ヘルスリテラシーLesson
『シニア』 篇
様々な疾患リスクが高まるシニア世代。
生涯を通じて健康で充実した生活をおくるために、
ヘルスリテラシーを向上させましょう。
高齢者が気をつけたい、
「フレイル」って何?
健康と要介護の中間の状態
「フレイル」とは、心身の働きが弱くなり、健康と要介護の中間にある状態のこと。「つまずきやすくなった」「物忘れが気になる」「前より疲れやすくなった」などの症状があらわれたら、フレイルのサインかもしれません。
自分で手軽にチェックできる一つの方法として、筋肉量を測る「指輪っかテスト」があります。まず、両手の親指と人差し指で輪を作って、利き足でない方のふくらはぎの一番太い部分を囲みます。筋肉が衰えていると指と足の間に隙間ができ、フレイルである可能性が考えられます。
「食事」「運動」「社会参加」が予防と改善の3本柱
フレイルはバランスのよい「食事」、適度な「運動」、人とつながる「社会参加」の3つを生活に取り入れることで、予防・改善することができます。
まず、食事はメタボ対策からフレイル予防に切り替えることがポイント。中年期はメタボ対策でカロリー制限などを行ってきた人も多いかもしれませんが、65歳以上の男女は年齢が上がるほど、低栄養の人が増える傾向にあります。
野菜だけでなく、筋肉のもとになる肉や魚、卵、大豆製品のほか、骨を強くする乳製品などを摂るようにして、栄養状態を保つことが大切です。もちろん、しっかり食事を摂るためには正しく歯みがきを行い、健康な歯を保つことも必要です。
また、筋肉の衰えを防ぐため、ウォーキングなどの運動を習慣的に行うようにしましょう。さらに、社会参加の機会が減ることもフレイルとなる原因の一つです。趣味の集まりや地域のボランティアに参加するなど、自分に合った社会活動を見つけると良いでしょう。
これらを心がけることで、フレイルの予防と改善が期待できます。「まだ大丈夫」という方は予防のために、思い当たることがある方は改善のために、ぜひ今日から取り組んでみてください。
その腰痛、
骨粗しょう症の骨折では?
骨も歳をとります
骨粗しょう症とは、骨の量が減少することなどが原因で、骨折しやすくなる病気です。加齢の影響のほか、カルシウムやビタミンD不足、運動不足、喫煙、飲酒、カフェインや塩分の摂り過ぎ、薬剤などが原因となります。
また、女性ホルモンには骨の新陳代謝のバランスを保つ働きがあるため、女性ホルモンの分泌が減る閉経後は骨の量が減少します。
骨粗しょう症には自覚症状がほとんどありません。骨粗しょう症が進行すると、背骨や手首の骨、太ももや腕の付け根の骨が折れやすくなります。背中や腰が曲がって痛みがあったり、身長が縮んでいる場合は、骨粗しょう症によって背骨が圧迫骨折を起こしている可能性があります。
高齢者は骨折すると治癒に時間がかかり、体力が低下して寝たきりになることもあります。骨折や転倒は、高齢者で介護が必要になる原因として4番目に多いことがわかっています*。
*厚生労働省「人口動態調査」調査票情報より
食事と運動でコツコツ予防を
骨粗しょう症は薬などで治療を行いますが、骨を増やす食事と運動による予防が重要です。まずは骨作りに必要な乳製品や小魚、緑黄色野菜で、カルシウムを積極的に摂取してください。
また、カルシウムの吸収を高める働きがあるビタミンDを含む、カツオやマグロ、卵、しいたけなどの食材も摂るよう心がけましょう。日光に当たると体内でビタミンDが生成されるので、適度に日光浴をしてもいいでしょう。
また、習慣的に運動することも大切です。腰や関節を傷めないよう、散歩や階段の上り下りを増やすのもおすすめです。また、禁煙も有効です。アルコールやカフェインの摂り過ぎにも注意しましょう。そして、定期的に病院で骨密度検査を受け、自身の骨の状態を把握しましょう。
コロナ禍を機に、
知ってください。
肺炎の恐ろしさ。
肺炎は特に高齢者が注意すべき病気
肺炎とは、肺に炎症が起きる病気です。肺炎は「感染性肺炎」と「非感染性肺炎」の大きく2つに分けることができます。
「感染性肺炎」は、肺炎球菌やインフルエンザウイルス、マイコプラズマ、コロナウイルスといった細菌やウイルスに感染して起こる肺炎です。一方、「非感染性肺炎」は、誤嚥性肺炎やアレルギー性肺炎などがあげられます。
肺炎になると、はじめは喉の痛みや鼻水・鼻づまり、咳、たんなどの症状が出て、進行すると高熱や呼吸困難、全身の倦怠感、悪寒、胸の痛みなどがあらわれます。風邪だと思って放っておくと、重症化することもあります。
特に高齢者は重症化しやすく、肺炎による死亡者の96%以上が65歳以上の高齢者です。高齢の方ほど、注意が必要です。
ワクチン接種で肺炎予防を
日常で起こる肺炎の原因菌として、最も多いのが肺炎球菌です。これは肺炎に加え、気管支炎や敗血症などの重い合併症を引き起こすこともあるリスクの高い菌ですが、ワクチン接種で予防することができます。
現在、肺炎球菌ワクチンは高齢者を対象に定期接種になっており、1回の接種で5年以上の効果が続くことが認められています。
定期接種の対象者はその年度に65歳・70歳・75歳・80歳・85歳・90歳・95歳・100歳を迎える方。もしくは、60歳から65歳未満で心臓や腎臓、呼吸器の機能に障害などがある方です。対象者には自治体から接種券が届くので、接種のタイミングを逃さないように気をつけましょう。
ワクチン以外にも、普段から免疫力を高めるために、規則正しい生活やバランスのよい食事、質のよい睡眠を心がけましょう。また、ウイルスを体内に入れないよう、うがいや手洗い、マスクの着用も大切です。
こうした対策により、肺炎のリスクを下げることが期待できますが、熱や咳などのはっきりとした症状が出ないこともあります。高齢者は、「食欲がない」「息切れがする」などの不調を感じたら、必ずかかりつけ医に相談しましょう。
え、まさか。
この俺が認知症?
高齢者の5人に1人が認知症に
「認知症」と聞くと、ドキッとする方も多いのでは。超高齢社会が進む現在では、認知症を発症する方が年々増えており、2025年には65歳以上の方の、約5人に1人が認知症になるといわれています。
認知症とは、さまざまな原因で脳細胞に障害が起き、認知機能が低下し、日常生活に支障が出る状態のこと。認知症を引き起こす病気は数多くありますが、脳細胞の変性が原因となる、アルツハイマー病、レビー小体病、前頭側頭変性症のほか、脳卒中などの脳血管の病気による認知症も多いといわれています。
さらに、甲状腺機能低下症やビタミンB1欠乏症、水頭症など、治療によってある程度治癒が期待できる病気もあります。
認知症の中核的な症状は、記憶障害や理解力・判断力の低下などです。さらに不安感、痛みなどの不快感、居心地の悪さなど様々な環境要因が加わることで、落ち着きがなくなる、怒りっぽくなる、妄想をいだくといった「行動・心理症状(BPSD)」が加わります。
加齢によるもの忘れと認知症はどう違う?
年齢を重ねるとともに、多くの方にもの忘れは増えるものです。加齢によるもの忘れと、認知症によるもの忘れは、区別するのが難しいものですが、次のような症状が見られたら、 認知症のサインかもしれません。
- もの忘れをしていることに気づけなくなる
- 食事の内容だけでなく食べたこと自体を忘れるなど、体験したことすべてを忘れる
- いつも探し物をしていて、誰かが盗んだと思ってしまう
前述したように、認知症を引き起こす病気の中には薬や手術で治すことができるものもありますが、アルツハイマー病などは薬により進行を遅らせることができても、現状では完全に治すことはできません。治せる認知症疾患を確実に治療し、治せない病気の方を早期に支援するためには早期発見が重要です。
また、行動心理症状を悪化させないような心の支援も重要です。自分だけでなく、家族や友人に変化を感じたら、かかりつけ医や「もの忘れ外来」にご相談を。 また、生活習慣病の予防、禁煙は認知症予防につながります。
バランスのよい食事を摂り、適度な運動を習慣にしましょう。趣味の活動などを楽しみ、積極的に人と交流するよう心がけてください。
そのドキドキ、心不全かも?
自覚症状が少ない高齢者の心不全
心不全とは、心臓のポンプ機能が低下して、全身の臓器に十分な血液を送り出せなくなった状態です。原因としては、心臓の周りの血管障害による心筋梗塞や、心臓の筋肉の異常による心筋症、高血圧などにより引き起こされます。
一般的に、心臓の機能は加齢に伴い低下するため、高齢者ほど注意が必要です。社会の高齢化が進むなかで、高齢者の心不全患者は年々増えており、今後も増え続けることが予想されます。
症状としては、動悸や息切れ、呼吸困難、体重の増加、むくみ、疲労感などがあげられます。しかし高齢者の場合、はっきりとした自覚がない場合も少なくありません。また、自覚したとしても「年のせいだから」と我慢してしまう傾向があり、発見が遅れることもあります。
息切れや急な体力低下に注意
高齢者の場合、一度心不全になると入退院を繰り返すことがあり、そのたびに生活の質が低下していき、予後もよくないといわれています。日頃から、いかに早く病気を発見し、治療につなげるかを考えておくことが重要です。
早期発見のポイントは、「これまで普通にできていた動作ができなくなった」「急に体力が落ちた」「急に体重が増えた」「動悸や息切れが増えた」といった症状などです。こうした症状があらわれたら我慢をせずに、医療機関を受診しましょう。
日常生活では、かかりつけ医と相談して、塩分や水分の摂取に気をつけましょう。また、過度の飲酒や過食、長時間の入浴にも注意が必要です。そして喫煙は控えましょう。こうしたことに注意しながら、できるだけ心臓にやさしい生活を心がけてください。
定年後こそ、
ヘルスリテラシー。
定年後は疾患リスクが上昇する?
厚生労働省が40歳以上の男女を対象に行った調査によると、「老後に不安なこと」として、73.6%*¹の方が「健康上の問題」をあげています。しかし、定年後の健康に関して注意しなければならないのは、加齢による衰えだけではありません。生活の変化にも気をつける必要があるのです。
多くの場合、企業などに勤めている間は毎年の健康診断や検診が義務づけられています。しかし、定年後は自治体などの健康診断を意識して、自分で受けなければなりません。そのため、健診を受けなくなってしまう方もいます。実際に、健診や人間ドックの受診率は、60代以降に下がる傾向にあります*²。
病気を未然に防ぐためには、定期的に身体状態をチェックすることが大切であり、その機会を逃すことは、病気発見の遅れにつながる可能性があります。
また定年後、家族以外の人と接する機会が減ったり、長年続けてきた生活リズムが変わったりすることで、精神的な不調につながることもあります。
*1 厚生労働省 政策統括官付政策評価官室委託「高齢社会に関する意識調査」(2016)より
*2 厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」より
地域の取り組みを活用しましょう
自治体では、住民の健康づくりのために様々な取り組みを行っています。例えば、国民健康保険の加入者に健康診断を行うだけでなく、人間ドックを無料で受診できる事業や、費用の助成を行っている自治体もあります。
また、ずっと仕事中心の生活で、定年後に地域のなかでの人間関係を築きにくいような方たちを対象に、市民グループへの参加の機会を提供している自治体もあります。
ほかにも、定年退職後の男性が地域の子どもたちを預かる取り組みや、脳を若く保つものとして注目されている「健康麻将(マージャン)」教室を行っている自治体などもあります。興味がある方は、ぜひ問い合わせてみてください。
定年後には、自分で自分の健康を守ることがそれまで以上に大切になります。ヘルスリテラシーを高めて、健康で充実した毎日をおくりましょう。