産業医の手引き<ダイジェスト>
8章:産業保健活動で押さえておきたい重要事項

9 職場における感染症対策─感染症対策の基本─

岡部 信彦

要旨

Ⅰ.感染症対策の基本

2023(令和5)年5月8日、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)は、それまでの2類相当から5類感染症に変更がなされた。しかし、これはCOVID-19の「終息」や「収束」を意味するものではなく、行政対応が大きく変化するものの感染症対策が必要なくなったわけではない。COVID-19は「呼吸器感染症」なので、対策としてはその他の多くの呼吸器感染症と共通の部分がかなりある。子どもたちの学校や高齢者が集団で生活する高齢者施設などは、いったん感染症が発生すると流行して広がりやすい。事業所・職場も大小の規模はあるものの、大人がいわば集団で過ごしている場であり、クラスターが発生しやすい場である。個人個人の注意あるいは個人個人への注意が、事業所という集団をも守ることになるので、事業所における感染症の基本的な対策は、COVID-19に限らず、身近に生じることのある“うつりやすい病気”への対応として重要である。ただし、そこには、行き過ぎることのない、しかし基本的な対策の考え方は常に重要である、ということの認識が必要である。COVID-19で実施したさまざまな対策のなかで有効性が高かったものを吟味して、今後も起こり得るであろう新興感染症対策に備えたい。

Ⅱ.感染症予防の三原則

1)感染源対策、2)感染経路対策、3)感受性者への対策が挙げられる。偏らない栄養、適切な運動、休養、睡眠により体の抵抗力・体力を高めておくことも感染症予防のために大切であり、これらについて本篇で述べた。その他に、標準予防策の考え方、感染症対策として基本となるサーベイランス、感染症の現状、新たな感染症への警戒、これからの身近な感染症対策の考え方、新たな健康習慣への提言、などについても述べた。

これからも必要な一人ひとりの基本的感染対策として、COVID-19だけではなく、一般に感染症の流行が落ち着いている時期であっても、地域での感染症の流行状況に関心を持ち、自らを感染症から防ぎ、身近な人を守る、ひいては社会を感染症から守るという考え方が重要である。

Ⅲ.5つの基本的な対策

①体調不安や症状がある場合は、無理せず自宅で療養あるいは受診をする、②その場に応じたマスクの着用や咳エチケットの実施、③換気、密集・密接・密閉(三密)の回避は引き続き有効、④手洗いを日常の生活習慣とする、⑤適度な運動、食事などの生活習慣で健やかな暮らしをする、などを一人ひとりが習慣として身につけておくことが必要である。

法令・制度等

感染症にかかわる基本的な法律、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)、新型インフルエンザ等対策特別措置法、検疫法、学校保健安全法、食品衛生法

キーワード

感染症対策、感染源対策、感染経路対策、感受性者対策、標準予防策、サーベイランス、新興再興感染症、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)、新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード、新たな健康習慣

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