産業医の手引き<ダイジェスト>
9章:年代、性別、疾病、障害に応じた配慮

6 働く女性のための産業保健

須賀田 元彦

要旨

Ⅰ.女性の就労状況

多くの女性が働くことは産業の活性化や国の発展にもつながることから、女性活躍は成長戦略の柱のひとつとして「女性活躍推進法」が施行となった。経済産業省が2019(令和元)年にまとめた「健康経営における女性の健康の取り組みについて」では、女性特有の健康問題、生理関連の不快症状による社会経済的負担は年間6,828億円、労働損失は4,911億円に及び、企業や社会にとっても大きな損失を発生させている。男女の身体的機能には違いがありさまざまな疾患に罹患するリスクには性差があり女性特有の疾患もあり女性の就労については男性と異なった配慮が必要であるとともに少子化対策としても就労女性への母体・母性保護のための就労規定が必要である。

Ⅱ.女性に特徴的な職業関連性疾患

女性に多い職業関連性疾患は、慢性的な負荷による心身のダメージによるものが多く、男性に比べて筋力(特に腕力)が劣るため、長時間の反復作業(製造業、医療・介護従事者など)による慢性的な負荷のため筋肉痛、腰痛、首、腕、手首、手の痛みなど筋骨格系の疾患が多い特徴がある。事務職では、VDT症候群の発生は女性に多い傾向がある。手の接触性皮膚炎・湿疹、ラテックスアレルギー(医療用手袋)は洗剤、パーマ液などを扱う医療従事者、看護師、理容師、美容師、調理・飲食関係、食品工場従事者によくみられる。下肢静脈瘤は中高年の女性に多く長時間同じ姿勢で立ち続ける女性に発症しやすく高血圧、肥満などでも発症リスクが高まる。

Ⅲ.就労女性の健康管理上の留意点

就労女性の健康管理には妊娠・出産、育児だけでなく女性のライフサイクルを考慮した視点が重要であり、更年期症状に対する配慮も必要である。職域健康診断項目は、甲状腺疾患や閉経後骨粗鬆症(転倒による骨折のリスク評価)については不十分で、健康診断の事後措置の際に考慮すべきと考える。就労女性にとって月経関連の症状による業務への影響は大きく、生理の不快な症状で約75%の女性が仕事の効率低下を感じ仕事の生産性は通常時の約6割に低下するともいわれている。過多月経は就労女性では月経痛に次いで多く、月経前緊張症候群は、精神・身体症状など業務にも影響し経済的損失を発生させている。月経前緊張症候群は職場のストレス、職責の大きさ、仕事のコントロール度の低さなどにより症状が増悪しメンタルヘルス不調を合併している場合もあり注意を要する。社会参画における男女間の平等性、機会均等は保障すべきであるが、生物学的相違による役割分担や業務内容についての対応が求められる。

法令・制度等

労基法、安衛法、男女雇用機会均等法(妊娠中の通勤緩和措置、妊娠・出産等に関するハラスメント防止措置)、女性活躍推進法(一般事業主行動計画)、女性労働基準則、事務所則(休養所、休養室の設置)、安衛則、育児・介護休業法(育児休業、深夜・休日労働の制限)、生育基本法、健やか親子21(母子保健の国民運動計画)、女性活躍・男女共同参画の重点指針(2022)、職場における受動喫煙防止措置(妊婦への特別な配慮)、転倒災害防止キャンペーン(厚労省)、エイジフレンドリーガイドライン(厚労省)、健康経営優良法人認定制度(経済産業省)、労働力調査(総務省)、女性の健康推進室ヘルスケアラボ(厚労省)、女性版骨太の方針2022(女性活躍・男女共同参画の重点方針)

キーワード

母体・母性保護、生理痛、生理休暇、月経前緊張症候群、過多月経、健康経営、更年期症状

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