産業医の手引き<ダイジェスト>
9章:年代、性別、疾病、障害に応じた配慮

7 知っておきたいダイバーシティ&インクルージョン

西 賢一郎

要旨

Ⅰ.企業経営においてダイバーシティ&インクルージョン(D&I)が必要なポイント

ダイバーシティ(Diversity)は「ジェンダー、人種、民族、年齢」における違いを基に「多様性、相違点、多種多様性」すなわち「人々の間の違い」(Difference between people)を表し、D&Iは、組織における個人の持つあらゆる属性(多様性)をマネジメントする管理手法である。「人材の多様性(=ダイバーシティ)を認め、受け入れて活かすこと(=インクルージョン)」。つまり、背景の違うさまざまな人々にそれぞれの個性や能力に応じて活躍できる機会をつくることにより、組織のパフォーマンスを向上させる考え方である。D&Iが重視される社会的背景のなかには、労働人口の減少や人材不足や価値観の多様化と従前の日本的な企業文化との齟齬などがある。男性中心で終身雇用・定年制を基本とする雇用方針を転換し、人材の門戸を広げるため女性雇用や活躍の場を拡大し、定年延長や再雇用による高齢者の経験と能力の活用、外国人の積極的な受け入れや、ワークライフバランスを重視する傾向も高まり価値観の変化、企業のグローバル化による国籍や経歴に関わらず多様な人材や価値観を取り込む必要も出てきた。経済産業省は、ダイバーシティ経営について「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義し、企業もD&Iを表記する傾向にあり、産業医活動を行ううえでD&I推進に理解を深める必要がある。

Ⅱ.D&I推進におけるLGBTQ+への理解のポイント

ダイバーシティの考え方が広まりとともに、LGBTQ+といった単語の社会的認知も広まりを見せ、2020(令和2)年6月の労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)改正では、同時に性的指向(SO: Sexual Orientation)、性自認(GI: Gender Identity)に関するハラスメント(SOGIハラ)や、性的指向や性自認について本人の同意なく他者に開示する行為(アウティング)のセクシュアルハラスメント防止対策も強化された。また、2022(令和4)年に東京都がパートナーシップ制度を導入するなど、LGBTQ+関連の法整備が行われている。このように、法令や自治体の制度の面での義務化が進み、日本企業におけるD&Iの取り組みが社内外から求められる場面も増加している。D&Iを推進する企業は、社員の定着率もよくなり離職が減る、モチベーションが上がるなどの成果が出ている。D&Iはこの2者が相互に密接にかかわり、両輪で実践することが重要であることはいうまでもない。「多様性を受け入れ、能力を活用する」のは目に見えるわかりやすい施策にばかりではなく、もっとさまざまな個性や差異にも配慮して、区別や差別することなく認めて受容する姿勢が必要である。変えて対応するのではなく、受け入れて活用したい。

法令・制度等

労働施策総合推進法(旧:雇用対策法)、男女雇用機会均等法、障害者雇用促進法、高年齢者雇用安定法、労働者派遣法、出入国管理及び難民認定法
経済産業省 ダイバーシティ経営
経済産業省 新・ダイバーシティ経営企業100選/100選プライム
厚生労働省 職場におけるダイバーシティ推進事業 2020.3
厚生労働省 えるぼし・プラチナえるぼし認定

キーワード

ダイバーシティ、インクルージョン、ダイバーシティ経営、女性活躍推進、LGBTQ+

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