産業医の手引き<ダイジェスト>
4章:職業性疾病の予防

8 職場の新たな化学物質管理

山本 健也

要旨

Ⅰ.職場の化学物質管理の近年の動き

GHSなどの化学物質管理の国際的な潮流や国内での法定外物質による職業がんの集積発生事案などを受け、欧米での主流である「リスクに基づく管理」による新たな管理体系への転換が必要と判断された。その結果、リスクアセスメントを義務化する化学物質数を拡大しつつ、アセスメントの方法やその後のリスク低減対策等は事業者裁量とする、いわゆる「自律的な管理」を主軸とした法令改正がされるに至った。

Ⅱ.化学物質による健康影響

化学物質が人の健康に影響を及ぼすメカニズムは物質により多様であるが、健康障害を防ぐためには有害性を把握したうえでばく露を制御することが重要である。ばく露を評価するためには、ばく露経路や発症期間などにかかる理解がまずは必要である。

Ⅲ.化学物質管理におけるリスクアセスメント

・「リスク」と「自律」は不可分な関係であり、どこまで「リスクの受容」をするかの判断は自らしなければならない。
・リスクアセスメントは決して目新しいものではなく、すでに現場で導入されているものが多い。
・化学物質のリスクアセスメントは「実測による方法」と「数理モデルによる方法」に大別される。
・新たに原材料や作業方法・手順を導入する際や、それらを変更する際などに実施することが義務づけられている。
・「リスクが受容を超えている」と判断された際には、リスク低減対策の実施、及び必要に応じて健康診断(リスクアセスメント対象物健康診断)を実施する。
・情報の的確な収集が重要であり、「有害性の大きさ」にかかる情報はSDSなどで、「ばく露の程度」にかかる情報は職場から収集する。

Ⅳ.新たな化学物質管理における産業医の役割

産業医は労働衛生の専門職であるが、安易にリスクアセスメントの実務者になることは避けるべきである。リスクアセスメントを含む化学物質管理は職場が主体的に実施すべきものであり、産業医は、職場巡視での有害性やばく露の気づき、実務担当者(化学物質管理者など)への助言や衛生委員会での意見の提示などを介して、職場が主体的に管理や対策を実践できるように支援する立場として活動することが望ましい。

法令・制度等

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号)
化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(令和5年4月27日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)
化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針(令和5年4月27日技術上の指針公示第24号)

キーワード

自律的な管理、リスクアセスメント、リスク低減対策、濃度基準値、リスクアセスメント対象物健康診断

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