産業医の手引き<ダイジェスト>
6章:過重労働対策(働き方、働かせ方に関する事項)

3 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の解説

増田 将史

要旨

Ⅰ.「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の基本的な考え方

政府の「働き方改革実行計画」において副業・兼業を推進するという方針が示され、2018(平成30)年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)が策定された。

ガイドラインでは、使用者(会社、企業など)が労働者の副業・兼業を禁止または制限できる場合のひとつとして安全配慮義務が挙げられている。産業医は副業・兼業を行う労働者に対し、安全配慮義務を考慮しつつ、副業・兼業の可否を含めた就業意見を提示することが求められる。

Ⅱ.ガイドラインの概要(労働時間の通算、健康管理)

ガイドラインでは、労働者が事業主を異にする複数の事業場において「労基法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当する場合、労働時間を通算すると明示された。労働時間の通算は、本業の勤務先における労働時間と、労働者からの申告などにより把握した副業・兼業先における労働時間を通算することで行う。複数事業場の労働時間を通算して法定労働時間を超える場合には、長時間の時間外労働とならないようにすることが望ましい。

健康確保措置の実施対象者の選定にあたっては、労基法の労働時間管理とは異なり、副業・兼業先における労働時間を通算することとはされていないが、使用者の指示による副業・兼業の場合は、通算した労働時間に基づき健康確保措置を実施することとされている。

労働者に対しても、自社ルールの範囲内での適切な副業・兼業の選択、健康相談の利用や健康ツールの活用、副業・兼業先での業務量や自らの健康状況などの報告、などの留意点を示している。

Ⅲ.副業・兼業を行う労働者の対応上の留意点

本業の使用者の指示により副業・兼業を開始した場合、健康確保措置に関して副業・兼業先の使用者との情報交換や協議を行うこととされているが、いずれの勤務先においても同じ内容の健康確保措置が実施されていることが望ましい。したがって使用者間の情報交換や協議により、同内容の就業措置が実施されるよう、働きかけるべきである。

就業制限などの就業措置にかかわる産業医意見の提示に際しては、副業・兼業をしている理由について把握しておく必要がある。経済的な困窮などで仕方なく副業・兼業しているような場合、労働時間短縮や業務制限などの就業措置が収入減少につながることとなる。副業・兼業の継続のためには何が最善かという視点も必要となってくる。人事部門とも連携のうえ、副業・兼業を行う労働者の支援につながる対応を心掛けることが求められる。

法令・制度等

働き方改革実行計画.働き方改革実現会議.2017.3、労基法、副業・兼業の促進に関するガイドライン.厚生労働省.2022.7改定、モデル就業規則.厚生労働省.2022.11改訂、時間外・休日労働に関する協定届(36(サブロク)協定)、健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針.厚生労働省.2017.4改正、長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル.厚生労働省.2015.11

キーワード

副業・兼業、労働時間の通算、モデル就業規則、健康確保措置、自己保健義務、36(さぶくろ)協定

本篇ダウンロード(医師会員向けページ)

本篇PDF

PAGE TOP