産業医の手引き<ダイジェスト>
8章:産業保健活動で押さえておきたい重要事項

13 【Topics】船員に対する産業医活動

山下 巌

要旨

Ⅰ.船員の労働・衛生管理の現状

船員には労基法が適用されず、その労働管理は船員法で規定されている。働き方改革が進むなか、国内の貨物輸送を担うエッセンシャルワーカーである内航船員の職場環境を改善し、若者や女性へも魅力ある職業にすべく検討が進められ、2023(令和5)年に関連法案が改正された。

(1)船員の労働時間は1日8時間・週40時間で、上限は1日14時間・週72時間と定められている。休息時間は2回以内でうち1回は6時間以上確保する。ただし、労使協定で上限を超えることができる。月に80時間を超えた船員が申出たときには産業医の面接指導を行う。

(2)常時50人以上の船員を使用する船舶所有者には産業医の選任が義務づけられ、50人未満の場合は努力義務となった。産業医による船内の巡視は年1回以上とされ、その代わり月1回以上の衛生担当者などによる巡視報告が必要となる。船員が5人以上の場合には船内安全衛生委員会を設置し、船舶ごとに安全管理規定を定める。

(3)乗船にあたって船員は所定の健康検査を受け、指定医が発行する健康証明を船員手帳に記載する。船舶所有者は健康検査の結果を提出させ保存し、医師の意見を勘案し就業上の措置を行う義務が付与された。年1回以上のストレスチェックも陸上制度と同様に義務づけられた。

Ⅱ.船員の産業医活動の留意点

(1)船舶はさまざまな気象・海象による危険な自然条件にさらされており、船員は労務終了後も船から離れられないため、勤務外でも転倒事故や船酔いが起きる。内航船員の労働時間は他分野よりも長く、就航や荷役が重なると睡眠サイクルが乱れる。

(2)船員は家庭や社会から切り離された職住一体の共同生活を送っており、電波も届かずリフレッシュする機会が不足するため、ストレス管理が重要となる。

(3)陸上労働者と比べて船員の疾病発生率は全年代で高く、メタボリックシンドロームの割合や喫煙率も高い。船員は通院がしにくく、特定健康診断や特定保健指導の受診率も低い。

(4)船内無線を用いた無線医療助言事業により、急病人・けが人に対して陸上からの医療サポートがなされている。リアルタイムの映像をともなうオンライン診療を活用することで、慢性疾患や健康管理・産業医面談なども実施できるようになることが期待されている。

(5)船員に対する産業医制度が円滑に機能するように、業種固有の課題を理解し、産業医の選任や共同選任なども含めて医師会が積極的に関わることが求められている。

法令・制度等

船員法令、船員労働安全衛生規則、船員の労務管理の適正化に関するガイドライン船員向け産業医になられる方のために(動画及び資料編 海技振興センター)
船員の働き方改革の実現に向けて(国土交通省・船員部会)
船員の健康確保に向けて(国土交通省・船員の健康確保に関する検討会)

キーワード

船員向け産業医、船員の健康確保、船員の働き方改革、船員手帳、健康証明書、健康診査

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