産業医の手引き<ダイジェスト>
4章:職業性疾病の予防

2 腰痛対策

松平 浩

要旨

腰痛は、YLDs(Years Lived with Disability)という指標において昔も今も第1位であり、本邦でも業務上の負傷に起因する疾病のなかで最多(8割以上を占めている)で、もっとも就労に影響を与える症状であり、労働生産性を低下させる主要な原因でもある。以下、労働衛生上の腰痛対策の管理ポイントをまとめた。

Ⅰ.作業管理のポイント

①負担を減らす自動化・省力化、②作業対象にできるだけ身体を近づけての作業姿勢の習慣化(パワーポジションとも呼ばれる「ハリ胸プリけつ」姿勢の習慣化、作業台や椅子を適切な高さに調整)、③腰に負担がかかる作業は一人ではさせない、④姿勢・動作・手順・時間の作業標準を策定し遵守させる、⑤適宜、姿勢を変える。

Ⅱ.作業環境管理のポイント

①凹凸や段差がなく滑りにくい床面にする、②建設機械操作・車両運転での振動を軽減させる。

Ⅲ.健康管理のポイント

①腰痛予防にもっとも有用であることがシステマティックレビュー/メタ分析で明らかになっている運動(腰痛予防体操)の実践を図る。ミニマムにはエビデンスのある「これだけ体操」を作業開始前に導入。マルチコンポーネント運動である「転倒・腰痛予防! いきいき健康体操」は、将来の身体への投資という観点からも推奨できる。

②座位作業では、1時間に1回は立ち上がる(ブレイク1H➡続けて「これだけ体操」を実践)。

Ⅳ.労働衛生教育のポイント

①姿勢不良や過度な動作などにともなう腰への負担(“腰痛借金”にともなう腰自体の不具合)のみならず、心理社会的要因にともなう脳機能の不具合から生じる腰痛も、特に慢性腰痛では少なくない。

②一般的な腰痛(非特異的腰痛)においては、予防にも治療にも、例え、“ぎっくり腰”であっても、過度な安静は推奨されない。

③腰痛保護ベルトが予防に役立つというエビデンスはない。

④腰椎の変性所見の多くは、通常、腰痛の原因にはならない。

⑤腰痛予防体操の実践が、もっとも効果的であることがわかっており、「これだけ体操」を習慣化する。

法令・制度等

松平浩「職場における新たな腰痛対策Q&A50既存の腰痛概念の変革と実践」. (公財)産業医学振興財団. 2023、厚生労働省・中央労働災害防止協会「令和4年度厚生労働省委託事業 腰痛を防ぐ職場の事例集」. 2023、松平浩・川又華代「職場ですぐできる!腰痛対策の新常識 改訂第2版」. 中央労働災害防止協会. 2022、松平浩「腰痛は「動かして」治しなさい」. 講談社+α新書. 2016、厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」. 2013、岩切一幸「改訂腰痛指針と介護職場における腰痛予防対策」. 労働の科学. 68. 8-12. 2013、厚生労働省「職場での腰痛を予防しましょう!「腰痛予防対策指針」による予防のポイント」.2013

キーワード

YLDs、腰痛、座位作業、パワーポジション、腰痛保護ベルト、腰痛予防体操、ハリ胸プリけつ、腰痛借金、これだけ体操

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