産業医の手引き<ダイジェスト>
9章:年代、性別、疾病、障害に応じた配慮

2 治療と仕事の両立支援

立石 清一郎

要旨

Ⅰ.両立支援の概要と対象疾病

2017(平成29)年の働き方改革実行計画により1億総活躍社会の実現が目指され、厚生労働省「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が発出された。2018(平成30)年には診療報酬が算定できるようになった。診療報酬は当初がんのみが対象であったが、脳卒中、難病、肝疾患、心疾患、糖尿病、若年性認知症が対象疾患となった(2023(令和5)年2月現在)。

Ⅱ.両立支援の課題

両立支援の課題は3テーマ10カテゴリーが存在する。

(1)個人要因として:①職業能力の低下、②心理的影響、③健康リテラシー、④属性、⑤家族背景

(2)職場要因として:⑥職場構造、⑦職場の仕組み、⑧職場の支援

(3)社会要因として:⑨社会資源の活用、⑩多職種・多業種の連携

人によってこれらの課題のいくつかが職場復帰の困難につながっているので漏れることのないよう聴取したい。

両立支援における支援者は当事者の代理人として権利や配慮を勝ち取る、という流れにならないように注意することが必要である。事業者と医療機関間で発生するコンフリクトを調整するために両立支援コーディネーターの配置が進んでいる。

Ⅲ.両立支援を進めるうえでの留意事項

両立支援を進めるうえの留意事項として、特に、①安全と健康の確保、②労働者本人による取組、③労働者本人の申出、④治療と仕事の両立支援の特徴を踏まえた対応、⑤個別事例の特性に応じた配慮、が重要である。配慮の考え方としては、安全配慮とReasonable Accommodationの組合せが重要な概念である。これらの配慮の組合せでは復帰できない問題については事業者と協議のうえで実践されることが望まれる。

両立支援を実践する流れは、当事者が事業者と共同して勤務情報提供書を作成し主治医に渡し、主治医の意見書を受けて事業者側で産業医などと復帰プランを考える、というものである。また、診断直後から多くの意思決定を強いられることになることから、ストレスマネジメントについても指導が必要である。

法令・制度等

事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン、障害者差別解消法、労働契約法、安衛法令・規則

キーワード

両立支援、申し出、安全配慮、診療報酬の算定、Reasonable Accommodations、Positive Action、両立支援コーディネーター、ストレスマネジメント

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