産業医の手引き<ダイジェスト>
6章:過重労働対策(働き方、働かせ方に関する事項)

2 過重労働対策の実際

寺田 勇人

要旨

Ⅰ.過重労働対策の要

過重労働対策の要は、法定労働時間内に効率よく働いてもらい労働生産性を追求していくことに尽きる。過重労働対策の最優先順位は、過重労働面接に該当する労働者を出さないことであり、産業医による面接指導は、止むを得ず長時間勤務となってしまった対象者に行うものと認識したい。

Ⅱ.過重労働のリスク

過重労働により、①脳・心臓疾患による過労死のリスク及び②メンタルヘルス不調のリスクも存在することも念頭に入れておきたい。③有害物質取り扱い作業では、労働時間の長さ≒ばく露量の増加につながる危険性を常に意識しなければならない。④製造業や建設業では怪我や転落、旅客輸送や運送業では事故、医療現場では医療ミスの要因ともなり得るので注意したい。
業務の過重性は、数値化できる超過勤務時間数(残業)による評価がわかりやすいが、質的な過重も見逃してはならない大切な要因である。就労様態の諸要因も含めて総合的に判断したい。
筆者の経験では、長時間労働をしたからといって各種定期健康診断結果に明確な悪化を目の当たりにすることは少ないが、長期間に及ぶと次の3つのリスクが考えられる。
①生活習慣の乱れを来たし生活習慣病が発症もしくは悪化するリスク
②心身への負荷が増えて基礎疾患(身体疾患、精神疾患)が増悪するリスク
③精密検査や要医療の指示が出ている労働者の受診や基礎疾患の定期的な通院に支障を来すリスク

Ⅲ.面接指導と事後措置

面接指導時には、あらかじめ面接該当者に「労働時間などに関するチェックリスト」「心身の健康状況、生活状況の把握のためのチェックリスト」「疲労蓄積度チェックリスト」「抑うつ症状に関する質問」に記入してもらい面接指導に持参してもらうとよい。同時に各種健康診断結果も用意してもらっておきたい。なお、面接指導は事業所が選任している産業医が実施したい。
過重労働対策は、①長時間労働であるほど脳・心臓疾患の過労死やメンタルヘルス不調のリスクとなることをしっかりと認識してもらうこと、②時間外労働の低減だけではなく、必要に応じて業務の質的な負荷の有無を見極めるとともに、有給休暇などで余暇時間を十分に確保して疲労やストレスの解消と働くエネルギーを蓄えること、が重要であることを労使双方に働きかけて、良好な職場環境(職場文化)を醸成してもらうことが大切である。ただし、多数の労働者が慢性的に月80時間超などの状況では産業医として意見書の提出や勧告権を行使することも視野に入れたい。

法令・制度等

労基法令・規則、安衛法令・規則、過労死防止法、労働時間等設定改善法、過重労働による健康障害防止のための総合対策、労働者健康状況調査報告

キーワード

過重労働、長時間勤務、長時間残業、さぶろく(36)協定、面接指導、疲労蓄積度チェックリスト、心身の健康状況、生活状況の把握のためのチェックリスト、労働時間などに関するチェックリスト、抑うつ症状に関する質問

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