産業医の手引き<ダイジェスト>
8章:産業保健活動で押さえておきたい重要事項

1 オフィス労働(デスクワーク中心の出社労働)における健康管理

髙田 礼子

要旨

事務所則には、事務所において事務作業を行う労働者の健康障害防止を図るための衛生基準、職場の清潔保持に必要な措置、労働者の休養のための設備の設置などについて、主に事業者の義務が定められている。2021(令和3)年(一部は2022(令和4)年)に施行された事務所則の改正及び運用の見直しを踏まえ、産業医が職場巡視や衛生委員会などでの調査審議の際に留意すべき要点を以下に示す。

Ⅰ.事務所の環境管理

(1)事務所の室における作業面の照度基準は、一般的な事務作業は300ルクス以上、付随的な事務作業が150ルクス以上に変更された。なお、精密な作業など個々の事務作業に応じた適切な照度は、事務所則の照度基準を満たしたうえで、JIS Z 9110に規定される照度基準を参照して事業場ごとに設定する必要がある。

(2)空気調和設備を設置している場合の室の気温の努力目標値が18℃以上28℃以下に変更された。ただし、空気調和設備の有無に関わらず、室内の温度管理を適切に行うことが望ましい。

(3)空気の一酸化炭素、二酸化炭素の含有率は、通達で明示されている検知管方式と同等以上の性能を有する電子機器なども活用し、空気調和設備などの運転状況や在室する労働者数に応じて測定することで、換気が適切に行われているかを確認できる。

Ⅱ.清潔、休養、救急用具

(1)便所は男性用と女性用に区別して設置する原則は維持し、独立個室型の便所が法令で位置づけられた。独立個室型の便所はひとつの便房を男女が共用することになるため、消臭や清潔保持のマナー、サニタリーボックスの管理方法、盗撮などの犯罪行為の防止、非常用ブザーの設置などの異常事態発生時の対応について、衛生委員会などで調査審議、検討し、ルールを定めておく。

(2)休養室は、体調不良の労働者が一時的に使用することが原則であり、随時利用できる機能が確保されていれば専用設備でなくてもよいとされた。ただし、利用者のプライバシーと安全が確保できるよう、目隠しの設置、関係者以外の出入りの制限、緊急時対応などの配慮が必要である。

(3)休憩設備の広さや設備内容について、事業場の実情やニーズに応じて、衛生委員会などで検討して設置することが望ましい。また、更衣室・シャワー設備のプライバシー確保の配慮が必要である。

(4)救急用具について、事業場における労働災害のリスクに応じ、産業医などの意見を交えながら、衛生委員会などで調査審議、検討し、応急手当に必要な用品(感染予防も含む)を準備する。また、医療機関へ搬送する判断基準や、救急用具の備付け場所、使用方法などのマニュアルを定めておく。

法令・制度等

安衛則、事務所則
事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について(2021(令和3)年12月1日、基発1201第1号)
事務所衛生基準規則の一部を改正する省令の施行等について(2022(令和4)年3月1日、基発0301第1号)
事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針(1992(平成4)年7月1日、労働省告示第59号)

キーワード

事務作業、衛生基準、換気、照度、便所、休養室、救急用具

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