産業医の手引き<ダイジェスト>
8章:産業保健活動で押さえておきたい重要事項

2 テレワーク(在宅勤務など)で留意したい健康管理

黒田 玲子

要旨

Ⅰ.テレワークと健康管理の動向

テレワークは、多様な働き方の一要素として、またCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)などの感染症対策のBCP:Business Continuity Plan(事業継続計画)として、一部の会社では働き方の一形態として定着し、今後も継続していくと考えられる。テレワークは労働者と会社の双方に大きなメリットがある。一方で、テレワークそのものや新しい働き方への変化に適応する過程は、業務負荷・負担の増大や生活習慣の変化につながり、さまざまな健康影響を引き起こす可能性がある。2023(令和5)年春の時点で、テレワーク時の健康管理に関する主要な国内外のガイドラインは3つある。その内容を踏まえて懸念される長期的な健康影響を想定し、テレワーク勤務下の健康管理を行うことが求められている。

Ⅱ.テレワークにともなう健康管理のポイント

(1)テレワークは、業務負荷や負担の増大の要因となることがあり得る。特に、就業上の配慮や復職支援を検討するときにテレワークが「軽減勤務」の文脈で使われる場合、逆効果につながることもある。特定の健康状況の労働者におけるテレワークの適性や、今後会社が求める「通常勤務」への移行の見込みを検討する際には、十分な注意が必要である。会社内でテレワークに留意した産業保健サービスを提供する場合、特に次の4点がポイントとなる。①社内の健康管理・安全衛生に関する基礎統計にテレワークに関する勤務実態・負荷や負担感の定点調査を加え、会社の各施策へ反映するよう助言・支援を行うこと。②テレワークの特徴を踏まえた作業環境管理・作業管理と、それに資する教材や資料の準備・社内通知の支援を行うこと。③テレワーク時にも利用しやすい相談窓口の拡充と周知を行うことの支援を行うこと。遠隔面談に特化した産業保健スタッフ側のスキル習得も必要である。④参加型の職場環境改善ミーティングや健康増進イベントの企画運営の実施にあたり、企画への助言や運営の支援を行うこと。

(2)産業医自身がテレワークで産業保健サービスを提供する場合に留意が必要なポイントは次の3点である。①社内のテレワーク時のセキュリティルールやポリシーに従い、産業保健サービスの提供を行うこと。②各産業保健サービス(特に面談)の提供を、遠隔やテレワークで実施するのが適切であるかどうか事前に検討すること。③自身のテレワーク(在宅勤務)時に適切なセルフケアを行うこと。

法令・制度等

厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」.「テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引き」.WHO/ILO「Technical brief: Healthy and Safe Telework」.産業医科大学「新型コロナウイルス流行に伴い急遽はじまったテレワークの健康影響」「CoRoNaWork Project:COVID-19流行下における労働者の働き方と健康」.東京大学医学系研究科精神保健学分野・デジタルメンタルヘルス講座.「 E-COCO-J:新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査」、日本産業衛生学会 遠隔産業衛生研究会、内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」2020.6~2022.6.人事院「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」. 2022.1~2023.3、「特集 リモートワーク時代の産業保健活動」産業保健21. 第110号.労働者安全健康機構. 2022.10. pp2-11

キーワード

テレワーク、在宅勤務、作業環境管理、作業管理、社内ルール、ハラスメント、労働災害、無償ケア労働、ヘルスリテラシー向上、産業保健サービス

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