新規開業医のための保険診療の要点(総論)
[14] 生活保護指定医療機関(制度)や公費負担医療制度
公費負担医療制度とは社会福祉並びに公衆衛生の維持向上等を目的として、法律に基づき医療費の全額あるいは一部を国や地方自治体が負担する制度です。その目的により下記の5つに分類されます。
1 社会的弱者の救済 | 生活保護者や児童、幼児などの社会的弱者 |
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2 障害者等の福祉 | 障害を持つ人や、病気やけがで障害を負った人への補助 |
3 難病・慢性疾患の治療研究及び助成 | 原因不明や治療方法が確立していない難治性の病気の支援・助成 |
4 健康被害等に対する補償 | 戦時中の軍人たち、原爆被害者、公害や中国残留邦人などの補償 |
5 公衆衛生の向上 | 結核などの感染症や、自傷・他害の恐れがある疾病の補助など |
国の法律で定める公費の他、東京都独自で定める公費、区市町村独自で定める公費が存在します。また指定された医療機関のみ受診可能な公費と、全ての医療機関で受診可能な公費とがあります。
I 生活保護(法別番号:12)
生活保護制度は「憲法第25条の理念に基づき、国が生活に困窮する全ての国民に対して、その困窮の程度に応じて、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助けることを目的としている。(生活保護法第1条)」と定められ「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる。(同第2条)」とされています。保護の種類としては「生活扶助」「教育扶助」「住宅扶助」「医療扶助」「介護扶助」などがあります。
保険医療機関として医療扶助を給付、つまり生活保護患者を診療するためには「生活保護法及び中国残留邦人等支援法の指定医療機関」として都知事の指定を受ける必要があります。「申請用紙」と「欠格事由に該当しない旨の誓約書」を医療機関の所在地を管轄する福祉事務所(関東信越厚生局ではありません)に提出してください。
<注意点>
- 患者が「医療券」を提出して受診する場合:患者が福祉事務所等から医療券の交付を受け、医療機関の窓口に医療券を提出して受診します。医療券には暦月を単位として有効期間・交付番号が記入されています。診療報酬の明細書には月ごとに異なる交付番号を記入しなければなりませんのでご注意ください。
- 患者が医療券を持たずに受診する場合(急性疾患や事故などによる傷病の場合):医療券を持たずに患者が受診した場合には、その患者を担当する福祉事務所に電話連絡し、生活保護受給者であることの確認をしてください。医療券はその後に発行されます。(なお令和5年以降オンラインによる資格確認が実施される予定となっています。)
- それぞれの患者について福祉事務所から送られてくる「医療要否意見書」を記載し提出する必要があります。これをもとに福祉事務所から医療券が発行されます。外来患者の場合、期間は最長6か月までとなっています。意見書の提出が遅れると医療券の発行が遅れ、診療報酬の請求も遅れてしまいます。なお要否意見書等の書類の記載について診療報酬請求や患者からの費用徴収はできません。
- 医療要否意見書以外に移送(通院手段)、治療材料(眼鏡・義肢・ストマなど)、あん摩・マッサージ・はり・きゅう、おむつ、訪問看護等についての給付(要否)意見書が福祉事務所より送付されてきたら適切に記載をお願いします。
- 医師が医学的知見に基づき後発医薬品を使用することができると認めた場合には原則、後発医薬品で投薬を行うことと定められています。(生活保護法第34条2)
- 保険で認められていない治療や薬剤を使用する診療行為は認められていません。各種の自費料金の徴収も不可です。
- 頻回受診の適正化について生活保護患者に対して医療機関への頻回受診の適正化の指導がおこなわれています。対象者は「同一傷病について、同一月内に同一診療科目を15日以上受診しており、短期的・集中的な治療を行う者を除き、治療にあたった医師や嘱託医が必要以上の受診と認めた者」となっています。日ごろから患者への適正受診の指導、福祉事務所から病状照会等への回答等をお願いします。
- 向精神薬の重複投与(2か所以上の医療機関からの処方)についても医療機関に聞き取り調査が行われます。向精神薬の処方を適正にお願いします。
- 生活保護指定医療機関に対しては行政による、原則6年に一回の「一般指導」(集合形式での指導)と「個別指導」(個別の医療機関において行われる指導)が行われます。指導の通知があったら必ず指導を受けるようにしてください。
※生活保護制度の指定・診療等についての詳細は下記(ホームページ)を参照して下さい。
〇東京都内(八王子を除く)で医療機関を開設の方は
東京都福祉保健局のホームページ内:東京都福祉保健局»生活の福祉»生保護指定医療機関・指定施術機関(生活保護法・中国残留邦人等支援法)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/seikatsu/hogo/iryokikan.html
〇八王子市で医療機関を開設の方は
八王子市のホームページ内:トップページ»くらしの情報»
高齢・介護・障害・生活福祉»生活にお困りの方のために»生活保護»指定医療機関・指定施術機関(生活保護法・中国残留邦人等支援法)
https://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/welfare/007/003/p003917.html
II 公費負担医療制度
公費負担医療制度の区分では、母子健康法や児童福祉法、生活保護法で定める社会的弱者等に対する者を救済する公費と、難病医療費助成制度や感染症の予防に関する法律等で定める疾病に罹患した患者を救済する公費があります。
〈注意点〉
1 各公費共通
- 社会的弱者等に対する者を救済する公費は、全ての保険診療行為(一部例外もあり)が公費の対象となり、疾病に罹患した患者を救済する公費は、該当する疾病の治療に関する保険診療行為が対象となり、その他の医療行為は、一般の保険診療での取り扱いとなります。
- それぞれの公費医療を取り扱うためには、指定医療機関として行政に個別に届け出る必要があります。なお東京都医師会に加入の医療機関については届け出が必要ない制度もあります。
- 患者の自己負担金についても全額が公費負担であったり、一部自己負担金が発生したり、自己負担金の限度額が月ごとに複数の医療機関や薬局で合算されるなど公費負担医療制度によって異なります。
- 保険請求・レセプトの作成にあたっても該当する様式に記入・請求する必要があるなど注意が必要です。
※公費負担医療制度の詳細は東京都医師会発行の「公費負担医療の手引」などを参照してください。以下に主要な制度の対象者と問い合わせ先を記載します。
「公費負担医療の手引」(通称:青本) 公益社団法人 東京都医師会2年ごとに作成され、地区医師会を通じて会員宛に配布しています。
2 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(結核医療)
結核に対する医療の場合、入院治療と外来治療で補助範囲などが異なります。
以下、外来の結核患者(一般医療)に対する公費負担(感染症法第37条の2法別番号10)の場合について記載します。
- 対象患者には「結核医療給付金受給者証」が交付されます。原則として、結核医療に必要な費用の95%を保険と公費で負担します。残りの5%が自己負担額となります。具体的には結核医療の基準に基づいて行う化学療法(投薬や注射)、検査(エックス線検査、結核菌検査)、外科的療法及び骨関節結核の装具療法に必要な処置などです。診断書料、初診料、再診料、指導料、合併症の治療費等は公費負担の対象にはなりません。
- 医療機関を管轄する保健所に「結核指定医療機関」としての申請が必要です。
詳しくは東京都福祉保健局の下記ホームページを参照してください。
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/kekkaku/si_kikan.html
東京都福祉保健局»医療・保健»感染症対策»結核情報・対策»感染症指定医療機関(結核)
※なお患者について結核と診断した場合、医療機関から直ちに最寄りの保健所へ「結核発生届」を提出する必要がありますのでご留意ください。
3 更生医療(法別番号:15)
対象者は「原則として18歳以上で身体障害者手帳を有する視覚障害者、聴覚または平衡機能障害、音声・言語・そしゃく機能の障害者、肢体不自由者、内部障害(心臓機能障害、じん臓機能障害、小腸機能障害、肝臓機能障害)者、ヒト免疫不全ウィルスによる免疫機能の障害者」となります。「自立支援医療受給者証(更生医療)」が本人に交付されます。
東京都に「自立支援医療機関」として指定の申請が必要です。
問い合わせ先
〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都 福祉保健局 障害者施策推進部 施設サービス支援課 調整担当
電話 03-5320-4146
(八王子市に所在する医療機関については問い合わせ先が八王子市になっています。)
4 育成医療(法別番号:16)
対象者は「保護者が東京都に住所を有する18歳未満の児童で、身体に障害を有する方、または、現存する疾患が、当該障害または疾患に係る医療を行わないときは、将来において障害を残すと認められる方で、手術等によって障害の改善が見込まれる方」となります。「自立支援医療受給者証(育成医療)」が本人に交付されます。
東京都に「自立支援医療機関」としての指定の申請が必要です。
問い合わせ先
〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都 福祉保健局 障害者施策推進部 施設サービス支援課 調整担当
電話 03-5320-4146
(八王子市に所在する医療機関については問い合わせ先が八王子市になっています。)
5 精神通院医療(法別番号:21)
対象者は「通院による治療を継続的に必要とする程度の状態の精神障害(てんかんを含む。)を有する方」となります。「自立支援医療受給者証(精神通院)」が本人に交付されます。
東京都に「自立支援医療機関指定申請書」を提出する必要があります。
指定医療機関には担当する医師について「保険医療機関における精神医療についての診療従事年数が医籍登録後通算して3年以上あること。診療従事年数には、「てんかん」についての診療を含み、臨床研修期間中に精神医療に従事していた期間も含む。」などの要件があります。
要件や指定申請書類等については東京都福祉保健局の下記ホームページを参照してください。
東京都福祉保健局»障害者»事業者の方へ»自立支援医療指定情報»書式ライブラリ(医療)»精神通院医療
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shougai/jigyo/shougaifukushi/iryo/seishin.html
問い合わせ先
〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都 福祉保健局 障害者施策推進部 精神保健医療課 生活支援担当
電話 03-5320-4149
6 小児慢性特定疾病(法別番号:52)
小児慢性特定疾病にかかっている児童等について、健全育成の観点から患児家庭の医療費の負担軽減を図るため、その医療費の自己負担分の一部を助成する制度です。
認定病名等が記載された「小児慢性特定疾病医療受給者証」が交付されます。認定された病名以外は、この医療受給者証を使用できません。
東京都に「指定小児慢性特定疾病医療機関指定申請書」を提出する必要があります。
東京都福祉保健局»子供家庭»子育て支援»助成・給付»小児慢性特定疾病医療費助成»指定医療機関
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/kosodate/josei/syoman/siteiiryokikan.html
問い合わせ先
〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都 福祉保健局 少子社会対策部 家庭支援課 母子医療助成担当
電話 03-5320-4375
7 原子爆弾被害者に対する援護に関する法律(一般疾病医療)(法別番号:19)
「被爆者健康手帳」をお持ちの方が、被爆者一般疾病医療機関で医療を受けた場合、健康保険適用分の自己負担額を公費で負担します。「被爆者一般疾病医療機関」とは、医療機関等からの申請に基づいて、東京都知事が指定した医療機関をいいます。
東京都に「被爆者一般医療機関」としての申請が必要です。
東京都福祉保健局»医療・保健»難病患者・被爆者の支援»被爆者援護»被爆者一般疾病医療機関(医療機関向け)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/nanbyo/h_engo/iryokikan.html
問い合わせ先
〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都 福祉保健局 保健政策部 疾病対策課 被爆者援護担当
電話03-5320-4473
8 公害健康被害者の補償等に関する法律
「公害医療手帳」をお持ちの方は、「肺気しゅ・慢性気管支炎・気管支ぜん息・ぜん息性気管支炎」のいずれかの疾病について認定を受けています。公害医療手帳に記載のある認定疾患(続発症を含む。以下同じ)の治療にかかる医療費が公費負担となります。
健康保険を取り扱っている医療機関は「公害健康被害の補償に関する法律」により原則として全て公害医療機関となります。(ただし、都道府県知事に対し公害医療機関とならない旨を申し出たものを除く)
公害の認定は19 の特別区で行っています。(世田谷区、中野区、杉並区、練馬区を除く。)
9 難病の患者に対する医療等に関する法律(法別番号:54)
「難病指定患者」については、知事の指定を受けた医療機関等(指定医療機関)が行う医療に限り、助成を受けることができます。「指定医」と「指定医療機関」は別の指定になります。指定医の行った診断、治療であっても、指定医療機関で行われたものでなければ医療費助成の対象にはなりませんので注意が必要です。
なお、指定医でなくても指定医療機関であれば、難病指定患者の診療は可能です。
東京都に「難病指定医療機関」としての申請が必要です。
東京都福祉保健局»医療・保健»難病患者・被爆者の支援»難病ポータルサイト»難病指定医療機関»難病指定医療機関制度の要件・申請手続について
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/nanbyo/portal/shiteikikan/shinsei.html
問い合わせ先
〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都 福祉保健局 保健政策部 疾病対策課 疾病対策担当
電話番号 03-5320-4571
※なお「小児慢性特定疾病医療費助成制度の指定医療機関」は別に指定が必要です。
(前記「6 小児慢性特定疾病 法別番号:52」のホームぺージURLを参照)
10 心身障害者医療費助成制度(マル障)(法別番号:80)
東京都内に住所を有する方で、(1)身体障害者手帳1級・2級の方(心臓・じん臓・呼吸器・ぼうこう・直腸・小腸・ヒト免疫不全ウイルスによる免疫・肝臓機能障害の内部障害については3級も含む。)(2)愛の手帳1度・2度の方(3)精神障害者保健福祉手帳1級の方が対象です。一部、対象の除外があります。
東京都医師会加入者は契約、届け出の必要はありません。
未加入の医療機関は東京都と個別に契約する必要があります。
問い合わせ先
〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都 福祉保健局 保健政策部 医療助成課 助成担当
電話番号 03-5320-4571
11 ひとり親家庭等医療費助成制度(マル親)(法別番号:81)
対象者はひとり親家庭、父母ともいない家庭、父または母に障がいのある家庭の親と児童を受給者とし、受給者の健康保険給付の自己負担分のうち一部負担金を除いて助成する制度です。
東京都医師会加入者は契約、届け出の必要はありません。
未加入の医療機関は東京都と個別に契約する必要があります。
問い合わせ先
〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都 福祉保健局 保健政策部 医療助成課 医療助成担当
電話番号 03-5320-4282
12 乳幼児医療費助成制度(マル乳)(法別番号:88)
対象者は都内各区市町村内に住所を有する6歳に達する日以後の最初の3月31日までの乳幼児(義務教育就学前までの乳幼児)を養育している方。
東京都医師会加入者は契約、届け出の必要はありません。
未加入の医療機関は東京都と個別に契約する必要があります。
問い合わせ先
〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都 福祉保健局 保健政策部 医療助成課 医療助成担当
電話番号 03-5320-4282
13 義務教育就学児医療費助成制度(マル子)(法別番号:88)
対象者は義務教育就学期にある児童(6歳に達する日の翌日以後の最初の4月1日から15歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者)を養育している方です。
東京都医師会加入者は契約、届け出の必要はありません。
未加入の医療機関は東京都と個別に契約する必要があります。
問い合わせ先
〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都 福祉保健局 保健政策部 医療助成課 医療助成担当
電話番号 03-5320-4282
14 医療費助成制度(マル都)
「マル都」とは、東京都福祉保健局が実施している医療費助成のうち、B型・C型ウイルス肝炎治療、肝がん・重度肝硬変治療(法別38) 難病医療(国疾病)(法別51) 人工透析・大気汚染関連疾病・小児精神病・被爆者の子に対する医療(法別82) 難病医療(都疾病)(法別83) 妊娠高血圧症候群に対する医療(法別87) 結核医療・自立支援医療(精神通院医療)(法別93)を対象疾病とした医療費助成制度の総称です。対象者には「マル都医療券」が交付されます。
東京都医師会加入者は契約、届け出の必要はありません。
未加入の医療機関は東京都と個別に契約する必要があります。
問い合わせ先
〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都 福祉保健局 保健政策部 医療助成課 医療調整担当
電話番号 03-5320-4453
東京都福祉保健局 > 医療・保健 > 医療助成 >【契約医療機関様向け】マル都・マル障に係る契約に必要な各種届出書のご案内
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/josei/keiyakuyoushiki.html