産業医の手引き<ダイジェスト>
8章:産業保健活動で押さえておきたい重要事項

7 海外派遣・出張における健康管理

古賀 才博

要旨

Ⅰ.契約企業から海外派遣、出張者の健康管理体制を整えたいとアドバイスを求められた場合のポイント

(1)海外派遣、海外出張者の現状把握と関連法規についての確認
①企業がどのような国や地域に労働者を派遣または出張させているか、人事労務担当者と情報共有し、必要な対策の確認と最新の情報提供が大切である。海外派遣者の健康診断に関する法律として、安衛則第45条の2があり、6カ月以上海外に派遣する労働者への健康診断の実施は、事業主に課せられた義務となっている。そのため長期に海外へ派遣される労働者の健康状態の把握や予防接種などの対策を実施している企業は多いものの、短期の海外出張者の対策ができていない場合があり、医療インフラの脆弱な国や地域へ基礎疾患を持った労働者の派遣や出張はその可否も含めて検討する必要がある。
②労災保険法の適応範囲は、日本国内に限られており、海外で労災に巻き込まれた場合、日本の労災保険の保護が及ばないことになっている。そのため、海外派遣者が不利益を被らないような措置として、労災保険法には海外派遣労働者特別加入制度が設けられているが、この制度は任意加入制度であるため加入状況を確認する必要がある。また、労災の適応に関しては現地での労働の実態を踏まえ、出張か派遣かにより国内の労災保険か特別加入制度の適応となるか労働基準監督署が判断することになる。

Ⅱ.契約企業から海外派遣、出張の可否や予防接種などの対策を相談された場合のポイント

(1)健康診断結果や治療状況の把握
①海外派遣、出張により現地での継続治療が困難と判断される場合や緊急移送などが予見される場合は、派遣、出張を見合わせることも検討する。それでも代替が困難な場合、本人や家族の意向、主治医の意見などを踏まえ、定期的に健康状況を報告するなどの対策を講じたうえで再検討する場合もある。
②海外派遣、出張に必要な予防接種に関しては、以下の関係法令・関連情報等に示した厚生労働省検疫所や外務省世界の医療事情などの情報をもとに判断する。その際、乳幼児期の定期予防接種や罹患の有無を確認することも重要である。また、腸チフス、コレラ、ダニ媒介性脳炎など国内では通常流通していないワクチンが必要ならば、日本渡航医学会の国内トラベルクリニックリストなどを参考に接種を考慮するとよい。

法令・制度等

安衛則第45条の2、労災保険法
海外派遣労働者特別加入制度https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-7.pdf
厚生労働省 検疫所 FORTH https://www.forth.go.jp/index.html、外務省 世界の医療事情 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/index.html
日本渡航医学会 国内トラベルクリニックリスト
https://plaza.umin.ac.jp/jstah/02travelclinics/index.html

キーワード

海外派遣、海外出張、海外派遣労働者の健康診断、海外派遣労働者特別加入制度、予防接種、緊急移送、検疫所、トラベルクリニック

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