開業医のための保険診療の要点(III.開業医のための基礎知識)
[10] 日本医師会認定産業医制度
1 産業医とは
従業員が50名以上の事業所においては、産業医を選任する必要があります。事業所の立場になってみると、社員の健康管理や作業上の安全配慮を行うためにどのようにすればよいか、医学的に不明な点があると思います。
産業医は、従業員の健康を守る側の事業所に対して医学的なアドバイスをする役目を担っています。
健康診断後の事後措置・ストレスチェックの実施実務・長時間労働者や高ストレス者に対する面談・安全衛生委員会への出席・作業場の巡視など多岐に渡ります。
そして重要なのは、作業場側の衛生委員と連絡を密にし、何でも相談を受けられる雰囲気を作っておくことだと思います。
また近年メンタルヘルスケアに関する相談や面談の依頼が多くなっています。ハラスメントを受けることによりうつ病や適応障害などを発症し、休職する従業員が多くなっています。主治医と連携しながら治療経過を見守り事業所との橋渡しや、回復期には職場復帰を目指した面談指導を行うことも重要な職務の一つです。
「診療所での職務とは違った」やりがいを感じることができる仕事であると思います。是非診療所以外での仕事の範囲を広げてみるのはいかがでしょうか。
2 産業医の要件
産業医となるためには、事業場において労働者の健康管理等を行う産業医の専門性を確保するため、医師であることに加え、専門的医学知識について法律で定める一定の要件を備えなければなりません。
厚生労働省令で定める要件を備えた者としては、労働安全衛生規則第14条第2項に次の通り定められています。
- 労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する者(法人に限る)が行うものを修了した者
- 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修したもの
- 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
- 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常時勤務する者に限る)の職にあり、又はあった者
- 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者
※日本医師会認定産業医制度(研修会等)は、前述の⑴に該当します。
3 産業医の職務
産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条第1項に規定されており、具体的には次の事項で、「医学に関する専門的知識を必要とするもの」と定められています。
- 健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
- 面接指導並びに必要な措置の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
- 心理的な負担の程度を把握するための検査の実施並びに面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
- 作業環境の維持管理に関すること。
- 作業の管理に関すること。
- 前各号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
- 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
- 衛生教育に関すること。
- 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
また、産業医の職場巡視等について、労働安全衛生規則第15条第1項で次の通り定められています。
「産業医は、少なくとも毎月1回作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。」
4 産業医の申請方法等
(1)資格
新たに認定産業医の称号を申請する医師
- 都道府県医師会などが実施する基礎研修50単位以上を修了していること。
「基礎研修50単位(下記参照)修了者は、研修最終受講日から5年以内に1回に限り申請ができます。」 - 産業医科大学産業医学基本講座修了者
「基本講座修了者は、基本講座修了認定の日から5年以内に1回に限り申請ができます。」
※基礎研修の内容(50単位)
前期研修会は、2日間の講習で14単位取得する研修会がほとんどです。開催回数は多くありません。
以下は主たる研修単位の内容です。
- 入門的な前期研修(14単位以上)
総論 2単位 作業環境管理 2単位 健康管理 2単位 作業管理 2単位 メンタルへルス対策 1単位 有害業務管理 2単位 健康保持増進 1単位 産業医活動の実際 2単位 - 実習・見学などの実地研修(10単位以上)
主に職場巡視などの実地研修、作業環境測定実習などの実務的研修 - 地域の特性を考慮した実務的・やや専門的・総括的な後期研修(26単位以上)
※研修会を受講する際、前期・実地・後期の順番は問いません。受講可能な研修会から受講してください。
(2) 申請手続き
日本医師会認定産業医申請の方法等は地区医師会員と非医師会員(東京都内勤務に限る)で異なります。東京都医師会のホームページでご確認ください。
(3) 審査
都道府県医師会長は、認定産業医認定申請書の届け出を受けた場合には、申請者の基礎研修受講状況などを審査した上で、日本医師会長に推薦します。
日本医師会長は、都道府県医師会長から推薦された医師について、審査を行って認定し、認定証を交付します。
(4) 登録
日本医師会は、認定産業医登録台帳に認定証被交付者名などを登録します。
登録有効期間は認定日より5年です。
5 更新
(1) 趣旨
認定産業医制度が社会的に活用されるためには、常に認定産業医の資質の維持向上を図ることが重要であり、そのための生涯研修を受講した認定産業医は認定の更新(5年ごと)ができます。
(2) 生涯研修会の開催
日本医師会が行う産業医学講習会のほか、日本医師会の指定を受けて都道府県医師会、郡市区医師会、教育機関などでも、認定産業医の生涯研修のための研修会を開催します。 なお、日本医師会の産業医学講習会を受講修了すると、労働衛生コンサルタントの筆記試験が免除になります。 生涯研修会の日程等は、「日本医師会ホームページ(全国医師会産業医部会連絡協議会)」などに掲載します。 都内の研修会日程は「東京都医師会ホームページ(研修会開催スケジュール)」に掲載します。
(3) 生涯研修の内容(20単位以上)
- 更新研修(1単位以上) 労働衛生関係法規と関係通達の改正点などの研修
- 実地研修(1単位以上) 主に職場巡視などの実地研修、作業環境測定実習などの実務的研修
- 専門研修(1単位以上) 地域特性を考慮した実務的・専門的・総合的な研修
(4) 資格
認定証取得後の5年間(認定証に記載されている有効期間)に日本医師会認定産業医生涯研修20単位以上(更新研修1単位以上、実地研修1単位以上、専門研修1単位以上の合計20単位以上)を修得の上、指定の期間内に更新申請手続きをすると、更新が可能になります。
(5) 申請手続き
日本医師会認定産業医更新申請の方法等は地区医師会員と非医師会員(東京都内勤務に限る)で異なります。東京都医師会のホームページでご確認ください。
6 審査と登録
前述の「4 産業医の申請方法等」の新規認定と同様ですので省略させていただきます。