受動喫煙対策

 受動喫煙(他人のたばこの煙にさらされること)が、健康に悪影響を与えることは科学的に明らかにされています。近年のオリンピック・パラリンピック開催都市では、屋内を全面禁煙とするなど、法律や条例で罰則を伴う受動喫煙防止対策を講じており、IOC(国際オリンピック委員会)が唱えるスモークフリーへの取組は世界の潮流となっています。
 本会は、健康被害を受けやすい子どもや、受動喫煙を防ぎにくい立場である従業員の方を受動喫煙から守ることが必要と考え、様々な取組を行っています。



オリンピックに向けた健康政策


東京都医師会タバコ対策委員会
 委員長 村松 弘康

オリンピックと受動喫煙対策

 2020 年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることを受け、日本でも受動喫煙を防止する法令が必要になりました。国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)は、タバコのないオリンピック大会を開催することで協定を結んでいるからです。

 オリンピックはスポーツの祭典ですが、健康の祭典でもあるべきとの考えから、1988 年冬季のカルガリー大会以降はタバコフリー宣言をしてきました。受動喫煙の健康への悪影響が明らかになったことを受け、オリンピック会場内は全面禁煙とされ、会場内でのタバコ販売も禁止されたのです。

次々に制定 受動喫煙防止法

 2002年のソルトレイクシティ大会以降は、毎回オリンピック開催都市に受動喫煙防止法・条例などが新たに制定されてきました。2010年7月21日にはWHOとIOCの間で健康的な生活習慣を推進する同意書が正式に交わされ、この中にも「タバコのないオリンピック大会」を開催することが盛り込まれています。

タバコ規制は国際的な流れ

 受動喫煙対策だけでなく、タバコ会社がオリンピック大会や選手の公式スポンサーになることも禁止されました。タバコの健康への悪影響が医学的・科学的に詳細に解明されてきたことを受け、オリンピックが、その理念に反してタバコ等の不健康な商品の販売促進につながることがないよう配慮されたのです。

 昭和39年(1964)の東京オリンピックでは、パッケージにオリンピックのロゴマークが印刷されたオリンピック記念タバコが販売されましたが、当然ながら現在では禁止されています。

 タバコ会社を公式スポンサーにしないという考え方は、オリンピック以外のスポーツにも波及しています。例えば、モータースポーツF1の世界では、以前はタバコの商品名が車体に大きくペインティングされていました。しかし、現在では完全に禁止されています。

きれいな空気の「おもてなし」

 近年のオリンピック開催地では、2012年のロンドンや2016年のリオデジャネイロでも、日本の「立ち飲み居酒屋」に相当するパブですら、屋内完全禁煙になりました。世界では現在63か国で、バーの店内でも屋内禁煙を義務づける罰則つきの法令が施行されています。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでには、東京でも国際水準の受動喫煙防止法・条例の制定が不可欠です。また、東京オリンピックの会場は、競技によっては千葉、埼玉、神奈川、静岡などの近県に分散する予定です。サッカーも全国各地で開催されることが決定しており、東京都だけの条例ではなく、国の法律として制定されることが求められています。

 元WHO事務局長のブルントラント博士は、「タバコのないオリンピック大会を開催することは、受動喫煙から非喫煙者を守るだけでなく、喫煙者が禁煙を決意することの後押しにもなる」と述べています。

 海外からオリンピック観戦のために来日される方々が日本での滞在期間を快適に過ごすためにも、また国民の命と健康を守るためにも、「タバコのないオリンピック」を開催することで、きれいな空気の「おもてなし」を提供したいですね。


ニコチンの依存性


金沢大学附属病院総合診療部
 野村 英樹

「依存性」は「依存する脳」によるもの

 禁煙できないのは、タバコの煙に含まれるニコチンに「依存性」があるからだということはよく知られています。ニコチン以外にも様々な依存性薬物が存在しますが、実はこれらの薬物はすべて、私たちの脳の奥のほうにある「脳内報酬系」と呼ばれる部分に働いて、「依存する脳」を作り出すことが明らかになっています。

「学習意欲」や「成長欲求」に関係する「脳内報酬系」とは?

 美味しいものを食べたとき、ドーパミンと呼ばれる物質が放出されて、脳は「喜び」を感じます。これが、脳内報酬系のシステムです。これを繰り返していると、その食べ物を思い出しただけでドーパミンが放出されるようになり、私たちはその食べ物に対する「欲求」を感じます。

 また、脳内報酬系のすぐ近くには記憶に関係する海馬(かいば)という場所があり、美味しいもので脳内報酬系が活動すると海馬も刺激され、どんな行動を取ったらその食べ物を手に入れることができたのか、という情報が記憶されます。そして、美味しい食べ物を思い出して「欲求」を感じたとき、大脳に記憶されたその行動を再び取ろうとする「意欲」を感じます。このように、脳内報酬系は生きるために必要な行動を「学習」し、その行動を取る「意欲」を持つために必要な神経回路として進化しました。

 また、新しい知識を得たいと感じる「学習意欲」や、人として成長したいと感じる「成長欲求」、困っている人を助けたいと感じる「道徳的欲求」など、あらゆる意欲や欲求にも脳内報酬系が関与していると考えられています。

ニコチンは「脳内報酬系」をハイジャックする

 コカインやメタンフェタミンなどの覚せい剤、ヘロインや大麻などの麻薬、そしてタバコの中のニコチンは、脳内報酬系にダイレクトに作用して、ドーパミンの放出を促します。そのため、生きるためにはまったく必要ではないにも関わらず、脳はこれらの薬物に対する「欲求」を覚え、手に入れるための行動を「学習」してしまいます。

 しかも、これらの薬物は次第に脳内報酬系の働きを抑えてしまい、日常生活の中で喜びや意欲を感じることができなくなります。すると今度は、脳の中で「不快感」を感じる部分が活発になり、常にイライラなどの不快感が続くようになります。そして、その不快感から一時的に逃れるために、薬物が手放せない状態に陥ります。

 病気になることがわかっているのに、さらにはタバコによって病気になった後にもタバコが止められないのは、ニコチンによって脳内報酬系が乗っ取られて、不快感が続く状態にあるためなのです。

「電子タバコ」にもたくさんのニコチンが

 タバコを吸うと、ニコチンが肺から吸収され、わずか10秒で脳に高濃度で到達します。最近、電子タバコ(正確には加熱式タバコ)が盛んに宣伝されていますが、これらもタバコと同じ量のニコチンが含まれており、「脳内報酬系乗っ取り装置」である点で普通のタバコと何ら違いはありません。

 脳からニコチンというハイジャック犯を追い出すには、医学的なサポートが役立ちます。是非、お近くの禁煙外来に相談されることをおすすめします。


新型タバコの危険性

日本対がん協会 望月 友美子

新型タバコも ニコチン供給デバイス

 新型タバコ(加熱式タバコ)は、紙巻タバコや葉巻タバコ、パイプタバコなどの従来型タバコがタバコ葉を原料とした製品を燃焼させて煙を吸うのに対して、電気的に加熱して発生させたニコチンを含む蒸気を吸う製品群です。いわゆる電子タバコはタバコ葉を用いず、ニコチンを含む、あるいは含まないリキッドを加熱して蒸気を吸うことから別に分類しています。

 20世紀後半、紙巻タバコなどの害が明らかになると、タバコの需要抑制のために種々の規制が設けられてきましたが、その規制に対応するように製品技術が進化しました。21世紀になり、規制の枠を超える飛躍的な進化を遂げたのが新型タバコです。

 新型タバコは世界に先駆けて日本で2013年に登場しました。煙が出ないので紙巻タバコよりも安全と考えられがちですが、依存性物質ニコチンを脳に運ぶデバイス(装置)というのは同じです。むしろ、デバイスが加熱温度や蒸気発生量を制御することで、効率的な、依存を起こしやすい形のニコチン摂取を可能にした「超進化形」といえます。

 タバコ会社は2020年までに50%のシェアを目指し、将来は従来型とすべて置き換えたいとのことですが、貿易統計から推計しても2017年度中に15%に達する見込みです。

健康への影響は現時点ではわからない

 新型タバコは、測定された少数の有害物質や発がん物質は従来型タバコよりも少ないことが分かっていますが、それ以外の成分は検証されておらず、未知の成分もあります。

 そもそも健康への影響は、個々の成分よりもタバコ煙と同様に混合物として評価する必要があります。健康への影響を正確に調べるには数年ないし数十年かかりますし、新型タバコ使用者の多くが以前から喫煙しているため、新型タバコのみの影響を検証できるのは次の世代になってからです。

 明確なのは、依存性物質であるニコチンの含有量は同等か多いということです。ニコチンは毒物であるとともにがん促進物質であり、代謝されると最強の発がん物質が作られます。

タバコ対策への影響も 新型タバコの危険性

 タバコ会社は、新型タバコから出るのは煙ではなく蒸気もしくはエアロゾルだと主張しています。発がん物質や有害化学物質が出ているのに、蒸気という言葉に惑わされて、喫煙者が禁煙のつもりで代替品として吸い、周囲も臭いが少ないために容認するという事態が起きています。

 禁煙外来では禁煙継続の評価のために呼気中の一酸化炭素を測定しますが、新型タバコは一酸化炭素が発生しないために正しい禁煙管理ができません。このように、数十年かけてようやく整備されてきたタバコ対策が、新型タバコの登場で揺らぐことも新型タバコの危険性なのです。

「スモークフリー」から「タバコフリー」へ

 肺はきれいな空気を吸うためのものです。燃焼であれ加熱であれ、依存性物質を脳に届けるデバイスの一部にすべきではありません。「スモークフリー」ではなく、「タバコフリー」の社会にしていきましょう。

 そのためにも禁煙外来に限られている禁煙支援サービスを拡充させて、ニコチン依存がある人が喫煙できない環境を整えることが大切です。それらは、非喫煙者だけでなく、喫煙者や次世代の子どもたちをも守ることになります。


タバコをやめたいと思ったら~禁煙外来のすすめ~


東京都医師会タバコ対策委員会
副委員長 坂井 典孝

自力での禁煙は難しい

 前回まで触れてきたように、現在ではタバコの健康への悪影響は明白であり、タバコはまさに“百害あって一利なし”、自身の健康のみならず周囲の人の健康も害するものです。では、いざタバコをやめたいと思ったらどうすればよいのでしょうか。

 意志の強い人は、生活パターンを変える、喫煙環境を改善する、喫煙行動に代わる行為をしてみるなどの工夫で、あるいは自費購入可能な禁煙補助薬(ニコチンガムやニコチンパッチ)を試すことで禁煙できるかもしれません。

 しかし、前々回に触れたように、喫煙はニコチン依存症という一種の薬物依存症であり、自分一人の力で成功するには限界があります。実際に、自力での禁煙成功率は1割にも満たないといわれています。

禁煙外来を活用しよう

 そこで、タバコをやめたいと思ったときには病院や診療所などの医療機関の禁煙外来を活用する方法があります。禁煙外来では医師や看護師が禁煙支援を行いますが、一定の条件を満たしていれば健康保険を用いた禁煙治療を受けることができます。

 禁煙外来では、タバコへの依存度チェックや吸いたくなってしまったときの対処法などの助言、呼気中一酸化炭素の測定などを行い、禁煙補助薬を用いた禁煙治療を行います。概ね3か月間に5回程度受診します。

禁煙補助薬は貼り薬と飲み薬がある

 保険がきく禁煙補助薬には貼り薬のニコチンパッチと飲み薬のバレニクリンがあり、それぞれ総額1万4千円、2万円程度(3割負担の場 合)かかります。1日換算では200円少々と、タバコを1日1箱吸う場合よりもはるかに安くなります。

 ニコチンパッチはニコチン製剤で、皮膚から少量のニコチンが徐々に吸収され、タバコを吸いたい気持ちを和らげる、つまり禁煙初期にあらわれるニコチン切れ症状(離脱症状)を軽減する薬です。パッチにはニコチン量が異なる大中小のサイズがあり、順番に大から小へ変えていき、最後はパッチなしになります。

 バレニクリンは、ニコチン製剤ではなく、ニコチンが脳のニコチン受容体に結びつかないようにする薬で、タバコを吸ってもおいしいと感じにくくさせるほか、離脱症状を和らげる作用も持ち合わせています。

 いずれの補助薬を用いるかは一長一短があるので、担当医師とよく相談するとよいでしょう。

まずは相談を

 一旦は禁煙に成功したのに再び喫煙してしまった場合でも、1年たてば保険での禁煙治療を再度受けることが可能です。一度失敗したからと諦めてしまわず、再度挑戦することも大切です。

 かかりつけの先生やかかりつけ薬局が相談に応じてくれる場合もありますし、日本呼吸器学会、日本循環器学会、日本禁煙学会などの専門学会のホームページでは、禁煙に関する正確な情報を発信しており、禁煙外来設置医療機関を掲載している学会もあります。禁煙に関して何か知りたいことがあったら、ホームページにアクセスしてみるのも一法です。

 さあ、禁煙を思い立ったら、まずは禁煙外来へ。


タバコの害をなくすために必要なこと~みんなの協力が必要~


東京都医師会タバコ対策委員会
副委員長 荒井 敏

タバコの害は多岐にわたっている

 タバコの害は、喫煙者本人への影響と、喫煙者のまわりにいることで煙を吸ってしまう「受動喫煙」による影響に分けられます。

 本人への影響としては、肺がんなど10種類のがんに加えて、脳卒中、狭心症、心筋梗塞、歯周病などにかかりやすくなったり、お腹の中の赤ちゃんの発育が遅れることがわかっています。これによる年間の推計死亡者数は約13万人です。

 また、まわりの人が受ける受動喫煙が、肺がん、脳卒中、狭心症、心筋梗塞、乳児の突然死や子どもの喘息の原因になることもわかっており、年間の死亡者数は約1万5千人と推計されています。

 では、このようなタバコの害をなくすためには、どのようにしたらよいのでしょうか。

タバコの害をなくすために必要なこと

 まず、タバコを吸っている人に禁煙してもらう必要があります。もっとも有効な方法は、禁煙外来を受診することです。自分から進んで受診しない人には、家族や友人が是非、禁煙外来の受診を勧めてください。禁煙外来では、医師や看護師が禁煙支援を行っています。また、禁煙をサポートするために、正しい知識を持つ「禁煙支援薬剤師」も増えてきています。

 第二に、受動喫煙によるまわりの人への健康被害をなくす必要があります。このためには、屋内を完全禁煙にする受動喫煙防止法の制定が求められます。現在、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、国による受動喫煙防止法や、東京都による受動喫煙防止条例制定の動きが進んでいます。

 受動喫煙の健康被害をなくすための有効な法律・条例を制定するためには、「受動喫煙の健康被害から国民を守る」という議員の意識と、制定を後押しするみなさんの声が大切です。

 第三に、喫煙習慣はニコチンの「依存症」なので、一度吸い始めたら禁煙することはとても大変です。喫煙者の90%以上が20歳以前にタバコを吸い始めているというデータがあり、未成年者がタバコを吸わないようにする教育が重要です。現在、東京都でもいくつかの区・市で、医師会を中心とした喫煙防止教育のシステムづくりが進んでいます。

 このためには、各地区の教育委員会の協力がなくてはなりません。また、実際に喫煙防止教育をすべての学校で行うためには、学校長、養護教諭、学校医、学校歯科医、学校薬剤師をはじめ、地域の方々の賛同・協力と、保護者の理解が不可欠です。

タバコ対策推進にはみんなの協力が必要

 このように、タバコの害をなくすためには多方面からの対策が必要であり、現在、医療従事者、議員、行政に携わる公務員、教育関係者をはじめとして、さまざまな立場の方が連携してタバコ対策に取り組んでいます。

 今後、一層タバコ対策を進めていくためには我々ひとりひとりがタバコの健康被害を十分に認識し、効果的なタバコ対策を後押しする世論をつくっていくことが重要です。


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