産業医の手引き<ダイジェスト>
8章:産業保健活動で押さえておきたい重要事項

11 THP(トータル・ヘルス・プロモーションプラン)

三觜 明

要旨

Ⅰ.THPを推進するメリット

(1)職場に内在する健康リスク要因の減少などによる労働生産性の向上、欠勤日数の減少

(2)労働に必要な体力の確認などを取り組むことによる労働災害件数や休業の減少

(3)メンタルヘルスを向上させることによるメンタルヘルス不調の予防

Ⅱ.THPの実際と留意すべきポイント

(1)THPの推進には、中⻑期的な視点で安全衛生計画を立て、事業者による方針表明から結果評価までをPDCAサイクルに沿って取り組むことが重要である。

(2)措置内容は、「健康指導」と「それ以外の取組」に大きく2つに分けられる。

(3)「健康指導」については、「労働者の健康状態の把握」と「把握した労働者の健康状態を踏まえて実施される運動指導や保健指導などの実施」の2ステップで行う。

(4)対象者については、健康障害を起こす危険因子を有する労働者を特定して行う「ハイリスクアプローチ」だけではなく、対象を集団全体に広げて危険因子の有無に関係なく軽減する「ポピュレーションアプローチ」と組み合わせて行うことが効果的である。

(5)健康づくりに無関心な人にも参加してもらうような環境づくりや仕組みづくりの工夫が大事。

(6)労働者の高齢化を見据えた若年期からの運動の習慣化が有効である。

(7)健康情報を含む労働者の個人情報は「要配慮個人情報」として慎重に扱うことがきわめて重要。

Ⅲ.THPの実効性をあげる産業医の役割

産業医は、労働者が心身ともに健康的に働けるよう健康診断の結果に基づいた面談や必要に応じて健康指導や助言などを行うが、これらのことから労働者の健康状況を把握することができる。また、職場巡視を行い、衛生委員会(安全衛生委員会)に参加することで、事業場全体の労働衛生管理に関する情報を得ることができるため、健康管理に関する課題へのアドバイスを事業者に行うこともできる。事業者が関与したうえで、産業医が組織に介入して健康管理に関する助言をすることは、組織のヘルスリテラシーを高めることになり、健康づくりの職場風土を醸成する。このことにより、労働者が自発的に健康づくり活動へ参画する機会を増やすことになる。

産業医は組織と労働者のヘルスリテラシー向上に関与できることから、THPの実効性を上げるうえでも大事な役割を有する。

法令・制度等

安衛法(第69条、第70条の2第1項)
事業場における労働者の健康保持増進のための指針 https://www.mhlw.go.jp/content/001080091.pdf
職場における心とからだの健康づくりのための手引き https://www.mhlw.go.jp/content/000747964.pdf

キーワード

心とからだの健康づくり、ヘルスプロモーション、データヘルス、コラボヘルス、ハイリスクアプローチ、ポピュレーションアプローチ、高年齢労働者、健康情報の取扱、ヘルスリテラシー

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