産業医の手引き<ダイジェスト>
9章:年代、性別、疾病、障害に応じた配慮

3 眼疾患を持つ労働者への配慮とICT端末の利用拡大における課題

三宅 琢

要旨

労働環境に関する社会環境の変化として、少子高齢化による労働生産年齢人口の年齢分布の変化やICT(Information and Communication Technology)端末の普及とインターネット環境の整備による情報社会の到来が挙げられる。
また、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミックを契機にリモートワークの普及でICT端末の使用時間が延長していることも加わり、労働者の高齢化にともなう加齢性の視機能低下や眼疾患を有する労働者も増加することが想定される。本稿では、産業保健の現場で遭遇する頻度の高い代表的な眼疾患と、それら眼疾患を有する労働者への配慮のあり方や現場スタッフへのアドバイスの要点と労働者のICT端末利用の拡大における課題と現場スタッフへのアドバイスの要点を解説する。

Ⅰ.視覚障害を持つ労働者への配慮と職場理解、合理的配慮の実践のポイント

労働者の持つ視機能の役割と基本的な視覚障害を理解したうえで、個別の労働環境における労働者が抱える具体的な課題と困難さの聴取を行うことが肝要である。

1)視力、視野、調節力、屈折力、両眼視、色覚などに関する機能と機能低下を起こす代表疾患を理解し、各視機能の障害にともなう具体的な困難さを理解したうえで、必要な配慮を当事者とともに考えることが重要である。

2)シミュレーションゴーグルなどを利用して、識字や色の識別、遠近感など実際に困難さを感じる体験をすることで職場スタッフの理解は進むと考えられる。

3)日本眼科学会ホームページの疾患一覧や日本眼科医会ホームページなどのロービジョンケアの項目や各種支援機関の情報を共有し、基本的な疾患概念と困難さを理解したうえで労働者とともに合理的配慮を考える姿勢が望まれる。

Ⅱ.ICT利用拡大における課題

スマートフォンやタブレット端末などに代表されるICT端末の普及にともない、通勤時間なども含めICT端末の視聴時間は増加傾向にある。コンタクトレンズを使用する労働者の増加などもあり、ICT端末利用に関連した新しいタイプの眼精疲労の発生にも留意する必要がある。
また、コロナ禍におけるリモートワークの普及にともない、在宅勤務時のICT端末とのかかわり方への指導も重要である。スマートフォンをはじめブルーライトの視聴におけるサーガディアンリズムへの影響や、ドライアイを中心とした眼精疲労対策が必要となる。ブルーライト協会のホームページなどを参照に最新の情報提供が望まれる。

法令・制度等

障害者雇用促進法、障害者差別解消法
日本眼科学会ホームページ 目の病気 https://www.nichigan.or.jp/public/disease/ 
ブルーライト協会 http://blue-light.biz/ 
公益社団法人日本眼科医会ホームページ ロービジョン https://www.gankaikai.or.jp/lowvision/index.html 
情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(厚労省)
テレワークの適切な導入および実施の推進のためのガイドライン(厚労省)

キーワード

合理的配慮、リモートワーク(テレワーク)、ICT端末

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