産業医の手引き<ダイジェスト>
4章:職業性疾病の予防

6 放射線及び放射性物質を取り扱う職場の健康管理

欅田 尚樹

要旨

Ⅰ.放射線・放射能の基礎知識

・電離放射線には電磁波の一種であるエックス線、ガンマ線と、粒子線である電子線、ベータ線、陽子線、アルファ線、中性子線、重粒子線などがあり、その種類により物理的な性状が異なる。
・被ばくの経路としては内部被ばくと外部被ばくがある。内部被ばくの場合は、放射性ヨウ素なら甲状腺に取り込まれやすいなど、核種によって臓器特異性がある。

Ⅱ.放射線の生物影響

・放射線の生物影響には、胎児を含む被ばくした本人に影響があらわれる身体的影響と被ばく者の子孫に影響があらわれる遺伝的影響がある。
・放射線防護の観点からは、しきい値のある確定的影響(急性放射線症候群、皮膚障害、水晶体混濁など)と、しきい値のない確率的影響(悪性腫瘍、遺伝的影響など)に分けられる。

Ⅲ.労働者の被ばく管理、健康管理

(1)電離則に基づく健康管理
・放射線業務従事者の防護は、他の有害業務と同様、作業環境管理、作業管理、健康管理の労働衛生3管理と教育訓練が原則である。放射線取扱主任者や作業主任者と連携することが重要である。
・外部被ばく防護の3原則として「遮蔽」「距離の確保」「時間の低減」がある。
・経気道、経皮、経口による内部被ばく防護のためには、管理区域内での専用の実験衣、作業衣、ゴム手袋、専用の履物及び必要に応じて呼吸用保護具を着用する。
・放射線によるばく露は、等価線量(吸収線量に各放射線加重係数を乗じたもの)及び実効線量(等価線量に各組織の過重係数を乗じた総和)で評価・管理する。それぞれ限度値が示されている。
・電離則、及び除染電離則のうち除染等業務に常時従事する作業者には、特殊健康診断が義務づけられている。
・特殊健康診断項目には、実効線量や等価線量に基づく省略規定がある。

(2)医療機関、研究所(画像診断機器、アイソトープなど)における対策
医療従事者における眼の水晶体への防護のために、2021(令和3)年に眼の水晶体を対象とした等価線量限度が引き下げられた。なお、一部の医師はその適用に際して経過措置が図られている。

(3)除染作業、建設や解体作業などを請け負う事業場の対策
東日本大震災にともなう原発事故緊急作業者や除染作業者を対象に、ばく露防止対策及び長期的な健康管理対策が図られている。

法令・制度等

電離則
東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則(除染電離則)
放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和3年度版、環境省)

キーワード

実効線量、等価線量、外部被ばく、内部被ばく、確率的影響、確定的影響、経過措置対象医師

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