産業医の手引き<ダイジェスト>
4章:職業性疾病の予防

1 情報機器作業(旧:VDT作業)

山本 健也

要旨

従来はVDT作業と呼ばれ、主に「パソコンなどディスプレイ及びキーボードなどにより構成される機器を使う作業」を念頭に労働衛生管理のガイドラインが示されていたが、近年タブレットやスマートフォンなどの多様なデバイスを用いた作業が増加したことなどから、2019(令和元)年にガイドラインが改正され、それに合わせて「情報機器作業」に改称された。

Ⅰ.情報機器作業による健康影響

情報機器作業の健康影響は愁訴先行型という特徴があり、主に「視機能症状」「筋骨格系症状」「精神・心理的症状」で構成される。これらのうち、産業保健職が特に看過してはならないのは、筋骨格系症状のうち特に「上肢症状」である。これらの愁訴が認められた場合には、愁訴の改善に向けた積極的な対応が必要である。

Ⅱ.労働衛生管理の考え方

従来のVDTガイドラインで規定されていた3区分の「作業区分」が、新ガイドラインでは「拘束性のある作業」か否かの2区分とされた。なお、リスクの高い作業に対する作業環境管理、作業管理、健康管理の方針については大きな変更はなく、新ガイドラインにおける「拘束性のある作業」に対しては、作業管理面での重点的な対応の他、情報機器作業健康診断の実施が努力義務として規定されている。また、拘束性のない作業であっても、作業者の愁訴がある場合には健康診断の実施などの対応が求められている。

産業医としては、一次予防対策として、潜在的な要因の検討とその対応を図る必要がある。職場巡視などの際に観察する作業環境や作業方法、当該職場の年齢構成などの情報から「今後愁訴が発生する可能性」を検討し、必要と判断した際には一次予防的な対策を講じることが望ましい。その際、個別の従業員よりは、衛生委員会など組織を通した啓発のほうが有用である。

Ⅲ.在宅勤務・テレワーク時の留意点

在宅勤務やテレワークを実施する際には、必ずしも職場と同等の作業環境を用意できないこともあるため、環境面での調整は図りつつ作業管理、特に作業時間の工夫(小休止の取得を増やすなど)による疲労の蓄積を防ぐための啓発が望まれる。

Ⅳ.情報機器作業健康診断留意点

愁訴先行型である情報機器作業健康診断で確認すべき項目は、自覚症状の項目である。愁訴が認められた際には、愁訴の増悪防止に向けた対策を検討する必要がある。

原因となる要因が複数ある作業関連疾患であることから、対策は画一的な対応ではなく、愁訴の背景にある要因を個別に検討し、もっとも効果的な介入方法を探ることが重要である。

法令・制度等

事務所則
情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(令和元年7月12日 基発0712第3号)
テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(2021年改正)
上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準

キーワード

情報機器作業、VDT作業、愁訴先行型健康障害、上肢障害、テレワーク、情報機器作業健康診断

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