産業医の手引き<ダイジェスト>
8章:産業保健活動で押さえておきたい重要事項

8 受動喫煙防止対策

村松 弘康

要旨

Ⅰ.受動喫煙防止対策は職場に大きなメリットをもたらす

世界保健機関(WHO)は、2007(平成19)年に受動喫煙防止政策に関するガイドラインを発表しており、すべての職場は分煙でなく完全禁煙にすべきと勧告している。職員やその家族の健康と生活を守るのが事業主の責務であり、喫煙で病気となり勤務継続が困難になれば、職員やその家族にとっても、雇用側にとっても大きな損失である。職場の受動喫煙防止対策により、勤務時間中に吸いづらい環境になることで、禁煙を決意する職員が増えれば、大切な職員を失うリスクを回避することができる。またタバコ休憩が減ることで、業務の効率化や残業時間の短縮も期待できる。

Ⅱ.日本では職場で働く、働き盛り男性の喫煙率が高いことが問題

2019(令和元)年の調査では、日本人喫煙率は16.7%であり、男性27.1%、女性7.6%と減少傾向にあるが、30代男性では33.2%、40代男性では36.5%であり、いまだ働き盛りの男性の3~4割が喫煙している。一方、受動喫煙の機会については、飲食店では29.6%、職場でも26.1%の人が受動喫煙を受けていると回答している。2016(平成28)年5月31日の世界禁煙デーに、同研究班は「日本では年間に1万5千人が受動喫煙により死亡している」という推計を発表した。これは、同年の交通事故による年間死亡者数である3,904人の約4倍に相当する数である。

Ⅲ.改正健康増進法で原則屋内禁煙となり、また未成年の受動喫煙が禁止された

2020(令和2)年4月1日より改正健康増進法が全面施行され、日本でも受動喫煙防止が義務づけられた。一部例外規定はあるものの、原則的には閉鎖空間である屋内は禁煙が義務となった。また、成長過程にある未成年の体には、喫煙の悪影響が強く出ることから、これまでも未成年の喫煙は禁止されてきたわけだが、昨今受動喫煙が喫煙と同様に健康に悪影響を及ぼすことが明白となり、改正健康増進法のなかでは未成年の受動喫煙も禁止とすることが盛り込まれた。

Ⅳ.オリンピックを機に国際水準に一歩近づいた受動喫煙防止対策

国際オリンピック委員会(IOC:International Olympic Committee)とWHOは、タバコのないオリンピック大会を開催することで協定を結んでおり、東京都では、東京オリンピックに合わせ改正健康増進法よりも厳しい内容の受動喫煙防止条例を制定した。2020(令和2)年4月1日の改正健康増進法及び東京都受動喫煙防止条例の全面施行に合わせて、職業安定法の一部も改正された。同改正により、事業主が求人広告を出す際には、職場の受動喫煙防止対策について「屋内禁煙」「屋内原則禁煙(喫煙室あり)」「喫煙可」など、具体的に明示することが義務づけられた。

法令・制度等

世界保健機関(WHO)受動喫煙防止ガイドライン、国民健康・栄養調査、厚労省研究班の研究結果、改正健康増進法:未成年の受動喫煙が禁止、東京都受動喫煙防止条例:東京オリンピック、国際オリンピック委員会(IOC)とWHOの協定、安衛法第68条の2、安衛法第71条第1項、職業安定法改正:職場の受動喫煙対策開示義務、受動喫煙防止対策への助成金制度(厚生労働省)、WHOタバコ規制枠組条約(FCTC)第8条、日本国憲法第98条2項:国際条約の順守、喫煙の健康影響に関する報告書(たばこ白書)、国立がん研究センターの研究結果、日本人のためのがん予防法、加熱式タバコも有害

キーワード

職員やその家族の生活と健康を守る責務、タバコ休憩、業務の効率化、残業時間の短縮、受動喫煙、三次喫煙(サードハンドスモーク)、ニコチン依存症、スモークハラスメント

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