産業医の手引き<ダイジェスト>
9章:年代、性別、疾病、障害に応じた配慮

8 外国人労働者の労働衛生管理

中川 陽之

要旨

日本国内で就労する外国人労働者にも日本人と同様に労基法・安衛法をはじめとした関係法令が適応される。労働災害を防止するためには、その事業所で扱う機械設備などの安全対策とともに、労働者に対する適切な安全衛生教育や健康診断の実施が重要である。

Ⅰ.言語・コミュニケーション問題:

外国人の雇用に対する最大の問題は言語である。日本語の学習機会の現状において、生活者としての外国人を受け入れる環境にはなく、外国人労働者が日本語を学ぶ機関・施設としては「国際交流協会」や「任意団体」がその主体となっている。日本語能力の不足を補うためには通訳者を利用するか、機械翻訳を利用するかであるが、近年、人工知能(AI)を使った翻訳機の開発が急速に進行している。こうしたAIを使った翻訳機による対応が今後、どのように進展していくのか期待されているところである。

Ⅱ.文化の違いに対する理解:

外国人労働者に作業の手順などを教え、理解したことを確認しても実際に作業をさせてみると全くできていないことがある。時間にルーズなところもあり、こうしたトラブルが生じるのは、生まれ育った国や地域の文化の違いによるところが多いということを認識しておく必要がある。その一方で日本人が多数を占める職場においては外国人労働者に対して暗黙の同調圧力や規範意識を求める傾向が強くある。外国人への排他意識も存在し、このような問題点に対しては外国人労働者が日本での生活にスムーズに適応できるよう、受入企業などを支援するサポートツールや動画教材を用いて、研修することが必要である。更に、日本人スタッフも加わって学習することにより、相互の理解を深めることが期待される。

Ⅲ.労働安全教育:

外国人を雇用する場合においては日本人と同様に安衛法の定める各種安全衛生教育が不可欠である。外国人労働者に対し安全衛生教育などを実施するにあたっては、言語や文化の違いから特段の配慮も必要であり、視聴覚教材を用いるなど、外国人労働者が確実に理解できる方法により労働安全教育を実施する。

Ⅳ.健康管理(健康診断、健康指導など):

事業主は安衛法などの定めるところにより外国人労働者においても健康診断、ストレスチェック、面接指導、健康相談などを実施する必要がある。健康診断受診の習慣がない国も散見されるため積極的に受診を勧める必要がある。なお、出身国においては宗教上のタブーや西洋医学が受け入れられない場合があることを注意しなければならない。更に、日常の健康管理としての健康相談においては事前に外国人労働者が受診可能である近隣の医療機関を確認しておくことが重要なポイントとなる。

法令・制度等

労基法令・規則、安衛法令・則、労働力調査、出入国管理法、難民認定法

キーワード

外国人雇用、外国人労働者、言語・コミュニケーション問題、文化の違い、同調圧力、労働安全教育、外国人労働者の健康管理、宗教上のタブー

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