に症状詳記(病状説明)を作成し診療報酬明細書に添付してください。
IV 診療報酬上の留意事項
<特掲診療料>
1 医学管理料
- 診療情報提供料(I)
施設基準*1に適合しているものとして届け出た保険医療機関が、患者の紹介を行う際に、検査結果、画像情報、画像診断の所見、投薬内容、退院時要約等の診療記録のうち主要なものについて、他の医療機関に対し、電子的方法により閲覧可能な形式で提供した場合、又は電子的に送受される診療情報提供書に添付した場合に、検査・画像情報提供加算として次に掲げる点数をそれぞれの所定点数に加算する。
ロ 入院中の患者以外の患者について必要な情報を提供した場合 30点 - 電子的診療情報評価料 30点
施設基準*1に適合しているものとして届け出た保険医療機関が、別の保険医療機関から診療情報提供書の提供を受けた患者に係る検査結果、画像情報、画像診断の所見、投薬内容、注射内容、退院時要約等の診療記録のうち主要なものについて、電子的方法により閲覧又は受信し、当該患者の診療に活用した場合に算定する。
施設基準*1
- 他の保険医療機関等と連携し、患者の医療情報に関する電子的な送受が可能なネットワークを構築していること
- 他の保険医療機関と標準的な方法により安全に情報の共有を行う体制が具備されていること
※いずれの加算も、別の保険医療機関より、検査結果等をCD-ROMで提供された保険医療機関が、当該検査結果等を当該医療機関の医療情報を閲覧するシステムに取り込み、当該検査結果等を診療に活用した場合は算定できません。
2 画像診断
画像診断は医学的根拠が必要です。
- 段階を踏んで画像診断を行う
- 実施回数は必要以上に行わない
- 左右、部位の一致等、傷病名と画像診断内容を一致させる
- コンピューター断層撮影について、医学的根拠が必要
- 画像診断管理加算1及び2について、画像診断を専ら担当する常勤医師が退職に伴い交代している場合には必ず、その届出がなされること
- 通則3
時間外緊急院内画像診断加算
入院外の患者に、緊急のために診療時間外、休日、深夜において撮影及び画像診断を行った場合に1日につき110点を加算できます。 - 通則4
画像診断管理加算1
施設基準*2を満たす場合、画像診断管理加算1として月1回70点を加算できます。(画像診断管理加算2、3は病院が対象のため省略) - 通則6
遠隔画像診断による画像診断
施設基準に適合した保険医療機関間で行われた場合に算定できるが、送信側は施設の整った離島等の医療機関であり、受信側は高度医療を提供する病院であるため外来のクリニックには適応はないと思われます。
施設基準*2
- 放射線科を標榜している保険医療機関であること
- 画像診断を専ら担当する常勤の医師(専ら画像診断を担当した経験を10年以上有するもの又は当該療養について関係学会から示されている2年以上の所定の研修(専ら放射線診断に関するものとし、画像診断、Interventional Radiology(IVR)及び核医学に関する事項を全て含むものであること。)を修了し、その旨が登録されている医師に限る。)が1名以上配置されていること。なお、画像診断を専ら担当する医師とは、勤務時間の大部分において画像情報の撮影又は読影に携わっている者をいう
- 画像診断管理を行うにつき十分な体制が整備されていること
- 当該保険医療機関以外の施設に読影又は診断を委託していないこと
- 電子的方法によって、個々の患者の診療に関する情報等を送受信する場合は、端末の管理や情報機器の設定等を含め、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を遵守し、安全な通信環境を確保していること
3 エックス線診断料
- 通則1:エックス線診断の費用はE000透視診断もしくはE001写真診断の所定点数を合算した点数により算定する。
- 通則2:同一部位につき、同時に2以上のエックス線撮影を行った場合における写真診断の費用は、写真診断の各所定点数の100分の50に相当する点数により算定する。
- 通則3:同一部位につき、第2枚目から第5枚目までの写真診断及び撮影の費目以後の写真診断及び撮影については算定しない。
※要するに6枚以上撮影しても5枚撮影したときと同じ点数になります。ただアナログ撮影の場合は使用フィルム代を請求できますが、デジタルの場合は電子画像管理加算1回の算定になります。
- 通則4:撮影した画像を電子化して管理及び保存した場合においては、電子画像管理加算として、前3号までにより算定した点数に、一連の撮影について次の点数を加算する。ただし、この場合において、フィルムの費用は、算定できない。
- 単純撮影の場合 57点
- 特殊撮影の場合 58点
- 造影剤使用撮影の場合 66点
- 乳房撮影の場合 54点
- 写真診断
- 単純撮影
イ 頭部、胸部、腹部又は脊椎 85点
ロ その他 43点 - 特殊撮影(一連につき) 96点
- 造影剤使用撮影 72点
- 乳房撮影(一連につき) 306点
- 単純撮影
- 撮影
- 単純撮影
ア アナログ撮影 60点
イ デジタル撮影 68点 - 特殊撮影(一連につき)
ア アナログ撮影 260点
イ デジタル撮影 270点 - 造影剤使用撮影
イ アナログ撮影 144点
ロ デジタル撮影 154点 - 乳房撮影(一連につき)
ア アナログ撮影 192点
イ デジタル撮影 202点
- 単純撮影
-
新生児加算(生後27日目まで) 100分の80加算
乳幼児加算(生後28日目から3歳未満) 100分の50加算
幼児加算(3歳以上6歳未満) 100分の30加算
エックス線診断料 | |||||
---|---|---|---|---|---|
デジタル撮影 | 診断料 | 撮影料 | 電子画像管理加算 | ||
フィルムなし | フィルムあり | ||||
単純撮影 | 頭部・胸部・腹部・脊椎 | 85 | 68 | 57 | フィルム料 または 電子画像管理加算 |
その他 | 43 | 68 | 57 | ||
特殊撮影 | 96 | 270 | 58 | ||
造影剤使用撮影 | 72 | 154 | 66 |
乳房撮影 | ||
---|---|---|
写真診断 | 306点 | |
撮影料 | アナログ | 192点 |
デジタル | 202点 | |
フィルム料 | フィルム料 | |
電子画像管理加算 | 54点(デジタル撮影) | |
画像診断管理加算1 | 70点 |
<乳房撮影算定要件>
撮影専用の機器(マンモグラフィー)を用いて、原則として両側の乳房に対し、それぞれ2方向以上の撮影を行うものをいい、両側について一連として算定します。
乳房撮影は写真診断が306点、撮影料はアナログの場合192点を合わせ498点が、デジタルの場合202点を合わせ508点が一連につき算定できます。
アナログ撮影の場合はフィルム料を、デジタル撮影の場合は電子画像管理加算54点のみを加算します。
* 単純エックス線撮影算定例*
2枚目 診断料 85/2点 撮影料68/2点
電子画像管理加算 57点
合計 286.5点(四捨五入で287点)
片側のみ疾患があり、比較対象のために両側を撮影した場合
⇒一連として算定する
- 病名:右変形性膝関節症 両膝X-P 正側4回撮影
算定:両膝X-P 4回撮影
(両膝)診断料 108点 撮影料 170点
電子画像管理加算 57点
合計 335点
※健側と対比のためというコメントが必要 - 病名:両側変形性膝関節症 両膝X-P 正側4回撮影
算定:右膝X-P 2回撮影
(右膝)診断料 65点 撮影料 102点
電子画像管理加算 57点
小計 224点
算定:左膝X-P 2回撮影
(左膝)診断料 65点 撮影料 102点
電子画像管理加算 57点
小計 224点
合計 両膝で448点
4 コンピューター断層撮影診断料
コンピューター断層撮影(CT) | |||||
---|---|---|---|---|---|
コンピューター断層診断料 | 画像診断管理加算 | 撮影料 | |||
月1回 | 1回目 | 2回目 | |||
CT | 64列以上 | コンピューター断層 診断料 450 |
画像診断管理加算 2:180 3:300 |
1020 共同利用10% |
816 共同利用10% |
1000 | 800 | ||||
16列以上 64列未満 |
画像診断管理加算 1:70 2:180 3:300 |
900 | 720 | ||
4列以上 16列未満 |
750 | 600 | |||
4列未満 | 560 | 448 |
<CT撮影 施設基準>
◎施設基準
- 4列以上の撮影料を算定する場合には施設基準の届出が必要
- 64列以上のマルチスライス型のCT装置においては、画像診断管理加算2に関する施設基準の届出を行っていること
- 64列以上のマルチスライス型のCT装置においては、CT撮影に係る部門にそれぞれ専従の診療放射線技師が1名以上勤務している
- 共同利用施設において行われる施設共同利用率は10%
◎届出に関する事項
- 画像診断機器の機種名、型番、メーカー名、テスラ数(MRIの場合)を記載すること
- CT装置に係る安全管理責任者の氏名を記載し、CT撮影装置、造影剤注入装置の保守管理計画を添付すること
核磁気共鳴コンピューター断層撮影(MR) | |||||
---|---|---|---|---|---|
コンピューター断層診断料 | 画像診断管理加算 | 撮影料 | |||
月1回 | 1回目 | 2回目 | |||
MRI | 3T以上 | コンピューター断層 診断料 450 |
画像診断管理加算 2:180 3:300 |
1620 共同利用10% |
1296 共同利用10% |
1600 | 1280 | ||||
1.5T以上 3T未満 |
画像診断管理加算 1:70 2:180 3:300 |
1330 | 1064 | ||
1.5T未満 | 900 | 720 |
<MRI撮影 施設基準>
◎施設基準
- 1.5テスラ以上のMRI撮影料を算定する場合には施設基準の届出が必要
- 3テスラ以上のMRI装置においては、画像診断管理加算2に関する施設基準の届出を行っていること
- 3テスラ以上のMRI装置においては、MRI装置に係る部門にそれぞれ専従の診療放射線技師が1名以上勤務していること
- 共同利用施設において行われる施設共同利用率は10%
◎届出に関する事項
- 画像診断機器の機種名、型番、メーカー名、テスラ数(MRIの場合)を記載すること
- MRI装置に係る安全管理責任者の氏名を記載し、MRI撮影装置、造影剤注入装置の保守管理計画を添付すること
<新生児・乳幼児・幼児加算>
エックス線撮影同様、新生児・乳幼児・幼児の撮影を行った場合
新生児加算(生後27日目まで) 100分の80加算
乳幼児加算(生後28日目から3歳未満) 100分の50加算
幼児加算(3歳以上6歳未満) 100分の30加算
が算定できます。
また、頭部外傷に対してコンピューター断層撮影を行った場合は
新生児頭部外傷撮影加算 100分の85加算
乳幼児頭部外傷撮影加算 100分の55加算
幼児頭部外傷撮影加算 100分の35加算
がそれぞれ算定できます。
ただし、関連学会が定めるガイドラインに沿って撮影を行った場合に限り算定でき、この場合において、その医学的な理由について診療報酬明細書の摘要欄に該当項目を記載する。またカに該当する場合は、その詳細な理由及び医学的な必要性を診療報酬明細書の摘要欄に記載しなければなりません。
ア GCS ≦ 14
イ 頭蓋骨骨折の触知又は兆候
ウ 意識変容(興奮、傾眠、会話の反応が鈍い等)
エ 受診後の症状所見の悪化
オ 家族等の希望
カ その他
画像診断管理加算の施設基準の施設基準 | |||
---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | |
点数 | 70 | 180 | 300 |
対象点数区分 | E001 写真診断 E004 基本的エックス線診断料 E102 核医学診断 E203 コンピューター断層診断 |
E102 核医学診断 E203 コンピューター断層診断 |
E102 核医学診断 E203 コンピューター断層診断 |
常勤画像診断医 | 1名以上 | 1名以上 | 6名以上 |
医療機関の種類 | 保険医療機関 | 病院 | 特定機能病院 |
<算定における注意点>
- CTとMRIを同日(同月)に行った場合
必要に応じてCTとMRIの撮影を同一日に両方行った場合には、CTの点数とMRIの点数をそれぞれ算定できます。ここで注意する点は、CTもMRIもどちらも「第3節 コンピューター断層撮影診断料」のグループになりますので、どちらか一方の撮影料を所定点数の100分の80にして算定することになります。また、診断料は同日でも同月でも450点を月1回限りの算定です。同月にCTとMRIを両方行った場合は、後から撮影した方の撮影料を所定点数の100分の80にして算定します。また同月にCTを2回以上、またはMRIを2回以上行った場合も同様です。 - コンピューター断層撮影に関するクリニックにおける注意点
外来クリニックの場合には撮影料としてCT64列以上の1,000点(または1,020点)、MRI3テスラ以上の1,600点(または1,620点)は算定できません。これは、算定要件の一つに「画像診断管理加算2の施設基準を満たしていること」とあり、前述した通り、その画像診断管理加算2の施設基準の中に「放射線科を標榜している病院であること」と記載されていますので、外来クリニックでは算定ができないことになります。この場合、CTは900点、MRIは1,330点で算定します。
V 令和4年度診療報酬改定における、新規・改定項目
「主な改定項目」
令和4年度報酬改定において、外来の診療所に関係する新設された項目、改定された項目はありません。
VI その他
1 他の医療機関で撮影したエックス線フィルム等を診断した場合の診断料算定
初診・再診にかかわらず、撮影部位および撮影方法(単純撮影、特殊撮影、造影剤使用撮影または乳房撮影を指し、アナログ撮影またはデジタル撮影の別は問わない)別に1回算定できます。たとえば、胸部単純写真と断層像についてであれば、2回として算定できます。ただし、一つの撮影方法については撮影回数、写真枚数にかかわらず1回として算定します。
2 他の医療機関で撮影したコンピューター断層撮影(CT、MRI)のフィルムについて
診断を行った場合の診断料算定
初診料を算定した日に限り、コンピューター断層診断料(450点)を算定できます。
3 フィルムやCD-ROMにデータをコピーする費用
他院に画像データをコピーして渡す場合、B009診療情報提供料(I)の通知(10)に「診療情報の提供に当たり、レントゲンフィルム等をコピーした場合には、当該レントゲンフィルム等及びコピーに係る費用は当該情報提供料に含まれ、別に算定できない。」とあり、これは画像データをCD-ROM等にコピーした場合も該当しますので、CD-ROM媒体の費用及びコピー手数料は診療情報提供料(I)に含まれ算定できません。