産業医の手引き<ダイジェスト>
5章:企業以外の組織(医療機関、教育機関、公的団体)の労働衛生管理

2 老人福祉施設で押さえておきたい労働衛生管理

石田 信彦

要旨

老人福祉施設で押さえておきたい特徴的な業務と労働衛生対策について解説する。

Ⅰ.24時間体制勤務対策

24時間勤務となる介護職は、超過労働にならないよう身体面の管理に加え、ストレス、うつ病、ハラスメント対策などのメンタルヘルス面の管理が必要である。具体的な対策として、①シフト作成上のルール設定、②勤務時間、休憩・仮眠のチェック、③メンタル部分のケア、④定期的なチーム配置換え、⑤ハード面のサポートなどがある。

Ⅱ.感染症対策

感染力が高く高齢者において重症化率が高い感染症では、クラスターを起こさないことが福祉施設においては最重要事項であり、正しい知識を身につけることで職員が過度に恐れて心的不安を抱えてしまわないようなメンタルケア対策を含めて対応しなければならない。具体的な対策として、①迅速なトリアージ、②ゾーニング、③事前指導・訓練、④感染予防対策をしたうえでの介護指導、⑤嘱託医や医療機関との連携関係構築などがある。

Ⅲ.移乗作業負荷対策

介護職では、ベッドから車椅子やストレッチャーなどへの移乗作業時に不自然な体制で腰を痛めるケースが多いため、作業負荷軽減対策が重要である。具体的な対策として、①作業のマニュアル化、②正しい姿勢で作業ができるよう改善、③作業時間の適正化、④設備の整備(介護リフター)などがある。

Ⅳ.熱中症対策

特に高温、多湿になる風呂場での入浴介助作業において、熱中症対策が必要である。具体的な対策として、①温度計・湿度計を常に確認する、②風呂の換気、窓開けが適切か否か、③入浴介助をする職員を固定しないなどがある。

Ⅴ.その他職場環境

①適正照度の相談・指導、②適切な空調設備、③換気方法の指導なども重要である。

Ⅵ.老人福祉施設の産業医を選任する場合の注意点(一定の制限)

2017(平成29)年4月1日より、医療機関と同様に、その老人福祉施設の法人代表者(理事長)や事業経営者(施設長)が兼業することができなくなった。

法令・制度等

安衛法令・規則
「高齢者介護施設における感染対策マニュアル改定版」. 2019.3
「障害福祉サービス施設・事業所職員のための感染対策マニュアル」. 2020.12
「職場における熱中症予防対策マニュアル」. 2021.3
「社会福祉施設の安全管理マニュアル」. 2015
「社会福祉施設の労働災害防止」.https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000948851.pdf

キーワード

老人福祉施設、24時間体制勤務対策、感染症対策、移乗作業負荷、熱中症対策、照度、空調、換気、介護職

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