産業医の手引き<ダイジェスト>
4章:職業性疾病の予防

5 粉じん・石綿(アスベスト)による健康障害と予防対策

寺田 勇人

要旨

Ⅰ.粉じんによる健康障害対策

粉じん作業従事者にはじん肺法に定められたじん肺健康診断(①就業時、②定期、③定期外、④離職時)を実施する。じん肺健康診断の結果、じん肺所見またはその疑いが見られた労働者については、都道府県労働局長宛に「じん肺健康診断結果報告書」と「胸部エックス線写真(高圧撮影)」を提出し、管理区分(第1~4型)決定通知を受け取り、当該労働者に通知する。この一連の手続きは事業者の役目となっている。じん肺健康診断票の記録と胸部エックス線写真(高圧撮影)の保存年限は7年間である。「健康管理手帳」は、じん肺管理区分が管理2または管理3(イ・ロ)の者に対して離職の際または離職後に交付され、指定機関において定期的に健康診断が無料で受診できる。2023(令和5)年度より「第10次粉じん障害防止総合対策措置要綱」に基づいた対策が推進されている。

Ⅱ.石綿(アスベスト)による健康障害対策

有害性はクリソタイル(白石綿)を1倍とすると、アモサイト(茶石綿)で約100倍、クロシドライト(青石綿)で約500倍である。石綿ばく露に関連の深い疾患には、石綿肺、肺がん、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚がある。石綿ばく露に特徴的な所見は(1)胸膜プラークと(2)石綿小体が代表的である。胸膜プラークは、限局性胸膜肥厚斑ともいわれ、一定量以上の石綿のばく露の証拠と考えてよく、定期健康診断やじん肺健康診断で遭遇頻度の高い所見である。石綿小体は、産業医の立場で目にすることは少ないが、臨床診断時の有力な組織所見であり、典型的な形態は「鉄アレイ状」を呈する。ばく露後数十年後に発症するため、作業の記録、健康診断結果の記録、作業環境測定結果・評価記録の保存期間は40年間と長期間となっている。健康管理手帳は、石綿を取り扱う「直接業務」と「間接業務(直接業務以外の業務)」に一定期間従事していた作業者に対して離職の際または離職後に交付され、指定機関において定期的な健康診断が無料で受診できる。

Ⅲ 石綿健康被害者救済制度

石綿による健康被害が石綿作業者のみならず家族、周辺住民にまで影響が及んでいることで、その救済を目的に石綿による健康被害の救済に関する法律(石綿救済法)が、2006(平成18)年3月27日に施行されている。一方で労働災害の認定基準を満たしていない労働者を救済する側面もある。給付対象疾患は、石綿による①中皮腫、②肺がんのみであったが、2010(平成22)年7月1日以降、③著しい呼吸障害をともなう石綿肺、④著しい呼吸機能障害をともなうびまん性胸膜肥厚が追加された。

法令・制度等

じん肺法令則、石綿則、石綿による健康被害の救済に関する法律(石綿救済法)、第10次粉じん障害防止総合対策措置要綱

キーワード

粉じん、石綿、アスベスト、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、クリソタイル(白石綿)、じん肺、石綿肺、中皮腫、肺がん、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚、胸膜プラーク、石綿小体、じん肺管理区分、健康管理手帳、石綿健康被害救済制度、環境再生保全機構

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