産業医の手引き<ダイジェスト>
8章:産業保健活動で押さえておきたい重要事項

5 作業環境測定を読み解く

飛鳥 滋

要旨

Ⅰ.作業環境測定の労働衛生管理における重要性と意味づけを理解

作業環境測定は、労働衛生の3管理のなかで、健康障害予防のもっとも基本的で重要なアプローチである「作業環境管理」の良否を客観的に判定し、改善につなげ、良好な作業環境を継続的に維持することを目的としている。実際の測定は、デザイン、サンプリング及び分析の3段階から構成される。測定の方法は「作業環境測定基準」に従い、また測定結果の評価と環境改善の要否の判断は「作業環境評価基準」に従って行う。評価が第3管理区分の場合は、直ちに改善措置が必要である。

特化物、有機溶剤、鉛、粉じん及び石綿にかかわる測定は、作業環境測定士に行わせなければならない「指定作業場」の測定となる。指定作業場の測定点のデザインは、無作為抽出法による。これは、測定結果の評価を推測統計学的手法すなわち、有限個数の測定値を標本として母集団たる単位作業場所の有害物分布を推計できるための条件である。これを満たす方法として当初からのA測定の他、一定の作業場所については、C測定も近年導入された。C測定は個人サンプラーを労働者に装着する方法であるが、A測定同様、作業環境中の有害物の分布状況を評価するものであり、個人のばく露レベルに着目するいわゆる「個人ばく露測定」とは異なる。

Ⅱ.産業医の視点

作業環境測定及び評価に基づく改善について、次のような視点が衛生管理者の指導や衛生委員会におけるご発言の参考になれば幸いである。

(1)作業環境測定に関して、①事業場の指定作業場が誤りなく把握されているか、②指定作業場について、作業環境測定士による測定が6月ごとに1回(鉛業務の場合は1年に1回)実施されているか、③測定結果については、測定を行った作業環境測定機関からの報告を十分に聞いて改善の要否の判断や具体的な対策の実施に生かしているか、④第3管理区分の作業場所がある場合、改善の計画はどのようになっているか。改善されないまま放置されているようなことはないか、⑤2022(令和4)年5月31日付の安衛則等の改正により、第3管理区分の作業場所については、新たな取り扱いが規定された。衛生管理者は、当該法令改正の内容をよく理解のうえ適切に対応すること。

(2)化学物質管理を含む有害業務全般の作業環境管理について、事業場における有害業務を整理してシステマティックな労働衛生を実践し、労働衛生水準を着実に高めていくことが重要である。そのための第1歩は、衛生管理者が中心となって当該事業場で行われている作業について、どのような種類の有害業務があるかを把握のうえ、その対応状況、問題点などの項目について整理しておき、それを基に、常に現在の労働衛生の状況を把握し実施すべきことを認識すること。

法令・制度等

安衛法令・規則
特化則、有機則、鉛則、粉じん則、石綿則
作業環境測定基準(昭和51年告示46号)、作業環境評価基準(昭和63年告示79号)
作業環境測定法令・規則
デザイン・サンプリングの実務(A・B測定編、C・D測定法)(日本作業環境測定協会編)
作業環境測定のための「労働衛生の知識」(同)

キーワード

作業環境測定、作業環境管理、デザイン、サンプリング、分析、管理区分、単位作業場所、指定作業場、A測定、B測定、C測定、D測定、個人サンプラー

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