産業医の手引き<ダイジェスト>
5章:企業以外の組織(医療機関、教育機関、公的団体)の労働衛生管理

1 医療機関における労働衛生管理

鳥居 明

要旨

Ⅰ.医療現場の特殊性

医療技術が進歩するなか、医療従事者の職務内容は高度・複雑化し、その対応には安全性と適切さが強く要求される。また、患者への接遇、組織の上司や同僚、医療チーム内の人間関係も大きなストレスとなり、医療従事者の健康に影響を与える。更に、感染症患者の取り扱いとそれにともなう医療従事者自身への感染の拡大、時間外勤務や夜間勤務、休日勤務など医療機関ならではの特殊性も重要な問題点となる。

Ⅱ.医療現場の作業リスク

医療機関においては夜間勤務、過重労働、危険作業リスクは喫緊の課題ともいえる。医療機関における労働衛生の3要素、すなわち作業環境管理、作業管理、及び健康管理に関して、医療機関の特殊性を考慮し、更には院内感染症対策を加味する必要がある。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックを契機に医療機関の労働衛生管理においては多くの問題点が明らかになった。その経験を教訓として、今後も起こり得るであろう感染症パンデミックに備えた医療従事者の新たな労働衛生管理の構築が望まれる。

Ⅲ.医療機関の産業医を選任する場合の注意点(一定の制限)

2017(平成29)年4月1日より、医療機関の産業医は、その医療機関の法人代表者(理事長)や事業経営者(院長)を兼務することができなくなった。大規模医療機関では産業医の要件を満たす勤務医を産業医として選任することが可能である。
小規模医療機関では、産業保健総合支援センターやその地域窓口である地域産業保健センターが支援してくれるシステムがある。

Ⅳ.第14次労働災害防止計画の関連事項

労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進として、
①医療・福祉の事業場における正社員以外の労働者への安全衛生教育の実施率を2027(令和9)年までに80%以上とする。
②介護・看護作業において、ノーリフトケアを導入している事業場の割合を2023(令和5)年と比較して2027(令和9)年までに増加させる、という目標が掲げられている。

法令・制度等

労基法、安衛法、医師法、医療法、健康保険法
伊藤宣夫「医療従事者の健康管理と環境管理」.愛知県臨床検査標準化協議会. 2. 2013
「医療機関における感染症対策ガイドブック」. 阪神北県民局宝塚・伊丹健康福祉事務所. 2016
「新型インフルエンザ等対策特別措置法の規定に基づく特定接種(医療分野)の登録要領について」. 厚生労働省健康局. 2016
森晃爾「産業保健ハンドブック改訂14版」. 労働調査会. 12〜13. 2016
山本晴義「新型コロナウイルス感染とメンタルヘルス」. 『産業保健21』. 105. 2-4. 2021
雑賀智也、他「産業保健」. 『公衆衛生学の基本としくみ』. 144-161. 秀和システム.2020

キーワード

医療機関、労働衛生管理、医療従事者、夜間勤務、過重労働、感染症、院内感染対策、メンタルヘルス

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