開業医のための保険診療の要点(III.開業医のための基礎知識)
[5] 訪問看護
訪問看護とは、主治医の指示に基づき看護師、理学療法士等が生活の場である自宅へ訪問し、健康上の問題や生活上の障害のある方々に対して病状の確認や点滴、医療機器の管理など専門的なケアを提供するものです。具体的には、状態の観察、日常生活の支援(入浴介助や排泄のケアなど)、医療処置(褥瘡処置、点滴注射、留置カテーテル管理など)、リハビリテーション(運動療法、マッサージ、ADL訓練、嚥下機能訓練など)、心理的な支援、家族等介護者への支援、療養環境の調整、各種ケア(認知機能障害の方へのケアやエンドオブライフのケアなど)、緊急時の対応といった業務を訪問看護へ依頼します。訪問看護が必要と主治医が認めた患者が利用することができ、利用するためには主治医による訪問看護指示書が必要です。また、訪問看護指示書は患者又はその家族から依頼されてはじめて発行するものであり、訪問看護ステーションやケアマネからの依頼で発行するものではないのでご注意ください。本項では、訪問看護との連携のために知っておくべき制度や心掛けについて説明いたします。
1 訪問看護活用のために把握しておくべきポイント
(1) 介護保険給付の訪問看護と医療保険給付の訪問看護の違い
訪問看護は介護保険から給付される場合と医療保険から給付される場合があります。患者が要支援・要介護認定を受けている場合は、基本的に介護保険から給付されます。患者が要支援・要介護認定を受けていても、末期の悪性腫瘍や難病などの「厚生労働大臣が定める疾病等」(表1及び表3)に該当する場合と、病態の急性増悪などで頻回な訪問看護が必要と主治医が判断して特別訪問看護指示書を交付した場合(表2)は、医療保険から給付されます。また、要支援・要介護認定を受けていない場合も、医療保険から給付されます。
介護保険給付の訪問看護がケアプランに盛り込まれれば、利用回数に制限はありません。一方、医療保険給付の訪問看護は原則、週3日まで、1日1回まで、という制限があります。
重症患者を在宅でフォローする場合、訪問看護がどちらの保険で給付されるのか把握することが大切です。訪問看護が医療保険で実施される場合、患者は介護保険の区分支給限度基準額の範囲まで他の介護系サービスを利用することが可能となり、他の手厚い介護を受けることが可能になります。
(2) 「厚生労働大臣が定める疾病等」(表1)、急性増悪などの特別訪問看護指示期間中(表2)又は「厚生労働大臣が定める状態等」(表3)のいずれかに該当するか?
医療保険給付の訪問看護を利用して重症患者を在宅でフォローする場合、患者が、「厚生労働大臣が定める疾病等」、急性増悪などの特別訪問看護指示期間中又は「厚生労働大臣が定める状態等」に該当しないかの把握も大切です。該当する場合は、週4日以上、1日に複数回の訪問看護の利用など手厚い看護の提供が可能になります。
末期の悪性腫瘍、多発性硬化症、重症筋無力症、スモン、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、ハンチントン病、進行性筋ジストロフィー症、パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上かつ生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る。))、多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群)、プリオン病、亜急性硬化性全脳炎、ライソゾーム病、副腎白質ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、後天性免疫不全症候群、頸髄損傷、人工呼吸器を使用している状態
- 急性増悪、終末期、退院直後等の事由により、週4回以上の頻回の訪問看護を一時的に行う必要性(恒常的な頻回の訪問看護の必要性ではなく、状態の変化等で日常行っている訪問看護の回数では対応できない場合)を認めた場合
- 在宅麻薬等注射指導管理、在宅腫瘍化学療法注射指導管理又は在宅強心剤持続投与指導管理若しくは在宅気管切開患者指導管理を受けている状態にある者又は気管カニューレ若しくは留置カテーテルを使用している状態にある者(※アンダーラインはR6改定で追加)
- 在宅自己腹膜灌流指導管理、在宅血液透析指導管理、在宅酸素療法指導管理、在宅中心静脈栄養法指導管理、在宅成分栄養経管栄養法指導管理、在宅自己導尿指導管理、在宅人工呼吸指導管理、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理、在宅自己疼痛管理指導管理又は在宅肺高血圧症患者指導管理を受けている状態にある者
- 人工肛門又は人工膀胱を設置している状態にある者 ・真皮を越える褥瘡の状態にある者 ・在宅患者訪問点滴注射管理指導料を算定している者
2 訪問看護を開始するまで
(1) 患者あるいはそのご家族から依頼を受けた場合
患者等から訪問看護指示書作成の依頼を受け、患者等が選定する訪問看護ステーションが受託した後に、訪問看護指示書を作成して、それから訪問看護事業所へ交付します。その後、患者が訪問看護事業所と契約を結んでから訪問看護が開始となります。
(2) 主治医が訪問看護を依頼する場合
介護保険の認定を受けている患者であれば、担当ケアマネージャーから訪問看護の開始の打診があることが一般的です。患者あるいはそのご家族からの依頼を受け、訪問看護事業所の選択を行い、依頼先の訪問看護事業所の受託が決まると、訪問看護指示書を交付します。介護保険の認定を受けていない患者であれば、主治医が訪問看護事業所に連絡調整後、訪問看護事業所へ訪問看護指示書を交付します。その後、患者が訪問看護事業所と契約を結んでから訪問看護が開始となります。
3 訪問看護事業所等との連携
(1) 連携の方法
まず、訪問看護事業所との連携の際には、患者の状態に関する情報や方針に関する「情報共有/相談」が重要です。主治医と訪問看護師との基本的な情報共有は、文書(定期的な訪問看護指示書と訪問看護計画書/報告書)で行います。そして、刻々と変化する患者の状態や療養に関する情報共有/相談は、電話、FAX、対面、情報共有ツール(MedicalCareSTATIONやKANAMICNETWORKに代表される、インターネットを利用したクラウド型情報共有システムなど。都合の良いときにPCやスマートフォンやタブレットからアクセスして、スムーズに多職種と情報共有/相談ができる)などを用いて行います。
従来、急を要さない情報共有/相談はFAX、急を要する場合は電話で行われていましたが、近頃はペーパーレスの推進、情報通信技術の発達もあり、FAXに代わり情報共有ツールを用いた情報共有/相談が増えています。重要で難しい協議事項の場合は、対面での協議やオンライン会議が望ましいと考えます。顔を見ながらの協議は、その後の連携にも活きてきます。上記の方法で訪問看護事業所と連携を行いますが、どのような方法でも円滑な連携ができるように準備をすることが望まれます。
(2) 連携時の心掛け
訪問看護事業所との連携では、「双方からの報告、連絡、相談が日常的にあること」も重要です。相談しにくい雰囲気を作らないこと、他職種を尊重すること、そしてワンマンプレーに走らずにチームでケアする意識を持つことが重要です。医師が原因で連携が困難にならないように心掛けましょう。
4 訪問看護事業所等に交付する指示書の種類と注意事項
訪問看護事業所等に交付する指示書には訪問看護指示書だけではなく、特別訪問看護指示書や在宅患者訪問点滴注射指示書などがあります。必要に応じて、主治医が訪問看護事業所に交付します。各種指示書作成の際には、専用のソフトウェア(例:日本医師会が発行している「意見書」)などを用いると簡単に作成することが可能です。交付した各指示書は必ず医療機関でも保存(カルテへの添付や電子カルテへのスキャニングなど)しておくようにしてください。
(1) 訪問看護指示書
在宅療養中の患者に適切な在宅医療を提供するために訪問看護事業所に交付する指示書です。訪問看護事業所に訪問リハビリを依頼する場合も訪問看護指示書に記載します。指示書には、現在の状況(病状、内服、日常生活自立度、使用している医療機器)や留意事項、指示事項や有効期限(6か月以内)を記載しますが、1か月の指示を行う場合には有効期間を記載する必要はありません。また、指示書作成日は診療日である必要はありません。
(2) 特別訪問看護指示書
患者の病状の急性増悪、終末期、退院直後などの理由により、必要に応じて一時的に週4日以上頻回な訪問看護が必要であると認められた患者について月1回交付することができる指示書です。気管カニューレを使用している患者や真皮を越える褥瘡のある患者であれば月2回まで交付することができます。主治医が指示書を交付した診療日から14日を限度として医療保険の訪問看護(週4日以上)を提供できるようになります。指示書作成日は診療日である必要があります。
特別訪問看護指示書は主治医が判断して必要に応じて作成するものであり、過剰な指示書とならぬよう注意が必要です。
(3) 在宅患者訪問点滴注射指示書
在宅療養中の患者へ主治医の診療に基づき週3日以上の点滴注射を行う必要性を認めた場合に、訪問看護事業所等に交付する指示書です。主治医は指示書に有効期限(7日以内)と指示内容を記載します。併せて使用する注射薬、回路等、必要十分な保険医療材料、衛生材料を供与します。指示書作成日は診療日である必要はありません。
5 診療報酬算定について
(1) 訪問看護指示料
訪問看護事業所に訪問看護指示書を交付した場合、1か月に1回を限度として算定することができます。令和6年6月から訪問看護レセプトのオンライン請求が開始されることを踏まえ、訪問看護指示書の記載事項が見直されています。訪問看護指示書には、原則として主たる傷病名の傷病名コードを記載することになりました。
(2) 在宅患者訪問点滴注射管理指導料
在宅患者訪問点滴注射指示書を交付して必要な管理指導を行い、看護師が週3日以上の点滴注射を実施した場合、週1回算定することができます。指導料には点滴注射に必要な回路等の費用は含まれていますが、薬剤料は含まれていないので別に算定することができます。
(3) 特別訪問看護指示加算(訪問看護指示料)
1か月に1回(気管カニューレを使用している患者や真皮を越える褥瘡のある患者であれば2回)を限度として算定することができます。
(4) 手順書加算(訪問看護指示料)
主治医が訪問看護において特定行為(気管カニューレや胃瘻カテーテルの交換や脱水症状に対する輸液など)に係る管理の必要を認め、特定行為を行うために研修を修了した特定行為看護師に対して手順書を交付した場合に、6か月に1回を限度として算定することができます。特定行為及び特定行為区分(38行為21区分)については(表4)をご参照ください。
(5) 衛生材料等提供加算(訪問看護指示料)
在宅療養において衛生材料等が必要な患者に対し、訪問看護計画書及び訪問看護報告書を基に療養上必要な量について判断の上、必要かつ十分な量の衛生材料等を患者に支給した場合に算定することができます。
特定行為区分の名称 | 特定行為 |
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呼吸器(気道確保に係るもの)関連 | 経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整 |
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 | 侵襲的陽圧換気の設定の変更 |
非侵襲的陽圧換気の設定の変更 | |
人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整 | |
人工呼吸器からの離脱 | |
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 | 気管カニューレの交換 |
循環器関連 | 一時的ペースメーカの操作及び管理 |
一時的ペースメーカリードの抜去 | |
経皮的心肺補助装置の操作及び管理 | |
大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助の頻度の調整 | |
心嚢ドレーン管理関連 | 心嚢ドレーンの抜去 |
胸腔ドレーン管理関連 | 低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更 |
胸腔ドレーンの抜去 | |
腹腔ドレーン管理関連 | 腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された穿刺針の抜針を含む。) |
ろう孔管理関連 | 胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換 |
膀胱ろうカテーテルの交換 | |
栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 | 中心静脈カテーテルの抜去 |
栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 | 末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入 |
創傷管理関連 | 褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去 |
創傷に対する陰圧閉鎖療法 | |
創部ドレーン管理関連 | 創部ドレーンの抜去 |
動脈血液ガス分析関連 | 直接動脈穿刺法による採血 |
橈骨動脈ラインの確保 | |
透析管理関連 | 急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析濾過器の操作及び管理 |
栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 | 持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整 |
脱水症状に対する輸液による補正 | |
感染に係る薬剤投与関連 | 感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与 |
血糖コントロールに係る薬剤投与関連 | インスリンの投与量の調整 |
術後疼痛管理関連 | 硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整 |
循環動態に係る薬剤投与関連 | 持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整 |
持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量の調整 | |
持続点滴中の降圧剤の投与量の調整 | |
持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整 | |
持続点滴中の利尿剤の投与量の調整 | |
精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 | 抗けいれん剤の臨時の投与 |
抗精神病薬の臨時の投与 | |
抗不安薬の臨時の投与 | |
皮膚損傷に係る薬剤投与関連 | 抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整 |
6 よくある訪問看護事業所等からの問合せ
病状の悪化、発熱などの突発的なイベント、膀胱留置カテーテルや点滴ルートのトラブル、スキントラブル、物品系(浣腸や外用薬や被覆保護剤や輸液ルートなど)の問い合わせが多いです。予め想定されるイベントやトラブルへの対応、物品の補充等は事前に様々な対応を想定して指示することにより、緊急対応の回避につながります。