開業医のための保険診療の要点

開業医のための保険診療の要点(III.開業医のための基礎知識)

[2] ペインクリニック

1 ペインクリニックとは

多く方々は腰痛や頭痛など何らかの慢性の痛みを抱えて生活しています。元来痛みは、身体に生じた異常事態を知らせる警告反応として大切な役割を持っています。実際、医療機関を受診する一番の理由は「痛み」です。多くの痛みは原因となる病態の改善と共に軽減消失します。警告の役割を終えた痛みがいろいろな理由で長く存在すると、より強い痛みや新しい種類の痛みが加わり、病気の部位の器質的異常や機能低下だけの問題だけでなく身体的・精神的・社会的要因が複雑に関与し始め、私たちの生活の質(Quality of life:QOL)を低下させることになります。この慢性痛は、頭痛、肩関節周囲炎、筋・筋膜性疼痛、変形性腰椎症、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、帯状疱疹後神経痛、軽微な外傷をきっかけとしても起こる複合性局所疼痛症候群(complex reginal pain syndrome:CRPS)と呼ばれ、術後の長く続く痛みなど数多くあり、その原因と病態は様々です。
ペインクリニックでは、急性痛と同様に慢性痛に対する的確な診断を行い、薬物療法、神経ブロック、リハビリテーション、認知行動療法など多職種と協同したチーム医療で治療に当たり痛みを軽減・消失させQOLを向上させます。また、がんの痛みでは、身体症状としての痛みを軽減・消失させることはもちろんですが、精神的な「つらさ」にも焦点を当てて治療を進めます。
ペインクリニックでは、高度な技術が必要な神経ブロック等の手技や、複数の注射薬・内服薬を使用することがあるため、副作用が発生した際に適切な対処ができる等、熟練した医師が行うことも重要な点です。

2 痛みのメカニズム

痛みには大きく分けて3つの種類があります。外傷などによる痛みである、侵害受容性疼痛。椎間板ヘルニアやウイルス感染症などが原因となり、神経自体が損傷を受けることにより痛みが起こる神経障害性疼痛。そして社会的要因等で脳そのものに痛みを感じさせてしまう心因性疼痛です。
外傷などによって皮膚や内臓などの神経終末である侵害受容器というものが刺激されて侵害受容性疼痛が起きます。ここではさらに損傷が起きた組織から作られる様々な発痛物質によって痛みが増強されます。
神経そのものが損傷して痛みが出る神経障害性疼痛は、神経の変性が関与していることがあるため、根治させることは大変困難になります。
心因性疼痛は、脳の機能的な変調により発生している可能性もあり、中枢神経障害性疼痛と呼ばれるようになっています。
また痛みは交感神経を緊張させ、血管を収縮させることにより局所の血流低下を引き起こします。血流の低下が持続すると徐々に組織が酸素欠乏となり、また新陳代謝が悪化し組織が障害されます。組織が障害されるとブラジキニン・ヒスタミン・アセチルコリン・プロスタグランジンEなどの発痛物質が産生され、これらが痛みを誘発するようになります。血流低下によりこれらの流失がなくなればさらに痛みが増すという悪循環が生じることになります。この悪循環を断ち切ることも痛みを軽減させる重要なポイントになります。

3 ペインクリニックが扱う主な疾患

(1) 帯状疱疹後神経痛

帯状疱疹発症後、皮疹が消失したあとも痛みや皮膚の感覚過敏や異常感覚が残る神経痛の一種です。神経がウイルスによって損傷されたあとの神経痛で難治性です。この痛みに対しては神経ブロックを行っても完全には痛みをとることは困難です。様々な薬物療法や点滴治療を用いて痛みの軽減を目指します。

(2) 頚部・肩部・上肢の痛み

  1. 変形性頚椎症
  2. 頚椎椎間板ヘルニア
  3. 頚椎椎間関節症
  4. 外傷性頚部症候群
  5. 肩関節周囲炎
  6. 脊柱管狭窄症
  7. 複合性局所疼痛症候群(CRPS)

上記疼痛に対する神経ブロック治療

  1. 星状神経節ブロック
  2. トリガーポイント注射
  3. 硬膜外ブロック
  4. 椎間関節ブロック
  5. 神経根ブロック
  6. 椎間板ブロック
  7. 腕神経叢ブロック
  8. 脊髄電気刺激療法

(3) 腰部・下肢の痛み

  1. 椎間板ヘルニア
  2. 脊柱管狭窄症
  3. 椎間関節症
  4. 変形性脊椎症
  5. 脊椎分離症・すべり症
  6. 筋・筋膜性腰痛症
  7. 骨粗しょう症

前述の疼痛に対する神経ブロック治療

  1. トリガーポイント注射
  2. 硬膜外ブロック
  3. 神経根ブロック、神経根パルス高周波術
  4. 椎間関節ブロック
  5. 脊髄神経後枝内側枝熱凝固術
  6. 椎間板ブロック
  7. 脊髄電気刺激療法

(4) 頭痛

  1. 片頭痛
  2. 群発頭痛
  3. 筋緊張型頭痛

<頭痛の治療>

片頭痛や群発頭痛には、トリプタン系内服薬・点鼻薬・注射薬を使用します。筋緊張型頭痛の治療は内服薬の他トリガーポイントブロックやその他のブロックを組み合わせて行うこともあります。

(5) 顔面の痛み・けいれん

  1. 特発性三叉神経痛
    <特発性三叉神経痛の治療>
    1. 薬物療法
      抗けいれん薬であるテグレトールが特効薬です。眠気・ふらつき・目まい・吐き気・便秘・皮疹などの副作用が起こることがあります。
    2. 神経ブロック療法
      神経あるいは神経節に直接ブロック針をあて神経破壊薬を注入するか、あるいは高周波熱凝固法を用いて神経を遮断する方法です。痛みの部位によってブロックする神経を決めます。眼窩上神経・眼窩下神経・上顎神経・おとがい神経・下顎神経ブロック及びガッセル神経節ブロックなどがあります。有効期間はブロック部位や方法により異なりますが、1回のブロックで1年前後の鎮痛が期待できます。ブロック後は一定の部位の感覚が消失します。
    3. 手術療法
      血管の圧迫を取り除く手術で脳神経外科の医師が行います。
    4. ガンマナイフ
      脳神経外科や放射線科で行われています。
  2. 眼瞼あるいは片側顔面けいれん
    目の回りや顔の筋肉が無意識にけいれんする病気で,ボツリヌストキシンによる治療が選択されます。

(6) その他の痛み疾患

  1. 複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome)
    持続的で局在性が不明瞭な難治性の痛みがあり、血管運動障害・発汗障害、皮膚・爪などの退行性変化、筋萎縮、骨粗鬆症などの局所栄養障害をきたす病態の総称です。外傷をはじめとする様々な原因によって起こるとされています。治療法としては、薬による治療や神経ブロック療法が用いられます。痛みを軽減した上でのリハビリテーションが重要とされています。

4 ペインクリニック診療を行うために必要な設備

手技としては交感神経緊張を遮断する方法を用いますので、神経ブロックに必要な針・留置カテーテル・局所麻酔薬を使用します。またレーザー・低周波を使用した治療、針・灸を使用することもあります。局所麻酔薬による低血圧・けいれん等に対応することが可能な設備・薬剤が必要です。

5 ペインクリニック保険診療上の留意事項

下記の(表1)を参照してください。

表1
L100神経ブロック(局所麻酔剤又はボツリヌス毒素使用)
区分項目名点数
トータルスパイナルブロック、三叉神経半月神経節ブロック、胸部交感神経節ブロック、腹腔神経叢ブロック、頸・胸部硬膜外ブロック、神経根ブロック、下腸間膜動脈神経叢ブロック、上下腹神経叢ブロック 1,500点 左記以外の神経ブロック(局所麻酔剤又はボツリヌス毒素使用)は、区分番号L102に掲げる神経幹内注射で算定する。
眼神経ブロック、上顎神経ブロック、下顎神経ブロック、舌咽神経ブロック、蝶形口蓋神経節ブロック、腰部硬膜外ブロック 800点
腰部交感神経節ブロック、くも膜下脊髄神経ブロック、ヒッチコック療法、腰神経叢ブロック 570点
眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頸、上肢痙縮又は下肢痙縮の治療目的でボツリヌス毒素を用いた場合 400点
星状神経節ブロック、仙骨部硬膜外ブロック、顔面神経ブロック 340点
腕神経叢ブロック、おとがい神経ブロック、舌神経ブロック、迷走神経ブロック、副神経ブロック、横隔神経ブロック、深頸神経叢ブロック、眼窩上神経ブロック、眼窩下神経ブロック、滑車神経ブロック、耳介側頭神経ブロック、浅頸神経叢ブロック、肩甲背神経ブロック、肩甲上神経ブロック、外側大腿皮神経ブロック、閉鎖神経ブロック、不対神経節ブロック、前頭神経ブロック 170点
頸・胸・腰傍脊椎神経ブロック、上喉頭神経ブロック、肋間神経ブロック、腸骨下腹神経ブロック、腸骨鼠径神経ブロック、大腿神経ブロック、坐骨神経ブロック、陰部神経ブロック、経仙骨孔神経ブロック、後頭神経ブロック、筋皮神経ブロック、正中神経ブロック、尺骨神経ブロック、腋窩神経ブロック、橈骨神経ブロック、仙腸関節枝神経ブロック、頸・胸・腰椎後枝内側枝神経ブロック、脊髄神経前枝神経ブロック 90点
通知
  1. 神経ブロックとは、疼痛管理に専門的知識を持った医師が行うべき手技であり、疾病の治療又は診断を目的とし、主として末梢の脳脊髄神経節、脳脊髄神経、交感神経節等に局所麻酔剤、ボツリヌス毒素若しくはエチルアルコール(50%以上)及びフェノール(2%以上)等の神経破壊剤の注入、高周波凝固法又はパルス高周波法により、神経内の刺激伝達を遮断することをいう。
  2. 神経ブロックは、疼痛管理を専門としている医師又はその経験のある医師が、原則として局所麻酔剤、ボツリヌス毒素若しくは神経破壊剤、高周波凝固法又はパルス高周波法を使用した場合に算定する。ただし、医学的な必要性がある場合には、局所麻酔剤又は神経破壊剤とそれ以外の薬剤を混合注射した場合においても神経ブロックとして算定できる。なお、この場合において、医学的必要性について診療報酬明細書に記載すること。
  3. 同一神経のブロックにおいて、神経破壊剤、高周波凝固法又はパルス高周波法使用によるものは、がん性疼痛を除き、月1回に限り算定する。また、同一神経のブロックにおいて、局所麻酔剤又はボツリヌス毒素により神経ブロックの有効性が確認された後に、神経破壊剤又は高周波凝固法を用いる場合に限り、局所麻酔剤又はボツリヌス毒素によるものと神経破壊剤、高周波凝固法又はパルス高周波法によるものを同一月に算定できる。
  4. 同一名称の神経ブロックを複数か所に行った場合は、主たるもののみ算定する。また、2種類以上の神経ブロックを行った場合においても、主たるもののみ算定する。
  5. 椎間孔を通って脊柱管の外に出た脊髄神経根をブロックする「1」の神経根ブロックに先立って行われる選択的神経根造影等に要する費用は、「1」の神経根ブロックの所定点数に含まれ、別に算定できない。
  6. 神経ブロックに先立って行われるエックス線透視や造影等に要する費用は、神経ブロックの所定点数に含まれ、別に算定できない。
  7. 同一日に神経ブロックと同時に行われたトリガーポイント注射や神経幹内注射については、部位にかかわらず別に算定できない。
L101 神経ブロック(神経破壊剤、高周波凝固法又はパルス高周波法使用)
区分項目名点数
下垂体ブロック、三叉神経半月神経節ブロック、腹腔神経叢ブロック、くも膜下脊髄神経ブロック、神経根ブロック、下腸間膜動脈神経叢ブロック、上下腹神経叢ブロック、腰神経叢ブロック 3,000点 左記以外の神経ブロック(神経破壊剤、高周波凝固法又はパルス高周波法使用)は、区分番号L102に掲げる神経幹内注射で算定する。
胸・腰交感神経節ブロック、頸・胸・腰傍脊椎神経ブロック、眼神経ブロック、上顎神経ブロック、下顎神経ブロック、舌咽神経ブロック、蝶形口蓋神経節ブロック、顔面神経ブロック 1,800点
眼窩上神経ブロック、眼窩下神経ブロック、おとがい神経ブロック、舌神経ブロック、副神経ブロック、滑車神経ブロック、耳介側頭神経ブロック、閉鎖神経ブロック、不対神経節ブロック、前頭神経ブロック 570点
迷走神経ブロック、横隔神経ブロック、上喉頭神経ブロック、浅頸神経叢ブロック、肋間神経ブロック、腸骨下腹神経ブロック、腸骨鼠径神経ブロック、外側大腿皮神経ブロック、大腿神経ブロック、坐骨神経ブロック、陰部神経ブロック、経仙骨孔神経ブロック、後頭神経ブロック、仙腸関節枝神経ブロック、頸・胸・腰椎後枝内側枝神経ブロック、脊髄神経前枝神経ブロック 340点
通知
L100神経ブロック(局所麻酔剤又はボツリヌス毒素使用)と同様
L102 神経幹内注射
区分項目名点数
- 神経幹内注射 25点 -
L103 カテラン硬膜外注射
区分 項目名 点数
- カテラン硬膜外注射 140点 -
通知
刺入する部位にかかわらず、所定点数を算定する。
L104 トリガーポイント注射
区分 項目名 点数
- トリガーポイント注射 70点 -
通知
  1. トリガーポイント注射は、圧痛点に局所麻酔剤あるいは局所麻酔剤を主剤とする薬剤を注射する手技であり、施行した回数及び部位にかかわらず、1日につき1回算定できる。
  2. トリガーポイント注射と神経幹内注射は同時に算定できない。
L105 神経ブロックにおける麻酔剤の持続的注入
(1日につき)(チューブ挿入当日を除く。)
区分 項目名 点数
- 神経ブロックにおける麻酔剤の持続的注入(1日につき)(チューブ挿入当日を除く。) 80点 精密持続注入を行った場合は、精密持続注入加算として、1日につき80点を所定点数に加算する。
通知
「注」の「精密持続注入」とは、自動注入ポンプを用いて1時間に10mL以下の速度で麻酔剤を注入するものをいう。
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