コラム「産業保健のさんぽみち」

2017年6月9日(金曜日)

嘱託産業医のストレスチェック制度へのかかわり方

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 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度がスタートし、今年の11月末までに1回目のストレスチェックを実施する準備を、多くの企業で進めていると思います。しかし、健康管理の専任スタッフを置ける規模ではない企業では、これから本格的な準備を始めるところも多いようです。この準備を進める中で、「ストレスチェックの実施者を誰にするか」ということが、現場での一つの課題になっており、事業者の中には産業医が実施者になることが当然、という考え方もあるようで、その様な場面に出会うと困惑してしまいます。

 確かに、労働安全衛生規則の産業医の業務にストレスチェックに関することが追加され、産業医の関与が必要になりました。しかし、その改正の内容を解説する労働基準局長の、「労働安全衛生法の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令等の施行について(心理的な負担の程度を把握するための検査等関係)」(基発05013号平成2 751日)という通達の中には、「なお、当該規定は産業医がストレスチェック及び面接指導等の実施に直接従事することまでを求めているものではなく、衛生委員会又は安全衛生委員会(以下「衛生委員会等」という。)に出席して、医学的見地から意見を述べるなど、何らかの形でストレスチェック及び面接指導の実施等に関与すべきことを定めたものであること。」と解説されており、産業医が実施者にならなくても構いませんし、実施者は産業医業務には含まれない、と考えるのが妥当です。

 保健師又は厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師若しくは精神保健福祉士も実施者になることができます。もし、ストレスチェック実施者が産業医の職務の一部、とされるのであれば、保健師等が産業医の職務の一部をできることになってしまいます。

 産業医が実施者になる場合は、産業医業務ではないという観点から、あくまでも事業場と産業医契約をしている医師が産業医契約とは別に実施者契約を結び、ストレスチェックの実施にあたる、という形態になると思います。実施者となった医師は、自身の医療機関で、あるいは外部機関に委託して、ストレスチェックの実施を行いますが、その際、実施者の役割は何か、ということを明確にしておく必要があると思います。少なくとも、ストレスチェックという医学的な検査を行う以上、その準備や実施、結果の評価、結果通知、結果の保存等の全般に責任を持つことになるのではないでしょうか。実施者の業務について、「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」にも記載があるので、その確認も必要です。

 一方、このマニュアルには、「ストレスチェックの実施を外部機関に業務委託する場合にも、産業医等の事業場の産業保健スタッフが共同実施者として関与し、個人のストレスチェックの結果を把握するなど、外部機関と事業場内産業保健スタッフが密接に連携することが望まれます。産業医が共同実施者でない場合には、個人のストレスチェックの結果は労働者の個別の同意がなければ産業医が把握することができず、十分な対応を行うことが難しくなる可能性があります。」となっています。前出の通達にも、「ただし、事業場の状況を日頃から把握している当該事業場の産業医がストレスチェック及び面接指導等の実施に直接従事することが望ましいこと。」との文言があり、実施者としてストレスチェックに関与できないことが多い嘱託産業医も共同実施者として関与することができる旨が示されています。

この共同実施者になることについても、どのような意味があるかの整理がとても重要です。マニュアルにあるように、共同実施者となった産業医は個人のストレスチェックの結果を把握可能です。この際、共同実施者も産業医業務ではありませんので、共同実施者として知り得た情報を、産業医活動に転用しても構わないか、という課題が出てきます。産業医としてではなく共同実施者として、面接指導の申出をしない高ストレス者に、外部機関からではなく社内から勧奨を行うことは可能でしょうし、高ストレス者が面接指導の申出をするハードルが下がることも期待できます。あるいは、知り得た情報をもとに、事業場の今後のメンタルヘルス対策について提言をすることもできると思います。一方で、産業医活動の一環として、高ストレス者を呼び出したり、あるいは他の面談の機会にストレスチェックの結果を使って指導したりすることなどは、ストレスチェック制度における個人情報保護、医師の守秘義務の観点から不適切と考えられます。

 事業者が産業医に共同実施者になることを希望するケースも少なくありませんが、実際にどのような役割を期待しているのか、事前に十分な打合せが必要です。その上で、期待役割を含めた契約書で、産業医契約とは別の共同実施者契約を結ぶと良いでしょう。

 実施者、共同実施者に関する点だけでも、十分な検討や手続きが必要ですが、今後は実施後の事後措置、面接指導や相談対応の実施についても産業医にとっての課題です。ストレスチェックへの対応というストレスに心が折れないように、産業医間の情報共有がますます必要になると思います。

労働衛生コンサルタント事務所オークス所長 竹田 透 所属医師会:日本橋医師会

 

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