産業医の手引き<ダイジェスト>
4章:職業性疾病の予防

4 熱中症の予防

堀江 正知

要旨

Ⅰ.熱中症の発生メカニズム

①細胞は42℃になると不可逆的に変性する。人体は核心温を約37℃に維持するために、体表面の血流増加と発汗により体表面からの熱放散を促す。暑熱順化すると発汗が効率的になる。
②口渇感に依存した飲水では自発的脱水が生じる。水分大量摂取後の血清ナトリウム濃度低下による筋けいれん(熱けいれん)、脳循環血圧低下による頭痛、失神(熱失神)、脱水による消化機能や筋力の低下(熱疲労)、体温調節機能の破綻による多臓器障害(熱射病)などが生じる。
③重症度は、水分の自力摂取で症状が軽快する状態(I度)、血管内補液が必要な状態(II度)、臓器障害(肝、腎、脳などの障害、DIC)が生じて集中治療を要する状態(III度)に分類される。
④暑熱な環境(高温・多湿・無風・輻射熱)、高い身体負荷、長い連続作業時間と不十分な休憩時間、通気性や透湿性の悪い服装の4つが主なリスクとなる。飲料摂取の困難性、休憩場所の不適切性、体調不良者や暑熱順化未達者の就業、救急体制不備、衛生教育不足もリスクとなる。

Ⅱ.職場における熱中症予防対策

(1)安衛法を遵守して「職場における熱中症予防基本対策要綱」を参考
①高温多湿な職場では気温・湿度・輻射熱の測定、熱気排出、通風・換気、健康診断などを行う。
②WBGT(暑さ指数)を測定して28℃を超える場合は熱中症のリスクが高いことを理解する。

(2)作業環境、作業方法、服装を改善
①ひさしなどで日陰をつくり、屋内の遮光と通風を確保し、熱源は密閉・隔離し、湯気や熱気は上方から排気する。空調は作業者位置で28℃以下に調節し、扇風機を併用して風向きを変更する。
②風通しのよい日陰で作業させる。作業開始後1週間は、作業量を抑え、毎時5~10分程度の小休止を入れる。電解質入り飲料を作業前から20~30分ごとに150~250mLずつ飲ませる。
③体表面に風が通る服装を選ぶ。保冷剤入りや送気ファン付きの作業服を使用させる。

(3)健康状態を常時確認し、発症時の救急処置に備える

①作業前に現場監督者が作業者の睡眠、食事、飲酒、脱水、発熱、暑熱順化の状態を確認する。
②作業中は巡視し、正直な申告と相互の声かけを促し、体温・体重・尿の色を確認させる。
③熱中症を疑う者は、冷涼な場所で休憩させて電解質入り飲料を飲ませ、脱衣させて体表面を水で濡らして風を送り、大血管部位を冷却する。自力で飲料を飲めない場合は、救急搬送を要請する。

法令・制度等

安衛法令・規則、年少者労働基準規則、女性労働基準規則、事務所則
職場における熱中症予防基本対策要綱(令和3年4月20日付け基発0420第3号)
STOP!熱中症 クールワークキャンペーン
環境省熱中症予防情報サイト
熱中症環境保健マニュアル、熱中症診療ガイドライン

キーワード

熱中症、核心温、汗、ナトリウム、蒸発熱、自発的脱水、暑熱順化、WBGT(暑さ指数)、電解質入り飲料

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