産業医の手引き<ダイジェスト>
7章:ストレス・メンタルヘルス対策

1 職場におけるメンタルヘルスケア対策とストレスコントロール

廣 尚典

要旨

Ⅰ.労働者のストレスと健康

仕事上のストレスと健康に関するモデルとしては、仕事の要求度-コントロール-支援モデルと努力-報酬不均衡モデルがよく知られており、これらのモデルなどによって高ストレスと評価された個人に対しては、更にストレス状態を精査すべく、個別面接などを行ったり、小集団教育を実施したりする取り組みが推進されるとよい。高ストレス者と評価された者の割合が高い集団に対しては、その原因を検討し職場環境改善を図る働きかけが望まれる。

Ⅱ.メンタルヘルス対策に関する行政の動向

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(以下「メンタルヘルス指針」)は、事業場で行われるべきメンタルヘルス対策の概要を示している。安衛法第69条及び第70条の2に関連づけられ、これに沿った取り組みを行うことが、事業者の努力義務となっている。
メンタルヘルス指針で定義された「メンタルヘルス不調」という用語は、対策のあり方について、精神障害のみを対象とするのではなく、広い視野を持つべきであることを示唆している。事業者の表明に続き、職場の実態を把握し、中長期的な計画を策定して、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフなどによるケア、事業場外資源によるケアを、事業場全体で推進する。

ストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調の一次予防(未然防止)が第一義的な目的である。

Ⅲ.メンタルヘルス対策の実際

企業の従業員に対する責任からみた職場のメンタルヘルス対策の中核は、仕事や職場に関連した事柄を主因とするメンタルヘルス不調の発症、増悪の防止である。
・職場環境等の改善:まず、現状の評価を適切に行うことが必要である。その方法としては、質問紙やチェックリストの類がよく使用される。その結果をもとに、職場関係者間で意見交換を行い、改善活動を進める。
・情報提供及び教育研修:セルフケアへの支援としては、ストレスに対する気づきとそれをもとにしたストレス対処、周囲への相談の仕方が、ラインによるケアへの支援としては、職場管理・改善及び部下管理(支援)が教育研修の内容の核になる。
・事業場外資源の活用:民間機関が企業や事業場と契約して提供するサービスを利用する際には、事業場としての主体性が失われないようにする。休業者に対するリワークプログラムについては、その利用によって、事業場の職場復帰支援が不要となるわけではない点に留意する必要がある。

法令・制度等

労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)
心理的負荷による精神障害の認定基準
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル
こころの耳

キーワード

メンタルヘルス不調、ストレスモデル、セルフケア、ラインによるケア、ストレスチェック制度、労災認定、職場復帰支援、事業場外資源、自殺予防

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