開業医のための保険診療の要点(III.開業医のための基礎知識)
[1] 開業における留意事項
1 医療安全対策のための各種指針の作成について
平成19年4月に第5次医療法改正が施行され、これまで施行規則で規定されていた医療安全に係る各種事項が、法律の条文によって明記されることになりました。合わせて、病院、有床診療所に義務付けられていた「医療安全管理指針」をはじめ各種の対策、指針の作成が無床診療所にも義務付けられています。
下記⑴~⑹のそれぞれについて、適切に作成、確認、見直しをお願いします。
(1) 医療安全管理指針
日本医師会の作成した「医療安全管理指針のモデルについて」(改訂版/H19.3)では、無床診療所についてもモデルが掲載されています。
「基本理念」「医療安全委員会」「報告等にもとづく医療に係る安全確保を目的とした改善方策」「安全管理のための指針・マニュアルの作成」「医療安全管理のための研修」「事故発生時の対応」などについて記載されています。
これを参考にしていただき、医療安全管理指針を定めてください。
◎「医療安全管理指針について」は下記のWEBを参照してください。
https://www.med.or.jp/anzen/manual/anzen.pdf
「医療安全管理指針 日本医師会」で検索
(2) 院内感染対策指針
平成19年4月、医療法施行規則に基づき、各医療機関において「院内感染対策のための指針」を文書化して備えることが義務付けられました。指針に文書化することとして通知に掲げられたのは下記の7項目です。
- 院内感染対策に関する基本的考え方
- 院内感染対策のための委員会(委員会を設ける場合を対象とする)その他の当該病院等の組織に関する基本的事項
- 院内感染対策のための従業者に対する研修に関する基本方針
- 感染症の発生状況の報告に関する基本方針
- 院内感染発生時の対応に関する基本方針
- 患者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針
- その他の当該病院等における院内感染対策の推進のために必要な基本方針
◎「院内感染対策指針のモデル」については下記のWEBを参照してください。
https://www.med.or.jp/anzen/manual/kansenshishin.pdf
「院内感染対策指針 日本医師会」で検索
(3) 診療用放射線の安全利用のための指針
診療用放射線に係る安全管理体制について平成31年に省令改正等が行われ、令和2年4月1日より施行、線量管理の対象となる医療機器を保有する医療機関(エックス線装置を備えているすべての医療機関が対象)には以下の内容が義務付けられています。
- 安全管理責任者の配置
- 安全管理指針の策定
- 安全利用のための研修の実施
- 線量管理と線量記録
「医療機関での診療用放射線の安全利用の研修(動画を用いた研修)について」のページに掲載された動画を視聴、動画中に出される問題に解答して、「日本医師会様式解答記入書兼研修修了証」を発行することで、研修受講となります。
◎「指針・動画」については下記のWEBを参照してください。
https://www.med.or.jp/doctor/sien/s_sien/008991.htm
「診療用放射線の安全利用のための指針 日本医師会」で検索
(4) 医薬品の安全使用のための業務手順書
「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成19年3月)が見直され、平成30年改訂版が作成されています。医薬品の採用・購入・管理や重大な有事事象の予防・対応、事故発生時の対応等についての手順書が必要となります。平成30年に新設された第23章をはじめ、手順書の内容については各医療機関での状況にあわせて適宜削除・追加をお願いします。
◎「手順書」については下記のWEBを参照してください。
https://www.med.or.jp/anzen/manual/sakusei_manual.pdf
「医薬品の安全使用のための業務手順書 日本医師会」で検索
(5) 検体検査業務の精度確保
平成29年6月に成立した「医療法等の一部を改正する法律」のうち、検体検査の精度確保に関する規定が平成30年12月より施行されています。病院及び診療所が自ら検体検査を行う場合、その構造設備については特段の基準は定めないものの、精度確保のため責任者を置くこととし、標準作業書及び作業日誌又は台帳関係を作成することとされています。これは「診察室や処置室で検体検査を実施している診療所」を想定したもので、臨床検査技師が勤務していない診療所等では、医師が日常診療業務の中で制度の確保に努めることが求められていることから、医療機器や体外診断用医薬品の添付文書、及び取扱説明書を活用した簡便な作業日誌の運用となっています。
整備測定標準作業書、作業日誌等を整備する必要がある主な検体検査の測定装置及び測定キットは下記などです。
- 臨床化学自動分析装置(ドライケミストリー法を含む)
- 免疫血清検査装置
- グルコース専用分析装置
- HbAlc専用測定装置
- 血球計数装置
- 尿検査装置、試験紙キット
- インフルエンザウイルス抗原検出キット
- 血液凝固分析装置
- 微生物検査装置
◎「手引き・資料」については下記のWEBを参照してください。
https://jmamdc.med.or.jp/images/tebiki_20181228.pdf
「医療機関における検体検査業務の精度確保に向けた手引き 日本医師会」で検索
(6) 医療機器に係る安全管理のための体制確保
厚生労働省から「医療機器に係る安全管理のための体制確保に係る運用上の留意点について(平成30年6月)」の通知が発出されていましたが、その後「医療機関における生命維持管理装置等の研修および保守点検の指針」及び「医療機関における放射線関連機器等の研修および保守点検指針」が策定され、令和3年7月に「医療機器に係る安全管理のための体制確保に係る運用上の留意点について」が新たに発出され、そこでは下記の4点が挙げられています。
- 医療機器の安全使用を確保するための責任者(医療機器安全管理責任者)の設置
- 従事者に対する医療機器の安全使用のための研修の実施
- 医療機器の保守点検に関する計画の策定及び保守点検の適切な実施
- 医療機器の安全使用のために必要となる情報の収集その他医療機器の安全確保を目的とした改善のための方策の実施
◎医療機器保守点検計画については下記のWEBを参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/dl/180612-2.pdf
医療機関における放射線関連機器等の保守点検指針
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000898768.pdf
医療機関における生命維持管理装置等の研修および保守点検の指針
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000898766.pdf
医療機器に係る安全管理のための体制確保に係る運用上の留意点について
*日本医師会ホームページ内「患者の安全確保対策室」において医療関係団体(学会・医会等)や医療器材メーカー・業界団体が作成した安全対策マニュアルを閲覧することができます。
https://www.med.or.jp/anzen/manual.html
2 就業規則
常時10人以上の従業員を使用する使用者は、労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条の規定により、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。就業規則を変更する場合も同様に、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。
なお、従業員10人未満の医療機関でも就業規則を作成しておくことで従業員とのトラブル対応がスムーズになると思います。
また、労働施策総合推進法において今まで大企業のみが義務化されていたパワーハラスメント対策が2022年4月1日から中小企業に対しても義務化されています。
厚労省の「モデル就業規則」にはパワーハラスメントについても記載されていますので参考にしてください。
◎「就業規則」については下記のWEBを参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html
「モデル就業規則 厚労省」で検索
3 個人情報の保護
「個人情報の保護に関する法律」の第15条では「個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的をできる限り特定しなければならない。」とされ、第16条で「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。」と規定されています。診療所における医療に関する個人情報ももちろん例外ではありません。
日本医師会が次のようなポスターを作成していますので、これを参考にしていただき院内掲示をお願いします。
個人情報保護 日本医師会ポスター
※日本医師会メンバーズルームからダウンロードできます。
4 診療情報の提供(カルテ開示)
診療情報の提供については、平成15年の厚生労働省医政局長通知により「診療記録の開示も含めた診療情報の提供については、患者と医療従事者とのより良い信頼関係の構築、情報の共有化による医療の質の向上、医療の透明性の確保、患者の自己決定権、患者の知る権利の観点などから積極的に推進することが求められてきたところである。また、生活習慣病等を予防し、患者が積極的に自らの健康管理を行っていく上でも、患者と医療従事者が診療情報を共有していくことが重要となってきている。」とされ、さらに「患者の自己決定権を重視するインフォームド・コンセントの理念に基づく医療を推進するため、患者に診療情報を積極的に提供すると共に、患者の求めに応じて原則として診療記録を開示すべきである。」と、診療情報は原則開示である旨が表明されています。
日本医師会も「診療情報の提供に関する指針」を制定しています。その中で「診療記録等の開示による情報提供」として「医師および医療施設の管理者は、患者が自己の診療録、その他の診療記録等の閲覧、謄写を求めた場合には、原則としてこれに応ずるものとする。」と、やはり原則開示としています。
その他・診療記録等の開示を求めうる者・診療記録等の開示を求める手続き・費用の請求・診療記録等の開示などを拒みうる場合・遺族に対する診療情報の提供などについて述べられています。
日本医師会の指針を参考にして自院の診療情報の提供に関する指針を策定しておくと良いでしょう。
◎「診療情報の提供に関する指針」については下記のWEBを参照してください。
https://www.med.or.jp/doctor/rinri/i_rinri/000318.html
「診療情報 日本医師会」で検索
5 かかりつけ医
「かかりつけ医」とは日本医師会・四病院団体協議会合同提言(平成25年8月)により「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要なときには専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義され「かかりつけ医機能」についても具体的に述べられています。
近年の診療報酬改定では改定の基本方針としてかかりつけ医機能の評価が取り上げられており、「機能強化加算」「小児かかりつけ診療料」「地域包括診療料」などの点数が設定されています。一方、財務省は医療費の「適正化」の施策としてかかりつけ医の「制度化」を求めており、令和4年4月の財政制度分科会においても「かかりつけ医機能の要件を法制上明確化した上で、これらの機能を備えた医療機関をかかりつけ医として認定する」と提言しています。
こういった中、令和4年4月に日本医師会において、かかりつけ医に関する考え方として「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」があらためて取りまとめられました。これは、かかりつけ医機能を果たしていく医師の覚悟を示したものであり、国民に分かりやすいものとするため、できるだけ専門用語を避けて作成しています。
日本医師会の従来のスタンスとの違いについては、次のことを明確に示しています。
- かかりつけ医は患者が医師を表現する言葉である。
- 患者ごとにかかりつけ医は異なり、患者にふさわしい医師が誰かを数値化して、測定することはできない。
- 患者が信頼できる医師がかかりつけ医である。
国民の信頼に応えるかかりつけ医として
2022年4月 公益社団法人日本医師会
日本医師会の思い
「かかりつけ医」とは、患者さんが医師を表現する言葉です。「かかりつけ医」は患者さんの自由な意思によって選択されます。どの医師が「かかりつけ医」かは、患者さんによって様々です。患者さんに最もふさわしい医師が誰かを、数値化して測定することはできません。だからこそ、わたしたち医師は、心をこめて一人ひとりの患者さんに寄り添います。そうして患者さんに信頼された医師が、「かかりつけ医」になるのです。患者さんと「かかりつけ医」の信頼関係に基づいて、全国で様々な形のかかりつけ医機能が発揮されています。わたしたち医師は、かかりつけ医機能をさらに深化させると共に、より温かみのあるものにしていきます。
(1) 「かかりつけ医」の努め
わたしたち医師は、患者さんに信頼される「かかりつけ医」になるべく、これまで以上にかかりつけ医機能を発揮し、誠意をもって、患者さんを包括的かつ継続的に支えていきます。
- 患者さんに、いつでも、何でも相談していただけるよう、しっかりとコミュニケーションをとって診察します。
- 診察の結果を分かりやすい言葉で伝え、患者さんのライフスタイルを理解した上で患者さんと治療目標を共有します。
- 必要なときには、適切なタイミングで適切な専門の医師や医療機関につなぎます。そのために日頃から、地域の医師たちとの対話を深め、患者さんをチームとして支えます。
- いつでも安心していただけるよう、かかりつけ医を中心に地域の医師がチーム一丸となって患者さんを支えます。
- 外来へのアクセスが困難な患者さんのために、在宅医療やオンライン診療など、患者さんのそばに寄り添える方法を選択します。
- 日々、新しい医療技術の研鑽を積み、患者さん及びご家族と共に最善の治療を選択します。
- 患者さんの意思を尊重し、ご家族と共に、患者さんの尊厳ある生き方を支えます。
- 予防接種や健康診断を担い、生活のこと、仕事のことも含め幅広く患者さん及びご家族からの健康相談を受け、必要なときに適切な医療につなげます。
- 患者さんの主治医意見書の作成をはじめ、患者さんの希望を受け止めて、地域の介護サービスや福祉サービスにつなぐなど、地域包括ケアシステムの中で求められる役割を果たします。
- 患者さんがもっとも安心・安全かつ効率的に最善の医療に到達できるよう医療のデジタル化を進めます。
- 患者さん個人を守ることを絶対の条件として、また、地域の方々がより効果的に予防・健康づくりを進められるよう、医療情報を活用します。
(2) 地域社会におけるかかりつけ医機能
わたしたち医師はお互いに協力し、様々な職種の方とも協力して、医師それぞれの特性を活かして地域住民の健康を支えます。主に医師会活動として行っています。
- 健康相談、予防接種、健診・がん検診、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健などの社会的な活動や、警察医などの行政活動に協力します。
- 災害が起きた地域の医療支援活動に参加し、被災者の方の健康管理や診療などを担います。
- 24時間365日、安心して相談、受診していただけるよう地域の医師同士で連携する体制をとると共に、在宅当番医や休日夜間急患センターの業務を分担します。
(3) 地域の方々に「かかりつけ医」をもっていただくために
医療法では「国民は、良質かつ適切な医療の効率的な提供に資するよう、医療提供施設相互間の機能分担及び業務の連携の重要性についての理解を深め、医療提供体制の機能に応じ、医療に関する選択を適切に行い、医療を適切に受けるよう努めなければならない」と定められています。日本医師会は、国民の方に「かかりつけ医」をもっていただくための判断材料を提供します。
- 地域の方々が、「かかりつけ医」になりうる医師を探すことができるよう、それぞれの医師が担っている機能、専門分野や強みのある分野などについて、情報を分かりやすく公開します。
- 現在、47都道府県で「医療機能情報提供制度(医療情報ネット)」が整備され、全国すべての医療機関の診療科目や対応可能な治療等が公開されています。
- 日本医師会は、国や都道府県医師会と協力して、患者さんにとってさらに分かりやすい情報提供を進めます。
- 地域医師会は、市民向け講座などを通じて、住民の方々と共に、地域の予防・健康づくりを進めます。
- 日本医師会は、必要なときに適切な医療にアクセスできる現在の仕組みを守ります。そして「かかりつけ医」として、患者さんにさらに信頼していただけるよう努めていきます。
6 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
ACP(AdvanceCarePlanning)とは、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスのことです。
死期のいかんではなく、最期まで尊厳を尊重した人間の生き方に着目した最適な医療・ケアが行われるべきだという考え方により、厚生労働省は、平成27年3月に「終末期医療」を「人生の最終段階における医療」という表現に改めました(日本医師会ホームページより)。
日本医師会生命倫理懇談会では、「終末期医療に関するガイドライン」を見直し、「人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン(令和2年5月)」へ改訂しました。
その中では「人生の最終段階における医療・ケアのあり方」として、
- 本人が自らの意思を明らかにできるときから、家族等及び医療・ケアチームと繰り返し話し合いを行い、その意思を共有する中で、本人の意思を尊重した医療・ケアを提供することが基本的な考え方である。
- 担当医・かかりつけ医は、いざという場合、本人が自らの意思を明らかにできない状態になる可能性があることから、特定の家族等を自らの意思を推定する者としてあらかじめ定めておくよう本人に勧めることが望ましい。 同時に、本人が意思表示できる間に、人生の最終段階における医療・ケアに関する本人の意思や希望を繰り返し確認するACPの実践をすることも重要である。 と述べています。
令和4年度の診療報酬改定ですべての在宅療養支援診療所について「厚生労働省『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』等の内容を踏まえた適切な意思決定支援に係る指針を作成していることを要件とする」となるなど、かかりつけ医にとってACPは必須のものとなっています。
◎「ACP」については下記のWEBを参照してください。
https://www.med.or.jp/doctor/rinri/i_rinri/006612.html
「ACP 日本医師会」で検索
7 超高齢社会におけるかかりつけ医のための適正処方の手引き
日本医師会から「超高齢社会におけるかかりつけ医のための適正処方の手引き」が出されています。
これは多剤併用による薬物有害事象を防ぐための処方の考え方を中心に解説した手引きとなっています。
総論としての「安全な薬物療法」では、次のように記載されています。
“高齢者は多病のために多剤併用になりやすい。老年科外来の多施設調査では平均4.5種類、レセプト調査では70歳で平均6種類以上服用していた。多剤併用の問題は、薬剤費の増大、服用の手間などを含むQOLの低下、そして、最も大きな問題は、薬物相互作用及び処方・調剤の誤りや飲み忘れ、飲み間違いの発生確率増加に関連した薬物有害事象の増加である。有害事象に直接つながらなくても、多剤処方に起因する処方過誤や服薬過誤は医療管理上問題である。” 等
各論として、「認知症」「糖尿病」「脂質異常症」「高血圧」について具体的に提案されています。
患者さんの服薬管理を行う際の参考としてご活用ください。
◎「かかりつけ医の適正処方」については下記のWEBを参照してください。
https://www.med.or.jp/doctor/sien/s_sien/008610.html
「かかりつけ医 適正処方」で検索
8 「病院の言葉」を分かりやすく
国立国語研究所は「病院の言葉」委員会を設置し、「病院の言葉」を分かりやすくする提案を発表しました。
「医療の分野では、患者中心の医療の考え方が広まり、医療者は十分に説明をし、患者は説明を理解し納得した上で、自らの医療を選ぶことが求められています。ところが、医療者の説明に出てくる言葉が分かりにくいことが、患者の理解と判断の障害になっています。」と述べ、病院の言葉を分かりやすく伝えるための工夫を医療者に対して提案しています。
そのなかでは、代表できる言葉を取り上げ、分かりやすく伝える例を、詳しく示しています。
「エビデンス」
- 「エビデンス」の認知率は23.6%、理解率は8.5%であり一般にはほとんど理解されない言葉であるので、患者に対しては使わないで説明する方がよい。
- 「エビデンスがある薬」⇒「よく効くことが研究によって確かめられている薬」
「エビデンスに基づく治療」⇒「研究の結果、これがよいと証明されている治療」
など、文脈に応じて日常的な表現で言い換えるのがよいと提案しています。
「ADL」
- 『ADL』というアルファベット略語は、患者にとってなじみがない(認知率 29.7%)。また、意味を理解している人は極めて少ない(理解率 9.3%)。非常に分かりにくい語なので、使わないようにしたい言葉である。
- 高齢者はアルファベット略語を分かりにくく感じる人が多いので、特に配慮したい。
- 『日常生活動作』と言い換えることが一般的だが、この言い換え語は場合によって誤解を生むおそれがある。 例えば『ADLが自立している』などという文脈で、単に『日常生活動作』と言い換えると、日常生活動作が自立しているので、通常の日常生活が送れると誤解される場合がある。通常の日常生活ではなく、日常生活を送るための最低限の動作を指すということが、きちんと伝わる言い換えや説明を心掛けたい。
と提案しています。
その他「日常語で言い換える」「明確に説明する」「重要で新しい概念の普及を図る」の分類で57項目が紹介されています。
出典:国立国語研究所「『病院の言葉』を分かりやすくする提案」
国立国語研究所「病院の言葉」委員会
◎詳細については下記のWEBを参照してください。
https://www2.ninjal.ac.jp/byoin/
「病院の言葉」で検索