開業医のための保険診療の要点(III.開業医のための基礎知識)
[7] 保険外の患者負担について
1 混合診療とは
健康保険制度では、健康保険で診ることができる診療(薬や材料も含む)の範囲が限定されています。
いわゆる混合診療とは、疾病に対する一連の治療過程(副作用などに対する治療も含む)で、保険診療と保険外診療(いわゆる自由診療)を併せて行うことです。
保険診療と保険外診療の併用は原則として禁止されており、全体について自由診療として整理され、自由診療を行った場合は、一連の診療行為について全額患者自己負担となるルールです。
ただし、「評価療養」、「患者申出療養」及び「選定療養」については、保険診療との併用が認められています(後述の「5 保険診療との併用が認められている療養」及び図1を参照)。
2 健康診断
健診には、特定健診、がん検診、妊婦健康診査、乳児健診など様々な健診がありますが、健診は自費診療ですので、まず療養担当規則第8条(診療録の記載及び整備)に規定されています。
(1) 診療録
保険診療の診療録と自費診療の診療録を必ず明確に分けて整備しなければなりません。
保険診療の診療録に健診、予防接種の記載は認められていません。
(2) 基本診療料等
健診と同時に疾病が発見され、引き続き保険診療を行った場合、初診料は算定できません。
また、以前からの疾病にて加療中の場合、再診料や健診で実施された検査等もそれぞれ、健診料の中に診察料が含まれていると考えるため、基本診療料等は算定できません。
診療に伴う、処置料、検査料、処方料、他院紹介に伴う診療情報提供料等は算定できます。この場合、診療報酬明細書の摘要欄(コメント欄)に「初診料は他法により算定」や「初診料は健康診断で算定」など、初診料等を算定しない理由を記載します。
3 予防接種
予防接種も自費診療となり、「診療録」「基本診療料等」共に、前述の「2 健康診断」と同様の取扱いとなります。
4 自費診療
(1) 同一疾病に対しての自費診療
いわゆる混合診療(保険診療と保険外診療の併用)となるので、自由診療を行った場合は一連の診療行為について全額が患者の自己負担となり、保険診療の請求は認められません。
(2) 異なる疾病に対しての保険診療と自費診療の併用
同日に、保険診療の対象疾患と自費診療の対象疾患を診療した場合、保険診療の基本診療料(初診料、再診料)は算定できません。健診同様、自費診療の診察料に含まれると考えます。診療に伴う、処置料、検査料、処方料、他院紹介に伴う診療情報提供料は算定できます。
別日に、自費診療の対象疾患は診療せず、保険診療の対象疾患のみ診療した場合は、基本診療料も算定できます。
(例)自費診療としてのAGA(男性型脱毛症)にて投薬加療中の患者に対して、AGA診察時、感冒等の保険診療対象疾患も併せて診療した場合、基本診療料は算定できません。別日に感冒症状を訴え来院、感冒のみ診療した場合は基本診療料を算定できます。
5 保険診療との併用が認められている療養
保険診療との併用が認められている療養には「評価療養」、「患者申出療養」及び「選定療養」があります。療養全体にかかる費用のうち基礎的部分については保険給付をし、特別料金部分については全額自己負担となります(図1、2参照)。


(1) 評価療養
医学的な価値が決まっていない新しい治療法や新薬など、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養です。評価療養は以下の項目となります。
- 先進医療
- 医薬品、医療機器、再生医療等製品の治験に係る診療
- 医薬品医療機器法承認後で保険収載前の医薬品、医療機器、再生医療等製品の使用
- 薬価基準収載医薬品の適応外使用(用法・用量・効能・効果の一部変更の承認申請がなされたもの)
- 保険適用医療機器、再生医療等製品の適応外使用(使用目的・効能・効果等の一部変更の承認申請がなされたもの)
- プログラム医療機器の使用(薬事の第1段階承認後のもの、チャレンジ申請で再評価を目指すもの)
(2) 患者申出療養
国内未承認の医薬品等を迅速に保険外併用療養として使用したいという患者の思いに応えるため、患者からの申出を起点とする新たな保険外併用療養の仕組みとしての制度です。
先進医療は国が制定するものに対し、患者申出療養は患者がかかりつけ医などのアドバイスにより申出を行うことが最大の違いです。また、審査期間が短く、対象者となる患者の範囲も多くなります(図1、2、3参照)。
申請方法(厚生労働省 資料) |
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(3) 選定療養
保険医療制度導入を前提とせず、患者が自らの希望により「特別な療養環境」などを選ぶ制度です。選定療養は以下の項目となります。
- 特別の療養環境(差額ベッド)……4床以下であること。室料等を院内掲示していること。医療機関からの誘導ではなく患者からの申出によるため「利用申込書」により室料を徴収すること。 等
- 予約診療……内容や費用について院内掲示していること。1人当たりの診察時間が10分程度以上であること。診療科ごとに全患者の診療時間の2割を予約患者向けに確保すること。オンライン診療は認められない。 等
- 時間外診療……自己の都合により時間外診察を希望した場合に限られ、緊急患者は対象とならない。費用等を院内掲示していること。オンライン診療は認められない。等
- 大病院の初診……他の保険医療機関等からの紹介なしに200床以上の病院を受診した患者については、緊急患者等を除き選定療養費を患者から徴収することができる(本書「Ⅰ 4基本診療料」を参照)。
- 大病院の再診……他の病院又は診療所に対し文書による紹介を行う旨の申出を行ったにもかかわらず、当該病院を受診した患者については、自己の選択に係るものとして、選定療養費を患者から徴収することができる(本書「Ⅰ 4基本診療料」を参照)。
- 制限回数を超える医療行為……患者の自己の選択に係るものとして、医科点数表等に規定する回数を超えて診療を行う場合、選定療養費を徴収することができる。当該診療の実施に当たっては、その旨を診療録に記載すること。当該事項について院内掲示すると共に、当該掲示事項について、原則として、ウェブサイトに掲載しなければならない。
- 180日以上の入院
- 歯科の金合金等
- 金属床総義歯
- 小児う蝕の指導管理
- 水晶体再建に使用する多焦点眼内レンズ
- 保険適用期間終了後のプログラム医療機器
- 間歇スキャン式持続血糖測定器
- 精子の凍結及び融解
- 長期収載品(後述の「6」を参照)
6 長期収載医薬品の保険給付に係る選定療養
長期収載医薬品の保険給付について令和6年10月1日より、選定療養が導入されました。
(1) 長期収載品の処方箋の交付等に対する基本的な考え方について
- 長期収載品について、処方箋(院内処方を含む)が交付され、院内薬局又は保険薬局において調剤される場合について、医療上必要があると認められる場合及び後発医薬品の在庫状況等を踏まえ後発医薬品を提供することが困難な場合は、引き続き保険給付としつつ、それ以外の場合に患者が長期収載品を希望する場合は、選定療養の対象とし、保険給付は長期収載品の薬価と後発医薬品の最高価格帯の価格差の4分の3までとすることとなっています。これに伴い処方箋様式も改正されています。処方箋様式の詳細については、本書「Ⅰ 7投薬(処方)、注射」をご参照ください。
- 処方医は、選定療養に係る処方に当たり、後発医薬品が選択可能であること、長期収載品を患者が希望した場合には特別の料金が生じ得ること等について、患者に十分な説明を行わなければなりません。また保険薬局の薬剤師も、調剤時に同様の事項を説明し患者の希望を確認することが必要です。
- 選定療養の対象にならない場合
ⅰ 院外処方の場合
- 銘柄名処方された長期収載品であって、医師が処方箋の「変更不可(医療上必要)」欄に「✓」又は「×」を記載した場合
- 後発医薬品の在庫状況等を踏まえ、当該保険薬局において後発医薬品の提供が困難であり、長期収載品を調剤せざるを得ない場合
- 保険薬局の薬剤師が、患者が服用しにくい剤形である、長期収載品と後発医薬品で効能効果等の差異がある等、後発医薬品では適切な服用が困難であり、長期収載品を服用すべきと判断した場合
- 処方箋において「患者希望」欄に「✓」又は「×」の記載がされていたが、調剤時に選定療養について説明した結果、患者が後発品を希望した場合
ⅱ 院内処方の場合- 医師が医療上必要があると認める場合
- 後発医薬品を提供することが困難な場合
- 入院中の患者については対象外
(2) 対象医薬品の考え方
- 後発医薬品のある先発医薬品(準先発医薬品を含む)、バイオ医薬品は対象外。
- 組成及び剤形区分が同一であって
ⅰ 後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過した品目(後発品置換え率が1%未満のものを除く)ⅱ 後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過しない品目のうち、後発品置換え率が50%以上のもの
- 長期収載品の薬価が、後発医薬品のうち最も薬価が高いものの薬価を超えているもの。
- 対象医薬品リストは厚生労働省のホームページに掲載されています。
(3) 負担額
- 後発医薬品の最高価格帯との価格差の4分の1が患者負担となります(4分の3までが保険給付)(図4参照)。
- 選定療養のため患者負担は消費税の対象となります。
- 医療保険に加入している患者であって、かつ、国の公費負担医療制度又はこども医療費助成等のいわゆる地方単独の公費負担医療の対象となっており、一部負担金が助成されている患者が長期収載品を希望した場合については、今回対象外の者は設けておらず、他の患者と同様に、長期収載品の選定療養の対象となります。

7 療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて
保険診療を行うに当たり、治療(看護)とは直接関連のない「サービス」又は「物」について、患者側からその費用を徴収することについては、その適切な運用を期するため、徴収可能とする項目等を明確にするなどの取扱いが示されています。
(1) 費用徴取する場合の手続きについて
「療養の給付と直接関係のないサービス等」についてはその提供に当たって保険医療機関等と患者の同意に基づき行われるものであり、保険医療機関等は、その提供及び費用の徴収に当たって、次の事項に留意する必要があります。
- 保険医療機関等内の見やすい場所、例えば、受付窓口、待合室等に費用徴収に係るサービス等の内容及び料金について、患者にとって分かりやすく掲示しておくことが必要です。
- ①の掲示事項については、原則としてウェブサイトに掲載しなければなりません。 ただし、自ら管理するホームページ等を有しない場合については、この限りではありません。なお、ウェブサイトへの掲載については、令和7年5月31日までの間、経過措置が設けられています。
- 患者からの費用徴収が必要な場合には、患者に対し、徴収に係るサービスの内容や料金等について明確かつ懇切丁寧に説明し、同意を確認の上で徴収することとなります。また、この同意の確認は、徴収に係るサービスの内容及び料金を明示した文書に患者の署名を受けることが必要です。
- 患者から費用徴収した場合は、他の費用と区別した内容の分かる領収証の発行が必要です。
「療養の給付と直接関係ないサービス等」及び「療養の給付と直接関係ないサービス等とはいえないもの」の具体例としては、次のものが挙げられます。
(2) 療養の給付と直接関係ないサービス等
- 日常生活上のサービスに係る費用
- おむつ代、尿とりパット代、腹帯代、T字帯代
- 病衣貸与代(手術、検査等を行う場合の病衣貸与を除く)
- テレビ代
- 理髪代
- クリーニング代
- ゲーム機、パソコン(インターネットの利用等)の貸出し
- MD、CD、DVD各プレイヤー等の貸出し及びそのソフトの貸出し
- 患者図書館の利用料 等
- 公的保険給付とは関係のない文書の発行に係る費用
- 証明書代
(例)産業医が主治医に依頼する職場復帰等に関する意見書、生命保険等に必要な診断書等の作成代 等
- 診療録の開示手数料(閲覧、写しの交付等に係る手数料)
- 外国人患者が自国の保険請求等に必要な診断書等の翻訳料 等
- 証明書代
- 診療報酬点数表上実費徴収が可能なものとして明記されている費用
- 在宅医療に係る交通費
- 薬剤の容器代 等
- 医療行為ではあるが治療中の疾病又は負傷に対するものではないものに係る費用
- インフルエンザ等の予防接種、感染症の予防に適応を持つ医薬品の投与
- 美容形成(しみとり等)
- 禁煙補助剤の処方(ニコチン依存症管理料の算定対象となるニコチン依存症(以下「ニコチン依存症」という)以外の疾病について保険診療により治療中の患者に対し、スクリーニングテストを実施し、ニコチン依存症と診断されなかった場合であって、禁煙補助剤を処方する場合に限る)
- 治療中の疾病又は負傷に対する医療行為とは別に実施する検診(治療の実施上必要と判断し検査等を行う場合を除く) 等
- その他
- 保険薬局における患家等への薬剤の持参料及び郵送代
- 保険医療機関における患家等への処方箋及び薬剤の郵送代
- 日本語を理解できない患者に対する通訳料
- 他院より借りたフィルムの返却時の郵送代
- 院内併設プールで行うマタニティースイミングに係る費用
- 患者都合による検査のキャンセルに伴い使用することのできなくなった当該検査に使用する薬剤等の費用(現に生じた物品等に係る損害の範囲内に限る。なお、検査の予約等に当たり、患者都合によるキャンセルの場合には費用徴収がある旨を事前に説明し、同意を得ること)
- 院内託児所・託児サービス等の利用料
- 手術後のがん患者等に対する美容・整容の実施・講習等
- 有床義歯等の名入れ(刻印・プレートの挿入等)
- 画像・動画情報の提供に係る費用(「B010」診療情報提供料(Ⅱ)を算定するべき場合を除く)
- 公的な手続き等の代行に係る費用 等
(3) 療養の給付と直接関係ないサービス等とはいえないもの
- 手技料等に包括されている材料やサービスに係る費用
ⅰ 入院環境等に係るもの(例)シーツ代、冷暖房代、電気代(ヘッドホンステレオ等を使用した際の充電に係るもの等)、清拭用タオル代、おむつの処理費用、電気アンカ・電気毛布の使用料、在宅療養者の電話診療、医療相談、血液検査など検査結果の印刷費用代 等ⅱ 材料に係るもの(例)衛生材料代(ガーゼ代、絆創膏代等)、おむつ交換や吸引などの処置時に使用する手袋代、手術に通常使用する材料代(縫合糸代等)、ウロバッグ代、皮膚過敏症に対するカブレ防止テープの提供、骨折や捻挫などの際に使用するサポーターや三角巾、医療機関が提供する在宅医療で使用する衛生材料等、医師の指示によるスポイト代、散剤のカプセル充填のカプセル代、一包化した場合の分包紙代及びユニパック代 等ⅲ サービスに係るもの(例)手術前の剃毛代、医療法等において設置が義務付けられている相談窓口での相談、車椅子用座布団等の消毒洗浄費用、インターネット等より取得した診療情報の提供、食事時のとろみ剤やフレーバーの費用 等
- 診療報酬の算定上、回数制限のある検査等を規定回数以上に行った場合の費用(費用を徴収できるものとして、別に厚生労働大臣の定めるものを除く)
- 新薬、新医療機器、先進医療等に係る費用
ⅰ 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)上の承認前の医薬品・医療機器(治験に係るものを除く)ⅱ 適応外使用の医薬品(評価療養を除く)ⅲ 保険適用となっていない治療方法(先進医療を除く) 等
(4) その他
入院時や松葉杖等の貸与の際に事前に患者から預託される金銭(いわゆる「預り金」)については、将来的に発生する債権を適正に管理する観点から、保険医療機関が患者から「預り金」を求める場合には、患者側への十分な情報提供、同意の確認や内容、金額、精算方法等の明示などの適正な手続を行わなければなりません。