産業医の手引き<ダイジェスト>
9章:年代、性別、疾病、障害に応じた配慮

5 ハラスメント対策で産業医ができること

寺田 勇人

要旨

 ハラスメントは問題発生後では、当事者たちが不快な思いをするとともに企業イメージも低下するなどリスクが計り知れない。産業医としては日頃から契約事業所の発生防止対策を支援したい。

Ⅰ.契約企業からハラスメント体制を整えたいとアドバイスを求められた場合のポイント

(1)最新の情報を提供し法令やガイドラインの内容に即した社内体制を整えてもらう
①方針の明確化及びその周知・啓発として、1)ハラスメントに該当する内容とハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化して労働者に周知・啓発する。2)ハラスメント行為者に対して、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則などの文書に規定して労働者に周知・啓発する。
②適切に対応できる体制整備(相談体制など)として、次の2点が必要である。1)相談窓口を定めて労働者に周知すること。2)相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること。相談の第一窓口になりえる相談担当者や管理監督者は、各団体が主催する研修を受講してもらいスキルを身につけておくこと。なお、「自主点検サイト」の自主点検票を用いると事業主の責務(10の事項)について取組状況が確認できる。

(2)次の①~⑤より良好事例や資料などを紹介して該当企業が対策を進めやすいように後押しする
①関連サイト検索、②産業保健関連書籍(事例集)、③学会(日本産業衛生学会など)、④各種団体が主催する研修会、大会、イベント、⑤『明るい職場応援団』、特に⑤にアクセスすると、ハラスメント対策マニュアル、ダウンロードして利用可能な研修資料・動画、さまざまな良好事例、疑問に答えるQ&A、裁判例などが掲載されており大変便利である。

Ⅱ.契約企業からハラスメント事例の相談や対応を持ちかけられた場合のポイント

①健康上の問題が生じているか否か(心身の不調、病気休暇中・休職中など)を確認する。
②なるべく防止対策で防げれば理想であるが、診断書が出されて病気休暇や休職となった場合は休養期間の対応策、復職に向けての体制整備、復職時面談、その後のフォローアップを行う。
③ハラスメントの種類と深刻度、社内での対応状況についても確認しておく。
④被害者が今後もその職場(企業・会社)で働き続けたいことが前提なのか否かを確認する。働き続けられる場合は、職場における就業上の配慮や整えるべき条件について産業医からアドバイスできる。そうでない場合(転職、退職)は、社会保険労務士や弁護士のアドバイスが必要になる。
⑤一方的な訴えだけを真実としてはいけない。加害者とされた側には、被害者の苦痛や主張の内容を伝えて、客観的な事実関係の把握に努めたうえで最終的に判断する必要がある。

法令・制度等

労働施策総合推進法(旧:雇用対策法)、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働契約法、民法・刑法
厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査 報告書」. 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社. 2020. 2016. 2012
(独)労働政策研究・研修機構「パワーハラスメントに関連する主な裁判例の分析」. 2020.4
厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策リーフレット」. 2022.1
厚生労働省「パワハラ対策導入マニュアル(第4版)~予防から事例対応までサポートガイド~」. 2019.10

キーワード

ハラスメント、相談体制、相談窓口、相談担当者、自主点検サイト、自主点検票、「明るい職場応援団」、ハラスメント対策マニュアル

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