産業医の手引き<ダイジェスト>
8章:産業保健活動で押さえておきたい重要事項

12 職場における結核予防と発生時の対応

野﨑 直彦

要旨

結核は1940年代には、毎年100万人以上の国民が罹患して10万人以上が死亡し、死因第1位が続いていた。死亡者は1943(昭和18)年の171,473人が最多で、医療費は、1954(昭和29)年には国民総医療費の27.7%が費やされた。1951(昭和26)年4月より結核予防法に基づく対策が進められ、全国に結核療養所が整備され、医療費を公費負担とし、保健所による疫学対策を徹底し激減させるに至っている。2021(令和3)年には全結核患者数11,519人、結核による死亡者1,844人まで減少した。しかし、職場や学校での結核発生時には、保健所と連携、協力して定期外に結核接触者健康診断を実施するなど対応が迫られる重要な感染症である。現在、結核予防法は感染症法に組み入れられて引き継がれている。

Ⅰ.事業所で結核が発生した場合の対応

定期健康診断の胸部エックス線検査などで結核が疑われる者を発見した場合、まず医療機関(呼吸器科など)を受診してもらう。結核と確定診断されると、感染症法による届出疾患となっているため、診断した医療機関が保健所に発生届を提出する。確定診断するには、喀痰検査により、PCR(Polymerase Chain Reaction)法で陽性、培養で結核菌(Mycobacterium tuberculosis)と同定できれば確実である。事業所としては、保健所と連携、協力しながら感染源探索と接触者健康診断計画(接触者の範囲、検査方法、検査場所、観察期間など)を立てて対策を進めていく。

Ⅱ.接触者への問診と検査及び職場の理解と協力

職場で結核が発生した場合、①感染源を探索する、②感染拡大を防止する、という2方向からの視点で対策を進めていくことになる。その場合、結核という病気への理解と接触者への詳細な問診と必要に応じた検査について、事業者の理解と協力を得ることが大切である。検査は、IGRA(インターフェロンγ遊離試験)を実施する。IGRAについてはQuantiFERON®TBゴールドプラス(QFT-4G)とTスポット®TB(T-SPOT)が代表である。

Ⅲ.就業区分判定について

結核発病者で結核菌が塗抹陽性の場合は、原則として感染性がなくなるまで入院を要する。したがって就業区分判定は「休養」となる。その後、結核菌の喀痰塗抹検査で陰性が確認できた場合は、通院治療となり、就業は可能となるが、服薬が終了するまでの期間の就業判定は「就業制限」の扱いとするのが一般的である。ただし、乳幼児と接する保育園や幼稚園、学校などではより厳格な予防行動が求められる。完治して服薬完了後は「通常勤務」としてよい。

法令・制度等

安衛法令・規則、感染症法、結核予防法

キーワード

結核、結核菌、結核療養所、保健所、塗抹陽性、G(ガフキー)号、胸部エックス線検査、喀痰検査、結核健康診断、接触者健康診断、PCR、IGRA、QFT、Tスポット

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